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■スキルブレイブ - 優等生 -■

藤森イズノ
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】
「ったくもう。何だってんだよ」
「本当、何なんだろうね〜。これ」
「文句言うのは、生徒の安全を確保してからよ。急いで」
「へいへい」
 廊下をドタバタと走り、担当クラスへと向かう藤二、千華、ヒヨリ。
 校内に流れ込む邪悪な気。教室で授業開始を待つ生徒の殆どが、その異変に気付いていた。
 ごく稀に起こる事象。スタッカートの侵入。
 普段、深夜にしか出現しないスタッカートが昼間に奇襲をかけてくる。
 結界で防ぐことが出来るはずなのに、どうして侵入されてしまうのか。
 この希少事象には、謎が多い。
 とにかく優先せねばならぬのは生徒達の安全。
 教員と異なり、生徒は、昼間にスキルを発動することが出来ない。
 そこらにいる普通の人間と何ら変わらぬ存在なのだ。
 スタッカートに襲われてしまえば、命はない。
 教員達は、生徒の安全を確保してから、侵入したスタッカートの排除にあたる。
 求められるのは迅速な対応。
 教室で待機している生徒の数を確認し、全員を地下室へ非難させねば。
 だが、その過程で教員達の額に冷や汗が浮かんだ。
 合わない。名簿の数と、教室にいる生徒の数が合わない。
(まさか……)
 藤二、千華、ヒヨリの三人は、同時に教室から飛び出した。

 三人が抱いた不安は同一なるもの。そして、その不安は的中する。
 スキルブレイブ - 優等生 -

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「ったくもう。何だってんだよ」
「本当、何なんだろうね〜。これ」
「文句言うのは、生徒の安全を確保してからよ。急いで」
「へいへい」
 廊下をドタバタと走り、担当クラスへと向かう藤二、千華、ヒヨリ。
 校内に流れ込む邪悪な気。教室で授業開始を待つ生徒の殆どが、その異変に気付いていた。
 ごく稀に起こる事象。スタッカートの侵入。
 普段、深夜にしか出現しないスタッカートが昼間に奇襲をかけてくる。
 結界で防ぐことが出来るはずなのに、どうして侵入されてしまうのか。
 この希少事象には、謎が多い。
 とにかく優先せねばならぬのは生徒達の安全。
 教員と異なり、生徒は、昼間にスキルを発動することが出来ない。
 そこらにいる普通の人間と何ら変わらぬ存在なのだ。
 スタッカートに襲われてしまえば、命はない。
 教員達は、生徒の安全を確保してから、侵入したスタッカートの排除にあたる。
 求められるのは迅速な対応。
 教室で待機している生徒の数を確認し、全員を地下室へ非難させねば。
 だが、その過程で教員達の額に冷や汗が浮かんだ。
 合わない。名簿の数と、教室にいる生徒の数が合わない。
(まさか……)
 藤二、千華、ヒヨリの三人は、同時に教室から飛び出した。

