■手錠■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
ジャッジに頼まれて、倉庫内を整理。
こうして見ると、色々な物が置いてある。
一番多いのは本だけど、中には何に使うのか理解らない物も。
ふと目に入った、とあるアイテム。
便利な道具というよりは、ただの悪ふざけに見えるそれは……手錠。
玩具のような作りで、実際に使えるのか怪しい代物。
何で、こんな物が置いてあるんだろう。
過去に、どこかで誰かが使ったんだろうか。
手錠を手に取り、苦笑を浮かべて振り返る。
一緒に作業しているのは、普段あまり関わることのない仲間。
会話が少なくて気まずかったこともあり、
この珍妙な道具で、何気なく会話が弾みやしないかと。
「ねぇ、これ……」
「ん?」
「あ―」
「うわっ!?」
ドタッ―
まぁ、何というか。お約束の空回りというか。
振り返って早々に足元の本に躓いて、豪快に転倒。
幸い、仲間が受け止めてくれて怪我はなかったけれど―
カシャン―
「あ」
「あ」
……まぁ、何というか。お約束の展開というか。
接触した拍子に、持っていた手錠が互いの腕へ。
奇跡に近い偶然。何だ、このシチュエーション。
見事にハマった手錠に、顔を見合わせて苦笑する。
玩具のような手錠だ。ちょっとチカラを込めれば、すぐに外れ―
「…………」
「…………」
外れないじゃないか。ビクともしないじゃないか。どうしよう。
ただでさえ気まずい雰囲気だったのに、更に悪化してしまった。
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手錠
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ジャッジに頼まれて、倉庫内を整理。
こうして見ると、色々な物が置いてある。
一番多いのは本だけど、中には何に使うのか理解らない物も。
ふと目に入った、とあるアイテム。
便利な道具というよりは、ただの悪ふざけに見えるそれは……手錠。
玩具のような作りで、実際に使えるのか怪しい代物。
何で、こんな物が置いてあるんだろう。
過去に、どこかで誰かが使ったんだろうか。
手錠を手に取り、苦笑を浮かべて振り返る。
一緒に作業しているのは、普段あまり関わることのない仲間。
会話が少なくて気まずかったこともあり、
この珍妙な道具で、何気なく会話が弾みやしないかと。
「ねぇ、これ……」
「ん?」
「あ―」
「うわっ!?」
ドタッ―
まぁ、何というか。お約束の空回りというか。
振り返って早々に足元の本に躓いて、豪快に転倒。
幸い、仲間が受け止めてくれて怪我はなかったけれど―
カシャン―
「あ」
「あ」
……まぁ、何というか。お約束の展開というか。
接触した拍子に、持っていた手錠が互いの腕へ。
奇跡に近い偶然。何だ、このシチュエーション。
見事にハマった手錠に、顔を見合わせて苦笑する。
玩具のような手錠だ。ちょっとチカラを込めれば、すぐに外れ―
「…………」
「…………」
外れないじゃないか。ビクともしないじゃないか。どうしよう。
ただでさえ気まずい雰囲気だったのに、更に悪化してしまった。
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どうしよう……。
互いに硬直しあって10秒経過、15秒経過、20秒経過……キリがない。
このまま黙っていても手錠が外れることはない。何とかしなくては。
うん、と頷いてクレタは辺りを見回しながら呟いた。
「使えそうなものは……なさげだね。とりあえず、外に出ない……?」
クレタの言葉に、しばし沈黙した後、頷いたのは斉賀。
こともあろうに、斉賀と繋がってしまうとは。
いや、別にね……嫌いじゃないんだよ。
皆と一緒に御話する分には、どうってことない。
ただ、二人きりになってしまうとね、間が持たないっていうか。
寡黙な分、不安になってしまうっていうのかな……どうすればいいか理解らなくなる。
「歩くの早いな、俺。ごめん」
「あ、ううん。大丈夫……」
「とりあえず、尾根んとこ行くけど。それで良いか?」
「うん……」
ほらね。うん、理解ってるんだよ。斉賀は優しいんだ。
口数は少ないけれど、優しいんだよね。理解ってるよ。そんなこと。
それなのに、どうしてなんだろう。どうして、こんなに気まずくなっちゃうのかなぁ……。
普通にしようって思えば思うほど、ぎこちなくなってるような気がする。
気分を害してしまうんじゃないかって不安になって、余計にぎこちなくなって。
あぁ、困ったな。どうして、こんなことになっちゃったんだろう……。
クレタが戸惑い悩んでいる気持ち。同様の思いは、斉賀にもある。当然だ。
クレタが気遣っていることや、ぎこちない仕草を見れば余計に対応に困る。
お互い様な状況。お互いに、気を使いすぎな状況。
その状況のまま、助けを求めて尾根の部屋へ足を運んだ二人。
手錠で繋がった二人を見て、尾根は大爆笑。
「あっははははは! ナニソレ! そーいう趣味に目覚めちゃったの?」
「違うっつぅの。何回言えばわかるんだ、お前は」
「ぷっくくくくくく。逆にイイんじゃない?」
「良くないから、ここに来てる。何とかしてくれ」
「も〜。こーいう時ばっかし、そーやって頼るんだから〜」
「お前は、そういう役回りのキャラだろ」
「ナニソレ。キャラとか意味わかんないし」
「いいから。早く何とかしてくれ」
何とかしてくれと言われても、実際困る。
玩具みたいな作りなのに、ガッチリ連結しているのだから。
もしかしたら、魔術的なものがかけられているのかもしれない。
それならば、その、かけられた魔術を解いてしまえば良い。
でも、どんな魔術がかけられているのか理解らない。
