■『表の門』 有人の花壇■
桜護 龍 |
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】 |
霞谷家の大黒柱・有人の趣味の1つに庭いじり―園芸がある。園芸と言ったら草花だけ、と想像する方もおありだろうが彼は野菜類や果実と言った園芸から逸脱しているものも草花と一緒に育てていたりする。
「異常気象が激しいから庭にも影響が出るとは思っていたが・・・・」
「ここまでだとちょっと引くよね」
有人とブレッシングが立ち呆けて眺めているのは自分たちの庭。何故なら今年の例年になく激しい異常気象のせいでどの植物たちも大量に繁殖し、庭中を埋め尽くしているからだ。このままだと近くの山から食料を求めに動物が下りてきそうで怖い。
「近所に分けても余るだろうな」
「『お譲りします』とでも看板つくる?」
その方が『処分』と言う最悪なことをしなくてもいいし、他のところで喜んでもらえるならその方がいい、と言うことで霞谷の壁には『うちの草花、畑のものをお譲りします』と言う看板を貼る事となった。
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有人の花壇〜花咲く庭の鍋パーティ〜
桜も五分咲きとメディアが謳う今、学生たちは花も団子も楽しめる春休みの真っ最中である。
春休みといえば宿題がないことがほとんどで、まさに遊びつくすのには絶好の2週間なのだ。亮吾もまた、せっかくの休みであるし、ここ最近は学年末試験や卒業式の準備等で相手をしてやれなかった幼く、珍妙な友人に会いに行くために家を出るのであった。
「亮吾ー!!」
「佐吉…」
霞谷家に着いて、やはりと言うべきか一番最初に佐吉の熱い歓迎を受けた。
数少ない友人に会えない日々は精神年齢幼稚園児には相当耐えがたかったのだろうけど、いきなりその硬い焼き物ボディで顔面にタックル―おそらく本人は抱きついているつもりなのだろうけど―はご勘弁。かなり痛い、擦傷くらい数箇所できてるんじゃないだろうか。
「亮吾、亮吾ー!寂しかったぞ、このヤロー!学校休みになるのしけんからなげぇよ!しけんが終わるまで亮吾に電話しちゃいけねぇって有人もブレスもしつこく言うから俺、ちゃんと待ってたんだぞー」
「うん、それはよく我慢したな、佐吉」
そこはちゃんと褒めてやらなければ。『待つ』というのが苦手な佐吉が電話の前で保護者たちに釘を指されたことと、かけたい衝動と葛藤する様が目に浮かぶ。
「佐吉、いつまでも玄関先では鈴城君に失礼だろ。中に入ってもらいなさい」
「有人ー、それなら庭に亮吾連れてっていいかー?」
「ああ、そうだな。お茶を持っていく、先に行くといい」
有人が家の中には入っていくと、佐吉を頭に乗せた亮吾は勝手知ったる友人の家なので、慣れたように霞谷家名物・大繁殖庭に向かっていく。
「今は梅が満開で、桜もぼちぼち咲いてきてるぞ」
「あー、なんかテレビで言ってたなぁ。でも、花見にはまだ早いんだよな」
「うちも流石にそこまでは咲いてないぞー。今ははなぶえだから蕾が開いてきてる途中なんだってさー」
「はなぶえ?佐吉、それって――」
佐吉の微妙な間違いを正してやろうと思った亮吾の言葉を遮ったのは一陣の風。春特有の寒さの中に暖かさのあるそれとはまた違ったその風が吹いたのは本当に一瞬。けれども、目を覆うほどの勢いは十分にあったそれが止んだ時、現れたのは一つの人影。
「おっ!」
「げっ」
「鼻笛じゃなくて、花冷えだぞ。三歳児」
天駆ける天狗の少年・天波慎霰の姿が見えるなり、佐吉は喜色満面、亮吾は心底嫌そうな顔と、まったく正反対の表情を浮かべた。
「慎霰…、何でお前がここにいるんだよ」
「暇だったからな、佐吉で遊ぼうと思って来たけど、意外なのもいたもんだ」
「亮吾ー?亮吾も慎霰と友達かー?」
佐吉のはしゃぎいようといい、この問いかけといい、佐吉はいつの間に知り合ったのだろう慎霰と友達になったようだ。自分も友達、というカテゴリーに彼を入れてるのだろうけどあまり暇を持て余している慎霰と関わりを持つのは抵抗がある。
