■時の剣■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
簡単なこと。
あなたはただ、この小瓶に時水を汲んでくるだけで良いのです。
時水の在りかは、わかりますね?
そう、この空間に点在している、4つの小さな泉。
赴き、小瓶にその水を汲んできなさい。
どうして、あなたに頼むのかって?
あなたにしか、頼めぬことだからですよ。
さぁ、いってきなさい。私は、ここで待っています。
あなたの帰りを、ここで待っていますから。
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時の剣
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簡単なこと。
あなたはただ、この小瓶に時水を汲んでくるだけで良いのです。
時水の在りかは、わかりますね?
そう、この空間に点在している、4つの小さな泉。
赴き、小瓶にその水を汲んできなさい。
どうして、あなたに頼むのかって?
あなたにしか、頼めぬことだからですよ。
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淡く微笑みながら言ったセツル。
クレタは、その優しい微笑みを見上げながら考え込む。
セツルからの御願いを受諾するか否か、そこを悩んでいるわけではない。
ただ単に、クレタは知らなかった。
この空間に、そんな不思議な場所があったなんて。
点在している4つの小さな泉。
各所で、湧いている水の色が異なるのだそうだ。
その内の一ヶ所を選び、それを口頭で告げてから赴けとセツルは言った。
選択に関して、悩むことはなかった。即決というやつだ。
クレタが選んだ泉、選んだ色は―
「ん。決めた。南の……白の時水を汲みに行くよ」
決断を聞いたセツルは頷き、クレタに小瓶を渡す。
綺麗な模様が刻まれたガラスの小瓶だ。
その美しさにしばし見惚れ、クレタはハッと我に返る。
「えと……。時計台から、真っ直ぐに進めば良いんだよね……?」
「えぇ。ひたすら真っ直ぐ南に向かいなさい」
優しい声で言ったセツルを、クレタはジッと見つめた。
こうして僕に御願いするってことは、重要な何かがあるんだと思う。
セツルさんの言動には、必ず何かしらの意味があるんだ。
どうしてそう思うのかって……それは、理解らないけれど。
でも、そう思うんだ。皆が何て言おうと、僕はセツルさんのことが好きだよ。
嫌いになんてなれないよ。だって、あなたは、そういう存在だから。
「……行ってきます」
微笑み返し、クレタは小瓶を持って南の泉へと向かった。
方角は……選んだ理由にはならないな。まったく関係ない。
決め手になったのは、水の色。
白が良いなって思ったから。迷うことはなかった。
白は綺麗で、気高さを感じる。見ていると優しい気持ちになる、大好きな色。
純粋に、真っ白であり続けようとする頑なさもあるけれど、
あらゆる色を受け入れることが出来る、どんな色にも染まることができる、
柔らかくて温かくて、素敵な色だと思うんだ。
これはね、何となくなんだけれど、
僕に……白に対する憧れがあるんじゃないかなって思ってる。
優しく気高くありたいと思う、そんな憧れの気持ち。
そう思っているからこそ、僕は白を好むんじゃないかな。
実際、色の選択を迫られると、僕は決まって白を選ぶからね……。
ベッドカバーを買う時も、お茶の時間に使うカップにしても、携帯の色もそうだ。
傍に置いておくだけで、白のような存在になれるわけじゃないけれど、
気持ち的には……ひとつになれるような、そんな気がするんだ。
少し照れ臭そうに微笑みながら、小瓶をセツルに渡したクレタ。
白の時水が汲まれたガラスの小瓶は、キラキラと輝いていた。
小瓶の蓋を開け、セツルは意外な行動に出る。
「あ……」
コクリと、クレタが汲んできた白の時水を喉に落としたのだ。
飲んでしまうとは意外だった。クレタは、少し驚いたような表情を浮かべている。
そんなクレタを見やって、セツルはクスクスと笑った。
そして、手招きしてクレタを傍へ呼びつける。
誘われるまま、セツルの傍へ歩み寄るクレタ。
小首を傾げるクレタに、セツルは言った。
「笛は、まだ持っているかしら?」
「笛……?」
