■欲と成長■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
「ちょっと出掛けない?」
そう言って、部屋から連れ出した。
断る理由なんてないから応じたんだけれど。
どこに行くのって尋ねても、Jは笑うだけ。
淡く笑って目を逸らして、はぐらかすだけ。
その笑みが、妙に意味深に思えて気になった。
でも、すぐに理解する。
居住区を出て、時計台を通過、そのまま北へ真っ直ぐ。
その先には、時の……時の定律人がいる。
一人でなら、何度か赴いたことがある。
でも、こうして仲間と一緒に赴くのは今日が初めて。
その理由は……ちょっと複雑で、ちょっと切ない。
大きな白い扉の前、Jは言った。
「何を訊かれても、素直にね」
「……?」
その言葉の意味は? どういうこと?
尋ねる間もなく、扉が開く。
|
欲と成長
-----------------------------------------------------------------------------------------
「ちょっと出掛けない?」
そう言って、部屋から連れ出した。
断る理由なんてないから応じたんだけれど。
どこに行くのって尋ねても、Jは笑うだけ。
淡く笑って目を逸らして、はぐらかすだけ。
その笑みが、妙に意味深に思えて気になった。
でも、すぐに理解する。
居住区を出て、時計台を通過、そのまま北へ真っ直ぐ。
その先には、時の……時の定律人がいる。
一人でなら、何度か赴いたことがある。
でも、こうして仲間と一緒に赴くのは今日が初めて。
その理由は……ちょっと複雑で、ちょっと切ない。
大きな白い扉の前、Jは言った。
「何を訊かれても、素直にね」
「……?」
その言葉の意味は? どういうこと?
尋ねる間もなく、扉が開く。
-----------------------------------------------------------------------------------------
どうして、ここに来たんだろう。
どうして、ここに連れて来たんだろう。
良く思ってないことは知ってる。嫌でも理解る。
Jが、ううん、みんなが、セツルさんを良く思ってないこと。
寂しいけれど、それは、どうしようもないことなんだって思ってた。
開いた扉の先、無限に広がる真っ白な空間。
その中心部にある銀色の椅子に座り、セツルは見つめていた。
淡く微笑んで、まるで、二人が来るのを待ち望んでいたかのように。
Jに連れられてきたクレタは、何が何だか理解らず首を傾げたまま。
何となく気まずい雰囲気。どうすればいいのか理解らない。
久しぶりにセツルに会えて嬉しい気持ちはある。
何故かは理解らないけれど、すごく嬉しい。
でも、どんな顔をすればいいのか理解らない。
不用意に笑顔を浮かべてしまえば、Jの機嫌を損ねてしまうかもしれない。
どんな顔をすれば良いのか理解らず、目を泳がせているクレタ。
そんなクレタの手を引き、Jはクスクス笑った。
「気、使わなくていいよ」
「え……?」
「嬉しい時は素直に喜べば良い」
「でも……」
「大丈夫。嬉しいのは、俺も一緒だから」
「……えっ?」
キョトンとしたまま、Jに手を引かれて歩くクレタ。
セツルの前へと移動し、Jはペコリと頭を下げた。
よく理解らないけれど、その所作が、あまりにも綺麗で。
クレタも、つられるようにして頭を下げる。
セツルは座ったまま、二人を見上げて微笑む。
「おかえりなさい。早かったわね」
「俺も予想外ですから」
セツルの言葉に苦笑を浮かべて返したJ。
二人の遣り取り、その意味を把握できない。
いや、それよりも……この、親しげな雰囲気は、どういうことだろう。
張り詰めた空気なんて微塵もない。和やかな、緩やかな時間の経過。
Jの横顔を見つめながらクレタは沈黙を続けた。
そんなクレタへ、セツルが唐突に問う。
「クレタ。……あなたにとっていま、一番大切なものは何ですか?」
「え……」
ボーッとしていたクレタだが、その質問で目が覚めた。
クレタは我に返り、繋ぐ手にキュッと少しだけチカラをこめた。
どうしてそんなこと聞くの……とは思うけれど。
あなたの質問には、いつも何かしらの意味があるから。
それに、僕をここへ連れて来た、Jの行動にも意味があると思うから。
