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■For you.■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 2月14日、バレンタインデー。
 外界では、ポピュラーなイベントの一つ。
 好きな人へ、想いを込めてチョコレートを贈る。
 ただ、それだけで、どんな行為よりも伝わる。
 あなたが好きです、その想いが、どんな行為よりも伝わる。
 バレンタインデーは、そんな……特別な日。
 ここは、どの世界にも属さない時の狭間だ。
 時の流れが不安定なことから、イベントとは無縁。
 けれど……中には、外せないイベントもあって。
 まぁ、大抵はヒヨリが無理矢理、イベント日を設定するんだけれど。
 バレンタインも、その『外せない』イベントの一つ。
 外界の時間とは少しズレているけれど、
 クロノクロイツでは、明日がバレンタインデー。
 愛しい人へ、チョコレートを贈る。特別な日。
(……バレンタイン、か)
 紅茶を一口、喉に落として物思い。
 すると、隣で一緒に紅茶を飲んでいたオネがポツリと呟いた。
 小さな声で、ジッとこちらを見つめながら。
「ねぇ。きみは……どうするの? チョコ、誰にあげるの?」
「……ん〜と、ね……」
 どうしようかなぁって、実は、ずっと考えてる。
 For you.

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 2月14日、バレンタインデー。
 外界では、ポピュラーなイベントの一つ。
 好きな人へ、想いを込めてチョコレートを贈る。
 ただ、それだけで、どんな行為よりも伝わる。
 あなたが好きです、その想いが、どんな行為よりも伝わる。
 バレンタインデーは、そんな……特別な日。
 ここは、どの世界にも属さない時の狭間だ。
 時の流れが不安定なことから、イベントとは無縁。
 けれど……中には、外せないイベントもあって。
 まぁ、大抵はヒヨリが無理矢理、イベント日を設定するんだけれど。
 バレンタインも、その『外せない』イベントの一つ。
 外界の時間とは少しズレているけれど、
 クロノクロイツでは、明日がバレンタインデー。
 愛しい人へ、チョコレートを贈る。特別な日。
(……バレンタイン、か)
 紅茶を一口、喉に落として物思い。
 すると、隣で一緒に紅茶を飲んでいたオネがポツリと呟いた。
 小さな声で、ジッとこちらを見つめながら。
「ねぇ。きみは……どうするの? チョコ、誰にあげるの?」
「……ん〜と、ね……」
 どうしようかなぁって、実は、ずっと考えてる。

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 あげようかあげまいか、そこを迷ってるわけじゃないんだ。
 プレゼントするよ。絶対に、贈るよ。贈らないと気が済まないっていうか……。
 それはちょっと言い過ぎかもしれないけれど、特別な日なら、無視なんて出来ないから。
 考えてるのはね、悩んでいるのはね、
 どんなチョコレートをあげようかなって……その辺り。
 クレタの手元には、黒い本。ふと見やって、オネは気付く。
 黒いカバーは、カモフラージュ。その実態は、レシピ本。
 そういえば、2月に入ってから、クレタはずっとこの本を持っている。
 そんなに面白い本なのかなって多少気になってはいたんだけれど。
 何だ、そっか。あげる気満々なんだね、クレタってば。
 そんなの興味ないよって思わせておいて……照れ屋さんなんだから。
 クスクス笑うオネ。オネが笑っている原因については、大方の予想はつく。
 クレタは照れ臭そうにパラパラとページを捲りながら、はぐらかすように尋ねた。
「……オネはどうするの?」
 あれからどうなったのかなって気になってるんだ。
 探るように尋ねるのも何だかなって思ったから、聞けずじまいだったんだけど……。
 クレタの質問に対してオネの反応は、可笑しいほどに理解りやすいものだった。
 目を泳がせて言う「別に何も」の言葉。 嘘が下手だね。クレタは笑う。
 まぁ、あれから定期的に出掛けてるから、悪い展開にはなってないだろうなとは思ったけど……。
 人の性格って、そう簡単に変わるものじゃないから、未だに苦戦してるんだろうね。
 折角のイベントだし、一緒に作ろうか……?
 別に、そんなことするつもりは……だなんて言わないで。
 お互い様だよ。お互い、ここは素直になっちゃおう。
 隠したところで、何にもならないんだし、
 それに……お互いにバレバレだし。ね……?

