■甘宵 -アマヨイ-■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
当然のことだからだなんて、
そんな義務感を感じながら過ごすのは、もっての外。
惜し気もなく甘く、胃もたれを起こすくらい甘く。
過剰なお返しで、キミを溶かしてあげる。
ありがとうって、耳元で何度も囁きながら。
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甘宵 -アマヨイ-
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当然のことだからだなんて、
そんな義務感を感じながら過ごすのは、もっての外。
惜し気もなく甘く、胃もたれを起こすくらい甘く。
過剰なお返しで、キミを溶かしてあげる。
ありがとうって、耳元で何度も囁きながら。
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お返し……。そうか、そういえば、今日はホワイトデーだね……。
忘れてたよ、すっかり……。期待してなかったとか、そういうことじゃなくてね。
お返し貰うために、先月チョコをあげたわけじゃないから……。
ただ、そういう日だからって。そういうことなら、渡しておかなきゃって思っただけで。
それにね、傍にいて、こうして御話しているだけで幸せだから。
お返し、もう貰ってるようなものなんだよ。持ちきれないくらい。
だから……気にしなくて良いんだけど……。
「そんな顔されたら、いらないよなんて言えない……」
ポツリと呟いてクスクス笑ったクレタ。
クレタの隣に座るJは、目を伏せて頷いた。
そうそう、それで良いんだ。そう言うかのように。
クレタの部屋を訪ねたJは、いつにも増して御機嫌だった。
ずっと微笑んでいて、触れる所作も、いつもより優しく甘い。
Jは言った。部屋に入るや否や、お返しにきた、と。
何のお返しなのか、クレタは理解らなくて首を傾げた。
お返しって聞こえたけれど、実は聞き間違いだったりして。
お返しじゃなくて、仕返しだったりして。
そうだとしたら、何で? 仕返しされるようなこと、したかな……。
そんなことを考えたりもした。勘違いだったけど。
Jがクレタに渡すのは、バレンタインのお返し。
先月は有難う。すごく嬉しかったよ。
その感謝の気持ちをこめて、お返しに来ました。
口にはしないけれど、クレタはワクワクしている。
本人は気付いていないけれど、目がキラキラしている。
別にお返し目当てじゃないけれど。
どんなお返しをくれるんだろう。
そう考えると、ワクワクしてしまう。当然のこと。
「ねぇ、J。お返しって……」
何をくれるの? そう尋ねようとした矢先のこと。
Jは、ニコニコと微笑みながらクレタの服を脱がせる。
「ちょっ……。何……」
突然のことにビックリして照れるクレタ。
いつもと雰囲気が違うこともあって、余計にドキドキする。
脱がせてどうこうするつもりはない。
ただ単に、Jは服を脱がせただけ。
素っ裸になったクレタは首を傾げる。
(……えぇと)
裸にされたわけだけども……それから?
これから、どうすれば良いの? 僕、どうすれば……。
戸惑っている様子のクレタを見ながら笑い、Jはクローゼットを漁る。
そして、適当な服を選んで、それを持って歩み寄る。
「えと……。あっ、ちょっ……」
何が何なのか理解らないクレタを他所に、Jは好き放題。
持ってきた服を、流れるような所作でクレタに纏わせていく。
着替えを済ませたら、次は、その寝癖を何とかしよう。
Jは笑いながら、クレタの背後へ回る。
現在時刻は朝9時。起きて早々にJが来室してきた。
クレタは、寝起きも同然だったのだ。
ピョンと跳ねた寝癖が、何よりの証拠。
跳ねた寝癖を直しながら、Jはクレタの髪を整えていく。
されるがままの状態で、クレタは尋ねた。
「ねぇ、J。お返しって……」
「うん?」
「もしかして、こういう……」
「良いでしょ。こんなカッコイイ執事、いないよ?」
「そ、それって……」
*
仰せのままに、ご主人様の欲しいままに。
Jの奉仕は、その後も延々と続いた。
階段を降りるときもエスコート。
トイレに行くときもエスコート。
お風呂に入るときもエスコート。
間違ってる。何かが間違ってる……。
