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■Chocotto 2.14■

藤森イズノ
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】
 誰が始めたのか、いつから始まったのか、誰にも理解らないけれど。
 毎年2月になると、在校男子生徒が左腕に包帯を巻く。
 怪我をしているわけではなく、これは『お知らせ』のようなもの。
 左腕の包帯は『彼女がいない』その証。
 回りくどい言い方だけれど、真意は簡単。
 要するに、チョコレートをくれ。ということだ。
 もっとわかりやすくいえば、彼女が欲しいと。そういうこと。
 2月に入ると、女子生徒は男子生徒の左腕に自然と目がいってしまう。
 意中の男が包帯を巻いているのを確認して気合を入れてみたり、
 逆に包帯がないことを確認して意気消沈したり。
 この時期だけの、不思議な光景。
 特に規制をかけるわけでもなく、教員達は微笑ましく見守っている。
「今年もやってるね〜」
 窓から中庭を見下ろしてクスクス笑うヒヨリ。
 藤二も、書類を棚に戻しながらクスクス笑う。
「俺達も巻いとくべきかもな。ここまで浸透してるなら」
「っはは。そんなことしなくても貰えるんじゃない?」
「俺が?」
「お互いに」
「っぷ。まぁ、確かにそうなんだけど」
 お調子者な二人へ、コーヒーを差し出しながら、千華は苦笑。
「みっともない会話、やめなさいよ。まったくもう……」
「男の名誉に関わるんです、チョコの数は。な?」
「う〜ん。どうだろね。俺は別に。ま、貰えば嬉しいけどね」
「嘘だな。絶対、そんなこと思ってねぇだろ」
「本当だって。ねぇ、ところで千華は? 誰かにあげるのかい?」
「…………」
「お。沈黙した」
「千華。沈黙は肯定と同意だよ?」
「……あんた達じゃないことは、確かよ」
「え〜」
「え〜」
 もうすぐバレンタインデー。
 今年は……何組のカップルが成立することやら。
 Chocotto 2.14

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 誰が始めたのか、いつから始まったのか、誰にも理解らないけれど。
 毎年2月になると、在校男子生徒が左腕に包帯を巻く。
 怪我をしているわけではなく、これは『お知らせ』のようなもの。
 左腕の包帯は『彼女がいない』その証。
 回りくどい言い方だけれど、真意は簡単。
 要するに、チョコレートをくれ。ということだ。
 もっとわかりやすく言えば、彼女が欲しいと。そういうこと。
 2月に入ると、女子生徒は男子生徒の左腕に自然と目がいってしまう。
 意中の男が包帯を巻いているのを確認して気合を入れてみたり、
 逆に包帯がないことを確認して意気消沈したり。
 この時期だけの、不思議な光景。
 特に規制をかけるわけでもなく、教員達は微笑ましく見守っている。
「今年もやってるね〜」
 窓から中庭を見下ろしてクスクス笑うヒヨリ。
 藤二も、書類を棚に戻しながらクスクス笑う。
「俺達も巻いとくべきかもな。ここまで浸透してるなら」
「ふふ。そんなことしなくても貰えるんじゃない?」
「俺が?」
「お互いに」
「っぷ。まぁ、確かにそうなんだけど」
 お調子者な二人へ、コーヒーを差し出しながら、千華は苦笑。
「みっともない会話、やめなさいよ。まったくもう……」
「男の名誉に関わるんです、チョコの数は。な?」
「う〜ん。どうだろね。俺は別に。ま、貰えば嬉しいけど」
「嘘だな。絶対、そんなこと思ってねぇだろ」
「本当だって。ねぇ、ところで千華は? 誰かにあげるの?」
「…………」
「お。沈黙した」
「千華。沈黙は肯定と同意だよ?」
「……あんた達じゃないことは、確かよ」
「え〜」
「え〜」
 もうすぐバレンタインデー。
 今年は……何組のカップルが成立することやら。