 *

「チョコって、こういうので良いのかな?」
「あ。それだと小さすぎるよ……。こっちだね」
「そうなんだ。作ったことなんてないからドキドキする」
「僕も、作るのは初めてだよ。上手く出来るかな……」
「頑張ろうねっ」
「……ふふ。うん。そうだね、頑張ろう」
「あっ、クレタ。見て見て、あの箱、可愛いよ」
「うん? あぁ、本当だ。御揃いの箱にしようか」
「う、うん。じゃあ、僕は白い箱にする」
「じゃあ……僕はこっちの黒い箱にするね」
「箱だけで良いの? 袋は?」
「うーん……。リボンかけようか。これも御揃いで、黒と白……」
「わぁ……可愛いね。何か……僕が欲しいくらいだよ」
「ふふ。僕も、ちょっと思った……」
 時の回廊から外界へ。手作りチョコレートに使う材料買出しに来たクレタとオネ。
 まるで兄妹のように仲良く、あれこれ相談し合いながら買い物する姿は、とても可愛い。
 二人が作ることに決めたのは、フォンダンショコラ。
 何度も口にしているデザートだけれど、作ったことなんてない。
 ハルカに教えてもらえば、上手に作れることは間違いないだろう。
 けれど、二人の頭に、教えてもらうという選択肢はなかった。
 本を見ながら、二人だけで作る。
 失敗しても大丈夫。成功するまで何度もチャレンジすれば良い。
 大切なのは、気持ちを込めて作ること。誰かに頼ることなく、作り上げること。
 かなり本気モード。故に、妙な意地っ張り。
 クレタとオネは、試行錯誤しながら調理を続けた。
 キッチンから聞こえてくる物音、悲鳴、歓声、拍手。
 それらに加えて、ふんわりと漂う甘い香り。
 二人が何をしているのか、仲間たちはすぐに理解った。
 けれど茶化すことはせず、クスクス笑うだけ。
 上手に出来ると良いね。その気持ちを込めて、笑うだけ。

 日付が変わって、バレンタインデー当日になり、15分ほどが経過した時。
 ようやく、手作りのフォンダンショコラは形になった。
 やっぱり難しい。ハルカのように、綺麗に作ることは出来ない。
 けれど、何とか完成した。ちょっぴりデコボコしてるけれど……きっと大丈夫。
 味見もラッピングも完璧。後は、大切な人に渡すだけ。
 クレタとオネは顔を見合わせ、照れ臭そうに微笑んでパチンと手を合わせた。
 頑張ろうね。お互いに、素敵なバレンタインデーに出来ますように。
 検討を祈るよ。心から。