(いっつもいっつもあいつの気まぐれに付き合わされて振り回されるもんなぁ。悪いやつじゃないんだけど、そこだけはかんべん。佐吉は振り回されてないのか?いやいや、世間知らずで人懐こい子供だし振り回されるってことに気づいてないだけかも)
思いにふけっている間に頭の重みがなくなったことに気がついた亮吾がふと慎霰の方を見るといつのまにか佐吉が彼の方に移動していったらしく、2人で庭の木々を見ながら話している。自然界の長とも言える天狗族の慎霰だ、この自然豊かな庭を見て何か思うところがあるのかもしれない。
「鈴城ー?」
「なんだよ」
「この異常に増えちまったやつら、ここの連中がどうしてるかお前、知ってるか?」
「あー、それならご近所の人にもらって貰ったりしてるはずだ。俺も前に林檎とか貰って帰ったし」
テレビの報道にのる農家のように、実りすぎてしまったモノを処分するのかと思ったのだろうか。生憎、この住人はこの植物たちでさえ家族のようなものであるらしいからそれはまず無いだろう。
「そうか」
「うん、お前が心配するような人たちじゃねぇよ」
「ならいいや。さぁて佐吉、鈴城、何して退屈紛らわす?」
「もうすぐ有人来るぞー、茶ぁ飲んでから遊ぼー、慎霰」
そういえばお茶を持って後から行く、と玄関で有人は言っていた。時間的にもうそろそろ来るのだろうが、一人増えたのでお茶の数が足りなくなったりしないだろうか。
そんな亮吾の心配は杞憂であったようで、家のほうから歩いてくるのを確認できた有人やブレッシングを見つけ、手元を見たらきっちり慎霰の分もあった。
窓から飛んできた慎霰の姿でも見つけたのかも、とそこは納得しつつ、手を振るブレッシングに振り返してみる。
「リョーゴくん、久しぶり」
「おひさしぶりです、ブレスさん。お茶の用意手伝いますか?」
「いーよいーよ、別に。リョーゴくんお客様だしねー、佐吉でもいじっててー」
片手をパタパタして笑うブレッシングにちょっと悪い気もするがそこは家人の申し出を受けておもてなしを受けよう。
「その代わりといってはなんだけど、今日はあっちの子、シンザンくんだっけ?あの子もいるし、あとで鍋でもしようかと思うんだけどお茶飲んだら畑のほうで材料採集してきてもらえる?」
「それくらいならお安い御用ですよ」
慎霰は有人と話しているらしく、そちらをちらっと見てみるとあいも変わらずさわやか笑顔で穏やかに話している有人となにやら不機嫌そうな慎霰。
慎霰も相変わらず年上の同性が苦手なんだな、と思いつつも、相手してくれているブレッシングを無視するわけにはいかず、お茶をするまで彼のほうにはいけなかった。
有人お手製のおいしいケーキを食べ、小休止したあと佐吉の案内で慎霰と共にやってきたのは白菜畑。白菜と豚肉の酒蒸し鍋を作るらしいので主役の白菜はたんと採っていかなければならない。
「ついでに隣りの畑の大根もなー」
「ポン酢にはかかせないからな」
佐吉を地面にゆっくりと下ろしてやり、有人から借りた軍手をはめて畑に入る。
「俺、大根いくわ」
「わかった。じゃあ俺は白菜だな。よし、5人で鍋なら2玉…いや、3玉はいるかな。あ、でも佐吉は食べるっつてもあの体だしあんまいらないか。じゃあやっぱ2玉かなー」
畑の中でもみずみずしそうな白菜の前でいくつくらい採っていいのか唸る亮吾。確か慎霰が知り合いの宿屋や屋台をやっている者に持っていくと言っていたのも思い出し、ついでにもう数玉とらねばならなくなった。
「おい、慎霰。どのくらい配りにいくんだよ……お前ら何笑ってんだ?」
いくつ採るのか聞きたかったので大根畑を振り返ってみると、爆笑している慎霰と佐吉。こっちの話なんてきっと聞いてない。
「鈴城、お前、動きやすくねぇ?」
「は?まだ1玉もとってないからそんなのわかんねぇよ。お前は何玉いるんだよ、それに答えろって」
「とりあえず5玉かな」
「5玉な。じゃあ、やっぱり鍋用は2玉にして、お前が5玉だから7玉か…リヤカー持ってきて正解だったな」
