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■アリュカフレザ教会■

藤森イズノ
【7943】【四葉・朔】【薬師・守護者】
 異都カウンシルブレイスの西にある森。
 特に意味もなく足を運んでみたけれど……。
 とても綺麗な森だ。何というか、神秘的な雰囲気。
 まるで、何か不思議なチカラに護られているかのような。
 気のせい……だとも思えない、何とも妙な感覚。
 気付いた時には、踏み入っていた。吸い込まれるように。
 踏み入ってはならぬと言われていたのにも関わらず。
 けれど、どうして禁じるのだろう。
 こんなにも綺麗な場所なのに。
 危険な気配は微塵もないのに。
 寧ろ、心がスッと軽くなる。
 些細な悩みなんて、瞬時に払われてしまう。
(……あれっ)
 しばらく歩いたところで、足が止まる。
 美しい景色に不釣合いな警告が目に入ったからだ。
 黒い板に白い文字で、立ち入り禁止と記されている。
 見たところ、特に変わった様子はない。
 どうしてだろう。この先に、何かあるのだろうか。
 いけないことだということは理解っている。
 これ以上進めば、ロクな事にならないであろうことも。
 けれど、踏み入ってしまった。一歩だけ、警告を超えて。
『ちょっとちょっと。許可なしで入るつもり?』
「―!!」
 一歩を踏み出した瞬間のことだった。
 空から可愛い声が降ってきた。
 顔を上げて確認すれば、木の枝に座る女の子。
 いくつだろう……。おそらく、10歳くらいだろうか。
 そんなことを考えていると、女の子は枝から飛び降りて、
 ジロジロと舐め回すように体を見やりながら言った。
『ふぅん。まぁまぁね。でも、どうかしら』
「……え?」
『いいわ。許可してあげる。無理だと思うけど』
「へ? いや、あの……」
『頑張ってね』
 クスクス笑いながら、背中を押した女の子。
 警告を大幅に超えてしまった。慌てて振り返る。
「あの― あれっ?」
 どういうことか。振り返った先には、誰にもいない。
 そればかりか、先ほどまでと景色が明らかに違う。
 一瞬で森の奥に放られてしまった……のか?
 どうしたものか。どうすれば戻れるだろう。
 それに、頑張ってって何を?
 首を傾げて考えていると、ふと目に飛び込むメッセージ。
 太い幹に刻まれたそのメッセージは、地図だった。
 現在地は、ここ。赤い×印までのルートが3種類。
 ここに行けと、そういうこと?
 メッセージを確認しながら頬を掻いてみる。
 すると、ガサガサと茂みが揺れた。
 即座に身構えて、茂みを警戒すれば……。
『グルルルル……』
 巨大な狼が涎を垂らしながら、こちらを睨んでいる。
 随分と空腹のようだ。……って、何、この状況。
「どうなってんの……?」
 アリュカフレザ教会

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 異都カウンシルブレイスの西にある森。
 特に意味もなく足を運んでみたけれど……。
 とても綺麗な森だ。何というか、神秘的な雰囲気。
 まるで、何か不思議なチカラに護られているかのような。
 気のせい……だとも思えない、何とも妙な感覚。
 気付いた時には、踏み入っていた。吸い込まれるように。
 踏み入ってはならぬと言われていたのにも関わらず。
 けれど、どうして禁じるのだろう。
 こんなにも綺麗な場所なのに。
 危険な気配は微塵もないのに。
 寧ろ、心がスッと軽くなる。
 些細な悩みなんて、瞬時に払われてしまう。
(……あれっ)
 しばらく歩いたところで、足が止まる。
 美しい景色に不釣合いな警告が目に入ったからだ。
 黒い板に白い文字で、立ち入り禁止と記されている。
 見たところ、特に変わった様子はない。
 どうしてだろう。この先に、何かあるのだろうか。
 いけないことだということは理解っている。
 これ以上進めば、ロクな事にならないであろうことも。
 けれど、踏み入ってしまった。一歩だけ、警告を超えて。
『ちょっとちょっと。許可なしで入るつもり?』
「―!!」
 一歩を踏み出した瞬間のことだった。
 空から可愛い声が降ってきた。
 顔を上げて確認すれば、木の枝に座る女の子。
 いくつだろう……。おそらく、10歳くらいだろうか。
 そんなことを考えていると、女の子は枝から飛び降りて、
 ジロジロと舐め回すように体を見やりながら言った。
『ふぅん。まぁまぁね。でも、どうかしら』
「……え?」
『いいわ。許可してあげる。無理だと思うけど』
「へ? いや、あの……」
『頑張ってね』
 クスクス笑いながら、背中を押した女の子。
 警告を大幅に超えてしまった。慌てて振り返る。
「あの― あれっ?」
 どういうことか。振り返った先には、誰にもいない。
 そればかりか、先ほどまでと景色が明らかに違う。
 一瞬で森の奥に放られてしまった……のか?
 どうしたものか。どうすれば戻れるだろう。
 それに、頑張ってって何を?
 首を傾げて考えていると、ふと目に飛び込むメッセージ。
 太い幹に刻まれたそのメッセージは、地図だった。
 現在地は、ここ。赤い×印までのルートが3種類。
 ここに行けと、そういうこと?
 メッセージを確認しながら頬を掻いてみる。
 すると、ガサガサと茂みが揺れた。
 即座に身構えて、茂みを警戒すれば……。
『グルルルル……』
 巨大な狼が涎を垂らしながら、こちらを睨んでいる。
 随分と空腹のようだ。……って、何、この状況。
 どうなってんの……?

