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■呼吸さえも■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 物足りないんだ。どんなに抱いても。
 もっと、キミを感じたい。もっと、キミが欲しい。
 とめどなく溢れる、この欲求を満たすには、どうすれば良いのか。
 ずっと、ずっと考えてきた。答えを求めてきた。
 ようやく理解ったんだ。どうすれば良いのか。
 どうすれば、キミの全てを手に入れることが出来るのか。
 動かないで、暴れないで、目を閉じて。
 俺を満たす為なんだと、諦めて。
 キミにとっても、嬉しいことだろう?
 ひとつになれるんだ。ようやく、ひとつになれるんだから。
 動かないで、暴れないで、目を閉じて。
 何度も言うよ。
「愛してる」
 キミの呼吸が止まるまで。
 呼吸さえも

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 物足りないんだ。どんなに抱いても。
 もっと、キミを感じたい。もっと、キミが欲しい。
 とめどなく溢れる、この欲求を満たすには、どうすれば良いのか。
 ずっと、ずっと考えてきた。答えを求めてきた。
 ようやく理解ったんだ。どうすれば良いのか。
 どうすれば、キミの全てを手に入れることが出来るのか。
 動かないで、暴れないで、目を閉じて。
 俺を満たす為なんだと、諦めて。
 キミにとっても、嬉しいことだろう?
 ひとつになれるんだ。ようやく、ひとつになれるんだから。
 動かないで、暴れないで、目を閉じて。
 何度も言うよ。
「愛してる」
 キミの呼吸が止まるまで。

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 涙が零れるのは、嬉しいから? 違う。悲しいから。
 あなたに求められている、それは事実だけれど。違うんだ……。
 このまま呼吸を奪われたら、僕は消える。何事もなかったかのように。
 煙となって消えてしまう。そして、忘れてしまうんだ。
 僕という存在がいたことさえも忘れてしまう。
 そういう存在なんだ。僕は、あなたに生かされている。
 あなたの決断ひとつで、僕はこの世界から消失してしまう。
 不満はないよ。あなたに全ての権利があることに、不満を抱いたことはない。
 でもね。でもね、J。僕は……消えたくないんだ。
 あなたの決断に逆らう、反逆行為だとしても。
 生意気だと嘲笑われても、この気持ちは変わらない。
 消えたくないんだよ。もっともっと、あなたの傍にいたいんだ。
 色んな物を、色んな場所を、色んな感情を、あなたと共有したい。
 あなたの怒りを買うような真似をしただろうか。
 あなたの機嫌を損ねるような真似をしただろうか。
 してない。してないよ、J。そんなこと、僕はしない。
 してないって言い聞かせているだけなのかもしれないけれど……。
 ねぇ、僕のこと嫌いになった? 鬱陶しくなった……?
 愛してるって、どんなに聞かされても、心に響かない。
 あなたの目が、笑ってないんだ。冷たい、氷のよう。
 何でもするよ。この気持ちを理解ってもらう為なら、どんなことでも。
 だから、御願いだよ。笑って。嫌いにならないで。
 拒絶しないで。
 そんなに冷たい目で見ながら、愛してるだなんて言わないで。
 思ってないくせに。そんなこと、思ってないくせに。
 呼吸を奪いたいと思えるほどの憤りがあるのなら、
 偽りの言葉じゃなく、本心を聞かせてよ。
 愛してるだなんて。思ってないくせに―

 ポロポロと、涙を零しながら切ない眼差しを向けるクレタ。

 拒絶? 偽り? あぁ、そうだね。その通りだ。
 俺は今、キミを愛してなんかいない。心から、憎いと思ってる。
 でもね、クレタ。愛と憎しみは紙一重なんだ。
 どうしようもなく愛してしまえばしまうほど、些細なことが憎くなる。
 愛し合って、一緒にいる時間が増えれば増えるほど、相手の欠点を次々と見つける。
 傍にいるからこそ見つけられる欠点だ。たまに会う程度じゃ見つけられない欠点もあるさ。
 自分にしか見つけられない欠点だと思うからこそ、憎くなる。
 他人の知らない、キミの欠点。それを見つける度、苛立ちが募る。
 改善しろだなんて、そんなこと言うつもりはないよ。そのままで良いんだ。
 そのままで、十分に憎らしい。こうして、呼吸を奪いたくなるくらい。
 鼻につく、目に余る欠点だからこそ……我慢できなくなるんだ。
 その欠点さえも、俺が、この手で消し去りたいと強く願う。
 キミが自分で消しちゃあ意味がないんだ。俺が消すことに意味がある。
 俺が、キミのどんなところに苛立ちを覚えるか、
 それを理解らせながら、呼吸を絶ってやるんだ。
 こんなにも、キミを愛してるんだって理解らせながら、呼吸を絶ってやる。
 誰よりも愛してるよ。だからこそ、誰よりも憎い。
 どうしてキミは、こうして存在しているんだろう。
 俺の頭の中だけに存在していれば、
 他人と関わることなく、俺だけのものなのに。
 そう思うから、憎くて仕方ない。
 キミが、存在していることが憎くて仕方ない。
 許せないわけじゃない。ただ、存在が憎いんだ。
 そう思ったんだろう? キミも。
 だから、キミは、俺の首を絞めた。
 忘れた? そんなこと言わせるもんか。

