■CALL - solitary -■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
夢なら、早く醒めて。
悪戯なら、すぐに止めて。
ねぇ、どうしたの。どうして、そんな顔するの。
まるで……まるで、見知らぬ人を見るみたいな目。
そんなに冷たい目で見ないで。ねぇ、御話しようよ。
いつもみたく、皆で御話しよう?
紅茶を飲みながら、色んな御話をしよう。
準備は整ってる。さっき、済ませてきたよ。
好きなんだ、あの時間。幸せなんだ、あの時間。
「ねぇ」
縋りつくように腕を掴めど、
向けられる視線と、返される言葉に、また時が止まる。
「何なの、さっきから。 ……キミ、誰?」
ねぇ、どうしたの。どうして、そんな顔するの。
悪戯なら、すぐに止めて。
夢なら、早く醒めて。
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CALL -solitary-
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夢なら、早く醒めて。
悪戯なら、すぐに止めて。
ねぇ、どうしたの。どうして、そんな顔するの。
まるで……まるで、見知らぬ人を見るみたいな目。
そんなに冷たい目で見ないで。ねぇ、御話しようよ。
いつもみたく、御話しよう?
紅茶を飲みながら、色んな御話をしよう。
準備は整ってる。さっき、済ませてきたよ。
好きなんだ、あの時間。幸せなんだ、あの時間。
「ねぇ」
縋りつくように腕を掴めど、
向けられる視線と、返される言葉に、また時が止まる。
「何なの、さっきから。 ……キミ、誰?」
ねぇ、どうしたの。どうして、そんな顔するの。
悪戯なら、すぐに止めて。
夢なら、早く醒めて。
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忘れただとか、そういうレベルじゃない。
元から存在していない。一切の記憶が、存在していない。
目の前で怪訝な顔をするJ。何度声を掛けても、反応は冷たい。
クレタの存在すら理解できない、誰なのかと尋ねるほどに。
どうして、こんなことになったんだろう。
原因をつきとめなくちゃ。元に戻してあげなくちゃ。
でも。もしも、Jが元に戻ることを望んでいなかったとしたら……?
ふっと脳裏を過ぎった可能性。クレタはパッと顔を上げて、
Jの肩をガシッと掴んで尋ねた。いいや、確認したというべきか。
「ね、ねぇ、J。あなたは今、幸せ……?」
それは一種の賭けでもあった。
クレタという存在、その一切の記憶が欠落した状態でも幸せなのか。
おかしな質問だとはおもう。賭けもクソもない。
完全に忘却しているんだから、こんなこと聞かれても困るだろう。
でも、信じたかった。
一緒に過ごした時間を失った。それを、切ないことだと思ってくれますようにと。
漠然とした感覚で十分だ。よく理解らないけれど、物足りないような。そんな気がする。
そう言ってくれれば。それだけで、救われるような気がした。
女々しいね。こんなこと訊かず、有無を言わさず、あなたの手を引いていけば良いのに。
不安になってしまったんだ。
言って。我侭だけれど、言って。
幸せだなんて思えないって、言って。
迷うことなく、元に戻してあげようと思えるように。
Jの腕を掴んだまま、ジッと見つめて微動だにしないクレタ。
答えてくれるまで、絶対に引き下がらない、離れない。そんな瞳。
Jは肩を竦めて苦笑するだけで、言葉を放つことはしなかった。
そんなことを訊かれても困る。幸せか幸せじゃないか。
それを訊いて、どうする。それを訊いたところで、何になる。
無意味じゃないか。何の価値もないじゃないか。
見知らぬ人に幸せか否かを伝えるなんて、おかしな話。
答える様子のないJ。目を伏せたまま、うんざりしているかのような表情。
零れそうになる涙を必死に堪えつつ、クレタはJに抱きついた。縋りつくように。
時間が動き出した、あの瞬間に、あなたと幸せになりたいと願った。
その為に、時間はあるのだと思った。
あなたと幸せになる為に存在するもの、それが時間。
時間なんて、無意味なものだと思ってた。
目にも見えない、触れることも出来ないものに振り回されるなんて馬鹿げてるって。
そう思っていたのに、変わったんだ。あなたのことを思い出してから、僕は変わった。
そればかりか、もっともっと時間が欲しいって思うようになった。
あなたと一緒に過ごす時間が、永遠に存在しますようにって。
怖くなったんだよ。もしも、時間というものがなくなってしまったらって。
時間と一緒に、あなたとの思い出も消えてしまうんじゃないかって。
自分でも驚いてる。どうして、こんなにも考え方が変わったんだろうって。
幸せになりたいんだ。あなたと、一緒に。あなたじゃなきゃ駄目なんだ。
忘れたなんて言わないで。誰? だなんて、そんなこと訊かないで。
理解ってるくせに。理解ってるでしょう?