下手なことをすれば、余計に面倒なことになってしまうかもしれない。
だからといって、何とかしてくれと頼まれて黙っている尾根ではない。
尾根は、うんうんと頷きながら……。手元に巨大な鎌を出現させた。
当然、クレタも斉賀もギョッと目を丸くする。
「あの……。尾根……? それで、どうするつもり……なの……かな……」
「とりあえず、砕いちゃえばイイかなっと思って。ガシャンとね!」
「いや。無理だと思うぞ。俺達だって、何度もやったんだから」
「片手ででしょ? チカラ加減が足りてないんだよ、きっとね!」
「……あの」
「思いっきり、ガッといっちゃえばイイのだ。いーっくぞーぅ!」
「ちょ、待て。尾根」
「大きく〜振りかぶってぇぇぇぇ〜」
「……逃げよう」
「う、うん……」
ガシャァァァァンッ―
寸前のところで逃亡したクレタと斉賀。
振り下ろされた鎌は、テーブルを真っ二つに裂いた。
お気に入りのテーブルを壊してしまい、ガックリと項垂れる尾根。
しまった、と後悔しても遅い。自業自得である。というか、馬鹿である。
尾根の部屋から逃亡し、カフェスペースへとやってきた二人。
御茶の時間でも食事の時間でもない今、カフェスペースはシンと静まり返っている。
ソファに並んで座り、同時に溜息を落とすクレタと斉賀。
手錠は相変わらず二人の手首に。二人を連結させたまま。
沈黙が気まずくて、クレタは、はぐらかすように呟いた。
「……困ったね」
「そうだな」
「どうしようか……笑えないよね、この状況」
「笑う? 手錠って笑えるようなものじゃないだろ」
「え……? あ、の……いや、その……」
そうやって淡々と言われると困ってしまう。
言えない。まさか、手錠を使って夜を満喫したことがあるなんて言えない。
手錠の使い方や、その楽しさについて語ることはしない。
というか、そんな話を斉賀に出来るはずがない。
自分の発言を悔いるクレタ。また余計なことを口走ってしまった。
返ってきた、ごく普通の言葉が、逆に困惑させる。
何なんだろう、この思考。すっかり、Jに感化されて……。
全力疾走で逃げたいと心から思えど、繋がった状態では、それは叶わぬ。
クレタは、あたりをキョロキョロと見回して使えそうなものがないか探す。
フォーク……じゃ駄目だろうな。ナイフも同じだよね……。
熱で溶かす……のも出来ないだろうな……。
なるべく早く、それでいてお互いが痛い思いすることなく外せる方法……。
あれこれ考えている最中、クレタは、突き刺さる視線に硬直した。
「え……と。何……? どうしたの……?」
ジッと見つめる斉賀。微妙に目を逸らしながらクレタは尋ねた。
斉賀は、いつもどおり、低い声でボソボソッと言葉を返す。
「いや。肌、白いなぁと思って」
「へっ……。そうかな……」
「うん。女みたい。って言われたら嫌かもしれないけど」
「そんなことないけど……」
「…………」
「…………」
突き刺さる視線から逃げ続ける、沈黙の中。
使えそうなものを探そうと辺りを見回すことも再開出来ない、妙な緊張感。
どうしたものかと戸惑うクレタに、斉賀は追い打ちをかけた。
「なぁ」
「ん……?」
「ちょっと、触らせて」
「なっ……。どっ、どこを……」
「顔。っていうか、ほっぺた」
「な、何で……?」
「気持ち良さそうだから」
「…………」
何で? って聞くのも可笑しな話。
頬を触らせてくれ、とこの状況で言うのも可笑しな話。
連結していない方の手で、クレタの頬に触れようとする斉賀。
伸びてくる、その手に、クレタは余計戸惑った。
何でこんなことになってるんだろう。というか、危機感はないのだろうか。
いや、まぁ、そこまで大事ってわけでもないのだけれど。
手錠を外すという目的は、どこへいってしまったのだろう。
あれこれ考えるクレタは、オーバーヒート寸前。
相手が悪い。相手が、斉賀だからこそウロたえてしまうのだ。
妙に高鳴る鼓動は、ときめきとは違うもの。いまだかつてない、この緊張感。
ただジッと動かずにいることしかできないクレタ。
そうこうしているうち、斉賀の手が、クレタの頬に―
カシャン―
「あ」
「あっ……」
触れる前のことだった。
二人を繋いでいた手錠が、鈍い音を立てながら外れた。
床に落ちた手錠は、ぼんやりした緑色の光を放っている。
どうやら、本当に魔術がかけられていたようだ。
その持続時間が経過した為に、手錠は外れた。
何も焦って外そうとしなくとも、40分経過すれば自然と手錠は外れたのだ。
落ちた手錠をしばらく見つめた後、クレタはハッと我に返って立ち上がる。
「良かった。じゃあね……」
「あぁ、うん」
逃げるようにカフェスペースを出て、足早に自室へと戻るクレタ。
その背中を見送る斉賀は、どこか残念そうな物足りなさそうな顔をしていた。
(……触ってみたかったのに。まぁ、いいけど)
自室へ戻ったクレタは、ぼふっとベッドに身を投げて大きな溜息を落とす。
ビックリした……。何で、あんなことになったんだろう。意味がわかんないよ。
っていうか、何ていうか、っていうか。
「疲れた……」
覚える疲労感。グッタリ。
とまぁ、そんなことがありました。
以上。クレタの日記からお届けしました。
勝手に見たのかって? まぁ、細かいことは言いっこナシです。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / 斉賀・尚 / 16歳 / 時守 -トキモリ-
NPC / 尾根・弘一 / 16歳 / 時守 -トキモリ-
シナリオ参加、ありがとうございます。
何やってんだ、斉賀…。面白かったです(笑)
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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