「あなたの御友達を呼ぶ為の笛」
「クロのん……?」
「ふふ。そういう名前なの? 可愛い名前ね」
「持ってるけど……」
パーカーのポケットから、ホイッスルを取り出したクレタ。
あの日、黒い花火になって弾けたクロノバード。
ホイッスルは、ヒビが入っていて、もう吹いても音は鳴らない。
けれど、捨てることなんて出来なくて。クレタは、ずっと持っていた。
クレタからホイッスルを受け取り、セツルはジッと見つめる。
慈しむ、優しい眼差し。
自分に向けられているわけではないのに、優しい気持ちになる。
言葉を放つことなく、ただ、ジッとセツルを見つめ続けたクレタ。
やがて、セツルは口付けた。ホイッスルに、慈愛のキスを。
すると、ヒビが消えて、ホイッスルは元通りになった。
目を丸くしてキョトンとしているクレタ。
セツルはホイッスルをクレタに返して告げた。
「吹いて御覧なさい」
「……。……うん」
妙にドキドキした。不快な緊張感ではなく、期待による緊張感。
クレタは、呼吸を整えてから目を伏せ、ホイッスルを吹いた。
久しぶりに響き渡る、綺麗な音。漆黒の闇に響く、笛の音。
ゆっくりと目を開けば……。
「……。わぁ……」
もはや、そうして驚くことしか出来なかった。
クレタの目の前で、真っ白な巨鳥が嬉しそうに翼を揺らしていたのだから。
色は違えど、同じ存在だ。表情や仕草で、すぐに理解る。
白い巨鳥は、クロノバード、クロのんそのものだった。
喜び、パタパタとクロノバードに駆け寄って抱きつくクレタ。
けれど、すぐさまギョッとする光景が目に飛び込んできた。
クロノバードの背中に、白い剣がザックリと刺さっているではないか。
「これ……」
不安気な顔で振り返って言うクレタ。
すると、セツルは優しく微笑みながら言った。
「抜いて。私に、頂戴な」
「……。……? ……うん」
言われるがまま、クロノバードの背によじ登り、刺さった剣を引き抜くクレタ。
痛いのではないかと、おそるおそる引き抜いたのだが、
クロノバードが痛みを訴えることはなかった。
いつもどおり、綺麗な瞳を輝かせている。
引き抜いた剣を、セツルへ渡すクレタ。
「もしかして……これが目的……? 欲しかったのは、これ……?」
「ふふ。そうよ。わざわざ、有難うね」
「ううん……。こちらこそ、ありがとう……」
「大切にしてあげなさい。以前よりも、もっとね」
「……うん」
*
どうして、セツルが白い剣を欲しがったのか。
どうして、クロノバードが蘇ったのか。
わからないことは、たくさんあった。
訊くことをしなかったのは、どうしてだろう。
訊いても教えてくれないだろうって、諦めたから?
いや、違う。 訊くべきではないと、そう感じ取ったからだ。
少なくとも、今は未だ訊くべきではないことなのだろうと。
真っ白なクロノバードの背に乗って、居住区へと戻って来たクレタ。
翼を撫でながら伝える言葉「ありがとう」と「またね」
パタパタと、逃げるように居住区へと入っていくクレタ。
窓から何度も顔を覗かせて、手を振った。
遠く、塒へ帰っていくクロノバードの後姿に。
闇を舞う、真っ白な巨鳥。
嫌でも目に入る、その優美な姿。
窓辺に凭れ、紅茶を口に運びながらヒヨリは言った。
「ま〜た、会いにいったな。あいつ」
「呼ばれたんでしょうね」
カップに紅茶を注ぎながら、淡く微笑んで言ったナナセ。
「押しに弱いのかなぁ。クレタって」
「何よそれ。今更すぎない?」
「ん〜。まぁ、確かに」
「で、どうするの? 文句でも言いに行く?」
「……。面倒くさいから、いいわ」
「行ったところで無駄でしょうしね」
「お前ね、そういうこと言うなよ」
「どうして? 図星だから?」
「わかってて聞いてるだろ、お前」
「何のことかしら」
「……はぁ。……おかわり」
「かしこまりました」
「うわ、何それ。気持ち悪っ」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
NPC / ナナセ / 17歳 / 時守 -トキモリ-
NPC / セツル・クロウ / ??歳 / 時の定律人
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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