■断てぬ関係、断てぬ人■
藤森イズノ |
【7707】【宵待・クレタ】【無職】 |
恋をする。
その感情を覚えてみせても。
その感情を覚えたとしても。
はぐらかしているだけのようなものだ。
あなたに依存しないように、逃げているだけ。
あなたを求めぬように、逃げているだけ。
悔しいんだ。どう足掻いても、あなたを求めてしまう、その事実が。
逃がしてはくれないの? 許してくれないの?
いつまでも、僕は、あなたに依存して生きていくの?
これからもずっと、この手を求めて生きていくの?
本当に欲しいものは、与えてくれないのに。
あなたが、僕を愛することはないのに。
応える気がないのなら、いっそのこと。
突き放してくれればいいのに。
お前なんて、もう要らないって。
突き放してくれればいいのに。
どうしてなの?
どうして、抱いてくれるの?
それもまた、気まぐれなのですか。
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断てぬ関係、断てぬ人
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恋をする。
その感情を覚えてみせても。
その感情を覚えたとしても。
はぐらかしているだけのようなものだ。
あなたに依存しないように、逃げているだけ。
あなたを求めぬように、逃げているだけ。
悔しいんだ。どう足掻いても、あなたを求めてしまう、その事実が。
逃がしてはくれないの? 許してくれないの?
いつまでも、僕は、あなたに依存して生きていくの?
これからもずっと、この手を求めて生きていくの?
本当に欲しいものは、与えてくれないのに。
あなたが、僕を愛することはないのに。
応える気がないのなら、いっそのこと。
突き放してくれればいいのに。
お前なんて、もう要らないって。
突き放してくれればいいのに。
どうしてなの?
どうして、抱いてくれるの?
それもまた、気まぐれなのですか。
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銀色の時計台の前。
見上げて、動かないオネ。
その姿を発見したクレタは、いそいそと歩み寄った。
そろそろお昼の時間。居住区にいないオネをクレタは探していた。
いつもは部屋にいるのに。誰にも報告せずに外出するなんてことしないのに。
どうしたのかな、何かあったのかな、悩みでもあるのかな。
駆け寄りながら不安に思うクレタ。
「オネ」
声を掛けると、オネは、ゆっくりと振り返った。
交わる視線、その瞬間、背中をヒヤリとした冷たい……何かが伝う。
普段からは想像できぬほど、オネの目は冷たかった。それこそ、氷のように。
クレタは動揺し、ピタリと立ち止まる。踏みとどまってしまった。
怖い。その感覚があったのだろう。
立ち止まってしまったクレタを見て、逆にオネが歩み寄ってくる。
ゆっくりと、ゆっくりと、一歩ずつ、一歩ずつ。
じわり、じわりと近付いてくるオネが、やたらと大きく見えた。
小さな体躯で、とてつもなく大きな何かを背負っているかのように見えた。
動けずにいるクレタの目の前で停止し、オネはジッと見つめる。
そして、クレタの眼帯を外した。露わにある青い瞳。Jと同じ、青い瞳。
オネは淡く微笑み、クレタの右瞼に触れる。
ビクリと肩を揺らして驚くクレタ。
冷たい指先が告げるのは、嫉妬と羨望。
どうしてなのかな。
クレタには、こうして与えたくせに。
僕にはくれなかった。何もくれない。何も与えてくれない。
欲しいって言わないから? 違うよ。
だって、君だってそうでしょう?
あなたの右目を下さいだなんて、言ってないでしょう?