 三人が抱いた不安は同一なるもの。そして、その不安は的中する。

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「あ。いた。こんなところにいたんですね」
「ほぇ。霊くんだ〜」
「こんにちは。私達に、何か御用ですか?」
「あぁ、いえ。用といいますか……お二人が教室にいなかったものですから」
「ん? まだお昼休みだよね〜?」
「そうね。あと20分くらい残ってるけど……」
「あれっ。放送聞いてないんですか」
「ほ〜そ〜? 僕達、お昼寝してたから〜。ね、夏ちゃん」
「うん。ついさっき起きたところなの」
「そうだったんですか」
 ニコニコと微笑む雪穂と、まだ眠そうな顔をしている夏穂。
 全校生徒へ校内放送で告げられた『非難』の指示。
 どうして非難せねばならないのか、そこは明確ではなかったし、今も理解らないままだけれど。
 図書室で本を読んでいたところ、放送を耳にした霊祠は、すぐさま指示に従って教室へ移動した。
 けれど、どれだけ見回してみても、教室に雪穂と夏穂がいない。
 先生達も、二人がいないことに慌てている様子だった。
 そこで、霊祠は教室を抜け出して二人を探しに。
 勝手なことをすれば叱られる。それは理解っていたけれど、どうしても心配で。
 二人が中庭で昼寝する習慣があることを知っていたが故に、見つけることは容易だった。
 霊祠はホッとして微笑み、二人に手を差し伸べる。
「とりあえず、教室戻りましょう」
「何で〜? 何かあったの〜?」
「僕もよくは理解らないんですけど……」
「……そういえば、いつもはたくさん人いるのに、全然いないわね。今日は」
 ガランと静まり返った中庭を見回しながら言った夏穂。
 疑問に首を傾げながらも、差し伸べられた手を取る雪穂と夏穂。
 何が起きているのか理解らないけれど、
 とりあえず指示に従うべきだと判断し、三人は教室へ戻ろうとした。
 だが、揃って一歩を踏み出した瞬間。
 三人はピタリと立ち止まり、ゆっくりと瞬きをひとつ、ふたつ。
 誰かに見られているような感覚。背中に刺さる、絡みつくようなネットリとした視線。
 その感覚には覚えがあった。
 深夜に覚える感覚。
 スタッカートが向ける、熱い眼差し。それと同じ。
 現在時刻は、お昼だ。間違いない。
 それなのに、どうしてこの視線を感じるのか。
 気のせいか? いいや、確実に背中に刺さっている。
 しかも、ひとつふたつじゃない。無数の嫌な視線がザクザクと刺さる。
 三人は首を傾げながら、そーっと振り返ってみた。窺うように、そーっと。
(…………)
 絶句というべきか、ただ呆けてしまったというべきか。
 視界に飛び込んだ光景に、三人は目をパチクリさせた。
 振り返った先には、無数のスタッカート。
 人間とトカゲが混ざり合ったかのような風貌。
 赤い目をギラつかせながら、スタッカート達は三人をジーッと見つめている。
「これは……どう考えてもやばいわね」
「何でなの〜。ねぇ、霊くん。何で、たっくさんいるのかな〜」
「ん〜……。僕に聞かれましても……」
 スタッカート達と対峙した状態、目は逸らさぬままに呟いた三人。
 一番疑問に思うのは、現状の矛盾だ。昼間なのに、どうしてこいつらがいるのか。
 しかも、ここは校内。スタッカートは、校内には侵入できないのでは?
 入学式の日に、そう聞かされた。結界が張ってあるから、侵入は出来ないしさせないのだと。
 まぁ、疑問もさることながら、夏穂の発言が最も重要なところ。
 とにかく数が多い。相手をすることの煩わしさもあるけれど、時間帯が悪すぎる。
 深夜0時を回るまではスキルが使えない。
 要するに、今の三人は、そこらにいる普通の人間と何ら変わらない状態。
 まぁ、スキルに依存することなく『魔術』の類を扱えはするけれど。
 それも、威力が半減してしまうことだろう。
 その状態で、この数を相手するとなると……なかなか厳しい。
 非難を指示する放送、その意味を何となく理解した霊祠。
 雪穂と夏穂も、寝起きながらに事態は把握できているようだ。
 どうするべきか。
 ダッシュで逃げて教室へ駆け込むか。
 可能だろうか。こちらが動いた瞬間、一斉に襲い掛かってくるのではないだろうか。
 それならば、さほどの威力はなくとも、応戦すべきなのではないだろうか。
 いやいや……どう考えても、分が悪すぎる。じゃあ、どうする。
 スタッカートを視線を交えたまま、一歩も動かずに考える三人。
 その最中、夏穂が微かにパチンと指を鳴らした。