執事って、こういう感じだったっけ……。ここまでしないんじゃ……。
そんな疑問を抱きつつも、Jの好きなようにさせてきたクレタ。
確かにおかしいとは思うけれど、心地良いのも事実。
仲間達が、いったい何事だ、変なものでも食わせたのかと笑う度、良い気分になった。
何から何までお世話してくれる。Jが、お世話してくれる。
はじめは照れ臭くて、そんなことまでしなくていいよって拒んでいたけれど。
次第に慣れて、逆に心地良くなる。こういうのも良いかもしれない、と。
尽くされ放題で、すっかりイイ気分のクレタ。
時刻は、もう23時過ぎ。
いい気分だからなのか何なのか……時間の経過が、とてつもなく早い。
時計を見やりながら、クレタは小さな溜息を落とした。
心のどこかに、寂しいような切ないような。そんな気持ちが。
もうすぐ終わってしまうのか、日付が変われば、このお返しも。
そう思うと、むしょうに切なくなった。まだ、もう少しだけ……そんなことも考える。
何だか不満そうな、物足りなさそうなクレタを見てJは笑う。
いつものように、強気な発言はない。
あくまでも謙虚に、ご主人様に尽くす姿勢。
用意していたオレンジクリーム入りのマシュマロ。
芸術品のようにグラスに盛られたそれ。
ひとつをフォークに刺し、Jはクレタの口元へと運ぶ。
不満そうな顔をしながらも、クレタはパクリとマシュマロを食べた。
ふてくされたような顔が、ものすごく可愛い。
Jは嬉しそうに微笑み、またマシュマロを口元へ運ぶ。
何だか、エサを与えられてるみたいだ……。
クレタは笑いながら「もう、いらない」とJに告げた。
ご主人さまの気持ちを考慮し、Jは頷いて口元から離す。
突き刺したマシュマロのやり場に困っているJ。
自分が食べるわけにもいかないし、グラスに戻すのも失礼な気がする。
こういうときは、どうするんだろう。苦笑しながら困っているJ。
その横顔をジッと見ていたクレタ。何かが弾けた。
「おっ……と」
ガシッと抱きついたクレタ。
Jの手から、フォークが落ちる。
フォークから外れて、転がっていくマシュマロ。
その軌道を目で追いながらJは笑った。
「どうしたんですか。ご主人様」
「…………」
クレタは何もいわず、Jの胸元に顔を埋めている。
僕の執事なら、言わなくても理解ってよ。なんて、偉そうなことを思ったり。
クレタは、ゆっくりと顔を上げて、Jの目を見つめながら言った。
「もうすぐ終わっちゃうから……」
そんなことしなくていいよって遠慮してたのに。
いつの間にか、こんなにも心地良くなってしまって。
終わるのが勿体ないとか、終わらないで欲しいとか、
そんな我侭なことを思ったりしてるんだ、僕……。
ズルイよ。こんな、お返し。こんな、中毒性のあるお返し……。
悔しそうに小さな声で呟いたクレタ。
Jは、クレタの頭を撫でながら言った。
「ハマりそう?」
「……ハマるっていうか、何ていうか。……あれ。敬語は……?」
「時計、見てごらん」
言われて見やれば、時刻は0時3分。
ホワイトデーは終了してしまった。
残念そうにしながら、ゆっくりとJから離れるクレタ。
Jは、そんなクレタの腕をガシッと掴んで笑う。
いつもの笑みだ。勝ち誇ったような、イタズラな笑み。
「……J?」
「もっと欲しいって言うなら、いくらでも」
「え……でも、もう……」
「敬語ではなくなるけどね。それでも良いかな?」
クスクス笑いながら言ったJ。
その言葉で、クレタは気付いた。
何だ……。何も特別なことなんて、Jはしてなかったじゃないか。
いつもどおりだったのに。いつもどおり、尽くしてくれてただけなのに。
ただひとつだけ。いつもと違ったのは、言葉遣い。
僕に対して敬語で話す。それが……とても新鮮だったんだ。
あれ……? 敬語で話すのが心地良かったの……? それじゃあ、まるで……。
「偉そうに」
クスクス笑いながらクレタの頬に触れたJ。
クレタは目を逸らし、はにかんだ。
(……Jの所為だよ)
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / J / ??歳 / 時狩
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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