コミュニティトップへ




■CALL - forget -■

藤森イズノ
【7849】【エリー・ナイトメア】【何でも屋、情報屋「幻龍」】
「とりあえず、ジャッジに報告してくるわ」
「あぁ。よろしく」
 テーブルに頬杖をついた状態で目を伏せ返したヒヨリ。
 ナナセは頷き、パタパタと急ぎ足で執裁室へと向かう。
 忘れた……とか、そういうレベルじゃない。
 丸ごと、すっぽり全ての記憶が欠落している状態。
 言うなれば、生まれたての赤ん坊のような状態。
 ふざけて、こんなことをする奴じゃない。
 けれど……悪戯であってほしいと心のどこかで願ってる。
 今も、そう願ってるよ。
 溜息混じりに向ける視線は、ソファに座る人物へ。
 一切の記憶を失った、大切な仲間へ。
 この世に、たった一人しかいない、特別な存在へ。
「……マジ、勘弁してよ」
 そのあどけない表情に、ヒヨリは苦笑を浮かべた。
 CALL -forget-

-----------------------------------------------------------------------------------------

「とりあえず、ジャッジに報告してくるわ」
「あぁ。よろしく」
 テーブルに頬杖をついた状態で目を伏せ返したヒヨリ。
 ナナセは頷き、パタパタと急ぎ足で執裁室へと向かう。
 忘れた……とか、そういうレベルじゃない。
 丸ごと、すっぽり全ての記憶が欠落している状態。
 言うなれば、生まれたての赤ん坊のような状態。
 ふざけて、こんなことをする奴じゃない。
 けれど……悪戯であってほしいと心のどこかで願ってる。
 今も、そう願ってるよ。
 溜息混じりに向ける視線は、ソファに座る人物へ。
 一切の記憶を失った、大切な仲間へ。
 この世に、たった一人しかいない、特別な存在へ。
「……マジ、勘弁してよ」
 そのあどけない表情に、ヒヨリは苦笑を浮かべた。

-----------------------------------------------------------------------------------------

 一部分だけが欠落しているだとか、そういうレベルじゃない。
 自分の存在すらも、不思議に思っているエリー。
「……参ったな、これ」
 苦笑しながらエリーの隣に座ったヒヨリ。
 何度名前を呼んでも、返事をしない。
 自分の名前だということを理解できないのだろう。
 ヒヨリやナナセが、何者なのかも理解らない。
 どうして自分がここにいるのか、そもそも、ここはどこなのか。
 果てには、自分は何者なのか……などと、哲学的なことまで考え出す始末。
 頭を打っただとか、そういう衝撃の類でスポンと記憶が抜け落ちてしまったのだろうか。
「エリー。お前、頭、大丈夫か」
「……それは、どういう意味ですか」
 ムッとした表情でヒヨリを見やるエリー。
 ヒヨリは、ポリポリと頬を掻いて笑う。
「あぁ、ごめん。質問の仕方が悪かった。そういう意味じゃなくてさ」
「では、どのような意味でしょう」
「こう、どっかに頭を打ったとか、した?」
「いいえ。存じません」
「……そっか」
 そもそも、実際にどこかで頭を打っていたとしても、覚えているはずがない。
 何て無意味な質問をしてしまったんだ、と苦笑するヒヨリ。
 そこへ、ファイル片手にパタパタとナナセが戻ってくる。
「報告してきたわ」
「お疲れ。で、何て?」
「放っておくか、衝撃を与えてみるか。そのくらいしか出来ないだろうって」
「……うわぁ。適当だな〜……。面倒くさいと思ってるのバレバレじゃねぇか」
「ジャッジはそういう人だしね。それに、間違ってはいないと思うわ」
「まぁなぁ。記憶喪失の対処法なんて、そのくらいしかないよなぁ」
「どうする? このまま、待ってみる?」
「いや。エリーの場合、放置はマズイと思う」
 普段から、飄々と生きているエリー。
 いつかは元に戻るだろうと放置するのは、マズイ。
 この状態が定着して、何の違和感も感じなくなってしまうかもしれない。
 飄々としている彼女だからこそ、放置は危険な手段だ。
 ここは、少々手荒にでも、衝撃を与えてやるのが望ましい。
 というと聞こえは悪いが、要するに導いてあげるということだ。
 このままで構わないと思わせないように、無理矢理にでも手を引いてやるべき。
 あれこれと話し、どうやって衝撃を与えるかを思案するヒヨリとナナセ。
 そんな二人を見やるエリーは、キョトンとしていた。
 何やら必死になっている。それは理解る。
 しかも、自分に関することで、二人は必死になっているようだ。
 見ず知らずの人が、どうしてそこまで必死になるのだろう。
 ふと、何となく。本当に、何となくだけれど、申し訳ない気持ちになった。
 俯くエリー。ヒヨリは、うんと頷いて、再びエリーの隣に座る。
 衝撃を与えるといっても、相手は女の子だ。
 まさか、殴ってみたりするだなんて、そんなことは出来ない。
 それならば、どうするか。あれこれ考えた結果、ヒヨリが出した結論。
 それは、抱擁だ。
 見知らぬ男に、ギュッと抱きしめられて衝撃を受けない女の子はいないだろう。
 少々遠慮がちに、エリーの肩に手を添えようとしたヒヨリ。
 だが、その瞬間、バチッと。ヒヨリの身体を電気が走った。
「あ痛っ」
「…………」
 睨み付けるような視線を向け、呟くように言ったエリー。
 警戒しているのだろう。エリーの身体を、黄色い静電気のようなものが包んでいる。
 右目も、淡い黄色に変色している。無意識の内に、スキルを発動している状態だ。
 これでは、触れることなんて出来ない。
 無理矢理、チカラ任せに抱擁することは可能だとは思うが……危険を伴う。
 ヤレヤレ、と肩を竦めてヒヨリは溜息を落とした。
「う〜ん。どうすっかな、これ……」
「せめて、原因が理解れば良いんだけど」
 ナナセが発した言葉。エリーは、放電をピタリと止めた。
 神妙な面持ちのナナセを見て、更に申し訳ない気持ちになったのだろうか。
 エリーは目を伏せ、トントンと自分の額を指先で叩きながら思い返す。
 原因……。何に対する原因なのかは理解らないけれど。
 何か、思い出せることはないだろうか。
 こうして、二人が一生懸命になってくれているのだ。
 自分も少しは協力せねば。
 目を伏せ沈黙し、う〜んと考え込んで1分。
「あ」
 エリーは、ふと頭に浮かんだ光景を口にした。
 黒装束を纏った、見るからに妖しい人物。
 その人物に、黒い箱を貰った。
 そして、その箱を自分は開けた。
 妖しい人物に促されるまま、開けた。
 それから……。 それから……?
 その後のことは思い出せない。どう足掻いても。
 エリーが口にして伝えた光景を耳にし、ヒヨリとナナセは顔を見合わせて苦笑を浮かべた。
「黒装束って……」
「犯人が特定されたわね。あっさりと……」
「せめて変装とかしろよな。馬鹿か、あいつ」
 苦笑しながら言ったヒヨリ。その言葉に、反論。
「馬鹿とは何だい。失礼だな」
 扉を開けて、クスクス笑いながら部屋へ入ってきたのは、J。
 犯人の登場に、ヒヨリとナナセは大きな溜息を落とした。
「いつからいたんだよ」
「最初から」
「趣味悪いな、本当。っていうか、何の為にこんなことするんだよ」
 ヒヨリの質問に、Jは淡く微笑み、エリーの隣に腰を下ろした。
 そして、彼女の肩にスンナリと腕を回して、足を組む。
 エリーは、無抵抗というか、警戒しない。
 瞳の色も普段どおりだし、放電する様子もない。
 どういうことなのか。その答えは簡単だ。
 Jが作った代物、対象の記憶を欠落させる黒い箱。
 Jは、箱に呪文をかけていた。
 