 *
 *

 初めて、Jに料理を作ってもらった時、凄く嬉しかった。
 美味しくてビックリしたのも、はっきりと覚えてる。
 あなたは「美味しい?」って尋ねることはしなかったけれど、
 その代わりに僕の顔をジーッと見つめた。
 美味しいよって微笑むと、ホッとしたような笑顔を見せたね。
 その笑顔を見た、あの瞬間から、考えていたんだ。
 いつか、僕も、あなたに「美味しい」って言わせたいなぁって。
 照れ臭そうに笑いながら、あなたがその台詞を言う……。
 その瞬間を何度も頭の中で思い浮かべて、幸せな気持ちになった。
 何度か、挑戦しようとはしたんだ。ハルカにも色々教えてもらったし。
 でも……なかなか、タイミングが難しくて。
 ほら、いつも御飯はハルカかナナセが作るでしょ……?
 今日は僕に作らせて! なんて……そんなこと言えなくて。
 自信がなかったっていうのもあるんだけど。
 でも、今日……ようやく、チャンスが巡ってきたよ。
 大切な人に気持ちを伝える日。そんな特別なオマケつきで。
 ビックリさせたくて、渡し方を色々考えた。
 でもね、僕が作ったっていうのが……ある意味、一番のサプライズになるような気がして。
 だからね、余計な小細工は一切ナシで。体当たりするみたいに渡そうと思うんだ。
 乱暴に渡すわけじゃないよ。こっそりと、さりげなく……ね。
「……? 何、笑ってるの」
「あっ。ううん、何でもない……」
 ハッと我に返って、コテンと頭をJの肩に預けたクレタ。
 ゆったりとした音楽が流れる中、二人きりの時間。
 いつもと何ら変わりなく寄り添って、いつもと何ら変わりなく他愛ない話をして。
 二人きりの時間を存分に満喫した後は、一緒にベッドに潜って眠る。
 何の変哲もない、けれど、幸せで仕方ないと思える時間。
 クレタの髪を指先で弄りながら、目を伏せているJ。
 幸せな時間に酔いしれてる、その最中、クレタはコソリと耳元で囁いた。
「ねぇ、J。……喉、渇いた」
「ん。取っておいで」
「……やだ」
「ん〜?」
「Jが取ってきて……」
「っはは。どうしたの。ワガママなんて珍しいね」
「取ってきて……?」
「はいはい」
 そんな目で見上げられて御願いされたら断れるはずもない。
 ちょっぴりワガママなクレタにクスクス笑いつつ、
 Jはソファから立ち上がって、部屋の隅にある黒い冷蔵庫へ向かう。
 飲み物ね。……あれ。あったかな? 切らしてたかもしれない。
 ワインならあるだろうけど、クレタは、あんまり好きじゃないからね。
 適当に、さっぱりするドリンクでも作ろうか。
 あぁ、そういえばライムがあったはず。えぇと……。
 カチャ―
「……。……。……ん?」
 ピタリと静止して首を傾げたJ。
 冷蔵庫の中に、見慣れぬ黒い箱がある。
 リボンが巻かれているのだが、どことなく、いびつな巻き方だ。
 微妙に捻れて、クニャリと斜めになっている。
 ぎこちないリボンの巻き方、箱からふんわりと香る甘い香り。
 頭の中に、ふと、今日の日付が浮かんだ。 
「あぁ。なるほど?」
 箱を手に取り、クスクス笑いながら扉を閉めて振り返るJ。
 ソファでクッションを抱きながら、クレタは嬉しそうに微笑んで言った。
「……その箱はね、Jにしか開けられない箱なの」
「へぇ。不思議な箱だね? 魔法でもかかってるのかな?」
 微笑みながら戻り、クレタの隣に腰を下ろして膝上に箱を置いたJ。
 ぎこちなく巻かれたリボンを、ゆっくりと解いていく、その仕草。
 スルスルとリボンが解かれていく様に照れ笑いを浮かべて、クレタはクッションに顔を埋めた。
「……あれ。これって、もしかして……」
 そーっとクッションから顔を離して小さく頷いてみせるクレタ。
 Jは、ポコポコのフォンダンショコラを手に取って、まじまじと見やる。
「あ、あんまり見ないで……」
「っはは。可愛い。 どれどれ……?」
 カプッと。はむっと。ショコラに食いついたJ。
 一口だけじゃ物足りない。もう一口、カプッと。
 そうすれば、中からトロリとチョコレートが。
 唇に絡みつくように乗ったチョコレートを舐め取りながら、Jはウンウンと頷いた。
 言葉で尋ねることはしない。
 クレタは、何も言わず、ただジッとJの瞳を見つめる。
 何? 言いたいことがあるなら、ちゃんと声に出して言ってごらん?
 いつもは、そうやって笑うけれど、今日は特別。
 意地悪なんてせずに、キミの欲しがる言葉をあげる。
「美味しいよ。すごく」
 ニコリと微笑んで言ったJ。
 ずっとずっと聞きたかった、ううん、言わせたかった言葉。
 本当に? だなんて確認するのは野暮ってもの。
 クレタはペタリとJにくっついて、満面の笑みを浮かべた。
 たくさん、たくさん、溢れるくらいの気持ちを込めたんだ。
 大好きだよの気持ちを、ありったけ込めて作ったんだ。
 美味しく出来たのはね、きっと、そのお陰なんだよ……?
 ちょっぴり誇らしげに微笑みながら、クレタはJの腕に絡まる。
 目を伏せ、淡く微笑みながらクレタは心の中で呟いた。
(オネは……。ちゃんと渡せたかなぁ……?)
 甘い甘い、チョコレートの香り。
 傍には、誰よりも大切な愛しい人。
 大好きだよ。
 その気持ちを贈る、特別な日。
 来年もこうして、あなたと甘い夜を過ごせますように。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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