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■ヒヨリ先生のお手伝い■

藤森イズノ
【7888】【桂・千早】【何でも屋】
 今日も今日とて、ひととおりの授業が終わった。
 今、この瞬間から放課後となる。
 部活動に打ち込む生徒、教室で雑談する生徒。
 何か急用があるのか急いで帰宅する生徒、
 授業が終わってもなお、まだ机に突っ伏して眠っている生徒。
 思い思いの放課後を生徒は過ごす。何の変哲もない、放課後。

 さて、今日はどうしようか。
 真っ直ぐ家に戻って、深夜までノンビリしようか。
 友達を誘い、街に赴いて買い物でもしようか。それとも……。
 廊下を歩きながら、放課後の過ごし方を考える。その時だった。
 ドンッ―
「わっ」
「おっと!」
 バサバサッ―
 出会い頭、ありがちな衝突。ボーッとしていた自分が悪い。
 すぐさま謝りながら、辺りに散らばった紙を拾い上げた。
「ごめんなさい。ボーッとしてて……。ん?」
「あぁ、大丈夫。こっちこそゴメンね」
 ぶつかったのは、ヒヨリ先生だった。
 拾い上げた紙は、書類。その書類の内容に、釘付け。
「先生、これ……」
「ん?」
「依頼書……ですよね?」
「あぁ、うん」
「これから依頼板に貼りに行くんですか?」
「いいや。ちょっと特殊な依頼だからね」
「……もしかして、先生が請け負った仕事?」
「およっ、鋭いね。正解だよ」
 理解る。見れば、すぐに理解る。普通の依頼ではないことくらい。
 だって、まだ見たことがない。ランクSSの依頼書なんて。
 真っ赤な……血に染まったような依頼書。
 難易度を示す星の数だって、いち、に、さん……見たことない数だ。
 物珍しいこともあってか、ジッと食い入るように依頼書を見つめる。
 すると、ヒヨリ先生は、クスクス笑いながら言った。
「一緒に来るかい?」
「えっ…!?」
 ヒヨリ先生のお手伝い

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 今日も今日とて、ひととおりの授業が終わった。
 今、この瞬間から放課後となる。
 部活動に打ち込む生徒、教室で雑談する生徒。
 何か急用があるのか急いで帰宅する生徒、
 授業が終わってもなお、まだ机に突っ伏して眠っている生徒。
 思い思いの放課後を生徒は過ごす。何の変哲もない、放課後。

 さて、今日はどうしようか。
 真っ直ぐ家に戻って、深夜までノンビリしようか。
 友達を誘い、街に赴いて買い物でもしようか。それとも……。
 廊下を歩きながら、放課後の過ごし方を考える。その時だった。
 ドンッ―
「わっ」
「おっと!」
 バサバサッ―
 出会い頭、ありがちな衝突。ボーッとしていた自分が悪い。
 すぐさま謝りながら、辺りに散らばった紙を拾い上げた。
「ごめんなさい。ボーッとしてて……。ん?」
「あぁ、大丈夫。こっちこそゴメンね」
 ぶつかったのは、ヒヨリ先生だった。
 拾い上げた紙は、書類。その書類の内容に、釘付け。
「先生、これ……」
「ん?」
「依頼書……ですよね?」
「あぁ、うん」
「これから依頼板に貼りに行くんですか?」
「いいや。ちょっと特殊な依頼だからね」
「……もしかして、先生が請け負った仕事?」
「およっ、鋭いね。正解だよ」
 理解る。見れば、すぐに理解る。普通の依頼ではないことくらい。
 だって、まだ見たことがない。ランクSSの依頼書なんて。
 真っ赤な……血に染まったような依頼書。
 難易度を示す星の数だって、いち、に、さん……見たことない数だ。
 物珍しいこともあってか、ジッと食い入るように依頼書を見つめる。
 すると、ヒヨリ先生は、クスクス笑いながら言った。
「一緒に来るかい?」
「えっ…!?」