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「手柄、持っていかれちゃいましたね」
「我々には手柄なんぞ不要だ」
「まぁ、そうですけどね」
 クスクス笑いながら、青山は机の上に置いた。
 置いたのは、今朝の新聞。大きな見出しには "CLC - COMP" と記されている。
 後に "冒涜の箱庭荒らし" という名で歴史に残る愚犯。
 その事件を、CLCが解決したという記事が一面を埋めている。
 教団ZEROもまた、この愚犯者に制裁を下そうとしていたのだ。
 だが、事件を先に解決したのはCLC。
 しかも、解決したのは幼き少年と少女。写真も掲載されている。
 見たことのない顔だ。最近、入団したメンバーだろうか。
 そうは思うものの、黄灯はすぐさま考えるのを止めた。
 クールを装ってはいるものの、悔しいところはあるのだろう。
 それを知る青山は、微笑みながら窓を開けた。
 直後、強い風が部屋に入り込んで込んでくる。
 同時に、どこからかチリンと鈴の音。
 風に煽られて舞う書類を見やりながら、黄灯は頬杖をついて呟いた。
「愚挙だな」
 黄灯の言葉に、青山は目を伏せて返す。
「入るなと言われたら入りたくなる。それは人の性ですよ」

 *

 神妙な面持ちの黄灯と柔らかな笑みを浮かべる青山の遣り取りが神殿で行われていた頃。
 所変わって、都西にある森の中。朔と小華はキョトンとしていた。
 何が何なのか理解らないまま、森の奥へと放られて。早々に、この状況。
 涎を垂らしながら近付いてくる巨大な狼。
 だが、朔と小華に焦りや恐怖はない。
 普通ならば、怯えて逃げ出すだろうに。
「お腹、空いてる、の、かな?」
 首を傾げて言った朔。小華はニコッと笑って言った。
「そうかもしれないのね」
「じゃあ、あげるの、探す」
 ゴソゴソとポーチを漁り始める朔。
 小華も後に続き、自分のポーチをガサゴソと漁る。
 二人のポーチは、いつでもお菓子でパンパンだ。
 けれど、ごく稀にお菓子以外の物を持ち歩くこともある。
「これ、いいね、きっと、いいはず」
 そう言って朔が取り出したのは、ビーフジャーキー。
 次いで、小華も鼻歌しながらポーチから取り出した。
「小華は美味しくないのね〜。でも、これは美味しいのね」
 小華が取り出したのは、フィッシュソーセージ。
 何でまた二人が、こんなものを持ち歩いていたのかは理解らないけれど。
 今日に限っては、それも幸運と捉えるべきだろう。
 敵意剥き出しだった狼は、すっかり大人しくなった。
 二人が地面に置いたものが食べ物だと認識したのだろう。
 食べ物ばかりで喉を詰まらせては大変だからと、朔は水も添えた。
 近くにあった大きな葉を小華に渡して即席の器を作ってもらい、その中へ注いだ。
 狼は警戒しているようで、近付いてこようとしない。
 朔と小華はペコリと御辞儀して、その場を去った。
「うに? ねぇ、にぃに。狼さんってお魚も食べるのに?」
「きっと、お腹ペコペコ、食べる、大丈夫」
 二人は手を繋ぎ、更に森の奥へと入っていく。
 幹に記されていた地図は、朔の頭の中に。
 どういうことなのかは理解らないけれど、
 とりあえず、あの赤い×印のところまで行ってみよう。