 逃げるにせよ、応戦するにせよ、環境を整えるべきだ。
 そう思った夏穂は、氷の結界を張ってみることに。
 威力が半減しているから、大した強度にはならないだろうけれど、ないよりはマシだろう。
 そう思ったのだが。発動した氷の結界に、夏穂は目を丸くした。
 どういうことか。深夜に発動する時と何ら変わりなく立派なものが出来た。
 寧ろ、深夜に発動する時よりも少ない魔力で、同等のものを作れたような……。
「……使えるのね」
 懐から懐中時計を取り出し、クスリと笑った夏穂。
 夏穂の微笑みを見て、雪穂と霊祠も理解する。
 何故なのかは理解らない。けれど、スキル発動が可能だ。
 それも、普段より数段レベルアップした状態で。
 問題なくスキルを使うことが出来るならば、迷うことも悩むこともないだろう。
 三人は顔を見合わせて頷くと、それぞれのスキルを躊躇うことなく発動していく。
 先ず一番に動いたのは霊祠。
 風の魔法で気流を操作し、突風をスタッカートへ向けて放ち威嚇。
 こちらに応戦する気があると理解したスタッカート達は、ゲラゲラと笑いながら飛び掛ってくる。
 自らが率先して前線に赴き、攻撃することはしない。
 有利な状況を作ることに専念するべきだ。
 霊祠が、そう判断できたのは、居合わせている仲間の『質』を理解しているからこそ。
 消沈の呪文を乗せて放つ風に吹かれ、退いては前進を繰り返すスタッカート。
 思うように動けないことがストレスになっているのだろう。
 スタッカートの鳴き声や表情は、険しく不気味になっていくばかり。
 有利な状況を作ることに成功したのならば、次は攻撃担当の出番。
 フフッと笑い、懐中時計の蓋へ口付けた夏穂。
 赤い蜘蛛のエンブレムに唇が触れた瞬間、解放される能力。
 渾名、発動。
 真っ白な吹雪を纏いながら『吹雪姫』へと変貌する夏穂。
 いつもの可愛らしい表情から一変。氷のような冷たい眼差しでスタッカート達を睨みつける。
 阻むものは何もない。クスクス笑いながら、夏穂は魔扇子を踊らせ、氷の矢を次々と放つ。
 躊躇いなど皆無。戸惑う暇もないほどに、氷の矢は、次々とスタッカートの急所を突いていく。
 吹雪姫と化した夏穂は、軽く興奮している状態。
 意識や理性がないわけではないが、ただ純粋に楽しむことを目的として動く。
 その為、攻撃は、ややランダム性が強い。
 中には、氷の矢に貫かれることなく、こちらに向かってくるスタッカートも。
 そんな『洩れ』を処理するのが、雪穂の仕事。
 一緒にキャッキャと笑いながら無差別に攻撃しても良いけれど、
 洩れた標的を始末していくほうが、効率は良い。臨機応変に。
「とりあえず、灰になっちゃえば〜♪」
 ケラケラと笑いながら、洩れたスタッカートに向けて真っ赤な炎を放つ雪穂。
 立ち昇る炎。焦がれたスタッカートは、悲鳴を上げることもなく瞬時に灰と化す。
 風に乗って優雅に舞う吹雪。その中を踊る氷と炎。
 三人のスキルは上手く絡み合い、もうどうすることも出来ない。
 足掻けど足掻けど、近寄ることすらままならぬ。
 そんな状況に苛立ちがピークに達したスタッカートは、闇雲な攻撃を始める。
 ヤケになっていることが丸わかりな、くだらない攻撃だ。
 けれど、その攻撃には尋常ではない『苛立ち』と『恨み』が篭っている。
 想いの強さは、時として実力差すらも飛び越えてしまう。
 スタッカートが放った闇雲な攻撃、かまいたち。
 そのひとつが、雪穂の頬を掠めた。
「っ……! 痛っ!」
 痛みに顔を歪め、頬に触れれば、温い血の感触。
 まぐれで掠めた攻撃。けれど、それは確実に痛みを伴った。
「あ〜あ……」
 ぷっちんするのかと思いきや……雪穂は笑っている。
 その微笑みは、憐れむかのような……。
「大丈夫ですか」
 パタパタと雪穂に駆け寄り、得意ではないけれど覚えたての治癒魔法をかけようとした霊祠。
 そこへ、夏穂の低い声が飛んでくる。
「霊祠くん」
「あ、はい?」
「あいつら、完全に黙らせてくれる……? 数秒で構わないわ」
 ギロリとスタッカートを睨みつけていった夏穂。
 その口調、声には、何ともいえぬ迫力があった。
 霊祠はクスリと笑って頷き、ご立腹な吹雪姫の御望みどおりに。
 呪縛の呪文を込めた突風で煽れば、身動きなんぞ一切出来ない。
 周りすらも見えない状況にジタバタと暴れるスタッカート。
 だが、籠の中の鳥。
 どんなに足掻いても、抜け出すことは出来ない。
 フワリと高く舞い上がり、足掻くスタッカートを見下ろして夏穂はクスクス笑う。
「……無様ね」