 ククッと笑いながら、Jはクレタの首から手を離す。

 そうだね……僕も以前、あなたの首を、この手で絞めた。
 ハッと我に返って慌てて逃げ出したけれど……。
 自室に戻ってからも、手の震えが治まることはなかった。
 心から怖いと思ったんだ。あなたを失うことも、
 嫌だと思うくせに、それでも、あなたの呼吸を奪おうとする自分も。
 記憶の中の想い人は、自己満足な存在にしかならない。
 都合良く微笑み返すだけ。自分を傷つけることは絶対にない。
 そんなの寂しいじゃないか。記憶は呼吸しないじゃないか。
 触れて、触れられて、囁いて、囁かれて。
 そうして傍に感じるだけで、十分に満たされるはずなのに。
 体温を感じながら眠る夜を、幸せだと思えるはずなのに。
 どうしてだろう。ねぇ、どうしてなんだろうね、J。
 愛しいと想うと、殺めたくなってしまうの?
 それは、仕方ないことなの?
 ねぇ、ずっと一緒にいることは出来ないのかな。
 どちらかが、どちらかの呼吸を奪って満たされるまで。
 その瞬間までしか、一緒にいることは出来ないのかな。
 そんなの嫌だよ。そんなの、悲しいじゃないか。
 大好きだよ。愛してる。だからこそ、もう……。
 あなたの首に手を添えるなんてこと、したくないんだ。
 どうすればいいの……。どうすれば、僕達は互いに満たされる……?

 呼吸を整えながら言ったクレタ。Jは、乱暴に扉を開けて部屋を出て行く。

 どうすればお互いに満たされるのかって?
 その術を探してる途中なんだよ、俺達は。二人で。
 どうしようもなくなって、持て余して。
 その結果、互いを消そうとするなんて虚しいだろ。
 そうすることしか出来ない現状を、このもどかしい状況を何とかしようと足掻いてる。
 俺とクレタは、想い合いながら悩んでるんだ。
 いつ、相手を殺めてしまうか理解らない。その恐怖に怯えながら。
 他人に手を貸してもらおうだなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇんだよ。
 お前には関係ないことだろう。理解ってんのか、クソババァ。
 隙があったことは認める。そこを、お前に突かれたのは俺のミスだ。
 クレタは、俺に何か隠し事をしている。
 あぁ、確かに何かを隠してるよ。間違いないよ。
 それが何なのか、どうしても理解らないのも事実さ。
 でもな。理解らないからって、あいつを殺めようとは思わない。
 昔の俺なら、そうしていたかもしれないけれど。
 クレタと同じように、俺も成長してるんだ。
 もう、愛に飢えた虚しい狼じゃない。
 何度でも何度でも、言ってやるよ。
 邪魔すんな。余計なお世話なんだよ。
 お前の出る幕なんぞ、ありゃしねぇんだ。
 俺達に構うな。もう二度と。
 おとなしく、遊んでりゃいいだろ。
 お前の大好きな『時間』で。

 一人、部屋に取り残されたクレタは、落ち着いた呼吸に再び涙を零す。

 そうだよ。記憶は呼吸しないんだ……。
 例え奪ったところで、ひとつになんかなれやしない。
 愛じゃない。奪うことを愛だなんて言うのは間違いだ。
 頭では理解るのにね……。どうしてだろう。どうして、こんなに難しいのかな。
 ここまで好きになることを、想うことを知らなければ。
 なんて……そんなこと思ってないくせに。
 どこまでも嘘つきだね。僕も、あなたも嘘つきだ……。
 奪った先にあるのは虚無。拒絶と逃亡の果て。

 愛に不器用? そんなの……誰よりも自分が理解ってる……。
 愛に不器用? 今更何を。理解ってるよ。腹立たしい程にな。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 ちょっと台本風味な構成になってます。
 4ラインのみのナレーションを挟んで、あとはアドリブ演技。
 心境をメインに考えて…そんな感じのつもりなのですが、
 キャストは二人共、全力本気でアドリブもクソもないと(笑)
 クレタくんが隠してることは…明かせぬ後遺症でしょう。多分。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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