■CALL - forget -■
藤森イズノ |
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【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
「とりあえず、ジャッジに報告してくるわ」
「あぁ。よろしく」
テーブルに頬杖をついた状態で目を伏せ返したヒヨリ。
ナナセは頷き、パタパタと急ぎ足で執裁室へと向かう。
忘れた……とか、そういうレベルじゃない。
丸ごと、すっぽり全ての記憶が欠落している状態。
言うなれば、生まれたての赤ん坊のような状態。
ふざけて、こんなことをする奴じゃない。
けれど……悪戯であってほしいと心のどこかで願ってる。
今も、そう願ってるよ。
溜息混じりに向ける視線は、ソファに座る人物へ。
一切の記憶を失った、大切な仲間へ。
この世に、たった一人しかいない、特別な存在へ。
「……マジ、勘弁してよ」
そのあどけない表情に、ヒヨリは苦笑を浮かべた。
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CALL -forget-
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忘れた……とか、そういうレベルじゃない。
丸ごと、すっぽり全ての記憶が欠落している状態。
言うなれば、生まれたての赤ん坊のような状態。
ふざけて、こんなことをする奴じゃない。
けれど……悪戯であってほしいと心のどこかで願ってる。
今も、そう願ってるよ。
溜息混じりに向ける視線は、ソファに座る人物へ。
一切の記憶を失った、大切な仲間へ。
この世に、たった一人しかいない、特別な存在へ。
「……マジ、勘弁してよ」
そのあどけない表情に、ヒヨリは苦笑を浮かべた。
「とりあえず、ジャッジに報告してくるわ」
「あぁ。よろしく」
テーブルに頬杖をついた状態で目を伏せ返したヒヨリ。
ナナセは頷き、パタパタと急ぎ足で執裁室へと向かう。
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歌が聞こえたんだ。
どこかで聞いたことがあるような、綺麗な歌。
でもね、それは歌じゃなかった。歌のような、声だったんだ。
どこから聞こえるんだろうって、僕は探したよ。
キョロキョロと辺りを見回しながら、声の聞こえるほうへ歩いた。
どのくらいかな。どのくらい歩いただろう。
ほんの数十秒にも、永久くらい長くも思えた時間。
僕の目は、時計台を見上げる女の子を捉えた。
何をするわけでもなく、その子は、ただ時計台を見上げてた。
僕より少しだけ、背の低い女の子。見たことのない女の子。
声を掛けようとしたよ、もちろん。
キミは誰なの？ どこから来たの？ って尋ねようとした。
でもね、声が出なかったんだ。
忘れたっていうのかな、声って、どうやって出すんだっけって。
思い出すことが出来なくて、僕は立ち尽くした。女の子の背後で。
光のない、漆黒の世界なのにね、女の子は傘を差していたんだ。
雨傘じゃなくて、日傘。どうしてなんだろうって思ったよ。
服装もね、見慣れない格好だった。縁のない格好っていうか。
豪奢な黒いドレスに、黒い編み上げブーツ。
手には綺麗な刺繍が施された黒い手袋をしていて。
ああいうのをゴスロリっていうのかな……。そんな感じの格好だった。
女の子はね、まるで時間が止まってるかのように動かなくて。
心配になったんだろうね。僕は、手を伸ばした。
声は出ない。そのかわりに、女の子に触れようとしたんだ。
僕が後ろにいることすら気付いていないような気がしたから。
小さな背中に触れようと手を伸ばして、あと3センチで届くってくらいの時だよ。
どこからか、優しくて柔らかい風が吹いた。
風はね、女の子の日傘をふわりと空に舞い上がらせたんだ。
ゆっくりと落ちてくる日傘は、まるで桜の花びらのようだった。
僕の足元に落ちた日傘。
咄嗟に拾い上げて、女の子に渡そうとする。
顔を上げて、傘を差し出す、その瞬間、女の子と目が合ったんだ。
女の子は、とっても嬉しそうに微笑みを浮かべてた。
声を放つことはしなかったけれど、
女の子は、差し出された日傘を受け取って、ペコリと頭を下げた。
どういたしまして、って。そう伝えるように、僕も御辞儀をし返して。
それからまた、どのくらいの時間が経過しただろう。
僕達は、お互いに見つめあった。会話するかのように。
お人形さんのように綺麗で、整った女の子の顔立ち。
可憐だと思った。可愛いなって素直に思ったよ。
でもね、同時に怖くも思ったんだ。
日傘と一緒に風に煽られて飛んでいってしまいそうなくらい儚い子なのに。
その目が。燃える炎のような、紅い目から目を逸らすことが出来なかった。
見つめられれば見つめられるほど、熱く熱く、焦がされていくような感覚。
