■スベテを知る人■
藤森イズノ |
【7348】【石神・アリス】【学生(裏社会の商人)】 |
失敗したな……。
とりあえず、何よりも先に思うのは、それ。
いけるかなと思った。問題ないだろうと思った。
けれど、それは過信以外の何物でもなかった。
目の前で牙を剥くスタッカート。
その身体から垂れ流れている魔力は、途方もない。
現状、自分の魔力では太刀打ちできないだろう。
高レベルのスタッカートが、ここまで強敵だとは。
自らが招いた災難。誰かに助けを求めるなんぞ許されまい。
まさか、こんなカタチで解き放つことになるだなんて……思いもしなかった。
全ては自分の責任。尻拭いは、自分で。
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スベテを知る人
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失敗したな……。
とりあえず、何よりも先に思うのは、それ。
いけるかなと思った。問題ないだろうと思った。
けれど、それは過信以外の何物でもなかった。
目の前で牙を剥くスタッカート。
その身体から垂れ流れている魔力は、途方もない。
現状、自分の魔力では太刀打ちできないだろう。
高レベルのスタッカートが、ここまで強敵だとは。
自らが招いた災難。誰かに助けを求めるなんぞ許されまい。
まさか、こんなカタチで解き放つことになるだなんて……思いもしなかった。
全ては自分の責任。尻拭いは、自分で。
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夜空を徘徊するスタッカート。
アリスは物陰に隠れ、その姿を見上げていた。
見失った標的を見つけ出すことに躍起になっている様子のスタッカート。
標的は、アリス。不気味な鳴き声を放つスタッカート。
その声は、出て来いと怒り狂っているかのようだった。
何とかなるのではないかと、一撃を食らわせてしまったのがマズかったのだろうか。
まさか、チカラを隠しているだなんて思わなかった。
そんな賢いスタッカートがいるだなんて、知らなかった。
まぁ、普通に考えれば、いずれは、そういう敵と対峙することにはなっただろうけれど。
手に取った討伐書を、よく確認しなかったのも反省点。
不思議には思ったのだ。
低レベルなスタッカートリストの中にあったのに、報酬がズバ抜けて高価だったから。
おそらくは、誰かの悪戯だろう。まったくもって、タチが悪い。
だからといって、悪戯をした犯人を責めようとは思わない。
お互い様だ。こちらにも、非はある。
そうして自分を戒め、アリスは小さな溜息を落とす。
この状況は、ピンチというやつだ。普通ならば。
そう、普通ならば。
このまま隠れていても無駄。いつかは見つかってしまう。
選べる選択肢は、もう一つしか残っていない。
本来の能力を、普段は抑制している能力さえも、解放する。
そうすれば、どうってことない。すぐにカタはつくだろう。
辺りを見回して、環境が整っていることを確認。
一般人を巻き込むわけにはいかないから。
アリスは、コクリと納得するように頷き、物陰から姿を見せた。
隠れることをやめて姿を見せたアリスを、すぐさま発見したスタッカート。
嬉しそうに笑う、その姿は不気味以外の何物でもなかった。
(あなたのような醜いものに使うのは、気が引けるんですけれど……)
まぁ、仕方ないですよね。そうして、自分に言い聞かせることにします。
悪く思わないで下さい。大丈夫、痛みはありませんよ。すぐに終わります。
クスリと笑い、自身の両目を手で覆ったアリス。
ゆっくりと手を離せば、アリスの瞳に変化が。
黒目の中に浮かぶ、蛇のようなシンボル。
どこからか吹き荒ぶ風が、長い髪を妖しく揺らす。
アリスが普段、自重している能力。
魔眼。
それは、その名のとおり、悪魔の瞳。
アリスの瞳には、やがて妖しい紫色の光が灯る。
チリチリと、焼けるような痛みが両目に走る。
その心地良い痛みに微笑み、アリスは襲い掛かってくるスタッカートをギッと睨み付けた。
それは本当に、一瞬の出来事。
空中でピタリと静止し、スタッカートはそのまま硬直。
まるで、スタッカートの周りだけ時間が止まったかのような光景。
