■キオクアヤメ■
藤森イズノ |
【7888】【桂・千早】【何でも屋】 |
最後の悪足掻き。追い詰められて、なおも抵抗。
諦めない、その姿勢は立派だと思う。
足掻いても、どうにもならないのに。
あと一発、トドメを打ち込めば、それで終わり。
理解っているはずなんだ。敵も、そこまで馬鹿じゃない。
それでも歯向かう、その姿勢に感心してしまったのか。
最後の一撃を躊躇った、僅かな隙間。
見逃すまいと、標的は足掻いた。
「―!」
硬直してしまう身体、凍りつく心。
目に映る懐かしい姿に……時が止まった。
あぁ、立派だ。何て効果的な最後の悪足掻き。
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キオクアヤメ
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最後の悪足掻き。追い詰められて、なおも抵抗。
諦めない、その姿勢は立派だと思う。
足掻いても、どうにもならないのに。
あと一発、トドメを打ち込めば、それで終わり。
理解っているはずなんだ。敵も、そこまで馬鹿じゃない。
それでも歯向かう、その姿勢に感心してしまったのか。
最後の一撃を躊躇った、僅かな隙間。
見逃すまいと、標的は足掻いた。
「―!」
硬直してしまう身体、凍りつく心。
目に映る懐かしい姿に……時が止まった。
あぁ、立派だ。何て効果的な最後の悪足掻き。
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決死の抵抗、背水の陣。
もはや、どうすることもできないと悟るには十分だった。
千早によって追い詰められたスタッカートに勝機は皆無。
それを理解できぬほど低脳じゃない。
このままではヤラれてしまう。
そう悟ったからこそ、スタッカートは足掻いた。
残り僅かな魔力を全て使って、姿形を変えたのだ。
千早の意識、記憶を探り、効果的であろう人物へと。
スタッカートは、千早にとって、かけがえのない人物へ姿を変えた。
世界に一人しかいない、もう一人の自分。誰よりも大切な存在。
その人物は小柄だけれど、どこか華やかで。
黙っていても人を引き寄せる不思議な魅力を持つ。
だからこそ、厄介なことに巻き込まれたりもする。
女性絡みの面倒事が多いが、それは彼の性格のせい。
甘え上手な彼は、女性の家を転々とする。
本人に "付き合っている" という感覚はない。
彼にとって女性とは、拠り所でしかない。
心の、じゃなくて。体の、拠り所。
心を委ねることはしない。絶対に。
上手に甘えて、体を委ねて微笑むだけ。
女性の心をくすぐる、そのツボを彼は心得ている。
普段は、我侭を言わない。良い子を演じてみせる。
そうすれば、いずれ "大きな我侭" が許されるようになる。
普段おとなしくしている分、時々の我侭は効果的。
女性は誰しも、母性本能というものを持ち合わせている。
私がいなきゃ駄目なんだから。その状況に幸せを覚える女性は意外と多い。
全員が全員、そういうタイプではないことも彼は知っている。
だから、選ぶ。
良い関係を続けていけそうな女性にしか関わらない。
まぁ、そんなことばかりを続けていては、敵も出てくる。
女性のモトカレだったりだとか、関係を切られた女性本人だとか。
けれど、どんな状況になっても彼は焦らない。
そればかりか、そんな状況すらも楽しむ。
見た目こそ可愛い子供だけれど、かなりの策士。
仕事柄、演技力に長けていることも利点のひとつ。
何だか危なっかしくて目が離せない。
千早にとって彼は、そういう存在。
大切な存在の姿そのままになったスタッカート。
千早は、しばらくスタッカートを見つめて思い返していた。
こうして向かい合うと、色んなことを思い出す。
本人ではないことは理解っているのに。
だが、このまま見つめ合っているわけにもいかない。
まさか握手して仲直りなんて、出来るはずもない。
大切な人、姿はそのもの。
当然、傷付けたくないと思う。
戦いたくない相手であることに違いはない。
けれど、心が惑うことはない。
所詮はニセモノ。本人じゃない。
どんなに姿形を似せようとも、本人には遠く及ばない。
あの独特の、護らねばと思わせる雰囲気までも表現できていたなら、
もしかすると、動揺させられてしまったかもしれないけれど。
そう。どうせコピーするのなら、真似するのなら、
完璧なまでに表現するくらいじゃないと意味がないんです。
精度は、僕が瞬きを忘れた時間。
僕が瞬きを忘れた時間。どのくらいか理解りますか?
1秒です。たった1秒。
あなたの、その最後の悪足掻きの精度は "1" なんですよ。
少しだけ不憫です。
そんな拙い手段を最後に披露せざるをえなかったあなたが不憫。
死して消えたところで、また魔物に生まれ変わってしまうんでしょうけれど。
今度は、もっと良い手段を得られると良いですね。
僕を焦らせ戸惑わせる、そんな奥の手を使えたら良いですね。
まぁ、無理だとは思いますけど。だって、雑魚でしょう?
その程度の技しか身に付けられない雑魚中の雑魚でしょう? あなたは。
死ってますか? 転生には絶対のルールがあるんですよ。
猫なら猫に、人間なら人間に、魔物ならは魔物にしか生まれ変われないんです。
性格や環境も、結局は死ぬ前と同等レベルになってしまうんです。
貧乏人が富豪に生まれ変わるなんてことは、ありえないんですよ。
誰が決めたのかって? さぁ。多分、神様か何かじゃないですか?
まぁ、どこかで読んだ転生論の受け売りなんですけど。
信憑性はないと思いますけど、僕は同意できるんですよ、これ。
だからこそ覚えているんだと思うんです。いつまでも、ずっと。
千早は、淡く微笑んで躊躇うことなくスタッカートの首を落とした。
煙となって消えていく、大切な人。
煙となって消えていく、不出来なニセモノ。
千早は襟を整え、小さな声で呟いた。
ひとつ、言い忘れたことがあって。
「彼は、もっと格好良いですよ」
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7888 / 桂・千早 / 11歳 / 何でも屋
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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