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■無に帰す理由■

藤森イズノ
【7707】【宵待・クレタ】【無職】
 今更、何を言い出すのかな、キミは。
 そんなこと聞いて、何になるの?
 何の為に、そんなことを聞くの?
 聞いても無駄だってことは、理解ってるよね?
 俺が、その質問に答えられないことも、
 その質問を、何より嫌っていることも、
 理解ってるよね? 理解ってて聞いてるの?
 どういうつつもり? 俺を、怒らせたい?
「でも―」
「黙れ」
 喉元にあてがわれる、黒の剣、その切っ先。
 ゴクリと息を飲み込んだのは、
 小刻みに身体が震えたのは、
 恐怖からか、好奇心からか。
無に帰す理由

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 今更、何を言い出すのかな、キミは。
 そんなこと聞いて、何になるの?
 何の為に、そんなことを聞くの?
 聞いても無駄だってことは、理解ってるよね?
 俺が、その質問に答えられないことも、
 その質問を、何より嫌っていることも、
 理解ってるよね? 理解ってて聞いてるの?
 どういうつつもり? 俺を、怒らせたい?
「でも―」
「黙れ」
 喉元にあてがわれる、黒の剣、その切っ先。
 ゴクリと息を飲み込んだのは、
 小刻みに身体が震えたのは、
 恐怖からか、好奇心からか。

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 跳ねる心臓。震える肩。乱れる呼吸。
 でも、一瞬のこと。すぐに、元に戻る。冷静になれる。
 クレタは、退くことなく、そのまま真っ直ぐにJを見据えた。
 僕は……待っていたんだ。時が満ちるのを。この瞬間を待ち望んでた。
 問うことを許される、この瞬間を待ち望んでた。
 気付いてた。気付いてたよ。気付かないわけがない。
 あなたが時折みせる、脆い表情。壊れてしまいそうな、儚い目。
 僕はね、あなたの隣で、あなたに寄り添いながら、あなたのその横顔に心を痛めてた。
 どうすることもできない。そんな自分に腹を立てたこともあった。
 訊かずにいたのは、時が満ちるのを待っていたから。
 あなたの全てを、僕の心が受け止めることができる時まで。
 ねぇ、J。あなたにとって、僕はいつまでも幼くて頼りない奴かもしれないけど。
 僕だって成長してる。毎日の中で、成長しているんだよ。
 強くなるとね、不思議と……お節介になってしまうんだ。
 自分の心に余裕が出来ると、他人を気遣うようになる。
 あなたが、何に悩まされているのか。
 どんな苦痛と共に生きているのか。
 教えて欲しいと思うんだ。
 クレタの眼差しに、迷いはない。

 教えて欲しいだって?
 どうして、時を消してしまうのかって?
 今更だ。今更、どうしてそんなくだらないことを訊く?
 ずっと傍にいただろう。傍で見ていただろう。
 黙って見ていたくせに。何も言わずに見てきたくせに。
 どうしてだ。何で、このタイミングでキミは問う?
 勘弁してくれ。今までどおり、何も言わずに傍にいてくれよ。
 訊かないでくれ。そんな、濁りのない真っ直ぐな目で見るな。
 どうしてなの、だなんて訊くな。頼むから。確信させないでくれ。

 クレタの喉元に剣の切っ先をあてがうJ。
 その表情は、今にも泣き出しそうなものだった。
 このまま、あなたの怒りをかって消されるというのなら、それでも構わない。
 僕は、知りたいだけ。もう、見たくないんだ。あなたの悲しい顔なんて。
 スッと目を伏せ、全てを受け入れる姿勢を示したクレタ。
 その時だった。クレタの瞼の裏に、とある光景が映し出される。
 時の大樹。クレタが生まれた、Jと初めて会った場所。
 そこで一人、蹲るJの姿。
 意識の中、その背中へ手を差し伸べる。
 どうしたの。何があったの。顔を上げて。そう伝えるかのように。
 けれど、クレタが意識の中で伸ばした手は、ピタリと硬直してしまう。
 見てしまったから。見えてしまったから。歩み寄った、その先で。
 Jの腕の中、真っ赤に染まる……オネの姿。
 Jは、血に染まったオネを抱きながら大粒の涙を落としていた。
 声をかけられる雰囲気じゃない。その泣き様は、号泣と呼ぶに相応しかった。
 子供のように泣きじゃくるJの足元には、黒い剣。
 まるで綺麗な模様のように、血が染めていた。
(…………)
 ゆっくりと目を開け、Jを見上げたクレタ。
 バチリと交わる視線。すぐさま、Jは逃げた。
 教えるつもりなんてなかったのに。話そうだなんて思ってなかったのに。
 キミはズルい。俺の心を覗き見た。
 見たんだろう? 俺の過去を。忌まわしき過去を。
 目を逸らしたまま俯くJ。
 クレタは、言葉を放つことをしなかった。
 妙な感覚に支配されて、身動きが取れなかった。
 心の中に蠢く、この嫌な感覚は何だろう。
 少しでも油断すれば、溢れて爆発しそうな……この嫌な気持ち。
 クレタは沈黙を続けることで、溢れそうになる "何か" を抑えていた。
 喉元にあてがった剣を離し、Jは立ち去る。逃げるように。
 その背中を見つめながら、クレタは、その場に崩れるように膝をついた。
 あなたのことを知りたくて。あなたを救いたくて。
 だから訊いたのに。全てを受け止める覚悟があったのに。
 どうして、こんなに苦しいの。
 訊かなきゃ良かっただなんて、そんな後悔。
 後悔なんて、無意味なのに。
 過ぎた時間は、元に戻らないのに。
 どう足掻いても、どんなに願っても戻らないのに。
 そうだよ。僕は、あの日、ヒヨリに言ったじゃないか。
 時間なんて無意味なものだって。あってもなくても構わないって。
 それなのにどうして。過去を求めたんだろう。
 どうして、あなたの過去すらも……求めたんだろう。

 愛しい人を殺めた手。
 想いの強さが犯した罪。
 罪悪感から、彼は何度も剣を振り下ろす。
 自分は、残忍な男なのだと言い聞かせるかのように。
 訊かないでくれ。頼むから。また同じ過ちを犯してしまうから。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ??歳 / 時狩

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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