 *

 中庭でのバトルは、全校生徒の目に映っていた。
 そもそも、これだけ派手なバトルが目に入らないはずがない。
 立ち昇る炎と飛び交う氷、縦横無尽に踊る風。
 異なる三つの属性が、ここまで上手く噛み合うものなのか。
 教室の窓から中庭を見やる生徒達は、感心から言葉を失っていた。
 行方のわからなくなっていた三人を探していた教員、
 藤二、千華、ヒヨリもまた、屋上から中庭を見下ろす。
 的確で、それでいて美しく。まるで舞台を見ているかのような、この状況。
 煙草に火を点け、藤二は目を伏せてクックッと笑う。
「今期は豊作だな、マジで」
 腕を組み、見下ろしながら千華は納得するかのように深く頷いた。
「入学時に、ほぼ完成した状態だったのもあるわよね。あの子達は」
「独学ってやつかねぇ。違うか。才能か?」
「努力と才能。両方を備えてるパターンだと思うわ」
「っはははは。参ったね、俺達も見習わないと駄目だな」
「あんただけよ、それは」
 藤二と千華が笑いながら会話している横で、
 ヒヨリは書類に何かを黙々と書き込んでいた。
 書き込んでいるのは、雪穂、夏穂、霊祠の癖やスタンス、潜在能力。
 分析する必要がないほどに完璧な情報に、ヒヨリも笑う。
「問題なさすぎて面白くないんだけど、どうすれば良いかなぁ、これ」
「贅沢な悩みだな」
「そうねぇ……」
「はい、出来たよ。校長に提出で良いんだよね?」
「おぅ。んじゃ、行くか。援護は必要ねぇだろうし」
「そうね。寧ろ、邪魔になるんじゃないかと思うわ」
「っくく。センセーが足手まといとか、どんだけ」
「贅沢な悩みねぇ、本当」
「あ、そうだ。ブレイブマーカーは? 後で?」
「あぁ、もうやっといた。気付いてないだろうけど」
「おぉ〜。こういう時だけ、仕事が早いよね、藤二は」
「うるせぇよ」


 身動きの取れなくなったスタッカートを氷の中に閉じ込めて、仕上げ。
「砕け散れ」
 クスッと笑い、夏穂はパチンと指を弾いた。
 風の内圧もあって、ガシャァンと激しく砕けて割れる氷。
 閉じ込められたスタッカート達も、まるで玩具のように、人形のようにバラバラに砕け散った。
 パラパラと氷の破片が舞い落ちる中、ふぅと息を吐いて吹雪姫を封じ、元に戻る夏穂。
 空から降下。着地すると同時に、雪穂がタタタタタッと駆け寄ってくる。
「終わりだ〜♪」
 ガシッと夏穂に抱きついて笑う雪穂。
 夏穂は優しく微笑み、雪穂の傷付いた頬に触れ、すぐさま癒した。
 傷はすぐに癒え、跡形もなく消えたけれど、悲しい気持ちは拭いされない。
 申し訳なさそうにジッと見つめる夏穂。その視線に顔を上げ、雪穂はニコッと微笑んだ。
「そんな顔しないでよ〜。いつものことじゃん、このくらいっ♪」
 ぺったりとくっついて話す仲良しな双子姫。
 彼女等を横目に微笑みながら、霊祠は指先から風を放ち、
 散らかった氷の破片と、スタッカートの残骸を『死界』へと贈る。
 死界に住まう友達へ、おやつのプレゼント。掃除も兼ねて、一石二鳥。
 元通り、いつもの綺麗な中庭へ戻ったことを確認し、霊祠はニコリと微笑む。
「霊くん、お掃除お疲れさまだよ〜!」
「ごめんなさい。ちょっと散らかしすぎだったわね……」
「あぁ、大丈夫ですよ。寧ろ、喜びますから。ふふ」
「何か、お腹空いちゃった〜……。ね、何か食べよ〜」
「そうね。時間、あんまりないけど」
「霊くん、あの食券まだ余ってるよね〜?」
「残ってますよぅ。なかなか消費しきれませんよねぇ、あれ」
「あっははは! そだね〜。よ〜し。んじゃ、食堂へレッツゴ〜」
 一仕事終えて、食堂へ。お昼ごはんを食べたはずなのに、お腹が空くのは、
 短時間に大量の魔力を消費したからなのだが、本人らに、その自覚はなさそうだ。
 スキルブレイブ、優等生。
 時間枠に関わらず、スキル発動が可能な限られた生徒。
 その証として、三人の学生証の裏面には、赤いラインが刻まれた。
 まぁ、三人とも気付いていないようだけれど……。

 さぁ、この先、もっと忙しくなりますよ。
 心の準備は、良いですか? お三方。
「あ、霊くん、ニンジン残してる〜!」
「……苦手なんですよぅ」
「好き嫌いしちゃ駄目なんだよ〜。ねっ、夏ちゃん」
「そうね。大きくなれないわよ」
「うぅ〜」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL在籍:教師
 NPC / 千華 / 27歳 / HAL在籍:教師
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / HAL在籍:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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