■ロストスキル■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
(あれ……?)
仕事を終えて、皆のところへ戻る途中のこと。
ふと目に入ったのは、やたらと背の高い花。
闇の中、ポツンと寂しそうに、それでいて凛と咲く赤い花。
どうして、こんなところに花が咲いているんだろう。
この空間で、植物の類を目にすることは滅多にない。
不思議に思って歩み寄れば、近付く度に、その大きさに驚く。
自分の背丈ほどもある背の高い花……。
これも、近頃空間に起きている異変の一種だろうか。
とりあえず写真に収めて、ヒヨリに報告しておこうか。
懐から携帯を取り出し、謎の花を撮影しようと構える。
その時だ。
「うわっ……?」
花の茎が、グニャリと曲がる。御辞儀をするような動き。
その動きから、自分の掌に花弁が触れる。
まるで、撮影されることを拒んでいるかのような動き。
何故かは理解らないけれど、申し訳ない気持ちになった。
だから、謝ろうと思ったんだ。ごめんねって。
でも……。
「あ……れ……?」
身体からチカラが抜けていく。何だろう、この脱力感……。
その場にペタリと座り込んでしまい、首を傾げる。
見上げれば、赤い花は踊るような仕草を見せた。
どこからか、笑い声のようなものも聞こえる。
あぁ、しまった……。
そう気付いたところで、もはや手遅れ。
立ち上がることも出来ない脱力感の中、敵の思惑どおりに事は運ぶ。
不気味にウネウネと動きながら襲い掛かる、赤い花―
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ロストスキル
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(あれ……?)
仕事を終えて、皆のところへ戻る途中のこと。
ふと目に入ったのは、やたらと背の高い花。
闇の中、ポツンと寂しそうに、それでいて凛と咲く赤い花。
どうして、こんなところに花が咲いているんだろう。
この空間で、植物の類を目にすることは滅多にない。
不思議に思って歩み寄れば、近付く度に、その大きさに驚く。
自分の背丈ほどもある背の高い花……。
これも、近頃空間に起きている異変の一種だろうか。
とりあえず写真に収めて、ヒヨリに報告しておこうか。
懐から携帯を取り出し、謎の花を撮影しようと構える。
その時だ。
「うわっ……?」
花の茎が、グニャリと曲がる。御辞儀をするような動き。
その動きから、自分の掌に花弁が触れる。
まるで、撮影されることを拒んでいるかのような動き。
何故かは理解らないけれど、申し訳ない気持ちになった。
だから、謝ろうと思ったんだ。ごめんねって。
でも……。
「あ……れ……?」
身体からチカラが抜けていく。何だろう、この脱力感……。
その場にペタリと座り込んでしまい、首を傾げる。
見上げれば、赤い花は踊るような仕草を見せた。
どこからか、笑い声のようなものも聞こえる。
あぁ、しまった……。
そう気付いたところで、もはや手遅れ。
立ち上がることも出来ない脱力感の中、敵の思惑どおりに事は運ぶ。
不気味にウネウネと動きながら襲い掛かる、赤い花―
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参ったな……。全然チカラが入らない。
足掻けば足掻いた分、体力を持っていかれてしまう……。
一体、何なの、この花……。どうしよう、やっちゃったなぁ……。
赤い花びらが頬に触れる度、細い茎が身体を撫でる度、チカラが抜ける。
抵抗しようにも、この脱力感。どうすることも出来ない。
ただ単に、あちこちを触られるくらいなら、まだマシだ。
非常に不快だけれど、我慢できないこともない。
問題なのは、吸われているという事実。
先ほどから何度も試みようとはしているのだが、
一切のスキルが使えない。何度指を踊らせても、ただ空を舞うだけ。
この花の所為だ。この花が、能力を吸っている。
触れて、撫でて、その度に能力を吸っている。
それは理解る。理解るのだ。
花を潰せば元に戻るであろう事も承知している。
でも、チカラが入らない。立ち上がることも出来ない。
(…………)
溜息を落として目を伏せたクレタ。
その溜息は、自分に対する呆れと戒め。
不用意に近付いた、自分が悪い。自業自得というやつだ。
恥を承知で、叱られるのを承知で、仲間に助けを求めよう。
クレタは残ったチカラを振り絞り、懐から携帯を取り出した。
仲間へ、謝罪を伝え、救援を求める為に。
ところが、チカラが入らないゆえに、うまく操作が出来ない。
最終的に、携帯は手から零れ落ちてしまう。
拾い上げることも出来ない。
落ちた携帯を見下ろしながら、クレタは更に大きな溜息を落とした。
この花の目的は、僕の能力を盗むことだけなのだろうか。
見た感じ、攻撃してくるような気配はない。
それならば、もうしばらく、このまま堪えようか。
スキルを全て奪い終えれば、きっと身体から離れるはず。
そうしたら、這ってでも、みんなのところへ向かおう。
そう判断したクレタは、目を伏せて堪え続けた。
やたらと長く感じた不快な時間。
やがて、花はクレタの身体を離れて満足そうに左右に揺れる。
ものすごく腹立たしい仕草だ。