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 ヒヨリ先生のお手伝い。現場となるのは、どことも言えぬ世界、異世界。
 今までも、何度か課外授業で足を運んだことがある。
 討伐対象のスタッカートは、蜂タイプ。
 その数は、視認できるだけでも100を超えている。
 あまりの数に呆然とする千早、慎、霊祠の三人。
 三人は、時間差で同じようにヒヨリと衝突した。
 全員が全員「一緒に来るかい?」と言われて戸惑ったけれど、
 難易度SSのハントなんぞ滅多に体験できないものだし、 
 良い経験になるかと思って、全員同行を志願した。
 それにしても、おかしくないか?
 偶然にしては、出来すぎているような気がしないか?
 三人には特に疑っている様子は見受けられないけれど。
 よく考えてみて欲しい。偶然、三度も衝突するだろうか。
 そう。これは、ヒヨリの悪戯なのだ。
 ヒヨリは、わざと三人にぶつかった。
 そして、ワザとらしく大袈裟に書類をバラ撒いて三人の視界に飛び込ませた。
 熱心にハント活動している彼等だ。
 一緒に来るかい? という言葉に、飛びつかないはずがない。
 見たこともない大量のスタッカートを前に、やや緊張気味の三人。
 その背中を見やりながら、ヒヨリは笑った。楽しそうに笑った。
 まぁ、連れてくるだけなら簡単だ。
 無理矢理にだって、連れてくることくらいは出来る。
 別に、三人のビックリ顔が見たかったわけじゃない。
 そんなもの、わざわざこんなところまで来なくても見ようと思えば、いつでも見れる。
 ヒヨリが三人を連れて来た理由、それはもっと悪質なものだ。
「いっ……!!」
 突然、大声をあげながら、ヒヨリが、その場に膝をついた。
 三人は驚き、一斉に振り返る。振り返った先では、ヒヨリが苦しそうに蹲っていた。
「あれれっ。どうしたんですか、先生」
 慌てて駆け寄ろうとした霊祠だったが、
 異変に気付いた千早が、その腕を掴んで止める。
 ヒヨリの右手が、紫色に変色して腫れ上がっている……。
「もしかして、先生……」
 不安そうな顔で言った千早。
 ヒヨリは苦しそうにしながらも必死に笑顔を作って見せた。
 どうやら、標的に刺されてしまったようだ。
 ここへ来るまでに説明は聞いている。
 標的のスタッカート、蜂タイプの奴等は猛毒を持っている。
 刺されてしまえば、しばらくは身体が痺れて身動き出来なくなってしまうのだと。
 まさか、先生が刺されてしまうなんて。
 三人は、ボーッとしていたことを悔やみ、すぐに動いた。
 霊祠は、すぐさまワイトを召喚して、彼等にヒヨリを遠くまで運んでもらう。
 千早は、すぐさまノートパソコンでウィルスを構築し、魔術と合成。
 慎は、すぐさま黒き獣と二匹の蝶を召喚して、彼等に指示を飛ばす。
「とりあえず、囮作戦で〜」
 そう言って、霊祠は懐から小瓶を取り出した。
 中に入っているのは『赤ワインとオレンジの媚薬』だ。
 もしものときの為、調合して常備しているアイテムのひとつ。
 風の魔法に乗せて、この媚薬を振りまけば、
 標的の意識は、一時的に霊祠だけに向く。まさに、囮だ。
 大量のスタッカートを一手に背負う、言葉以上にそれは危険な行為。
 走って逃げてはすぐさま追いつかれてしまうからと、
 霊祠は自身の身体を風で包み、風に乗って飛ぶように逃げ回る。
 媚薬の効果が切れぬように、逃げながらも媚薬を振りまいて。
 だが、持ってきた媚薬は僅かだ。なくなる前に始末せねばならない。
 始末を担当するのは慎の役目。
 霊祠に意識が向いているスタッカートを追いかけながら、
 後ろからバッサバッサと右手で裂いていく。
 慎の右手が裂くのは、スタッカートの尻針。
 刺すという概念を切り取ってしまえば、毒なんぞ怖くも何ともない。
 要するに、ただの針を尻につけた虫と化すのだ。無力化に等しい。
 更に、二匹の蝶が毒の燐粉を撒き散らしながら飛んでくれている為、
 スタッカートの動きはガクンと鈍くなる。尻針を狙うのは容易い。
 囮になって逃げ回る霊祠と、それを追いかけながら処理していく慎。
 躍動的な二人と異なり、千早は静かに遠くから攻撃を仕掛ける。
 慎によって無力化されたスタッカートを見極め、
 そのスタッカートのみにヒットするよう、光の針を飛ばしていく。
 無力化されていないスタッカートにヒットしてしまえば、
 毒針によって一網打尽にされてしまう可能性が高い為、見極めは重要。
 何度も慎と一緒にハント活動している千早にとっては、見極めるなんぞ容易いことだけれど。
 そうこうするうち、霊祠が持ってきた媚薬が底を突く。
 そこでようやく振り返って状況を確認する霊祠。
 後を追ってくるスタッカートは一匹もいない。
 全てが、慎と千早の手によって始末されていた。
「おお〜ぅ。御見事です〜」
 パチパチと拍手しながら、慎と千早の傍へと駆け寄る霊祠。
 ゼェハァと息を切らしながらも、慎は満足そうに笑った。
 そんな慎と、パチンと手を合わせて微笑む千早。
 千早が放った光の針に刺され、地面でピクピクと痙攣している大量のスタッカート。
 しばらくは動けないだろうけれど、時間が経てば光の針は消えてしまう。
 そうなれば、また動いて襲い掛かってくることだろう。
 慎によって刺すという概念が切り取られている為、
 攻撃といっても、たかが知れているだろうけれど、それでも、この数だ。
 一斉に飛び掛ってこられては面倒だ。さて、では、どうするのかというと。
「はいは〜い。みなさん、ごはんですよぅ〜。虫ですけども〜」
 パンパンと手を叩きながら言った霊祠。
 その言葉に応じるかのように、地面から次々と手が出現する。
 逃げながら、霊祠は魔界に通ずる魔方陣を描いていた。
 巨大な魔方陣だ。ヌヌヌッと出てくる手は、ゾンビ達のもの。
「うわ。すげぇ。ちょっと気持ち悪いなぁ」
 ケラケラ笑いながら、慎も加勢する。
 ゾンビ達によって、魔界へと引きずり込まれていくスタッカート。
 魔方陣の外で痙攣しているスタッカートもいる。
 それらを始末するのが、慎の役目。
 黒き獣に指示して、バクバクと食べてもらうのだ。
 こっちはこっちで、エサのようなもの。
 霊祠と慎が後始末している間、千早は治療。
 スタッカートの毒牙にかかったヒヨリを、構築したウィルスで治療する。
 ウィルスは、悪影響を及ぼすものだと思われがちだけれど、
 治療に使えるウィルスも中にはあるのだ。
 治癒魔法と合成させれば、かなりの効果が期待できる。
 けれど、ヒヨリの傷が癒えることはなかった。
 何度試しても、紫色に変色したヒヨリの手が元に戻らない。
 もしかして時間が経ちすぎてしまったのだろうか。
 ならば、すぐにでもヒヨリを抱えて学校に戻らねば。
 保健室に運び、Jに診てもらうしか。
 慌ててヒヨリを担ごうとした千早。
 けれど、ヒヨリは笑ってそれを遠慮した。
「……どうしてですか。急がないと……」
 不安そうに言った千早。
 ヒヨリはクスクス笑いながら、変色した手をフルフルと振った。
 すると、どういうことか。元に戻ったではないか。何事もなかったかのように。