すぐさま意識は断たれ、スタッカートの身体は、石と化していく。
自分の身体に何が起きているのか、それを把握することは出来ない。
見つめられ、視線が交わった瞬間、対象の記憶と意識は断たれる。
石と化し、空中に留まり続けるスタッカート。
その醜さに肩を竦め、アリスは目を伏せパチンと指を弾く。
不要なものは、ゴミ箱へ。美しくないものは、遥か彼方へ。
指音が響き渡ると同時に、スタッカートは落下。
ガシャンと、ガラスが割れるような音を上げながら、
石と化したスタッカートは、粉々に粉砕された。
あなたがもしも、美しく生まれていたならば……。
なんて、もしもの話なんて、したところで無意味ですね。
事実は事実。あなたは、醜かった。それは、変えようのない事実。
両目を手で覆い、元に戻しながら溜息を落とすアリス。
まだ少し、焼けるような痛みが残る瞳。
その瞳が、意外な人物を捉えたのは、5秒後のこと。
「……いつから、いらしたんですか」
ポツリと小さな声で呟いたアリス。
その言葉は、物陰に隠れる人物、ヒヨリへ向けられたものだった。
苦笑しながら姿を見せるヒヨリ。その左手は、石と化していた。
巻き添えを食らったのだろう。
それは即ち、いつからいたのか? という質問の答えにもなる。
アリスは、石と化したヒヨリの左腕にそっと触れ、元に戻しながら微笑む。
何となく、全てを理解しましたよ。といいますか、繋がったというか。
依頼書の悪戯は、あなたの仕業ですね。
どうして、こんな悪戯をしたんです? なんて……聞くまでもないですね。
あなたが、ここにいるのが何よりの証拠。
知りたいと思ってくれたのですか。私の全てを。
光栄です。やり方は粗暴で美しくないですが、時には強引なのも良いですね。
表向きは、少しミステリアスな女の子。
裏の顔は、魔眼の能力を用いて美しい人を石へと変え、
時に売り飛ばし、時に自らのコレクションに加える、美術商。
魔眼の餌食になった人物は、数知れず。
いつしか、数えることすら面倒になってしまった。
魔眼が発動している間は、心地良い高揚感に支配されて、少々のトリップ状態。
滅多にないけれど、高揚の度合いでは、我を失ってしまうこともある。
だからこそ、自重してきた。学校では、解放せぬようにと抑制してきた。
けれど、抑えることが難しい時もある。
抑えさせてくれぬほど魅力的な人の所為で。
「あなたのことですよ。ヒヨリ先生」
クスクス笑いながら、そっとヒヨリの頬に触れたアリス。
ヒヨリは目を伏せて肩を竦め、アリスの手を退けながら言った。
「アリス、神話は好きかい?」
「え? ……そうですね、嫌いではないですよ」
「邪神に溺れて亡魂になった、そんな愚神がいるんだけど。知ってる?」
「……。さぁ。存じませんね」
「そっか。まぁ、だから何だってこともないんだけど。ふと思い出したっていうか」
「もしかして、わたくし……遠回しに拒絶されていますか?」
「あぁ、いや。そういうつもりじゃないよ。寧ろ、光栄ですよ」
「そうですか? じゃあ……」
「っはは。出来るもんなら、やってごらん。さ、戻るよ。おいで」
「…………」
差し伸べられた手。アリスは見上げた。
月明かりの逆光が曖昧にする、表情と笑顔。
避け方までも、美しいのですね。そんなつもりはないのかもしれませんけれど。
アリスは微笑み、差し伸べられた手を取って立ち上がる。
今の言葉と挑発、忘れないで下さいね。
その気にさせたのですから、それなりの反応を期待しますよ。
月灯り、満月、静かな夜。手を繋ぎ、戻って行く最中。
心の中で何度も呟くのは、決意表明。
あぁ、愛しき人よ、可愛い人よ。
スベテを知る人よ。
あなたを欲しいと思うのは、至極当然のことでしょう。
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7348 / 石神・アリス / 15歳 / 学生(裏社会の商人)
NPC / ヒヨリ / 26歳 / HAL在籍:教員
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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