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■主役抜擢■

藤森イズノ
【6408】【月代・慎】【退魔師・タレント】
 春の学校行事、スプリングフェスタ。
 今、校内は準備で大忙し。生徒も先生もバタバタと走り回っている。
 フェス開催まで、夜間のハント活動は通常通りだけれど、昼間の授業はお休み。
 昼間は、全員が協力してフェス準備に打ち込んでいる状態だ。
 皆で一緒に、お祭りを成功させようと一致団結する、
 この雰囲気は嫌いじゃない。というか寧ろ好き。
 うん、好きなんだけど……。

 屋上で一人、ふぅと溜息を吐き落とす。
 手には台本。演劇の台本。クラス毎に当日披露する演劇。その台本。
 まさかね。まさか、自分が主役に抜擢されるだなんて思ってなくて。
 でも、こうして一人で合間を縫って本読みしてるあたり、ちょっとノリ気だったりして。
 だって、好きなんだもん。この作品、子供の頃から、ずっと好きなんだ。
 主役抜擢

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 春の学校行事、スプリングフェスタ。
 今、校内は準備で大忙し。生徒も先生もバタバタと走り回っている。
 フェス開催まで、夜間のハント活動は通常通りだけれど、昼間の授業はお休み。
 昼間は、全員が協力してフェス準備に打ち込んでいる状態だ。
 皆で一緒に、お祭りを成功させようと一致団結する、
 この雰囲気は嫌いじゃない。というか寧ろ好き。
 うん、好きなんだけど……。

 屋上で一人、ふぅと溜息を吐き落とす。
 手には台本。演劇の台本。クラス毎に当日披露する演劇。その台本。
 まさかね。まさか、自分が主役に抜擢されるだなんて思ってなくて。
 でも、こうして一人で合間を縫って本読みしてるあたり、ちょっとノリ気だったりして。
 だって、好きなんだもん。この作品、子供の頃から、ずっと好きなんだ。

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 慎が在籍しているクラスで演ることになったのは "カインとアベル"
 有名な神話のひとつだ。嘘と殺人がテーマになっている。
 その主役である "カイン" に抜擢されたのが慎。
 カインは、農耕を行う男。割と生真面目な性格だ。
 そのカインには、アベルという弟がいる。
 アベルは羊飼いで、自由奔放な性格。
 物語は、この兄弟を軸として展開されていく。
 兄弟は仲が良く、互いに互いを尊敬していた。
 農作物を育て作り上げる兄は、アベルにとって神そのものだったし、
 羊を自在に操る弟は、カインにとって神も同然なる存在だった。
 だが、とあることをキッカケに、二人の絆は崩壊してしまう。
 兄弟が住まう世界を統治する存在に、ヤハウェなる者がいた。
 ヤハウェが治める世界に生きる者は、彼女に供物を捧げねばならない。
 カインは育てた農作物を、アベルは育てた羊をヤハウェに捧げる。
 ある日のこと、ヤハウェの機嫌が悪かった。
 彼女が不機嫌になるのは珍しいことではなかった。
 気まぐれな性格であるがゆえ、仕方のないことでもあった。
 そんな日に、カインとアベルは同時に供物を捧げる。
 いつもなら何事もなく終了する供物の時間。
 そこで事件は起こる。
 不機嫌だったヤハウェの気まぐれが炸裂してしまったのだ。
 アベルが捧げた供物を喜び、カインが捧げた供物をゴミ扱いした。
 いつもの気まぐれだと納得することは出来なかった。
 一生懸命育てたものをゴミ扱いされたのだ。当然ではあった。
 加えて、兄弟は揃ってヤハウェに好意を寄せていた。
 そのこともあり、カインは嫉妬する。
 ヤハウェに喜ばれたアベルを憎いと思った。
 その結果、カインはアベルを殺めてしまう。
 ヤハウェが暮らす神殿から、家へと戻る、その途中で。
 嬉しそうに笑うアベルの背中に、カインは何度もナイフを突き立てた。
 弟を殺めてしまったあとも、カインはいつもどおりの生活を続ける。
 だが、ある日、カインはヤハウェに呼び出される。
 動揺する素振りも見せず、カインは呼びつけに応じた。
 呼びつけの内容は、アベルの行方を問うものだった。
 ヤハウェの問いに、カインは答えた。
 存じません、と。
 この時、カインが発した嘘こそが、人類初の嘘であったとされている。
 結局、弟を殺めたことはバレてしまい、カインは遠い地へと追放されてしまう。
 愛しい人、ヤハウェの蔑む眼差しに涙と微笑みを零しながら。
 とまぁ、そんな感じの演目だ。
 で、アベル役は誰がやるのかというと、斉賀が担当。
 ヤハウェは、満場一致で木ノ下が担当することになった。
 キャスティングはすんなりと済み、今、Bクラスの生徒は練習に打ち込んでいる。

