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■HAL■

藤森イズノ
【6408】【月代・慎】【退魔師・タレント】
 東京都渋谷区。
 ここは、いつでも賑やかで活気に満ちている。
 が、人が集まる場所では、トラブルが絶えない。
 まぁ、そんなトラブルも、魅力の一つではあるけれど。
 とりあえず、目的の店に急ごう。予約しているから、焦る必要はないけれど。
 道行く人の合間を器用に縫って、目的地へと赴く。
 何の変哲もない平和な日曜日。少し退屈な日曜日。
 今日も、そのはずだった。
「あ。キミ、ちょっと良いかな?」
「…………」
「少しだけ。ほんの少しだけ、お話聞いて?」
「…………」
「すぐ終わるから。ほんとに」
「…………」
 あぁ、これも街の醍醐味。トラブルの一つ。
 どうしてこう、キャッチってのは、しつこいんだろう。
 前々から思っていたけれど、この職に就く人って、
 普段から、しつこいんだろうか。そういう性格なんだろうか。
 掛かる声を、ひたすら無視し続けて歩く。
 しばらく歩けば諦めて、ターゲットを変える。
 そう、いつもなら、これで回避できたんだ。
「待ってってば。逃がさないぞ」
「…………」
 見上げた根性だ。キャッチセールスマンの鏡とでも言ってやろうか。
 声を掛け続けていた男は、ズイッと身を乗り出して進路を塞いだ。
 そこまで言うなら、少しだけ……だなんて、言うはずがない。
「急いでるんで」
 少々睨み付けて、どいてくれと訴える。
 不本意だが、目に映り込む男の姿。
 銀の短髪に眼鏡。まぁ、見た感じは普通の男だ。
 睨み付けたにも関わらず、男は退かなかった。
「はい、これ」
「…………」
「よければ、来てね。じゃ、また」
「は? ちょ……」
 どのくらい、時間を潰されてしまうんだろう。そう示唆していたのに。
 男は、黒いフライヤーを手渡すだけで、さっさと立ち去ってしまった。
 目で追えば、男は既に別の人物に声を掛けている。
 正直、拍子抜けだ。こんなキャッチもあるのか。
 もしや、新手か。あっさりした態度で、逆に興味を引くという……。
 斬新かもしれないけれど、そう易々と引っかかるものか。
 溜息混じりで、渡されたフライヤーをクシャリと……潰そうとしたのだが。
 記されていた事柄が、あまりにも妙で。うっかり立ち止まり、見やってしまった。

 --------------------------------------------
 INFORMATION / 生徒募集中
 --------------------------------------------
 HAL入学・在籍生徒を募集しています。
 年齢性別不問。大切なのは、向学心!
 不定期入学試験を、本日実施しております。
 --------------------------------------------
 試験会場 / HAL本校1F会議室
 試験開始 / 15時30分
 --------------------------------------------
 試験進行は、以下の通り実施致します。
 15時35分〜 / 学力審査
 16時15分〜 / 面接試験
 17時30分〜 / 合格発表
 --------------------------------------------
 以下の受験資格を満たした状態で御来校下さい。
 --------------------------------------------
 ・特技がある(面接試験にて拝見致します)
 ・深夜0時以降の活動が可能な人
 --------------------------------------------
 HAL本校までの道程は地図を御参照下さい。
 お友達と御一緒の受験も歓迎致します。
 試験開始時刻までに、HAL本校へ。
 --------------------------------------------

「…………」
 噂には聞いていた。この辺りに、妙な学校があると。
 確かに、これはかなり怪しい。特に、この受験資格。
 深夜0時以降の活動が可能な人、って……。
 意味が理解らない。授業開始が深夜なのか?
 隅々まで目を通せど、その辺りの説明は見当たらない。
 こんな、あからさまに怪しい学校……受験する人なんているんだろうか。
 そんなことを考えながら、フライヤーを見やって首を傾げる内、周りの異変に気付く。
「…………」
 自分が持っている、このフライヤーと同一の物を持った人々が、
 ゾロゾロと同じ方向へ向かって歩いていくではないか。
 目を落として見やれば、彼等の足取りは、地図通り。
 あれ……。まさか……これ、全員、受験者?
 HAL

