■手錠■
藤森イズノ |
【7849】【エリー・ナイトメア】【何でも屋、情報屋「幻龍」】 |
ジャッジに頼まれて、倉庫内を整理。
こうして見ると、色々な物が置いてある。
一番多いのは本だけど、中には何に使うのか理解らない物も。
ふと目に入った、とあるアイテム。
便利な道具というよりは、ただの悪ふざけに見えるそれは……手錠。
玩具のような作りで、実際に使えるのか怪しい代物。
何で、こんな物が置いてあるんだろう。
過去に、どこかで誰かが使ったんだろうか。
手錠を手に取り、苦笑を浮かべて振り返る。
一緒に作業しているのは、普段あまり関わることのない仲間。
会話が少なくて気まずかったこともあり、
この珍妙な道具で、何気なく会話が弾みやしないかと。
「ねぇ、これ……」
「ん?」
「あ―」
「うわっ!?」
ドタッ―
まぁ、何というか。お約束の空回りというか。
振り返って早々に足元の本に躓いて、豪快に転倒。
幸い、仲間が受け止めてくれて怪我はなかったけれど―
カシャン―
「あ」
「あ」
……まぁ、何というか。お約束の展開というか。
接触した拍子に、持っていた手錠が互いの腕へ。
奇跡に近い偶然。何だ、このシチュエーション。
見事にハマった手錠に、顔を見合わせて苦笑する。
玩具のような手錠だ。ちょっとチカラを込めれば、すぐに外れ―
「…………」
「…………」
外れないじゃないか。ビクともしないじゃないか。どうしよう。
ただでさえ気まずい雰囲気だったのに、更に悪化してしまった。
|
手錠
-----------------------------------------------------------------------------------------
ジャッジに頼まれて、倉庫内を整理。
こうして見ると、色々な物が置いてある。
一番多いのは本だけど、中には何に使うのか理解らない物も。
ふと目に入った、とあるアイテム。
便利な道具というよりは、ただの悪ふざけに見えるそれは……手錠。
玩具のような作りで、実際に使えるのか怪しい代物。
何で、こんな物が置いてあるんだろう。
過去に、どこかで誰かが使ったんだろうか。
手錠を手に取り、苦笑を浮かべて振り返る。
一緒に作業しているのは、普段あまり関わることのない仲間。
会話が少なくて気まずかったこともあり、
この珍妙な道具で、何気なく会話が弾みやしないかと。
「ねぇ、これ……」
「ん?」
「あ―」
「うわっ!?」
ドタッ―
まぁ、何というか。お約束の空回りというか。
振り返って早々に足元の本に躓いて、豪快に転倒。
幸い、仲間が受け止めてくれて怪我はなかったけれど―
カシャン―
「あ」
「あ」
……まぁ、何というか。お約束の展開というか。
接触した拍子に、持っていた手錠が互いの腕へ。
奇跡に近い偶然。何だ、このシチュエーション。
見事にハマった手錠に、顔を見合わせて苦笑する。
玩具のような手錠だ。ちょっとチカラを込めれば、すぐに外れ―
「…………」
「…………」
外れないじゃないか。ビクともしないじゃないか。どうしよう。
ただでさえ気まずい雰囲気だったのに、更に悪化してしまった。
-----------------------------------------------------------------------------------------
手錠で繋がってしまった二人。
妙な偶然とは、いつだって不本意なもの。
しばしの沈黙の後、先に声を放ったのはキジルだった。
「鍵穴らしきものが、まず見当たらないね」
「……そう、ですね」
一緒になって手錠を見やり、まるで他人事のように言ったエリー。
よりにもよって、キジルと繋がってしまうとは。
嫌いというわけではない。ただ単に、苦手なのだ。
エリーは、他人に、自分以外の存在に心を開くことをしない。
ただ一人だけ、別の存在であれど、心を開ける特別な存在はいるけれど。
どこが苦手なのか。そう尋ねられて一番に頭に浮かぶのは、優しさ。
口調にしても声にしても、仕草にしても。
何にしても、キジルには優しいという言葉が似合う。
優しい人が苦手だなんて、どれだけ心の捻じ曲がった奴だと思われることだろう。
けれど、苦手なのだ。優しい声で話されると、そわそわしてしまう。
まるで、心の中を覗かれているような感覚に陥ってしまう。
そんなつもり、キジルにはないんだろうけれど、勝手にそわそわしてしまう。
怖いわけじゃない。ただ、落ち着かないのだ。
エリーは右手、キジルは左手。
互いに利き手を塞がれた、この状況。
キジルは、あらゆる角度から二人を繋ぐ手錠をマジマジと見やっている。
けれど、どんなに観察しようとも鍵穴は見当たらない。
沈黙、気まずい雰囲気。耐え切れなくなったエリーは、移動を提案した。
「とりあえず、外に出ませんか」
「うん。でも―」
キジルが何かを言いかけた。
けれど、エリーは聞く耳持たずで。
手を引くような形で、スタスタと先に歩いて行ってしまう。
無視しているわけではない。ただ単に、余裕がないのだ。
相手の言葉に耳を傾けるほどの余裕がない。
手や額に汗が滲むほど追い詰められているわけではないけれど、エリーは確かに困惑している。
パッと見た感じでは、そんなこと微塵も思わせないけれど。
キジルが言いかけた言葉。
それは、聞かずとも倉庫を出てすぐに理解に至る言葉。
そうだ、居住区には自分とキジルしかいない。
大きな仕事で、他の仲間は全員が出払っている。
言うなれば、二人は留守番を任されていた立場。
よりにもよって、こんな時にこんなことになってしまうとは。
仲間が戻ってくる時間は不明だ。それまで、この状態で待てと? 無理だ。
