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■選択肢は二つだけ■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 物凄く気まずい雰囲気が続いている。
 自分が直接関与している問題じゃないからこそ、余計に気まずい。
 どうすれば良いのか、元に戻るのか……色々と考えてはみるけれど、
 何をどう試しても、この淀んだ雰囲気は改善されない。
 いつまで続くんだろう。この、嫌な雰囲気。
 空間全体にも悪影響を及ぼしてるような気がする。
 仲直り……してくれないかなぁ。
 仲裁劇

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 物凄く気まずい雰囲気が続いている。
 自分が直接関与している問題じゃないからこそ、余計に気まずい。
 どうすれば良いのか、元に戻るのか……色々と考えてはみるけれど、
 何をどう試しても、この淀んだ雰囲気は改善されない。
 いつまで続くんだろう。この、嫌な雰囲気。
 空間全体にも悪影響を及ぼしてるような気がする。
 仲直り……してくれないかなぁ。

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「あれ? お前、そんなの持ってたっけ?」
「帰りに買って来たんだ。どう?」
「うん、まぁ、良いんじゃないか」
「素直に似合うよって言えば良いのに」
「あぁ、はいはい。似合ってるよ。でもさ、それ……アンティークだろ?」
「そうだよ。かなりレアらしいね」
「いくらで買ったんだ、それ」
「ダッカニアで買ったからね、向こうの通貨で言うなら200ベナかな」
「……。お前、その値段で納得して買ったの?」
「まぁ。値段なんてあってないようなものだし。俺にはね」
「……。ちょっと見せてみろ、それ」
「何、偽物なんじゃないかとでも言うのかい?」
「いや、念の為な。価値もないのに、そんな大金払ってたら馬鹿馬鹿しいだろ」
「関係ないよ。一目見て、気に入ったから買ったんだ。値段なんて飾りさ」

