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■14人目の時守候補■

藤森イズノ
【7849】【エリー・ナイトメア】【何でも屋、情報屋「幻龍」】
 真っ暗な空間に、ポツンとある白い椅子。
 椅子の前でピタリと立ち止まれば、どこからか声が聞こえた。
「いらっしゃい。じゃあ、座って」
 その声に促されるがまま、椅子に座る。
 闇の中から聞こえてくる声。その声の主は、幾つか尋ねた。
 偽ることなく、その一つ一つに答えを返していく。
 無意味だと思った。嘘をついても、すぐにバレてしまうと理解していた。
 だから、ありのままを伝える。何ひとつ、偽らず。

 鐘を鳴らさねばと思うが故に。

「−……!」
 ハッと我に返れば、目の前には銀色の時計台。
 夢じゃない。夢を見ていたわけじゃないんだ。
 思い返していたんだ。過去を、思い返していた。
 けれど、この心に痞える違和感は何だろう。
 自分の存在さえも、酷く曖昧に思えてしまう。
 けれど、覚える違和感に戸惑う暇なんて、与えられない。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
 肩にポンと手を乗せ、微笑んで言った男。
 あなたは誰ですか? と、そう疑問に思うことはなかった。
 何故って、知っているから。何もかもを。
 もちろん、これから何処へ向かうのかも理解している。
 鐘を。鐘を鳴らさなくちゃ。
 その為に必要な経験は、全て網羅せねば。
 そうさ。自分は、14人目の時守(トキモリ)候補。
 14人目の時守候補

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 真っ暗な空間に、ポツンとある白い椅子。
 椅子の前でピタリと立ち止まれば、どこからか声が聞こえた。
「いらっしゃい。じゃあ、座って」
 その声に促されるがまま、椅子に座る。
 闇の中から聞こえてくる声。その声の主は、幾つか尋ねた。
 偽ることなく、その一つ一つに答えを返していく。
 無意味だと思った。嘘をついても、すぐにバレてしまうと理解していた。
 だから、ありのままを伝える。何ひとつ、偽らず。

 鐘を鳴らさねばと思うが故に。

「−……!」
 ハッと我に返れば、目の前には銀色の時計台。
 夢じゃない。夢を見ていたわけじゃないんだ。
 思い返していたんだ。過去を、思い返していた。
 けれど、この心に痞える違和感は何だろう。
 自分の存在さえも、酷く曖昧に思えてしまう。
 けれど、覚える違和感に戸惑う暇なんて、与えられない。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
 肩にポンと手を乗せ、微笑んで言った男。
 あなたは誰ですか? と、そう疑問に思うことはなかった。
 何故って、知っているから。何もかもを。
 もちろん、これから何処へ向かうのかも理解している。
 鐘を。鐘を鳴らさなくちゃ。
 その為に必要な経験は、全て網羅せねば。
 そうさ。自分は、14人目の時守(トキモリ)候補。

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「じゃあ、とりあえず名前から教えて貰おうかな」
 淡く微笑み、言った男性。裏のありそうな、男性。
 その笑顔を見やりながら、僕は口にしました。自らの名前を。
「レイ。レイ・ナイトメアです」
 その直後のことでした。クスクスと笑い声が耳に届きます。
 顔を上げれば、男性は書類らしきものに何かを書き留めながら言いました。
「本当の名前を教えて下さいな」
「…………」
 表情が引きつったのは、どうしてバレたんだろうという疑問からではなくて。
 この人には、隠し事なんぞ出来ない。無駄なんだと、そう理解したからなんです。
 何者なのだろう。その疑問はありましたよ。けれど、そこを追求することはしなかった。
 何故って……。訊かずとも、理解ったから。男性が、ヒヨリという名前であることも、
 彼と、どうしてこうやって向かい合って話しているのかも、ここがどんな場所なのかも。
 覚えていた……とは、違いますね。忘れていたわけではありませんから。
 少なくとも、ヒヨリのこと、この空間のことは忘れようにも忘れられません。
「エリー・ナイトメアです」
「ほい。んじゃあ、次。おいくつですか?」
「えぇと……何歳でしたっけ……」
「頑張って思い出して下さいな」
 クスクス笑いながら言ったヒヨリ。
 その口調からして、教えてくれる気は皆無のように思えました。
 そう、知っていたのです。訊かずとも、ヒヨリは知っていた。
 僕に思い出させる為に、尋ねただけだったんでしょうね。全てを。
 年齢を訊かれるだなんて、そうそうないですから悩みました。
 先ず、年齢を明かせるほどの付き合いをする人というものがいませんでしたから。
 しばらく考えて、思い出そうと努力しましたよ。そうですね、必死だったと思います。
 そのうちですよ、ふと誰かが教えてくれたかのように彷彿したんです。
 僕は、ポンと手を叩いて納得し、ヒヨリに伝えました。
「15歳くらいですかね?」
「っはは。結局、疑問系ですか」
「えぇと……。いえ、15歳です」
「多分?」
「はい。あ、いえ……」
「っはは。よし、じゃあ最後の質問」
「はい」
「エリー。お前にとって、時間って何?」
「時間……ですか。そうですね……」
 人が生きていく上で、切り離せぬものだと思いますね、時間は。
 死ぬまで、ついてくるものですし。まぁ、目には見えませんけれど。
 そこにあるのは確かな事実です。こうして話している今も、時間は巡っています。
 それこそ、記憶というものも、時間とイコールで結ばれるのではないかと思います。
 人は時の中で生きていますから。どんな思い出にも、時間というものが付加されています。
 鮮明に、秒数までは記憶できないものですが、日付くらいは誰でも記憶していますね。
 あの日、こんなことがあった。あの人に会ったのは、この日だった。
 思い出を振り返るとき、必然的に時間というものも人は思い返しています。