たいせつなもの……一番、大切なもの……。
そんなの、決まってる。Jだよ。
モノじゃないけどね。Jは、モノなんかじゃないけど。
僕を必要としてくれる人。僕が必要とする人。
想いを共有して、一緒に歩いていける人。
優しい気持ちにしてくれる人。
人を愛する気持ちを教えてくれた人。
そのくせ、自分は愛することが下手な人。
そんなところも含めて、全部丸ごと……愛しい人。
今の僕があるのは、Jのおかげ。
Jが、腕を引いて引き寄せてくれたおかげ。
僕は弱いから……まだ、逃げてしまうこともあるけど。
その度に、Jは助けてくれる。名前を呼んでくれる。こっちだよって教えてくれる。
それに頼ってるわけじゃないけれど、安心するのは確か。
このままずっと、一緒にいたい。一緒に歩いて行きたい。
願わくば、永遠に。どちらかのイノチが尽きるまで。
静かな声で、はっきりと気持ちを伝えたクレタ。
その言葉に偽りはない。心からの言葉。
クレタの想いを聞いたセツルは、クスクス笑った。
まるで、馬鹿にしているかのような笑い方……のように思えた。
少し不愉快そうな目でセツルを見やったクレタ。
セツルは肩を竦め、ジッとクレタを見つめて更に尋ねた。
「私が、奪うと言ったら……?」
「え……。何……。あなたが、Jを?」
「そう。あなたの大切なものを、私が。この手で」
「…………。そんなこと……嘘でも言わないで」
俯き小さな声で呟いたクレタ。
奪うだなんて。そんな言葉、あなたには似合わない。
嘘でも、冗談でも、そんなこと言わないで。……悲しくなるから。
もしもね、もしも冗談なんかじゃなくて本気だとしたら。
奪われたら……取り戻すよ。奪われないようにも努力するけれど。
必ず、奪い返す。どんな手段を使ってでも。躊躇ったりしない。
だって、僕にはJが必要だから。何よりも、誰よりも。
冷たい声で呟いたクレタ。その言葉にも、偽りはなかった。心からの言葉。
返答を耳にして、セツルは目を伏せた。
そして、淡く微笑みながらクレタを手招きする。
特に警戒することもなく、応じて歩み寄るクレタ。
セツルは、クレタの額にそっと触れた。
瞬間、遠のく意識。
(あ……れ……)
気を失い、後ろへ倒れこむクレタ。
Jは、すぐさま駆け寄ってクレタを抱きとめた。
フゥと息を吐き落とすJへ、セツルは告げる。
「随分と愛されているではありませんか。嬉しいですか?」
「…………」
Jは言葉を放つことをしない。ただ苦笑を浮かべて笑うだけ。
嬉しいか嬉しくないか、そんな意地悪な質問をするのか。
あなたはやっぱり、残酷な人だ。嬉しいはずがないじゃないか。
少し前なら。そうだな……一ヶ月前なら、喜べた。素直に喜べた。
誇ることが出来ただろう。ほら見ろ、俺は、こんなにも愛されてるって。
全世界へ教えてやりたい。そう思えただろう。
でも今は……そんなこと思わない。微塵も。
だって、そうだろう?
偽りではないと、本心だと言う、そのキミ自身が偽りなのだから。今は、もう。
でもね、クレタ。まるっきり嬉しくないってわけでもないんだ。
嬉しい気持ちはあるよ。ただね、愛されて嬉しいっていう感じではなくて。
キミが、そこまでハッキリと "愛" を語ったことが。
語れるようになったことが嬉しいんだ。
何だろうね。この、何ともいえない気持ち。
ここにいるのに。キミは確かに、ここにいるのに。
どうしてだろう。何で、涙なんて零れるのか。
クレタの頬にパタパタと落ちる涙。
涙するJを、セツルは笑顔で見守った。
涙が止まるまで、仕方のないことなのだと、Jが理解するまで。
虚ろな意識の中、この感触は何なのか。クレタは首を傾げる。
冷たいようで、温かい。この不思議な感覚は……何?
-----------------------------------------------------------------------------------------
■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / J / ??歳 / 時狩
NPC / セツル / ??歳 / 時の定律人
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------
|
|