■14人目の時守候補■
藤森イズノ |
【7903】【神白・氷歌】【学生】 |
真っ暗な空間に、ポツンとある白い椅子。
椅子の前でピタリと立ち止まれば、どこからか声が聞こえた。
「いらっしゃい。じゃあ、座って」
その声に促されるがまま、椅子に座る。
闇の中から聞こえてくる声。その声の主は、幾つか尋ねた。
偽ることなく、その一つ一つに答えを返していく。
無意味だと思った。嘘をついても、すぐにバレてしまうと理解していた。
だから、ありのままを伝える。何ひとつ、偽らず。
鐘を鳴らさねばと思うが故に。
「−……!」
ハッと我に返れば、目の前には銀色の時計台。
夢じゃない。夢を見ていたわけじゃないんだ。
思い返していたんだ。過去を、思い返していた。
けれど、この心に痞える違和感は何だろう。
自分の存在さえも、酷く曖昧に思えてしまう。
けれど、覚える違和感に戸惑う暇なんて、与えられない。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
肩にポンと手を乗せ、微笑んで言った男。
あなたは誰ですか? と、そう疑問に思うことはなかった。
何故って、知っているから。何もかもを。
もちろん、これから何処へ向かうのかも理解している。
鐘を。鐘を鳴らさなくちゃ。
その為に必要な経験は、全て網羅せねば。
そうさ。自分は、14人目の時守(トキモリ)候補。
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14人目の時守候補
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真っ暗な空間に、ポツンとある白い椅子。
椅子の前でピタリと立ち止まれば、どこからか声が聞こえた。
「いらっしゃい。じゃあ、座って」
その声に促されるがまま、椅子に座る。
闇の中から聞こえてくる声。その声の主は、幾つか尋ねた。
偽ることなく、その一つ一つに答えを返していく。
無意味だと思った。嘘をついても、すぐにバレてしまうと理解していた。
だから、ありのままを伝える。何ひとつ、偽らず。
鐘を鳴らさねばと思うが故に。
「−……!」
ハッと我に返れば、目の前には銀色の時計台。
夢じゃない。夢を見ていたわけじゃないんだ。
思い返していたんだ。過去を、思い返していた。
けれど、この心に痞える違和感は何だろう。
自分の存在さえも、酷く曖昧に思えてしまう。
けれど、覚える違和感に戸惑う暇なんて、与えられない。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
肩にポンと手を乗せ、微笑んで言った男。
あなたは誰ですか? と、そう疑問に思うことはなかった。
何故って、知っているから。何もかもを。
もちろん、これから何処へ向かうのかも理解している。
鐘を。鐘を鳴らさなくちゃ。
その為に必要な経験は、全て網羅せねば。
そうさ。自分は、14人目の時守(トキモリ)候補。
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「じゃあ、とりあえず名前から教えて貰おうかな」
淡く微笑み、言った男。手元には書類らしきもの。
その笑顔を見やって、私は肩を竦めた。だってムカついたんだもん。
「知ってるくせに、何で聞くの? 意味わかんない」
そうよ。知ってたのよ。男は知っていたの。私の名前。
っていうか、名前だけじゃなくて全部知ってたのよ。
それなのに、どうして聞いたのかしら。本当、馬鹿みたい。
何かね、一方的に忘れられたような気がしたのかな。ムカッとした。
私は覚えているのに。あなたの名前は、ヒヨリ。歳は26歳。
いつも黒い帽子を被っていて、好物は林檎。この空間を管理している代表者。
でしょ? あってるでしょ? 違うはずがないもの。
だって、覚えてたから。私は、覚えていたから。
不愉快そうにしている私に、ヒヨリは言った。
笑いながら、またムカつくことを言った。
「じゃあ、年齢は?」
「……。何? ボケたの?」
「ボケてない。確認だよ、確認」
「ほんっと、意味わかんない。それも知ってるでしょ?」
「さぁ。何のことだか」
「本気で言ってんの? マジで忘れてんの?」
「う〜ん。そうみたいだね」
「ありえないんだけど。マジ、ありえない」
腕を組んで溜息を吐き落とす。ご立腹な私の姿を見て、ヒヨリは笑った。
冗談だよって肩を竦めながら。そういうところも、相変わらずみたいね。
人を茶化すような真似。ムカつくのよ、あんたのそういうところ。
ま、いいんだけど。いちいちキレてたらキリがないしね。
ふてくされたりしたら、それこそ、あんたの思うツボだし。
そういう顔が見たいんだもんね。あんたは。
人の困ってる顔が見たいのよね。悪趣味なんだから、ほんっと。
ヤレヤレと肩を竦めて苦笑すると、ヒヨリは書類に何かを書きとめながら言った。
「じゃ、最後の質問。お前にとって "時間" って何?」
「はぁ……?」
「聞こえなかった? 時間について、お前の意見を聞かせてくれって言ってる」
「聞こえてるし。何、その質問。ヤバいんだけど」
「ヤバい? 何が?」
「意味不明すぎてヤバいって言ってんの」
「はいはい。で? どう思う?」
「…………」
時間。時間、ねぇ……。そう訊かれると困るものね。
そうねぇ……勝手にやって来て、勝手に過ぎ去っていくもの。かな。
気にしたこともないわね。そこにあるのが普通だから。見えはしないけど。
確かに存在しているものだし、いつまでも変わらないものでもあると思う。
まぁ、興味はないわね。過去にも未来にも。
今さえあれば、ほかには何も要らないから。私は。
今が楽しければ、それでイイの。楽しければ、何でもイイ。
振り返ったりすることはないわ。楽しかったなぁ〜って思い返したりだとか。
そういうことはしないの。楽しかった、って時点で過去だから。興味ないのよ。
刹那主義? そういうのって駄目? いけないことなのかな?