僕の名前、呼んでよ。いつもみたく。
突き刺さるような綺麗な声で、何度も呼んで。
「御願いだから……」
震えた声で訴えるクレタ。
Jは、どうしたものかと苦笑を浮かべるばかり。
うわ言のように、何度もクレタが御願いだからと訴える。
重いような、張り詰めるかのような妙な雰囲気。
自室なのに、この違和感。
参ったなぁと溜息を落とすJ。
そこへ、ガチャリと扉を開けて入ってくる人物がいた。
「また勝手に入ってくる……。何度言えば理解るの、キミは」
「あ。あぁ、悪い。邪魔しちゃった?」
「いや、っていうか助けてくれないかな」
「ん? 何が? 何を?」
「この子。誰なのか理解らないんだけど、離れないんだよ」
「……は?」
Jに借りていた本を返しにやってきたヒヨリ。
ヒヨリはキョトンと目を丸くしながら、ソファへと向かう。
Jの膝に顔を埋めるようにして、涙を堪えている様子のクレタ。
震えるクレタの肩を見ながら、ヒヨリは首を傾げた。
「お前、何言ってんだ?」
「だから、この子がね」
「いや、笑えないんだけど―」
苦笑しながら、返しにきた本をテーブルに乗せた時だ。
ヒヨリの目が、捉えたもの。それは、少しイビツな形のクッキー。
見覚えがある。というか、覚えていないはずがない。
自分が焼いたものなのだから。自分が作ったものなのだから。
そのクッキーは、昨日、ヒヨリがクレタに食べさせたものと同一のもの。
ヒヨリは、食べかけのクッキーを手に取り、Jに見せながら確認した。
「お前、これ食ったんだな」
「ん? うん。一口だけだけど。苦くてね」
「あぁ、そう」
溜息を落としながら苦笑し、ヒヨリはクレタを見やる。
どうして悲しんでいるのか、涙を堪えているのか、全てを把握できるが故に。
スンスンと鼻を鳴らし始めたクレタ。ヒヨリは、そんなクレタへ告げた。
「クレタ。キスでもしてみれば?」
提案じゃない。それは、提案なんかじゃない。
唯一の解決策。ヒヨリだけが知っている解決策。
ポツリと呟いて、ヒヨリは逃げるように部屋を出て行った。
罪悪感? いいや、違う。ただ単に、見たくなかっただけ。
ヒヨリが放っていった言葉。クレタは、ゆっくりと顔を上げた。
相変わらず、Jは怪訝な顔。目を背けたくなる悲しい反応。
クレタは、ワラにも縋る思いで。Jにギュッと抱きついて口付ける。
いつもよりも長く、優しく、願いを込めて。
離れる唇。おそるおそる目を開ければ―
「どうしたの、クレタ」
「……。……え?」
「今日は攻めたい気分なのかな?」
「…………」
「大歓迎ですよ。ほら、おいで」
Jの部屋、テーブルの上にあった、食べかけのクッキー。
思わず持ち帰って来てしまった。
テラスにあるソファに腰を下ろし、ヒヨリは大きな溜息を落とした。
うまくいかないものだ。いや、ある意味うまくいってるというか成功しているんだけれど。
Jは、ヒヨリのことは覚えていた。でも、クレタのことは忘れた。
それは即ち、記憶を一部だけ欠落状態にさせたということ。
出来ないのだと悟った矢先に、これだ。何でなんだろう。
二人の絆を深める為に作ったわけじゃないのに。
腹黒い画策は、結果として二人の愛を深めてしまっただけ。
どうして自分には出来なかったのに、Jには出来たんだろう。
いいや、どうして、Jには出来てしまうんだろう。
何か理由があるのか、一口だけ食べさせれば成功するのか。
色々な思いが頭の中を駆け巡った。
けれど、また画策しようとは思わない。
悪足掻きになると理解っていて、尚も続けるなんて。そんなの惨めすぎるじゃないか。
「……はぁ〜あ」
大きな溜息を落としたヒヨリ。
そんなヒヨリを見つけ、トテトテとオネが駆け寄る。
「どうしたの、ヒヨリ?」
「いや。ピエロっぽいなと思ってね〜……」
「ぴえろ?」
「何でもない」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
NPC / オネ / 13歳 / 時守 -トキモリ-
NPC / J / ??歳 / 時狩 -トキガリ-
シナリオ参加、ありがとうございます。
foget のほうと繋がっております。時間枠的には、foget が先ですね。
翌日の出来事という感じで。ヒヨリが不憫になってきますが、
一番不憫なのは、オネのチョイ役加減。NP、仕様です。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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