 *

「先生、なかなか良い演技だったよ!」
 パシンパシンとヒヨリの背中を叩いて笑う慎。
 痛むフリも、刺されたというのも、全てが嘘、演技だと理解った結果。
 慎は、その演技力に感心して笑い、ヒヨリを褒める。
 一方、霊祠と千早は無言でスタスタと先を歩く。
「嘘は駄目ですよねぃ」
「……同感です」
 どうやら、二人は怒っているようだ。
 無事だったのは何よりだけれど、嘘をつかれては。
 ヒヨリの目的。真の目的は、三人の能力を探ることだった。
 SSハントなんて、まだ早いと他の教員には怒られてしまうかもしれないけれど。
 モノは試しだ。三人が、どこまで対応できるか見てみたかった。
 自分がいることで安心されてば試すもクソもないので、
 戦闘不能である演技をし、自ら戦線離脱したと。そういうことだ。
 悪戯であることは最後まで明かさなかった為、
 三人にとっては、ぶっつけ本番になった。
 それにしては見事だったではないか。
 まるで、事前に打ち合わせしていたかのように。
(……って、あれ? もしかして……)
 おや? と首を傾げたヒヨリ。
 先を歩く三人の背中が、笑っているかのように見えた。
 そう。その、まさかである。
 仕掛けたつもりが、逆に仕掛けられ。全ては見破られていたと。
 霊祠と千早と慎は、嬉しそうに笑いながらハイタッチして "成功" を喜んだ。
 悪戯ばっかりしてるから、仕返しされるんですよ。先生。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7888 / 桂・千早 / 11歳 / 何でも屋
 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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