■潜入操作 その2■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
クロノクロイツに侵入してくる部外者達。
その目的を明らかにする為に実行する潜入捜査。
重要な任務だということは理解る。
それを任されるなんて、責任重大だと思う。
全力で遂行せねばならないと思う。思うけれど……。
「…………」
どうして、こんな格好しなきゃならないんだろう。
鏡に映る自分の姿に、苦笑ばかりが浮かぶ。
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潜入捜査 その2
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クロノクロイツに侵入してくる部外者達。
その目的を明らかにする為に実行する潜入捜査。
重要な任務だということは理解る。
それを任されるなんて、責任重大だと思う。
全力で遂行せねばならないと思う。思うけれど……。
「…………」
どうして、こんな格好しなきゃならないんだろう。
鏡に映る自分の姿に、苦笑ばかりが浮かぶ。
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ヒヨリとナナセが突き止めた、侵入者達のアジト。
そこへ僕が、一人単独で潜入して捜査を試みる。
うん。わかるよ。わかるけど……どうして、メイドさんみたいな格好してるのかな。
濃紺のロングワンピースに、白のエプロン。花の飾りが付いた白いカチューシャ。
ちょっと動けば、その度にワンピースの裾が大袈裟にヒラヒラと揺れる。
(何か……。金魚みたい……)
鏡に映る自分の姿に苦笑を浮かべるクレタ。
その姿をじっくりと鑑賞しつつ、ソファでJは書類を読み上げた。
もう一回読み返しておくね。念の為。
これからキミが向かうのは、侵入者達のアジト。
場所は外界、東京にある廃ビル。繁華街の片隅に、ひっそりとあるらしい。
今回の調査で、連中の正体が、だいぶ明らかなものになった。
連中は、自らを『RKI』と名乗って活動している。
RKIっていうのは、連中独自の暗号っぽい。
この辺りをハッキリさせてくるのも、キミの仕事。
連中は、不定期に集会のようなものを開いている。
もちろん、何をくっちゃべってるのかは理解らない。
この辺りをハッキリさせてくるのが、キミのメイン作業だね。
その頭についてるカチューシャの花の中に、小さなカメラを仕込んである。
ヒヨリがモニターで確認してるから、安心して行っておいで。
俺も、用事が終わったら確認しにヒヨリんとこ行くから。
一緒に行きたいのは山々だけれど、今回は単独でって決まりだからね。
まぁ、あいつが決めたんだけど。勝手なことすると、後でウルサイからさ。
「それにしても、あれだね」
「……ん?」
「似合ってるよ。凄く」
「……。そう?」
「うん。ちゃんと保存したよ」
「……(いつの間に)」
女の子の格好させられて、それを褒められても……正直、微妙。
変だとか似合ってないとか言われるよりかはマシだし、嬉しいような気もするけど……。
肩を竦めて苦笑し、クレタはフゥと息を吐き落とした。
仕事だから割り切って……開き直って頑張ろう。
すぐバレるんじゃないかって不安はあるけど。
まぁ、Jたちがこっちで確認しててくれるなら、安心……かな?
ウンと小さく頷き、クレタはパッド片手にJを見やって尋ねた。
「ところで、J。胸は大きいのと小さいの、どっちがいい?」
「柔らかいの」
「……(えぇと。……。……それってどっち?)」
*
潜入する前に、しっかりと確認しておくビルの構造。
もしもの時、慌てることのないように逃走経路や非常口の場所を頭に叩き込む。
物陰に隠れて、一人コクリと頷いたクレタ。RKIのアジトは目の前。
何でメイドさんの格好なんだろうって疑問だったけど……何となく理解った。
僕だけじゃないんだ。メイドさんの格好をしてる人は、他にもたくさんいる。
まぁ、その中で実は男です。っていうのは、僕だけだろうけど……。
パッと見た感じ、メイドさんは、みんな可愛いよ。
顔にしても雰囲気にしても。ヒヨリがいたら喜びそう……って、見てるんだっけ。
じゃあ、喜んでるだろうなぁ。今頃……。何か複雑な気分……。
ビルに入っていく男の人は、みんなゴツくて強そうな人ばかりだけれど、
メイドさんと擦れ違う時だけ、顔が "へにゃっ" ってなってる……ような気がする。
要するに、RKIの人達って……こういう『趣味』があるってことだよね……?