「鈴城鈴城」
「5玉だろ?わかったって。お前も大根2、3本とっとと引っこ抜いて白菜採るの手伝えよ」
「面倒だもんな、大根より白菜の収穫は。んでさ、お前まだ気づかないの?佐吉、笑いすぎて割れそうなんだけど」
「さっきからなんだよ」
「自分の身に着けてるもの、なーんだ」
大根の間で笑い転げている佐吉に、にやにやとしてこちらを見てくる慎霰。
なんだかすごく嫌な予感がする。
恐る恐る自分の今の姿を見るべく、腕を上げてみたり、足先へ目線を下げてみたりして、亮吾は盛大にため息をついた。
(やられた…)
自分の今の格好は一重の着物にもんぺ。まさしく昔の農民スタイルといったところだろうか。
「農作業がはかどる格好にしてくれてありがとよ」
「どういたしまして」
もうこんないじられ方いつものことだ。肉を買いに行っているブレッシングが戻ってくる前までに白菜をとってしまわなければならない。
「野菜のことは有人さんみたいによくわかんないけど、美味そうなやつ7玉、頑張って刈るぞー」
もんぺに鎌と、とっても農民的な装備で亮吾は再び気合を入れた。
白菜と大根を採り終えたころ、近所のお肉屋さんからブレッシングも帰ってきており、早速桜…は早かったので梅の下に緋毛氈を敷いて、携帯ガスコンロで鍋作り。
慎霰は食事前におすそ分けに行ってくると行ってしまったので、自分は佐吉を膝に乗せ、ブレッシングと共に酒蒸し鍋作り。
「入れる酒って料理酒ですか?」
「んーん、やっぱここは美味しいの入れとかないとねー」
そういってブレッシングが取り出したのはたまの光と書かれた一升瓶。
口を開けてだばだばと白菜と豚肉を敷き詰めた鍋の中に勢いよくいれていく。
「これ、濃厚だけど甘口が好きな僕としてはかなりお薦めなんだよね。辛口だとしぶめになっちゃうから佐吉食べれなくなるし」
「俺も渋いのはちょっとkuお留守番サービスに接続します」
「リョーゴくん?どこに接続したって?」
いきなり変な事を口走った亮吾に、もしかしてこれかとブレッシングはたまの光を見つめてみたり。そういえば以前も酒盛りのにおいだけで酷い良い方をしていたような覚えがある。『酒』蒸しは止めておけばよかったのかもしれない。
「なんだ鈴城、匂いだけでそれかよ。情けねーの」
「うるへー、平気だっての」
「ちょ、亮吾ストップ!」
酒気にやられていないと帰ってきた慎霰に見せようと立ち上がる亮吾だが膝に佐吉を乗せていたのをすっかり酒気で頭から抜けていたため、膝から佐吉が転がり落ちる。
結果、焼き物な佐吉は地面とお友達になり、割れるわけで――
「……ごめん、佐吉」
『気にすんなー』
「すげ、欠片がしゃべってら」
「こんなん出ました」
反省する亮吾と、割れても平気な佐吉を面白そうに見ている慎霰の間をひょいと入ってブレッシングが回収したのは佐吉の中から出てきたもの。
「リョーゴくんに必要なものってことかな、明日くらいにさ」
美味しい酒蒸し鍋はほどほどに。
佐吉から出てきた二日酔いの薬にお世話にならないようにね。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7266/鈴城・亮吾/14歳/半分人間半分精霊の中学生】
【1928/天波・慎霰/15歳/天狗・高校生】
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■ ライター通信 ■
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鈴城亮吾様
お久しぶりです
納品が遅くなったばかりか、こちらからお伝えした日にちに納品することができず、真に申し訳ありませんでした。
多大なご迷惑をおかけいたしましたこと深く謝罪いたします。
ご迷惑をおかけした分、内容に力を尽くしましたので、お気に召していただけたら幸いです。
本当に申し訳ありませんでした。
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