それならば、ちょっと遠くはあるけれど、執裁室まで赴いてジャッジに助けを乞うか。
けれど、ジャッジはジャッジで気まぐれな男だ。
彼に倉庫整理を命じられたのは、もう2時間も前のこと。
命じるだけ命じて、どこかへ出掛けているかもしれない。
そして、その可能性は、異常なまでに高い。
赴いたところでジャッジがいなければ、それこそ気まずい。
「…………」
無言のまま、頭の中であれこれと考えながらエリーは試みる。
どうにかして、手錠を外すことは出来ないものかと、あれこれ試す。
だが、どう足掻いても外れない。
風の刃で切断しようとしても、炎で溶かし切ろうとしても。
どうして外れないんだろう。
いつまでも変わらぬ状況に、眉を寄せるエリー。
そんなエリーの横顔にクスクス笑って、キジルはピタリと立ち止まった。
繋がっているがゆえに、キジルが止まれば必然的にエリーも立ち止まらざるを得ない。
「どうしました?」
見上げて尋ねると、キジルはニコリと微笑んだ。
「折角だし、御話でもしようか」
「え……?」
「そんなに必死になることもないよ」
「…………」
「あなたはそうかもしれないけど、って顔だね」
「あっ、いえ」
「皆が戻ってくれば何とかなるよ。それまでの間だけ、我慢しよう?」
「そう、ですね……」
エリーが頷くと、今度はキジルが手を引くようにして先を歩く。
居住区の二階にあるテラス。そこにあるソファに、二人は並んで腰掛けた。
キジルと、こうして並んで座るなんて初めてのことだ。
苦手だと思っている以上、なるべく接触しないように心掛けてしまうし。
エリーが戸惑っていることは、一目見ればすぐに理解る。
俯いたまま何も喋らない彼女を見やって、キジルは言った。
「お腹空かない? 大丈夫?」
「はい、大丈夫です。……あ」
「うん?」
思い出したかのように目を丸くして、エリーは腰元のポーチを漁る。
迷彩柄の可愛いポーチから取り出すのは……お菓子。
いつでも持ち歩いている、ガムやグミ、チョコレート、キャンディ。
ポーチいっぱいに入っていたお菓子を、慣れない右手でソファの上に出したエリー。
「一緒に食べましょう」
「いいの? ありがとう」
「はい。どうぞ」
「それにしても、たくさん入ってるんだね」
「そうですね。ないと落ち着かないので」
お菓子を口に運べば、戸惑う気持ちも多少は晴れる。
気を紛らわせる為、エリーは次から次へと、お菓子を口に運んだ。
か細く小さな身体には不釣合いな、旺盛な食欲。お菓子は別腹?
その食欲に少々驚きながらも、キジルは優しく微笑んだ。
甘いお菓子を口に運びながら、他愛ない雑談。
ぎこちなくはあるけれど、二人の間で会話が成立していた。
その最中、エリーは思う。
ここまで外れないとなると、考えられるのは呪術の類。
例えば……繋がった人に対して心を開かねば外れないだとか。
もしも、そうだとしたら。この手錠を外すことは出来ないような……。
不安になったのだろう。エリーの表情が神妙なものへと変わる。
いつでも冷静沈着。女であることを知られるのを嫌う、クールな子。
その印象を拭い去れなかったが故に、
キジルにとってコロコロと表情を変えるエリーは、新鮮だった。
ミント味のキャンディを口の中で転がしながら、キジルは言う。
「エリーちゃん。絵に興味ある?」
「……。はい? 絵ですか? 嫌いではないですけど」
「描くんじゃなくて、描かれるほうね」
「描かれる……。モデルってことですか」
「うん、それ」
「どんな風に描かれるのか、気にはなりますね」
「じゃあ、今度お願いして良いかな?」
「え。私がですか」
「うん。描いてみたいんだ」
「……。わかりました」
「やった。約束だよ?」
「はい」
嬉しそうに微笑むキジル。その笑顔を見たエリーは脱力感を覚える。
脱力してしまったというと聞こえが悪いかもしれないけれど。
どうにかして手錠を外せないかと必死になっている自分が、滑稽に思えた。
そうやって優しく微笑まれると、戸惑いも不安も何もかも抜けてしまいそうだ。
覚えた脱力感と、自分自身に対する滑稽な気持ちからか。エリーはクスクスと笑った。
その時だ。
カシャン―
「あ」
「あっ……」
二人を繋いでいた手錠が外れ、床に落ちる。
落ちた手錠を見やれば、ぼんやりとオレンジ色の光。
「時間制限をかけて成立させる呪術だったみたいだね」
手錠を拾い上げてクスリと笑うキジル。
先ほどまで手錠に拘束されていた手首に触れ、エリーは微笑んだ。
そういうことだったのか。本当に、必死になる必要なんてなかったんだ。
手錠が外れて仕組みを理解すると、余計に可笑しくなってくる。
クスクス笑うエリー。その笑顔を見ながら、キジルは言った。
「うん。やっぱり、描くなら笑顔だね」
「え……」
「ふふ。さて。倉庫整理の続き、しようか」
「あっ、はい」
「終わったら、お昼ご飯だね。何か食べたいものはある?」
「えぇと……えぇと……。うーん……」
「はは。作業しながら、一緒に考えようか」
「あっ、はい。そうですね。……あっ」
「ん。何か思いついた?」
「はい。えぇとですね―」
-----------------------------------------------------------------------------------------
■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7849 / エリー・ナイトメア / 15歳 / 何でも屋、情報屋「幻龍」
NPC / キジル / 24歳 / 時守 -トキモリ-
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------
|