(……ますます複雑な気分。……何で僕なんだろう)
溜息を落としながらも、仕方ないと腹をくくって、ビルへ入る。
華奢で小柄。加えて、透き通るような白い肌。
ウィッグでツインテールにしている所為もあってか、
クレタが男であることに気付く者は一人もいない。
そればかりか、その可愛さに誰もが振り返るほどだ。
必要以上に目立つのはよろしくないと思うんだけど……ちょっと困ったな……。
(落ち着かない……)
他のメイドさん達と同じように奉仕をして回りながらも、笑顔が引きつってしょうがない。
自然に振舞おうとすればするほど、余計に違和感があるのではと不安になってしまう。
けれど、そのぎこちない動きが、これまた可愛らしいから困ったものだ。
やたらと人が寄ってくる。いや、潜入捜査中なわけで、
この状況は有難いというか、良いことなんだろうけれど……。
慣れない愛想を振りまきながら、さりげなく調査を進めるクレタ。
その光景を、モニターで様子を窺っているヒヨリ。
「……馴染んでるなぁ」
肩を揺らしながら笑うヒヨリは、どこか満足気だ。
クレタが困惑し始めていることに気付いていないのか。
それとも、気付いていながら、それを楽しんでいるのか。
何にせよ、悪趣味である。仕事だからといっても……悪趣味である。
調査を進める中、徐々に判明してくるRKIの実態。
一番重要な情報は、RKIというグループの名前、その由来。
その名前は、グループの核である人物、3名の名前頭文字を連ねたもの。
この場には来ていないようだが、居合わせている連中の会話から、その名前だけは判明した。
グループの核である人物の名前は、先頭から順番に、
リュウカ(R)、キリサ(K)、イクシア(I)
どうやら、イクシアだけ女性のようだ。
三角関係だったり、何だかんだで面倒な関係だということも理解る。
人間関係と名前の把握、それと同時に垣間見える、連中の目的。
クロノクロイツに出入りしているのは、空間を丸ごと自分達のものにしようとしているから。
彼等にとって一番魅力的なのは、歳老うことがないという空間の性質。
加えて、別世界へ自由へ出入りできることも美味しい点のようだ。
侵入経路は、時の回廊にある独特の歪み(害はない特殊な歪み)を、
独自の方法で勝手に広げ、そこを経由して侵入するという手段。
どうして、彼等が空間を弄ることが出来るのか。
時の管理は、クロノクロイツに生きる者だけが実行できる事柄であり使命なのに……。
歪みを勝手に弄ることに関して、また、その方法については、
グループの核である人物3人に接触せねば、明確になりそうもない。
要するに、ここにいるのは雑魚。下っ端ばかりなのだ。
本当に得ねばならない重要な情報は、入手できそうもない。
とりあえず、主要人物の名前が理解っただけでも収穫と考えるべきだろう。
(よし……。送信完了……)
死角に隠れ、判明した情報をメールでヒヨリへ送信。
後は、このまま何事もなかったかのように、こっそりと退散するだけ。
非常口の場所、そのルートは頭の中に叩き込んである。
特に疑われている様子もないようだし、
正面から出ても問題はなさそうだけれど……万が一のことを考え、
非常口から、こっそりと誰にも見つからぬように脱出するのが好ましい。
ニコニコと微笑み、居合わせている下っ端連中へ最後の愛想を振り撒き、
飲み物を手渡して回りながら、さりげなく非常口方面へと移動。
(大丈夫そう……だね……)
特に何の問題もなく、すんなり脱出できるかに思えた。
けれど、そうはいかない。
疑われて包囲されるというわけではなく、
気に入られて包囲されてしまうという……予想外のパターンが待っていた。
(…………)
非常口の扉を開けようとした矢先、突き刺さるような視線。
そろ〜りと振り返れば、そこにはゴッツい男が二人……。
あぁ……。やたらと付き纏っていた二人だ。
気持ち悪いなぁと心から思っていた。だからこそ距離を取ってきたのに。
面倒なことになったなぁ、と小さく溜息を落とすクレタ。
ゴッツい男達は、ニヤニヤと不気味に笑いながら近付いてくる。
「どこ行くのかな〜?」
「まだパーティの途中だよ?」
笑いながら、ヌッと腕を伸ばしてくる男達。
連携が取れているとは言えない動きだ。色欲で頭がいっぱいなのだろう。
クレタは苦笑しながら姿勢を低くし、二人の腕、その間をくぐるようにして回避。