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 東京都渋谷区。
 ここは、いつでも賑やかで活気に満ちている。
 が、人が集まる場所では、トラブルが絶えない。
 まぁ、そんなトラブルも、魅力の一つではあるけれど。
 とりあえず、目的の店に急ごう。予約しているから、焦る必要はないけれど。
 道行く人の合間を器用に縫って、目的地へと赴く。
 何の変哲もない平和な日曜日。少し退屈な日曜日。
 今日も、そのはずだった。
「あ。キミ、ちょっと良いかな?」
「…………」
「少しだけ。ほんの少しだけ、お話聞いて?」
「…………」
「すぐ終わるから。ほんとに」
「…………」
 あぁ、これも街の醍醐味。トラブルの一つ。
 どうしてこう、キャッチってのは、しつこいんだろう。
 前々から思っていたけれど、この職に就く人って、
 普段から、しつこいんだろうか。そういう性格なんだろうか。
 掛かる声を、ひたすら無視し続けて歩く。
 しばらく歩けば諦めて、ターゲットを変える。
 そう、いつもなら、これで回避できたんだ。
「待ってってば。逃がさないぞ」
「…………」
 見上げた根性だ。キャッチセールスマンの鏡とでも言ってやろうか。
 声を掛け続けていた男は、ズイッと身を乗り出して進路を塞いだ。
 そこまで言うなら、少しだけ……だなんて、言うはずがない。
「急いでるんで」
 少々睨み付けて、どいてくれと訴える。
 不本意だが、目に映り込む男の姿。
 銀の短髪に眼鏡。まぁ、見た感じは普通の男だ。
 睨み付けたにも関わらず、男は退かなかった。
「はい、これ」
「…………」
「よければ、来てね。じゃ、また」
「は? ちょ……」
 どのくらい、時間を潰されてしまうんだろう。そう示唆していたのに。
 男は、黒いフライヤーを手渡すだけで、さっさと立ち去ってしまった。
 目で追えば、男は既に別の人物に声を掛けている。
 正直、拍子抜けだ。こんなキャッチもあるのか。
 もしや、新手か。あっさりした態度で、逆に興味を引くという……。
 斬新かもしれないけれど、そう易々と引っかかるものか。
 溜息混じりで、渡されたフライヤーをクシャリと……潰そうとしたのだが。
 記されていた事柄が、あまりにも妙で。うっかり立ち止まり、見やってしまった。

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 INFORMATION / 生徒募集中
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 HAL入学・在籍生徒を募集しています。
 年齢性別不問。大切なのは、向学心!
 不定期入学試験を、本日実施しております。
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 試験会場 / HAL本校1F会議室
 試験開始 / 15時30分
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 試験進行は、以下の通り実施致します。
 15時35分〜 / 学力審査
 16時15分〜 / 面接試験
 17時30分〜 / 合格発表
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 以下の受験資格を満たした状態で御来校下さい。
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 ・特技がある(面接試験にて拝見致します)
 ・深夜0時以降の活動が可能な人
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 HAL本校までの道程は地図を御参照下さい。
 お友達と御一緒の受験も歓迎致します。
 試験開始時刻までに、HAL本校へ。
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「…………」
 噂には聞いていた。この辺りに、妙な学校があると。
 確かに、これはかなり怪しい。特に、この受験資格。
 深夜0時以降の活動が可能な人、って……。
 意味が理解らない。授業開始が深夜なのか?
 隅々まで目を通せど、その辺りの説明は見当たらない。
 こんな、あからさまに怪しい学校……受験する人なんているんだろうか。
 そんなことを考えながら、フライヤーを見やって首を傾げる内、周りの異変に気付く。
「…………」
 自分が持っている、このフライヤーと同一の物を持った人々が、
 ゾロゾロと同じ方向へ向かって歩いていくではないか。
 目を落として見やれば、彼等の足取りは、地図通り。
 あれ……。まさか……これ、全員、受験者?