 三日前に交わされた、ヒヨリとJの会話。
 そう、事の始まりは、Jが買ってきた腕輪だった。
 とても繊細な作りの腕輪は、すぐさまJの心を魅了して、衝動買いへと駆らせる。
 それは思いがけぬ出会いであり、思いがけぬ収穫。
 確かに高価ではあった。何の躊躇もなく出すのは難しい値段。
 けれど、Jは店員が提示したその値段に頷き、腕輪を買った。
 口にしていたとおり、Jにとって値段は飾りでしかない。
 モノによるけれど、この腕輪に関しては、まさにそれだった。
 一目惚れに近い感覚から目を背けるなんて、彼には出来ない。
 欲しいと思ったなら、すぐさま手に入れる。
 その姿勢は、いついかなる時も変わらない。
 だが、そんなJのスタンスにヒヨリは納得出来ずにいた。
 昔から、そうだ。Jは、何でも躊躇なく自分のものにする。
 得る為の条件が、どんなに理不尽だったとしてもお構いなしに。
 好きなものを手に入れる、手に入れたいと思う気持ちは理解できる。
 けれど、後先考えずに何でも購入してしまうのは、いかがなものか。
 いつか、酷い目にあうのではないかと不安を覚えてしまう。
 二人の考え方の違いは、金銭絡みに限ったことではないけれど、
 いつも、こうして、どうしても相容れぬ状況になってしまう。
 余計なお世話だと不愉快を露わにするJ。
 お前の為を思って言ってるんだと不愉快を露わにするヒヨリ。
 あれから三日。
 二人は、互いを避け続けている。
 言葉を交わせばお互いに不快になるからと。
 今日も今日とて、15時の御茶の時間は気まずい。
 仲間達は、気まずい雰囲気から逃げるようにして、早々に自室へと戻って行く。
 ヒヨリとJの喧嘩や不仲は、今に始まったことではない。
 放っておけば、そのうち自然と仲直りするだろう。
 二人とも良い大人なんだから。
 そう思うが故の放置。
 だが、クレタだけは、その場を動こうとしなかった。
 テーブルを挟んで向かい合うヒヨリとJ。
 その間で、クレタは二人の顔を交互に見やる。
 本当……。二人とも、意地っ張りなんだから……。
 喧嘩をすると、子供みたいになっちゃうんだよね、ヒヨリもJも。
 今の二人は、相手に頭を下げさせようと、わからせようと、
 俺が悪かったと、そう言わせようと意固地になってるだけじゃないか。
 二人共、何度も僕に教えてくれたのに。
 人にはそれぞれ、違う生き方や考え方があるんだよって。
 だから、自分の意見を押し付けるような真似は、しちゃいけないんだよって。
 そう教えてくれたのは、二人なのに。
 どうして、二人が、それを忘れちゃってるの。
 どちらが正しいかなんて、そんなことは言えないよ。
 どっちも正しいんだから。
「……もう、仲直りしてよ。この雰囲気、嫌だよ、僕……」
 溜息を落として紅茶を口に運び訴えたクレタ。
 その言葉を聞いて、ヒヨリは目を伏せたまま答えた。
「じゃあ、クレタ。お前は、どっちの味方なんだ?」
「……えぇ?」
「俺とこいつ。どっちが正しいと思う?」
 だから……どっちが正しいだとか、そういうことじゃないんだよ。
 どっちも正解なんだから、それを僕に聞くのはおかしいよ。
 でも、そうだな……。どっちに共感できるかと訊かれたら別かな……。
 それなら、僕はJに同感するよ。
 浪費癖が良いこととは思わないけれど、
 好きなものを好きだと素直に言えて、それを認めることが出来るのは凄いことだと思う。
 誰かが決めた枠や、当たり前に沿って行動するよりも、
 自分で価値を見出して、自分で価値を追求するほうが楽しいと思う。
「だよね。ほら、堅苦しいことばっかり言ってるから、キミは冴えないんだよ」
「堅苦しくない。心配して言ってやってるんだ。有難く思え」
「余計なお世話なんだよ。俺は満足してるんだから、それで良いでしょ」
「いつかロクでもない物を掴まされたらどうするんだって言ってるんだよ」
「その時はその時だよ。俺は後悔しない」
「他人に迷惑かけることになるかもしれないだろ」
「その時はその時だよ。仕方ない」
「自分勝手なんだよ、お前は」
「何、性格にまでダメ出しするのかい? キミが、俺に?」
「本当、どうしようもないよな、お前は」
 どちらの味方か、そんなつもりで答えたわけではないのだけれど、
 自分の発言が、更に二人をヒートアップさせてしまったことに変わりない。
 クレタは、大きな溜息を落として、
 やや乱暴に、カップをソーサーに置いた。
 ガチャリと響き渡る音に、ピタリと言い合いを止めたヒヨリとJ。
 見やれば、そこには、ご立腹モードのクレタ。
 もう、いい加減にして、二人とも。
 どうしてそんなにムキになるの。
 譲りたくない気持ちがあるのは理解るけれど、
 二人が気まずい状態が続けば、その分、空間の雰囲気も悪くなるんだよ?
 二人の所為で、物凄く厄介な歪みが出現してしまったら、どうするつもり?
 謝るの? そこでようやく、謝るの?
 それじゃあ、遅いんだよ。
 いい加減にして、二人とも。
 お互いを思いやることくらい出来るでしょう?
 何よりも、時を管理する者として、責任感がなさすぎるよ。
 目を伏せたまま、小さな声で呟いたクレタ。
 その厳しい言葉で、ヒヨリとJは、ようやく熱が冷めた。
 とはいえ、謝ることはしない。それは、出来ないし、したくない。
 溜息を落としながら、ヒヨリとJはカップを手に取り、カチンと合わせた。
 言葉はなくとも、それは仲直りの合図。
 誰が決めたわけでもないけれど、それは仲直りの合図。
 すぐに元通りになるなんて、それは難しいことだろうけれど、
 二つのカップが交わる音を聞いたクレタは、満足そうに微笑んだ。


「何ていうか……。頼もしいわね、クレタくん」
「一番オトナなのは、クレタかもしれないよね……」
「何やってるんだか……。本当、情けないわ」
「まぁ、いいんじゃない? 丸く収まったみたいだし……」
「そうだけど。何ていうか、不憫なのよね。これからを思うと」
「クレタがいなくなったら、どうなっちゃうんだろうね……」
「やめて。考えただけで、眩暈がしそう」
 様子を伺いに、カフェスペースを覗き込んでいたナナセとオネ。
 壁に凭れて溜息を落とすナナセを見上げながら、オネはクスクス笑った。
 心配には及ばない。仲裁役に回るのは、自然の成り行き。
 クレタは、嫌々やっているわけではない。
 二者択一を迫られようとも、何のその。
 今までも、これからもずっと。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守(トキモリ)
 NPC / ナナセ / 17歳 / 時守(トキモリ)
 NPC / オネ / 13歳 / 時守(トキモリ)
 NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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