欲さなくても与えてもらえる。君には、惜し気もなく与えるのに。
どうして、僕にはくれないんだろう。どうして、僕には与えてくれないんだろう。
ただ、身体を重ね合わせるだけ。君の目を盗んで、身体を重ね合わせるだけ。
クレタのことを大切に思うなら、こんなことするべきじゃないよって意見したこともあった。
でも、笑うだけ。お前が俺に意見するのかって笑うだけで。
理解らないんだ。何を考えているのか。
ただ、君とJの絆が深まっているのは明らかで。
日増しに深まっていくそれを目にしながら、僕は考えた。
恋をしているフリを続けながら、必死に考えていたんだよ。
外界に好きな人? いるわけがないじゃないか。
本当に好きになるはずないじゃないか。
だって、僕の心は今も、ずっとJで埋め尽くされてるから。
クレタ……君は、応援してくれたね。
僕の恋を、偽りだなんて微塵も疑いもせずに。
頑張れって背中を押してくれた。大丈夫だよって背中を押してくれた。
どんな気持ちだったか。僕が、どんな気持ちだったかなんて……知らずに。
「腹が立ったんだ」
「……いっ」
「誰の所為だと思ってるんだってね」
「……。……っ」
クレタの右瞼をグッと親指で押すオネ。
少し伸びた爪が瞼に食い込み、痛みが走る。
その痛みは、ジワジワと増していく。熱を生じながら。
ブツブツと呟くように想いを吐き出したオネ。
それらを耳にしたクレタは、ただジッと痛みに耐えた。
冷たいオネの目は、そっくりだ。Jの目に、そっくり。
これまで、こんなことを思ったことはなかったけれど。
実感せざるを得ない。あぁ、この子も同じ。
Jから生まれた子なんだと、実感せざるを得ない。
クレタは、オネの手首をギュッと握った。
痛いから止めて。……そんなこと言わないし、言えない。
よく理解ったよ。オネの気持ち。ううん、ずっと理解ってたよ。
いつか聞かせてくれたよね。僕のスベテを聞いてくれって、オネは言った。
嫌いにならないでねって、きみは何度も繰り返した。
大丈夫だよって僕は返したけれど……そうか。
あの言葉は、そのまま受け取るべきじゃなかったんだね。
逆だったんだ。嫌いにならないでだなんて、きみは思っていなかった。
逆だったんだ。嫌いになってくれって、そう願っていたんだ。
何の為に? うん、理解る。それも理解るよ。
対等な立場でありたかったんでしょう?
同じ人を想う、ライバルでありたかったんでしょう?
友達だなんて。そんなの望んでなかったんだね、きみは。
思ってたのは僕だけ。友達だと思っていたのは僕だけ。
きみはいつも、僕を憎んでいたんだね。愛しい人を奪った僕を。
ギュゥッと強く、オネの手首を握り締めるクレタ。
手首から全身に走る痛みにオネは眉を寄せたけれど、退くことはしなかった。
もう、退かない。そう告げるかのようなオネの眼差し。
クレタは微笑み、手を離した。
そして、懐からホイッスルを取り出してオネに渡す。
いや、渡したというよりは、強引に握らせたというべきか。
クレタは何も言わなかった。ただ淡く微笑むだけで。
立ち去り、どこかへと歩いていく、その背中をオネは見つめる。
どこに行くのだなんて訊かない。理解っているから。
止めもしない。自分の為に。
*
言葉では言い表せぬほど、僕は愛された。
十分すぎるくらいに満たされた。今も、満たされてる。
いつか、Jは言った。僕に、貪欲になれと。
もっと貪欲に俺を欲してみろって煽った。
最初は謙虚に、探りながら。悩みながら欲した。
欲し方が理解らなかったから。どうやって貪欲になれば良いのか理解らなかったから。
でも、あなたが愛してくれたお陰で。あなたが教えてくれたお陰で、僕は覚えた。
人を愛する気持ち、欲する気持ちを覚えることが出来た。
幸せだったよ。欲すれば応じてくれるから。
あなたが嬉しそうに応じてくれるから。
でも、いつからかな。
それでも満足できないんだ。
あなたが微笑んでも、満たされない。物足りない。
足りないんだよ。もっと、もっと頂戴って強請ってしまいそうになる。
しかも、言葉で強請るんじゃなくて。態度で強請ってしまいそうになる。
今も震えが止まらない。どうしてか理解る?
あなたを求める、僕と同じように求める人。
友達だと思っていた、オネの息の根を止めようとしたんだ。
本当は手首じゃなくて。首に手を添えたかった。
退くもんかって真剣な眼差しを向けられたら余計に。
このままじゃ駄目なんだ。いつか、後悔してしまう。
愛しいあなたの呼吸さえも、自分のものにしようとする。
あなたを奪おうとする人の呼吸も、躊躇うことなく絶ってしまう。
愛されすぎたのかな。満たされすぎたのかな。
僕は、貪欲になりすぎた。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
NPC / オネ / 13歳 / 時守
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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