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 いつから始まったのかは誰も知らない、覚えていない。
 けれど、この時期の『左腕の包帯』には、特別な意味がある。
 クラスメートから詳細を教えてもらった夏穂は、ようやく理解した。
「そういうことだったのね……」
 一体何事かと思っていたの。
 だって、ほとんどの男の子が包帯を巻いてるんだもの。
 怪我してるのかなって心配だったわ。
 それにしては、全員同じところを怪我してるのね……とも思ってた。
 2月の頭から13日にかけて、男子生徒が左腕に巻く包帯。
 バレンタインデーに向けてのアピール・催促・お知らせ。
 心配していただけに、事実を知った夏穂はクスクス笑う。
 1年に1度だけ。好きな人に想いを込めてチョコレートを贈る日。
 あんたのことだから、知らないんだろ。
 教えてやるから、よーっく聞けよ。
 いいか、バレンタインっていうのは、
 好きな男、大切な人にチョコレートを贈る日だ。
 何でチョコレートなのかって? そこまでは知らない。
 まぁ、別にチョコレートじゃなくてもいいんだろうけど……。
 とりあえず、そういうことになってるんだ。
 一応、恒例イベントのひとつだからな。
 覚えておいて、損はないと思うぜ?
(……って、言ってたわね。そういえば)
 ボンヤリと思い出す、友人の言葉。
 今、こうして思い出すまで忘れていた。
 今日は、2月13日。
 渡すならば、急がねば。
「ねぇねぇ、夏穂ちゃんは、誰かにあげるの〜?」
「あれ。いない」
「消えた!」
 クラスメートの女の子達の質問に答えることなく、慌てて教室を飛び出した夏穂。
 家に戻って、すぐさま夏穂はキッチンに篭る。
 夜はハント活動に出掛けねばならないから、0時までに作り終えなくては。
 戻って来てからでも多少は時間があるだろうけれど、寝坊してしまう可能性が高くなってしまう。
「チョコなら何でも良いわよね」
 ポツポツと独り言を呟きながら、パタパタとキッチンを駆け回る夏穂。
 リビングのソファで、ハント時間まで仮眠をとっている夏穂の双子の妹は、
 何やら騒がしいキッチンに、夢うつつな状態でクスクスと笑っていた。

 *

「やぁやぁ、海斗くん。調子はどうかね」
「……うるせーなー。って、うわ、すげ!」
「ふっふっふっ。参ったか。参ったと言え」
「それはヤダ」
 プイッと顔を背けて頬を膨らませた海斗。
 バレンタインデー当日。海斗に声を掛けた藤二は、両手いっぱいのチョコレートを見せびらかす。
 毎年恒例、藤二先生の自慢ショーである。
 今年は、いつにも増してチョコレートの数が多い。
 今期の新入生が多いことも関係しているのだろう。
 嬉しそうに笑う藤二を無視しつつ、海斗は溜息を落とす。
 何でなんだろーなー。何でなの? 何で藤二ってモテるの?
 煙草臭いし、女ったらしだし、不真面目だし……どこがイイのかサッパリわかんね。
 クラスの女達もキャーキャー言ってたからなー。
 誰にあげるのー? 藤二先生ー! キャー! っつって。
 あー。今年も同じパターンか〜ってゲンナリしてたんだけど。
 本当に同じパターンだよ、これ。もう、ヤダなー。これ。
 別に羨ましいワケじゃねーよ?
 そこまで自慢されたらムカつくだろ。誰だって。
「よしよし。泣かないの。ほら、一個あげるから」
「泣いてねーよ! つか、いらねーよ! って、これ普通の板チョコじゃねーか!」
「当たり前でしょ。女の子から貰ったチョコをあげるなんて、そんなこと俺には出来ませんよ」
「……じゃあ、何だ。この板チョコは、もしかして」
「そうだよ。お前の為に買ったの。向かいのコンビニで」
「いらねーよ! ばーか!」
「まぁまぁ。一個もナシで帰ると虚しいだろ。貰っときなさい」
「うるせーな! 貰えないって決め付けんな!」
「おやおや。アテがあるのか?」
「…………」
「ほらほら、貰っときなさい」
「だ〜から、いらねーっつーの!」
 教室の片隅で、ギャーギャーと大騒ぎする海斗と藤二。
 生徒と先生というよりは、まるで兄弟のような光景だ。
 余計なお世話もさることながら、海斗がイラつく要素は他にもある。
 待機ガールズの存在だ。
 教室の入り口付近に、ごちゃっと女生徒が固まっている。
 女生徒の視線は、真っ直ぐに藤二の背中へ。
 その眼差しは、ピンク色に見える。……いやいや、気のせいだ。
「あーもう。いーから、あっち行けよ! 待たせてんだろーが」
「えっ? そんな。 あ、本当だ!」
「ワザとらしすぎだろ。マジで。蹴るぞ」
「お前ね、そういう乱暴なことばっか言ってるから……」
 苦笑しながらアドバイス(余計なお世話)をしようとした藤二。
 と、そこへ。テクテクと歩み寄ってくる女の子が一人。夏穂だ。
「……おや?」
「ん? 何だ?」
 キョトンとしている海斗と藤二。
 二人の間に割って入った夏穂は、ニコリと微笑んで白い箱を差し出した。
「はい、どうぞ」
 差し出された白い箱。その向きは、藤二……ではなく海斗。
「……え。俺?」
「うん」
 目を丸くしている海斗に、夏穂はコクリと頷いて返した。
 静まり返る教室。暫くして、めでたき光景に、クラスメート達は拍手喝采。
「慌てて作ったから形がちょっと変だけど……味見はしたから」
 照れ臭そうに笑って言った夏穂。
「あ、そか。いやいや、どーもありがと」
 半分放心状態の海斗は、そんな間の抜けた言葉を返した。
 受け取ってくれたことが嬉しくて、ちょっと照れ臭くて。
 夏穂は「じゃあね」と言い残し、パタパタと教室を出て行く。
「まさかの手作り。お前にも春がきたようだ。オメデトウゴザイマス」
 ポンと海斗の肩に手を置き、グッと目頭を押さえる藤二。
 もちろん、泣いてなんぞいない。当然のごとく、演技である。
 藤二からの茶化しを始め、クラスメートからも次々と茶化される。
 夏穂からのチョコを熱望していた男子もいるようで、
 おめでとうに混じって「このやろう」などの悔言も飛び交っている。
 照れ臭くなったのか、海斗は逃亡。もちろん、貰ったチョコを大事に抱えて。