「このような愚物を捧げるとは何事か。不愉快だ!」
 捧げられた供物の農作物を、床に叩きつけて怒りを露わにする木ノ下。
 ゴミ扱いされた自身の供物へ駆け寄り拾い上げる慎。
「おぬしの供物、しかと受け取った」
 満足そうに微笑み、捧げられた供物の羊を撫でやる木ノ下。
 嬉しそうな木ノ下の横顔に、慎は切なそうに俯いた。
 木ノ下を満足させることが出来たことに、大喜びする斉賀。
「アリガタキシアワセニゴザイマス」
 ……大喜びする斉賀。……大喜び。大喜び……?
 しばしの沈黙の後、木ノ下は大きな溜息を落として言った。
「ちょっと。それのどこが大喜びなわけ?」
 木ノ下の言葉に、斉賀は眉を寄せてポリポリと頭を掻いた。
 見事なまでの棒読み。斉賀に演技力は皆無である。
 無表情で幸せだ何だと言ったところで説得力もクソもない。
 カインとアベルの関係に亀裂が走る重要なシーンだというのに。
 このシーンに限らず、斉賀の大根役者っぷりは炸裂しっぱなし。
 何とかここまで進めたものの、さすがに限界だ。
 休憩しましょうと提案し、羽織っていたショールを外した木ノ下。
 何がいけないのか、さっぱり理解らない斉賀はズーンとヘコんでいる。
 そんな斉賀に駆け寄り、慎はアドバイスしていく。
 演じるっていう感覚を捨てたほうがいいかもしれないだとか、
 木ノ下を彼女だと思ってみるといいかもしれないだとか。
 プロの役者である慎のアドバイスは為になる。
 なかなか思うように進まない練習にも、慎は笑顔。
 一人で演技するわけじゃなく、みんなで一緒に作り上げる作品。
 仕事以外で、こんなことをする機会なんて滅多にない。
 慎は、心から楽しんでいる。この雰囲気を、空気を、全てを。
 けれど、楽しむだけというわけにもいかない。
 プロであるゆえに、妙なこだわりも出てきてしまう。
「弘一く〜ん。さっきの照明だけど、もうちょっとさ〜」
 台本をブツブツと読んでいる斉賀の横で、慎は見上げて言った。
 照明係を担当している尾根に、注文を飛ばしていく。
 光のあたる角度だとか、アドバイスも交えながら。
 照明だけに限らず、道具やメイク、音響にも注文を飛ばす。
 少し口うるさく、細かすぎる注文かもしれないけれど、
 良いものを作りたいと思うからこそだ。
 素人意見じゃないこともあって、
 クラスメート達は、慎の注文を文句ひとつ言わず承っていく。
 主役でありつつ、現場監督のような。慎は、重要なポジションにいる。
 慎がいなかったら……と考えると恐ろしくもなる。
 休憩が終わったら、またすぐに練習再開。
 けれど、斉賀の演技は、相変わらず酷い。
「違う違う。そうじゃなくてねっ」
 笑いながら、何度もアドバイスしてあげる慎。
 斉賀は、そのアドバイスを真剣に聞く。効果は見られないけれど。
「あっははははは! 斉賀、降板の危機! まて次号!」
 ゲラゲラ笑いながら言う尾根。
 一向に改善されない演技力に、木ノ下はゲンナリ。
 果たして、演劇はうまくいくのか?
 現状を見るからには、かなり危うい。
 まぁ、雰囲気は和気藹々としていて良いようだけれど……。
 いったい、どうなることやら。本番が楽しみである。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
 NPC / 斉賀・尚 / 16歳 / HAL:生徒
 NPC / 尾根・弘一 / 16歳 / HAL:生徒
 NPC / 木ノ下・麻深 / 16歳 / HAL:生徒

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 神話大好きなので、とても楽しく紡がせて頂きました^^
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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