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 楽しいこと、面白いことに対する、あくなき追求心。
 とことん貪欲にハッピーライフを求める。
 時にはうまくいかず、足踏みを余儀なくされることもあるけれど。
 それもまた、楽しいと思えるイベントのひとつ。人生、うまくいかないのも面白い。
 フライヤーを見やって、慎はニヤリと口元に不敵な笑みを浮かべた。
 この妙な学校については、それなりに知っている。
 面白そうな匂いがプンプンするなぁと興味を寄せていたのも事実。
 これはチャンス。舞い込んだ、チャンスなのだ。
 棒に振ってしまうなんて、そんな勿体ないこと出来るはずがない。
 フライヤーをポケットにしまい、慎はスタスタと歩き出した。
 向かうのは、フライヤーに記載されていた試験会場。
 いざ。妙な学校、HALへ。
 そうやってスタスタと歩いていく慎に、声をかける女性がいた。
「ちょっと、慎くん? デートは?」
「ごめん、また今度ね。急用が出来ちゃった」
「えぇ〜〜〜」
 美味しい御飯を奢って貰って、欲しいものを買って貰って。
 上手に甘えて、上手に距離を保って。そんな生き方。
 そうやって生きる毎日は楽しいし、不満なんてない。
 でも、目の前に、もっと大きな楽しむチャンスが転がってきたなら。
 捕まえなくちゃ、後悔してしまうから。
 後悔だけは、絶対にしたくないから。
 だから、デートは、また今度。
 いつでも出来ることなんだし、ね。

 *

 謎の学校『HAL』
 その1階にある会議室にて、第一の試験が執り行われた。
 筆記試験なのだが、まぁ……内容は、ごく普通の学力テスト。
 特に難しいわけでもなく、だからといって簡単すぎることもなく。
 飽きのこない、適度なレベルの問題ばかりが出題された。
 誰も座ろうとしなかった、一番前の席。
 教卓の真向かいの席に、慎は着席している。
 他にも席は空いていたけれど、迷うことなく、この席に着席。
 寧ろ、どうしてこの席が空いているのか、慎は理解に苦しんだ。
 一番前だとか、目立つ場所を好む慎にとっては最高の席なのだ。
 早々に解答用紙を埋めた慎は、クルクルとペンを回しながら、
 机に頬杖をついて、ジーッと見つめる。
 慎が見つめているのは、試験官らしき女性だ。
 少しウェーブのかかった長い髪。長い睫毛、綺麗な肌。
 誰もが美人だと認めざるを得ないであろう女性。
(綺麗な人だな〜。でも、どっかで見たことあるような気がする)
 ジーッと見つめる慎。その眼差しに気付いているのだろう。
 試験官の女性は、目を伏せながらクスクス笑った。
 そんな余裕の遣り取りが交わされている中、他の受験者は皆必死。
 言葉を交わしているわけではないけれど、微笑みで会話する慎と試験官。
 それは、他の受験者にとってストレスになった。特に男の受験者。
 彼等が放つ、嫉妬の眼差し。背中にザクザクと刺さるその眼差しに、慎は気付いていた。
 気付いていたからこそ、楽しくてクスクス笑った。

