■Ｄ・Ａ・Ｎ　〜Ｆｉｒｓｔ〜■ 遊月 【7903】【神白・氷歌】【学生】 　自然と惹きつけられる、そんな存在だった。些か整いすぎとも言えるその顔もだけれど、雰囲気が。 　出会って、そして別れて。再び出会ったそのとき、目の前で姿が変わった。 　そんなことあるのか、と思うけれど、実際に起こったのだから仕方ない。 　そんな、初接触。 【Ｄ・Ａ・Ｎ　〜Ｆｉｒｓｔ〜】 　平日の昼間、というまっとうな学生ならば授業を受けているような時間に、神白氷歌はさびれた廃ビルにいた。 　さびれた廃ビルであるからして、人気はない。もちろん、制服姿の氷歌を見咎めるものもまた、いなかった。 　制服が示すとおり学生である氷歌がこんなところにいるのは、ひとえに学校をサボったからに他ならない。ここの屋上は最近見つけたお気に入りの場所なのだ。 　上機嫌に鼻歌など歌いながら、氷歌は軽快に先へ先へと進む。 　そうして階段を昇りきり、屋上へと続く扉を開いて――視界に映った影に眉を顰めた。 （……人がいる） 　見える景色もなかなかだし、サボるのにいい条件が揃っているとはいえ、階段しか移動手段がないビルの屋上にわざわざ来るような人物が自分以外にもいるとは思わなかった。 　しかし現に、氷歌の目には屋上に座って景色を眺めているらしい人物が映っている。 　後姿だけでは判別できないが、恐らくは氷歌と同年代の男だろう。日に透ける茶髪が、風に吹かれて揺れている。地毛だろうか、となんとなく思いながら、眺めていても仕方がないので、屋上に足を踏み入れた。 　扉が開いた音で誰かが来ただろうことは分かっているはずなのに、まるっきり無視をしているような人物だ。もともと気を遣うつもりもなかったが、ことさら無造作に近づく。 「先客がいるなんてついてないわ」 「ん？」 「ここ、私のお気に入りの場所なのに」 「へー。そりゃ悪うござんしたね、見知らぬオジョーサン？」 　言葉と共に男は顔だけを氷歌に向け、気の抜けた笑みを浮かべた。 「けどオレにとってもここはお気に入りの場所なワケだから、出てけってのは無理」 「別にそこまで言うつもりはないけど」 「そ？　んじゃ遠慮なくのんびりさせてもらいますよ、オジョーサン」 　その口調がどことなく癇に障り、氷歌は口を開く。 「その『オジョーサン』っていうのやめてよ。なんかバカにされてる気がするから」 「そーいうつもりじゃなかったんだけど、気に障ったならスミマセンね。んじゃ一応社交辞令として訊いとくけど、お名前は？」 「神白氷歌」 「ふぅん、綺麗な名前だね。うん、似合う似合う。名乗ってもらったから名乗り返すけど、オレは連。テキトーに呼んで」 「じゃあ、連って呼ぶ」 「了解、神白サン」 　そうしてそのまま何となく、氷歌は連から少し離れた所に座った。 「せっかくだし、何か話さない？　どうせ景色見る以外は寝るくらいしかできないんだし」 「別にいーけど。でも気の利いた会話とか期待してもらっても困るよ？」 　そう言って、連はやはり気の抜けた笑みを浮かべた。 ◇　◆　◇ 　とりとめのない話を続けて、結構な時間が経った。 　それだけ話していれば、全く未知の相手であったとしても、何となく人となりがわかってくるものだ。 　言葉の端々から伝わってきた連の性格というか、生き方――言葉で表すのならば『刹那主義』というのが最もしっくりくるだろう――は氷歌にとって多少なりと共感できるものだった。 　だから彼と再び会うのもいいかな、と氷歌は思い、『次』に繋がる言葉を口にしたのだ。 「もし次会うなら、夜がいいな」 「夜？」 「私夜ふらふらするの好きだから」 「夜、ねぇ」 　意味ありげに呟かれて、氷歌は連に視線を向ける。 「都合悪いとか？」 「いんや、用事とかはないけどね。……ま、いーか」 　さっさと自己完結したらしい連が、氷歌の目を見返した。 「そーいう神白さんは、夜外に出ていいワケ？　危ない目にあっても知らないよ？」 「大丈夫。っていうか今更だし」 「まあ本人がそう言うならイイけどね。じゃ、明日の夜にでも会いましょーか」 　にっと、連が笑う。それに氷歌も笑い返して、二人は別れた。 　 ◆　◇　◆ 　そうして迎えた次の日の夜。 　屋上の扉を開けた氷歌は、またも予想外の事態に眉を顰めることになった。 「誰？」 　約束していた相手がおらず、見知らぬ人間がいれば、そう問いたくもなる。 　月光を柔らかく反射する白銀の髪に、夜闇でもわかる、赤色の瞳。 　どこからどうみても連とは似ても似つかないその人物は、驚きを湛えた瞳で氷歌を見、それから何か得心がいったように頷いた。 「……成程、連は何を考えているのかと不思議に思っていましたが――こういうことでしたか」 「連の知り合い？」 　何か突発的な事態が起こってここに来れなくなった連が、それを伝えさせるために来させたのかと一瞬思った。しかし彼の言葉からするとそれも違うようだ。 　一体どういうことなのだろう、もしかして連にからかわれてるのか、などと考え始めた氷歌に、どこか儚げな雰囲気を纏うその人は微笑みを向けた。 「その、連が何も説明せずに私と会わせたようで申し訳ありません。――恐らく、貴方も何らかの能力を持っているようですから、こういう現象にも多少の耐性があるという前提でお話しさせていただきますが、」 　そこで一度言葉を切って、その人は視線を空に向けた。そしてまた氷歌を見る。 「私の名は桐と言います。連の記憶からすると、貴方は神白氷歌さん、でよろしいでしょうか」 「？　……連の記憶って？」 　つい先程まで、氷歌のことを知らない素振りだったのに、当然のように氷歌の名を口にしたこと、そしてその言い回しに疑問を感じて尋ねると、桐と名乗った人物は困ったように苦笑した。 「その、私と連は全くの別人なんですが、今は同じと言っても差支えない状態でもありまして――そうですね、外観の変化を伴う二重人格みたいなものだと思っていただければわかりやすいのではないかと思います。実際には違うのですが、理解の上ではそれでも間違いではありませんから。太陽が出ている間は連が、太陽が沈んでからは私が、こうやって存在できるのです」 「ふーん」 　俄かには信じがたい話であるが、氷歌自身にも常識では測れない能力があることだし、そういうこともあるのだろうと一応納得する。こんな奇想天外な嘘を吐く理由もないだろうし。 　それにしても、と氷歌は思う。 連もそれなりに顔が整っていたが、桐は儚げな雰囲気と相俟って、見た目からしてどことなく近寄りがたいように感じる。 　２人が現在同一人物に近しい存在だというのなら、連と関わる場合桐とも必然的に関わることになるだろうことは予想がつく。 （ちょっと苦手な感じするんだけどなー） 　柔らかに笑む桐を見ながら、そんなことを考える氷歌だった。 □■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ ■　　　登場人物（この物語に登場した人物の一覧）　　■ □■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ 【整理番号　／　ＰＣ名　／　性別　／　年齢　／　職業】 【7903／神白・氷歌(かみしろ・ひょうか)／女性／16歳／学生】 □■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ ■　　　　　　　　　ライター通信　　　　　　　　　　■ □■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ 　初めまして、神白様。ライターの遊月と申します。 　「Ｄ・Ａ・Ｎ　〜Ｆｉｒｓｔ〜」にご参加くださりありがとうございました。 　専用ＮＰＣ・連と桐、如何でしたでしょうか。 　連は色々どうでもよさそうなわりに実は何か考えてるんですよ、的な感じ、桐はそんな連に振り回され続けて早幾年、な感じの人です。 　連が神白様に共感を感じていただけるようなキャラになったかどうかちょっぴり心配ですが、とりあえずこんな感じに。 　ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。 　リテイクその他はご遠慮なく。 　それでは、本当にありがとうございました。