逸らせぬまま、目を逸らせぬまま、僕は必死だった。
わけもなく、火照っていく身体。
砂糖もミルクも入っていない、苦い珈琲が喉を落ちるような感覚。
その理由を知りたくて。
訊いてもいないのに、ポツポツと。
初めは遠慮がちに、次第に軽快な口調で。
見た夢の話を口にしたクレタ。
焦点の定まらぬ瞳。頼りなく潤み揺れる瞳。
ヒヨリは席を立ち、クレタの隣に腰を下ろす。
目を泳がせる仕草は、不安から。
見知らぬ人が、すぐ傍にきた。その恐怖から。
一切の記憶を失ったクレタは、隣に座る人物がヒヨリであることを認識できない。
戸惑うばかりのクレタ。どうすれば良いのか理解らない。
理解らないけれど、どこかに怖いという感情がある。
何が怖いのか、怖いと思わせるのか。理解らないからこそ怖い。
怯えるクレタ。ヒヨリは目を伏せ淡く微笑む。
そして、クレタの頭にぽふっと手を乗せた。
ビクッと揺れる肩。視線は、ずっと遠く。
ヒヨリは、震えるクレタの肩を両手で押さえ、至近距離で見つめる。
逸らしても、逸らしても、執拗に追ってくる視線。得体の知れぬ恐怖。
怖くて仕方なくて、クレタは瞳に、うっすらと涙を浮かべた。
その姿に、表情に、ヒヨリは溜息を落とすと、ギュッとクレタを抱きしめる。
強張った身体、その全てを包み込むような抱擁。
ヒヨリは、小さな声で呟いた。クレタの耳元で、呟いた。
「結局、無意味なんだよな。こんなことしても」
「……え？」
言葉の意味が理解らなくて、クレタは聞き返す。
その言葉の意味を教えてくれと乞うように。
何をやってるんだろう。自分は、どこまで愚かなんだろう。
こんなことをしても、何も変わらないのに。
自分のことすらも忘れられてしまうなんて、本末転倒じゃないか。
忘れられること。それは、何よりも怖い現状。
記憶は、大樹のようなもの。
芽吹き彩る花や葉。
その全てが、繋がっている。
どこか一ヶ所だけを摘み奪うことなんて出来やしない。
理解っていたはずなのに。何て愚かなんだろう。
何が可笑しいのか、クスクスと笑うヒヨリ。
首を傾げるクレタ。当然だ、何が何なのか、さっぱり理解らない。
けれど、不思議と恐怖はどこかへ消えていた。
耳元で笑う、ヒヨリの声が、とても寂しそうに思えて。
不安そうな顔で見上げるクレタ。
ヒヨリは、またクレタをしばし見つめて。
フゥと息を吐き落とす。それは、悟りと意決の溜息。
「……！」
唐突に、柔らかな感触。
唇に乗った、その感触にクレタは目を丸くした。
まるで夢から覚めるような、一気に何かを彷彿するような感覚。
唇が離れれば、クレタの記憶は元通り。
「……。……あれ。僕、何して……」
どうしてここにいるのか。ヒヨリの部屋を尋ねた記憶はない。
はて？ と首を傾げるクレタ。その、あどけない表情。
そこへ、ファイルを片手にパタパタと戻ってくるナナセ。
「報告してきたわ。とりあえず、この資料を参考にするようにって」
「ナナセ。どうしたの……？ 何か、問題でも起きた……？」
「うん。って……あら？」
目を丸くして驚くナナセ。
慌ててジャッジに助言を乞い、クレタの記憶を戻そうとしたのに。
キョトンとしている様子のナナセの肩にポンと手を乗せて、ヒヨリは言った。
「元に戻ったよ」
「どうやって？」
「ん？ ちょっと頭を小突いたら戻った」
「そうなの……」
「一時的なもんだったんだろうな。どっかで転んだとかなんじゃないか」
「まぁ、戻ったなら良かったわ。心配したんだから……」
「……？」
ホッと安堵し、嬉しそうに微笑むナナセ。
クレタは、そんなナナセを見上げてキョトンと首を傾げた。
「ナナセ。15時だ。御茶の用意しなさい」
「あっ。そうね。クレタくんも、行きましょう」
「うん」
三人揃って、カフェスペースへと向かう。
いつもの15時、いつもの御茶の時間。
前を歩く、クレタとナナセ。
その背中を見やって、ヒヨリは、わしわしと頭を掻いて苦笑を浮かべた。
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■■■■■ ＣＡＳＴ ■■■■■■■■■■■■■
７７０７ / 宵待・クレタ / １６歳 / 無職
ＮＰＣ / ヒヨリ / ２６歳 / 時守 -トキモリ-
ＮＰＣ / ナナセ / １７歳 / 時守 -トキモリ-
シナリオ参加、ありがとうございます。
犯人はヒヨリでした。仲間内の犯行だったと。
ＯＰでナナセが部屋を出て行くまでは、演技だったということですね。
何でこんなことしたのかは、察してあげましょう。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました＾＾
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櫻井かのと （Kanoto Sakurai）
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