けれど動くことが出来ない故に、ただ、その仕草に眉を寄せるしか。
クレタのスキルを奪った赤い花は、スキップするようにして闇へと消えて行った。
向かった先は……時の回廊か。
花がひとりでに動くとは考えにくい。
おそらく、操縦者がいるのだろう。
そこへ戻って行ったものと考えて間違いなさそうだ。
溜息を落としながら、クレタはズルズルと闇を這い、仲間の元へと急ぐ。
が、その矢先。クレタの目に、見慣れた足が、靴が映り込む。
「……。……ヒヨリ」
顔を上げれば、そこには苦笑を浮かべているヒヨリの姿。
何があったのか、大体の察しはつく。
ヒヨリは肩を竦めながらクレタへ手を差し伸べて言った。
「何でも触るなよ」
「……。ごめんなさい」
「しっかしまぁ、随分と綺麗に吸われたね」
「……うん」
「どこへ逃げたか理解る?」
「何となく……」
「そうか。じゃ、とりあえず……」
ニコリと微笑み、クレタの頭を撫でたヒヨリ。
すると、クレタの身体がフッと軽くなった。
一時的に、魔力を貸してもらったことで、とりあえず動けるようになった。
自力で立ち上がり、身体についた闇砂を払い落とすクレタ。
ヒヨリは、そんなクレタを見やって尋ねた。
「さて。どうする?」
「……返してもらうよ。どんな手段を用いても」
赤い花が逃げていった方向を見やり、冷たい眼差しで言ったクレタ。
その眼差しに、ヒヨリはウンウンと頷きながら苦笑を浮かべた。
(本当、似てきたなぁ)
クロノバックの持ち逃げは、絶対に許されないこと。
許してはいけないことだし、外の世界で使おうものなら、
時空全体が歪んでしまい、その世界そのものが崩壊してしまう。
それに……スキルは、使い方も含めて、一緒に成長してきた存在。
盗まれたまま、仕方ないかだなんて言えるはずがない。
「ヒヨリ。僕、ここにいるから……」
「了解。連れて来いってことだな」
「うん……」
時の回廊を徘徊するように逃亡している赤い花。
その動きは、どこかぎこちない。
恐らく、操縦者も迷っているのだろう。
あらゆる世界と繋がる時の回廊、その構造は複雑だ。
クレタやヒヨリでさえも、未だに迷いそうになってしまうほどなのだから。
クレタの指示どおり、黒い鎌を振りながら赤い花を追いかけるヒヨリ。
ヒヨリが始末してしまえば早いのだろうけれど、それは出来ない。
何故なら、クレタの不満が爆発してしまうから。
直接、お仕置きさせなくては、クレタは納得しないだろう。
赤い花も必死だ。仕留められることはなくとも、気を抜けばすぐさま捕まってしまう。
先程よりも、更にぎこちなくなった花の動き。
その動きの癖を読みながら、ヒヨリは誘導する。
クレタへ、赤い花を捧げる為に。
前後から挟み撃ち。追い詰められた赤い花。
それならば左右へ逃亡、といきたいところだが、させるはずもない。
事前に、ヒヨリが結界を張っている為、それは出来ない。
どうしようもないことを悟ったかのように、マゴマゴする赤い花。
クレタは、淡く微笑みながら赤い花へと歩み寄り、
そっと、花びらに触れて告げた。
「こんなに綺麗なのに……。可哀相だね……」
しょうもない存在に、いいように使われて可哀相。
在るべき場所で枯れるまで咲き誇れていたなら、幸せだっただろうに。
また、同じように綺麗な花として生まれることが出来ると良いね。
心から願うよ。きみに、幸せな未来がありますように。
ニコリと優しく微笑み、けれど躊躇うことはなく。
クレタは、ブチブチと花びらをもぎ取った。
パキパキと茎も折れば……奪還は完了。
元通りになった身体にフゥと息を落とすクレタ。
煙になって消えていく赤い花を見上げながら、クレタは言った。
「すぐ、そこにいるよね……」
「ん? あぁ、そうだな。気付いてたのか」
「うん……。かくれんぼ、下手だよ……」
クスリと笑って、クレタは腕を前方へと伸ばした。
そして、また躊躇うことなく、クロノバックを放つ。
闇に乗じて、こちらの様子を窺っていた侵入者、赤い花の操縦者へ、制裁を。
突風に煽られるかのように吹き飛んでいく侵入者。
誰なのか、名前は何というのか、どこから来たのか。
そんなことは、どうでもいい。
ただ、警告する。
もう二度と、この地に踏み入るなと。
「これで懲りてくれれば有難いんだけど……。そうも、いかないんだよね」
目を伏せて苦笑を浮かべながら言ったクレタ。
ヒヨリは、頷いて同意しながら肩を竦めた。
不快な気分を味わわされたことに違いはないけれど、
ある意味、貴重な経験だったのではないだろうか。
まぁ、何よりも実感させられた。
クレタの言動、その端々に浮かぶ、とある人物の面影。
そういう風に育ててるつもりはないのだろう。
クレタもまた、彼のようにありたいと思っているわけではないのだろう。
共有した時間。それが成す、酷似。
(あんまり似過ぎないで欲しいなぁ)
居住区へと戻る最中、ヒヨリは前を歩くクレタの背中に思う。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守(トキモリ)
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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