ま、良くても悪くでも、どっちでもイイんだけどね。
時間ってものに、興味がないわ。私は。
ポン、と肩を叩かれて、ゆっくりと振り返る氷歌。
振り返った先では、ヒヨリがニコリと微笑んでいた。
漆黒の空間の中心部。そこに聳える、銀色の時計台。
もう、何度足を運んだか、わからない。
この日も、氷歌は時計台を見上げて思い返していた。
動くことのない時計台の針を、じっと見つめながら。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
そう言って、ヒヨリは氷歌の手を引いて歩き出す。
どこに? そう尋ねることはなかった。
理解っているから。聞かされていたから。
救わねばならぬ時があるのね。今宵も。
*
楽しければイイ。楽しければ、他には何にも要らない。
美味しいものを食べたり? 恋をしたり? 違う違う。そういうんじゃないの。
そんなの面白くも何ともないわ。ちっとも笑えない。寒いだけよ。
私の言う "楽しい" っていうのはね、苦悶の表情。これよ。
どうしようどうしようって悩む顔だとか、
ダマされてることに気付いていない神妙な顔だとか。
そういう顔を見てるときが、一番楽しいの。
他人の不幸は蜜の味〜とか言うけどね。本当、そのとおりだと思うわ。
美味しいったらありゃしない。クセになっちゃうのよ。依存ね。
もっともっとって欲張ってしまうの。もっと苦しめばいいって。
最終的にね、廃人と化してしまうのが一番イイわ。
呼吸はするけど、何も考えられない。人形と化してしまう。
その最終形態が一番素敵。一番カワイイ。一番好き。
追い詰められた挙句、自ら命を絶ってしまうパターンが多いのよ。
それ、一番つまんないのよね。終わらせちゃうんだもの。
私は、もっと楽しみたいのに。勝手に終わらせちゃうんだもの。
何様よって感じでしょ? 私を楽しませてナンボなのに、ねぇ?
悪趣味? あははっ。そうかなぁ。無邪気でイイと思うんだけど。
人のこと言えないじゃないかって? やぁだ。一緒にしないでよ。
漆黒の闇の中、ぽっかりと開いた穴。時の歪み。
もしも、あのとき。そう考える者がいる限り、何度でも生まれる歪み。
歪みに巡るのは、期待と後悔。淡い期待と、惜しみなき後悔。
後悔ねぇ。ほんっと、馬鹿馬鹿しいわ。愚の骨頂よ。
過去に縛られてるから後悔なんてするのよ。
振り返ったりしなければ、後悔なんてしないのに。
馬鹿みたい。ほんっと、馬鹿みたい。何やってんのよ。
処理するこっちの身にもなってほしいわ。面倒なんだから。
誰かと会話するように、ひとりごとを呟きながら。
氷歌はクスクス笑い、歪みの前でパンと両手を合わせた。
どんなに蠢こうと暴れようと、逃がさない。完全操作。
歪みの中にある後悔もすべて、丸ごと包み込んで操作する。
氷歌の手の動きに合わせて動く歪みは、さながら操り人形のよう。
他人の後悔を踊らせて遊ぶ。これもまた悪趣味かしら。
しばらく遊んだあと、飽きた氷歌は合わせた手を離した。
すると、歪みは弾け、煙となって消えていく。
うん、まぁまぁ面白かったかな。すぐ飽きたけど。
じゃあね、さよなら。在るべき場所へ還っちゃって。
「ごくろうさま」
満足そうに笑いながら、氷歌へ拍手を送るヒヨリ。
何だかんだで、あんたと私って似てるのかもね。
悪戯好きなところとか、他人を茶化したりするところとか。
あ、嘘。今の取り消し。取り消しちゃって。
だってムカつくもの。似たくないわ。あんたなんかと。
時の番人、時守(トキモリ)
時の歪みを繕う者。それを使命と認め、全うする存在。
我等の目的は、ただ一つ。鐘を鳴らすこと。
高らかに、高らかに、響け、轟け、鐘の音。
その日まで、我等は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
その日まで、私は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
この身を持って、時への忠誠を。
― 8032.7.7
*
*
*
分厚く黒い日記帳。その最初のページ。
確かにそこに刻まれている記憶と自分の文字。
それらを指で辿りながら、氷歌は極めて謙虚な呼吸を繰り返す。
数秒間の物思いの後、懐から取り出す懐中時計。
時を刻まぬ、その時計が示す時間。
3時0分28秒。
取り戻さねばならぬ時間。取り戻そうと思えた時間。
動かぬ時計の針を見つめ、何度目とも知れぬ宣誓を心の中で呟く。
鐘が鳴るまで。再び、時が動き出す、その日まで。
唱い続けてみせるから。幾年月、果てようとも。
「…………」
懐中時計を見やりながら物思いに耽る氷歌。
馬鹿みたい。何、言っちゃってんの、私ってば。
取り戻したいだなんて、そんなこと思っちゃってさ。
後悔の一種じゃない? これって。あぁ、やだやだ。馬鹿みたい。
苦笑しながらも、氷歌は懐に懐中時計を戻した。
数日前までは呆れて、すぐさまゴミ箱に捨ててた。
でも、意味がない。結局、ゴミ箱を漁って懐に戻してしまうから。
言ってることとやってることが逆。支離滅裂な自分の心。
何やってんだか〜と笑う氷歌。そこへ、いつものコール。
「起きてるか、氷歌。仕事だよ」
扉を叩きながら言ったヒヨリ。
氷歌は日記帳を棚に戻し、扉へと向かう。
「あ〜あ。めんどくさっ」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7903 / 神白・氷歌 / 16歳 / 学生
NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
はじめまして。いらっしゃいませ。
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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