 時間とは、記憶とイコールで結ばれるものです。

 ポン、と肩を叩かれて、ゆっくりと振り返るエリー。
 振り返った先では、ヒヨリがニコリと微笑んでいた。
 漆黒の空間の中心部。そこに聳える、銀色の時計台。
 もう、何度足を運んだか、わからない。
 この日も、エリーは時計台を見上げて思い返していた。
 動くことのない時計台の針を、じっと見つめながら。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
 そう言って、ヒヨリはエリーの手を引いて歩き出す。
 どこに? そう尋ねることはなかった。
 理解っているから。聞かされていたから。
 救わねばならぬ時があるんですね。今宵も。

 *

 何度言えば理解るんですか。僕は、恋愛には興味がないんです。
 そもそも、恋愛って何ですか。他人同士が想い合うだなんて滑稽ですよ。
 触れ合うことを僕は嫌うんです。見知らぬ人に触れられるなんて、不快極まりない。
 あなたのように、正体が理解った途端、掌を返す男性は、特に不快です。
 僕は、女に生まれたことを……悔やんでいるわけではないですが、
 幸せだと思えたことはありません。女としての喜び? 知りません。
 知ろうとも思わないですし、知ったところで幸せになれる気がしません。
 ご理解頂けましたか?
 理解ったのならば、その手を離して下さい。今すぐに。
 あなたと僕は、仕事柄、接する機会が多いだけの関係ですよ。
 さぁ、くだらないことをいつまでもホザいていないで、さっさと報酬を渡して下さい。
 これ以上しつこく食い下がるようならば、上乗せしますよ? 


 漆黒の闇の中、ぽっかりと開いた穴。時の歪み。
 もしも、あのとき。そう考える者がいる限り、何度でも生まれる歪み。
 歪みに巡るのは、期待と後悔。淡い期待と、惜しみなき後悔。
 後悔。それは、とても無様で醜いものです。
 悔やんだところで何も変わらない。事実は事実。
 選択を迫られた時に、もっとよく考えるべきだったのです。
 まぁ、それが難しいことだというのは承知していますよ。
 僕だって、後悔したことがないわけじゃないですからね。
 経験しているからこそ、こうして諭すことが出来るんですよ。
 後悔なんてしたところで、どうにもなりませんよ。本当に。

 スッと目を閉じ、エリーは両指を踊らせて、水が成す竜【青水】を呼び出す。
 津波のように高く伸び、躊躇なく歪みを飲み込む青水。
 食べてしまうことは許しませんし、僕がさせません。
 他人の後悔なんぞ、胃もたれをおこして仕方ないでしょうから。
 大切な召獣が苦しむ姿なんて見たくないですからね。
 さぁ、在るべき場所へ。お還り下さい。
「……ふぅ」
「ごくろうさま」
 満足そうに笑いながら、エリーへ拍手を送るヒヨリ。
 エリーは、呼び出した青水の頬を優しく撫でて召喚を解除。
 横目に見やるヒヨリは、欠伸をしながらググッと身体を伸ばしていた。
 何の危惧もなく、身を案ずる様子もなく、余裕の構え。
 それだけ自分は信頼されているのかと実感できる、何気ない態度。
 人に認められたいだなんて、一度も思ったことがなかったのに。
 どうしてでしょうね。心のどこかで、僕は嬉しく思っていました。
 同時に、足手まといにはなるまいと意気込んで。

 時の番人、時守(トキモリ)

 時の歪みを繕う者。それを使命と認め、全うする存在。
 我等の目的は、ただ一つ。鐘を鳴らすこと。
 高らかに、高らかに、響け、轟け、鐘の音。
 その日まで、我等は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
 その日まで、僕は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
 この身を持って、時への忠誠を。

 ― 8032.7.7

 *
 *
 *

 分厚く黒い日記帳。その最初のページ。
 確かにそこに刻まれている、記憶と自分の文字。
 それらを指で辿りながら、エリーは極めて謙虚な呼吸を繰り返す。
 数秒間の物思いの後、懐から取り出す懐中時計。
 時を刻まぬ、その時計が示す時間。
 3時0分28秒。
 取り戻さねばならぬ時間。取り戻そうと思えた時間。
 動かぬ時計の針を見つめ、何度目とも知れぬ宣誓を心の中で呟く。
 鐘が鳴るまで。再び、時が動き出す、その日まで。
 唱い続けてみせましょう。幾年月、果てようとも。
「…………」
 しばし懐中時計を見つめた後、やれやれと肩を竦めたエリー。
 それは、扉の向こうにいるであろう、仲間へ寄せる溜息。
「ヒヨリ。相変わらず、気配を消すの下手ですね。それとも、ワザとですか?」
 苦笑しながら見やって尋ねれば、カチャリと扉が開いて。
「人並みだって。お前が上手すぎるんだよ」
 クスクス笑いながら、ヒヨリが部屋に入ってくる。
 用件は? なんて聞くことはしない。
 今日も今日とて、還すのでしょう?
 彷徨う時間を、在るべき場所へ。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7849 / エリー・ナイトメア / 15歳 / 何でも屋、情報屋「幻龍」
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-

 はじめまして。いらっしゃいませ。
 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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