 筆記試験の後は面接。
 会議室を出て、慎は案内に従い面接会場である2階の図書室へとやって来た。
 扉の前は、受験者でごった返している。慎は、少し離れた場所で壁に凭れて座っている。
(それにしても、凄い数だなぁ。そんなに有名なのかな、この学校)
 確かに、耳にしてきた噂は様々だった。それだけ注目されているということなんだろうけれど。
 何分、信憑性に欠ける噂ばかりだったが故に、正直なところ驚きを隠せない。
 生徒募集がある度に、こんなにたくさん受験者が集まるのだろうか。
 そう考えると、合格するのは、とても困難かのように思える。
 倍率とやらが、凄まじくシビアなものになるのではなかろうか。
 せっかく舞い込んだチャンスだ。逃すわけにはいかない。
 おそらく、筆記試験の点数よりも面接でのポイントのほうが高い。
 誰でも解ける問題ばかりだったのは、一応の体裁をとっているから。
 つまり、試験のメインは、この面接だということ。
 あれこれ考え、作戦を立てていると、慎の名前がコールされた。
 よっ、と立ち上がり、慎は満面の笑みを浮かべて図書室へ入る。
 やたらと緊張した面持ちの他の受験者と、明らかに異なる点だ。
「こんにちは。じゃあ、そこに座って」
「は〜い」
 面接官は男だった。ちょっぴり残念に思いつつも、慎は指示通り着席。
 黒い帽子を頭に乗せ、小奇麗な顔をした面接官の男。
 面接官は、手元の書類を確認しながら言った。
「へぇ。11歳なんだ、キミ」
「うん。じゃなかった、はい、そうです」
「随分と大人びてるなぁ」
「そ〜ですか?」
「うん。何となく雰囲気がね」
「まぁ、苦労してますからね〜。あははっ」
「だろうね。よし、じゃあ、慎。特技を見せてくれるかな」
「特技ですか?」
「何でも良いよ」
 テーブルに頬杖をつき、ニコリと微笑んだ面接官。
 そうか、そういうことか。要するに、能力を知りたいのだ。学校側は。
 どうしてなのか。そこまでは理解らない。理解らないけれど、望むところだ。
 慎は嬉しそうに微笑み、首を飾っているペンダントの鎖に右手で触れた。
 すると、鎖は音もなく切れて、慎の膝上にポトリと落ちる。
 膝上に落ちたペンダントを拾い、今度は左手で切れた鎖に触れる。
 すると、何事もなかったかのように、鎖は元通りになった。
「こんな感じで、いいですか?」
 目を伏せ微笑みながら、再びペンダントを首に掛ける慎。
 面接官は、書類に何かを書きとめながら言った。
「オーケー。マジックみたいだね」
「よく言われます。でも違うんですよ」
「うん。わかるよ。タネも仕掛けも御座いません。でしょ?」
「あははっ。それです、それです。まさに、それです」
「うん。よし、じゃあ……希望クラスを聞いておこうかな」
「クラス?」
「A〜C。三つのうち、どこかひとつ選んで」
「どこを選んでも大差はない感じです?」
「そうだね」
「じゃあ、Cにします」
「了解。じゃあ、結果発表まで教室で待機してて。はい、これ地図ね」
「ありがと〜ございます」