 授業が終わり、放課後。
 大半の女の子にとって、ここからが本番。
 教室の片隅で、或いは廊下で、頬を赤らめた女の子をあちこちで確認できる。
 おや。中庭に人だかりが。その中心にいるのは……夏穂だ。
「夏穂ちゃん、ありがとうっ」
「うん。頑張ってね」
「夏穂ちゃん、次は私!」
「うん。ちょっと待ってね。あの……順番に。並んでね」
 女の子に囲まれている夏穂。お目当ては、占いのようだ。
 好きな男の子へチョコレートを渡しに行く。
 その前に、アドバイスなどをもらっているらしい。
 たかが占い。されど占い。今日は特別。占いの効果は絶大だ。
 ましてや、夏穂に占ってもらえるとあれば、長蛇の列も頷ける。
 夏穂自身が占ってあげると言ったわけではない。
 クラスメートの女の子たちに頼まれて占ったのが始まり。
 そこから、みるみる人が増えて……こんな状態になってしまった。
 面倒だとか、そんなことは一切思わない。寧ろ、手を差し伸べてあげたくなる。
 列を作って並ぶ女の子達は、みんな頬を赤らめてソワソワ。
 その表情を見ていると、何だかくすぐったい気持ちになる。
(今日は、女の子を素敵にする特別な日なのね……)
 まるで自分のことのように嬉しい気持ちに、夏穂は優しく微笑んだ。
「夏穂ちゃん、次は私〜!」
「あ、うん」

 まるで "人生相談承ります" 状態の夏穂。
 どこぞの有名占い師かというほどに、みるみる出来上がっていく長蛇の列。
 一体どこまで伸びているのやら、と考えながら海斗は笑う。
 放課後の逃亡先は、滅多に使われることのない倉庫代わりの旧資料室。
 窓の縁に肘を付き、ボンヤリと賑やかな中庭を見下ろしてポツリと零すのは、本音?
「何か、もっとこう……。二人っきりで、こう……。するんじゃないの? バレンタインって」
 イメージと少し違うバレンタインになったけれど、不満というわけではない。
 素直に嬉しいし、きっと彼ならば、一口食べて、すぐ忘れる。
 夏穂手作りのカップケーキ。チョコチップたっぷり。
「うぉっ。何これ。美味っ!」
 ほら。忘れた。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL在籍:生徒
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL在籍:教員

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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