 Jという存在以外の記憶、その一切を失うように。

 何でこんなことするのかって、そんなの聞かなくても理解るだろ?
 リセット出来ないかなって思ったんだ。エリーの記憶を。
 まぁ、遠回しに綺麗な言葉で繕ってみても意味がないから、わかりやすく言おうか。
 俺しか知らない。その状態に戻したかったんだ。
 生まれたままの姿っていうのかな、状態っていうのかな。
 キミたちと接したり、色々な経験を経て、エリーは賢くなりすぎててね。
 それが悪いことだとは思わないんだけど、俺的には不愉快だったんだ。
 何ていうのかな、勝手に弄り倒されたっていうかさ。そんな気分でね。
 だから、作ってみた。記憶を飲み込む箱ってものを。
「即興で作れちゃうのが、俺の凄いところだと思わない?」
「お前さぁ、そういうの、もっと別のことに使えよ」
「少し応用すれば、不安定な時の回廊を沈静させるのに使えそうよね」
「そうそう。そういうのに使えよ。何でそういう無駄使いばっかすんだ、お前は」
「自分の為にしか使いたくないからだよ。それ以外の理由なんてない」
「……あぁ、そう。で? エリーは、ずっとこのままなの?」
 ヒヨリの言葉にクスクス笑い、Jは懐から黒い箱を取り出した。
 そして、躊躇うことなく、その箱の蓋を開ける。
 箱の中から黒い霧が出現し、その霧はエリーの身体を包み込んだ。
 霧が晴れる頃には、エリーの記憶は、すっかり元通りだ。
「……。ん……? えっ、何ですか?」
 仲間の視線。突き刺さるような視線に首を傾げるエリー。
 その反応に、ヒヨリとナナセは大きな溜息を落として笑う。
「戻すんなら、最初っからやるなっつう話だよ」
「本当。人騒がせな人ね……」
「まぁ、ちょっとした悪戯だよ。いつものことでしょ?」
「こっちは真剣に悩んだんだっつうの」
 脱力している様子のヒヨリとナナセ。
 そんな二人を見やって、何だか満足気なJ。
 何があったのか、何が起きていたのか理解らないエリーは首を傾げるばかり。
(……?)
 さっき話した理由は本音だよ。偽りじゃない。
 俺しか知らない、俺しか知ろうとしない。そんなキミに戻したかった。
 でもね、それも何だか味気ないかなって思ったんだ。
 賢くなられると厄介っていうか、俺は不愉快なんだけど。
 抵抗するってことを覚えたキミを弄ぶのも楽しいかもって思ったんだ。
 結局のところ、押さえつけて従順にしちゃえばイイんだし。
「ね」
 クスリと微笑みながら、少し首を傾げたJ。
 エリーはキョトンと、目を丸くして言った。
「はい? ……何がですか」

-----------------------------------------------------------------------------------------

 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7849 / エリー・ナイトメア / 15歳 / 何でも屋、情報屋「幻龍」
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ナナセ / 17歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / J / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------