まぁ、捕まえることが出来ないとなるとムキになるのは当然のことなわけで。
男達はニヤリと笑って、体勢を立て直す。
退く気配は……当然の如く、ゼロだ。
「お前、マジで死ね」
冷め切った瞳で見やって言い放ったJ。
次いで『良い音』が部屋に響き渡る。
反省はしている。大丈夫だろうと油断していたのは認める。
言い訳させてくれる余裕があるならば、この書類の山を見て頂きたい。
最近の異常現象の所為で、書類整理の量がとてつもなく増えた。
それこそ、寝る間も惜しんで作業しなくちゃ追いつかない状況。
片手間? 確かに。だから反省してるって。
過信……とは少し違うけれど、油断しすぎたよ。
お前が怒るのも無理はない。その怒りは、当然ですよ。
でも、だからって、いきなりこんなキツイ一撃はないでしょう。
「素で痛いわ……」
机に突っ伏し、苦笑しながら痛む右頬に触れるヒヨリ。
現場へ急行? その必要はない。
だってもう、大慌てで向かっていきましたから。
乱暴な王子様が。
*
*
目立ちたがり……じゃないとは言い切れないけれど、
この場合は、ただ単に自分を見失っている状態なだけ。
血も涙もない、残忍な動き。まるでサイボーグのように味気ない。
以前にもあった。こうして、目の前で狂う姿を見たことがある。
だからこそ、クレタは動けない。いや、動かない。
落ち着いて? そんなこと言ったところで、どうにもならない。
何を言っても届かないのだ。こうなってしまっては、どうしようもない。
キレるには十分すぎる条件が揃っていたのだから仕方ないだろう。
クレタの衣服が破けている。どこかに引っ掛けた? 違う。
色欲に満ちた乱れ方だ。何を目的として引き裂こうと試みたか、一目で理解る。
それを目の当たりにして、落ち着けだなんて無理な話。
もはや、ビル内は、てんやわんやだ。
潜入捜査もクソもない。大暴れ……。
何が起きているのか理解らないメイドさん達の悲鳴が飛び交い、
そこらじゅうに、ノされた連中が転がっている。何というカオスな光景か。
まだまだ足りない。許されることならば、このまま壊滅させてやりたい。
二度と悪さが出来ないように、その気が失せるように潰してやりたい。
けれど、少々呆れているかのようなクレタの目を見て、少しだけ我に返った。
「クレタ。こっち」
Jは苦笑しながら、クレタの手を引いてビルの外へ。
その脱出の仕方も、また派手というか何というか……。
逃げも隠れもしない、いつでもきやがれこの野郎。その姿勢丸出しの、豪快な脱出。
どうしてだろうか。……飛び散るガラスが、妙に綺麗に見えた。
手を繋ぎ逃亡する二人の姿は、まるで愛の逃避行。
モニターで確認してるって言ってたから……こうなるような予感はしてたけど。
一人で何とかしようと足掻いたのが、余計にマズかったのかな……。
ジタバタした、抵抗した、それが目に見えたから余計に……なんだろうね。
何ていうか……あなたと一緒にいると、可笑しくなってくるよ、J。
慎重になるとか、じっくりとか……そういうのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
だからといって、あなたのように突っ走ったりは……出来ないんだけど。
身体の震えも、どこかへ飛んでっちゃったよ……。
その代わりに、ほら。今は、可笑しくて肩が震えるんだ。
「おかえり」
ヒラリと手を振って出迎えたヒヨリ。
その右頬の赤みに、クレタは少しだけ首を傾げたけれど、
不愉快極まりない表情で、今にもヒヨリに掴み掛からんとしているJの横顔を見て、状況を把握した。
とりあえず、お茶でも淹れようか。ね、二人共……?
調査の結果は、Jが大暴れしちゃう前に送っておいたけれど、
メールには書かずにいた、気になってることがあるんだ。
気のせいかもしれないけれど、もしかしたらってこともあるから、聞いて?
あの場所にいた、メイドさんの中に一人だけ―
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7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守(トキモリ)
NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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