 *

 合否がわかる前に希望クラスを伝えるのは妙だ。
 そう疑問には思った。う〜ん? と首を傾げながらも、
 地図を参照して、Cクラスの教室へ入り、また一番前の席に着席している慎。
 ちょっぴりアンニュイな表情。物憂げな表情。
 綺麗な顔立ちの慎、その横顔に女の子たちはヒソヒソ話。
 慎は、今をときめくタレントである。
 本人は、それを自慢気に語ったりすることはないが。
 テレビや雑誌、各メディアで慎の存在はPRされている。
 10代、20代の女性ならば、知らぬ者はいぬほどの人気タレントだ。
 でも、だからこそ声を掛けることが出来ない。遠巻きに、見ているだけ。
 キャピキャピと女の子たちが騒いでいるとは知らず、慎は依然、あれこれ考えていた。
 そこへ、躊躇なく声を掛けてくる人物が―
「ねぇねぇ、キミさ、慎くんだよね? 月代・慎くんだよね?」
「へ……。あぁ、そうですけど」
「ほら! やっぱりそうだっ!」
 自慢気に笑って言った男。
 制服のようなものを纏った、栗色の髪の男。
 男の言葉と笑顔に、はいはいと肩を竦めて笑っている男女。
 彼等もまた、制服のようなものを纏っている。
「ねぇねぇ、サインちょうだい。このノートに」
「ちょっと。いきなり何言ってんのよ。失礼でしょ」
「何でっ。貰っておくべきでしょ、ここはっ」
「だから、それが失礼だって言ってるのよ。ねぇ? 斉賀」
「……俺にもくれ。サイン」
「ちょっ……。あんたまで何言ってんのよ」
 慎を囲むようにして、ギャーギャーと言い合う三人。
 見るからに仲の良さそうな三人。遣り取りのテンポからして、幼馴染とかその辺りだろうか。
 サインを強請られるのは日常茶飯事だ。
 それを嫌だとか鬱陶しく思ったことはない。
 寧ろ、こうやって遠慮なく声を掛けてくれると嬉しい。
 慎はクスクス笑いながら、差し出され続けているノートを受け取った。
「表紙に書けば良いのかな?」
「やった! サインゲット! うんうん、表紙に。あ、裏にも御願い!」
「わかった。ちょっと待ってね」
「……俺も。あ、俺は、表紙だけで良い」
「ちょっと、あんたたち、いい加減に―」
「うるっさいなー。ちょっとあっち行ってて。邪魔っ」
「…………」
「……お前も欲しいんだろ? 本当は」
「意地っ張りって、損な性格だよねー。おおー! すごい! 本物だっ」
「……。わ、私も貰って良いかしら」
 クスクス笑いながら、慎は「勿論」と頷いた。
 やたらと人懐っこい、この三人。
 栗色の髪の男は、尾根。
 ボソボソ喋る男は、斉賀。
 意地っ張りな女は、木ノ下。
 三人とも、Cクラスに在籍している生徒らしい。
 サインを強請る前に自己紹介するべきだったのでは……。

 
 タレント活動についての、あれこれ。
 色々と訊いてくる尾根、その質問に笑顔で答える慎。
 すっかりクラスに馴染み、他の生徒とも笑顔で雑談を交わす。
 そうこうしていると、ガラッと扉が開いて……運命の再会。
 いや、そんな大層なものではないのだけれど。
 教室に入ってきたのは、筆記試験の時の試験官。
 あの、綺麗な女性だ。
 女性は、ファイルを教卓に置き、微笑んで言った。
「はい、みんな席について」
 女性の言うとおり、自分の席へと着席していく生徒達。
 シンと静まり返る教室。女性は『千華』と名乗り、自分が、このクラスの担任であることを伝えた。
 千華はニコリと微笑み、次いで、生徒達へ挨拶と諸事情を説明する。
 そうね。先ずは、新入生に、合格おめでとうと伝えておくわ。
 どういうことなのか理解らなくて戸惑ってる子もいるみたいだけど。
 面接試験の最中でね、既に合格者は決まっているの。
 希望クラスを聞かれたら、その時点で合格が確定しているのよ。
 そんなこと知るわけもないだろうから、驚くのも無理はないわね。
 まぁ、何というか。皆、よろしく。勉強は勿論のこと、ハントも頑張っていきましょうね。
 あ、そうだ。ハントについての説明がまだだったわね。
 えぇと、この学校『HAL』は、表向きは普通の学校。
 でもね、受ける授業は一般的なものじゃないの。
 数学だとか、物理だとか、古典だとか、英語だとか、そういう授業は一切ないのよ。
 あなたたちが学ぶのは、主に魔法に関与する事柄。
 精神学的なものとか、技術が問われるような授業も中にはあるわ。
 まぁ、面接の時に特技がどうこう言われた時点で、普通の学校じゃなんだろうなとは思ったでしょうけど。
 そんな感じでね、昼間は、魔法に関する お勉強に専念して貰うの。
 で、夜。こっちが重要というか、メインね。
 深夜0時を過ぎた瞬間、この学校の本質が変わるわ。
 あなたたちの肩書きも、学生からハンターというものに変わるの。
 0時を過ぎたら、あなたたちの仕事は勉強ではなくハントになるってことね。
 ハントについては……明日にしましょうか。いっぺんに言われてもわからなくなっちゃうだろうから。
 とにかく、重要なのは、昼と夜。その二面性。
 あなたたちは、一日に二回登校せねばならないってこと。
 強制ではないわ。特別な用事があれば、そっちを優先して大丈夫よ。
 そのあたりは、人によって色々あるでしょうから。
 ただ、先生としては、なるべく毎日来て欲しいかな? ふふ。
 うん。じゃあ、次。魔石で着属を済ませておきましょうか。
 新入学生は手を上げて。はい、はい、えーと。7人ね。
 じゃあ、新入生。今、手元にいった石をギュッと握って。
 余計なことを考えちゃ駄目よ。握った? 握ったら、そのまま目を閉じて。
 はい、そのまま。10秒待機。
 一体何なのか。自分達は何をやらされているのか。
 慎は目を閉じつつも首を傾げた。
 そして10秒後。
 パチンッ―
「!!」
 手の中で石が弾けた。微妙に痛い……。
 驚いている様子の新入生に笑いつつ、千華は言った。
 じゃあ、手を開いて。石を確認。どうなってるかな? じゃあ、キミ。答えて?
 指名された慎はニコリと微笑み、
 手の中にある石を確認して、ありのままを伝えた。
「真っ黒になってますね。何か、炭みたい……」
「うん。成功ね」
 その時点で、あなたたちには魔法の力が備わったの。
 どんな魔法が使えるようになったかは、明日以降に嫌でも理解るわ。
 ちなみに、今、宿った魔法の力には能力規制があるの。深夜0時から朝8時まで。
 この時間外は、能力は封印されてしまってね。どう足掻いても外には出せないのよ。
 ……中には、お構いなしに発動できる優等生も少なからずいるだろうけど、ね。
 うん、こんなところね。じゃ、お昼の部は、ここまで。
 また、深夜0時に会いましょう。以上。解散。

 ガタガタと席を立ち、教室を出て行く生徒達。
 慎は、真っ黒になった魔石というものをジッと見つめた。
 よくわからないけど……楽しそう。良い退屈凌ぎになりそう。
 面倒なこともあるだろうけれど、それもまた楽しそう。
 不安に思っていたところはあるけれど、無事に合格できた。
 タレント活動との両立となると、過酷なスケジュールになりそうだけど……。
 あれこれ追われて生活するのも、飽きがこなくて楽しめそう。
 ハントとか、魔法とか、首を傾げさせられる部分はあるけれど、
 それも、ゆっくりと楽しみながら知っていけば良い。
(綺麗なおねーさんと一緒に過ごすよりも、楽しいかな……?)
 クスクスと笑いながら、慎は真っ黒に変色した魔石を、
 街中で貰ったフライヤーでくるんでポケットにしまいこんだ。
 今日という日を、宝物に追加するかのように。

 不機嫌な半月に喜びを。
 高慢な満月に粛清を。
 戸惑いの三日月に救いの手を。
 ようこそ、いらっしゃいませ。HALへ。
 全ては、クレセントの仰せのままに。
 全ては、クレセントの導きのままに。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
 NPC / 尾根・弘一 /16歳 / HAL在籍:生徒
 NPC / 斉賀・尚 /16歳 / HAL在籍:生徒
 NPC / 木ノ下・麻深 /16歳 / HAL在籍:生徒
 NPC / 千華 / 27歳 / HAL在籍:教員
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / HAL在籍:教員

 シナリオ『 HAL 』への御参加、ありがとうございます。
 いらっしゃいませ^^ クラスはC、着属魔素は『闇』です。
 アイテム:学生証を贈呈しました。アイテム欄を御確認下さい。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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