 3つあったルートのうち、二人が選んだのは途中に小屋らしきものがあるルート。
 結構な距離を歩いた。目的地まで、あと3分の2ほどだろうか。
 そろそろ小屋が見えてくるはず。本当にあればの話だけれど。
 手を繋いで歩く二人の表情は、いつもどおり。不安の色はない。
 逆に、森林浴のごとく楽しんでいるようだ。
 景色を楽しめるのには理由があった。
 珍妙な植物ばかりなのだ。
 見たこともない花が咲いていたり、実が成っていたり。
 車が行き交い、雑踏に騒がしい都のメインストリートと比べると、まるで別世界。
 この森だけ、別の空間にあるかのように思えた。
 次々と目に飛び込む不思議な植物に喜ぶ小華。
 朔は、そんな小華の可愛らしい反応に頷くことを繰り返した。
 そうして進むうち、見えてくる。小屋が見えてきた。本当に在った。
 二人はトテトテと歩み、躊躇なく扉を開ける。
 ギギィ……―
 小屋は無人だった。誰もいない。
 ただ、開かれたままの本が机の上に乗っていたり、ソファにリアルな "しわ" があったり。
 人が住んでいるということが理解る。今は不在のようだけれど。
 この森について訊こうにも、誰もいないなら、どうしようもないか。
 二人は誰もいない室内に向かって "おじゃましました" と御辞儀した。
 だが、小屋を出ようとしたとき、朔が見つける。
 コルクボードに留められたメモを見つける。
 メモには、こう記されていた。

 "屋根の色を塗り替えておいてくれ"

 メモを確認した朔は、首を傾げた。誰に宛てた言伝だろうか。
 その隣で、小華はコルクボードの下に並ぶペンキ缶をジーッと見つめた。
 色とりどりのペンキが用意されている。全部で7色。虹が作れる。
 小華は、クイクイと朔の袖を引っ張って言った。
「にぃに。小華、これやりたいのね」
 見上げて言う小華の目はキラキラと輝いている。
 こうなってしまうと、もうテコでも動かない。
 自分達がやってしまって良いものかとは思いはしたが、朔は頷いた。
 二人はペンキ缶を持って、小屋の外へ。
「屋根、何色? 色、いっぱいある」
 小屋のすぐ傍にる大樹に掛けられていたハシゴを引き摺って運びつつ朔が言う。
 何色に塗って欲しいのか、メモには書かれていなかった。
 小華は、ピッと赤いペンキ缶を指して微笑む。赤が良いらしい。
 特に指示がないのなら、何色でも大丈夫かと朔は頷いた。
 赤いペンキ缶を手にハシゴを立て掛け、伝って屋根へと登る朔。
 それを見上げる小華は、白いペンキ缶を手に取って言った。
「にぃに。小華、壁にぬりぬりしたいのね」
 壁も塗り替えてくれとは書かれていなかった。
 けれど、目を輝かせる妹を止める術なんぞ持ち得ない。
 朔は頷くことで許可を飛ばしたが、すぐに目を丸くした。
「ペンキ、ペンキ。華、華、白衣、脱ぐ、して」
「うにゅ? あっ、そっか。汚れちゃうのね〜」
 ブカブカの白衣を纏ったままペンキ塗りしようとしていた小華。
 朔に言われて小華は笑い、白衣を脱いで大樹の傍に置いた。
 初体験のペンキ塗り。見たことは何度かあるものの、やるのは初めて。
 だが、器用なものだ。朔は、手際よく屋根を赤く染めていく。
 クルリと小屋を一周して、あっという間に塗り終えてしまった。
 ハシゴから降り、朔は見上げてウンと頷いた。
 額には少し汗が滲んでいるが、イイ表情。どこか満足気だ。
 小華は小華で、楽しそうに壁を塗っている。
 だが、小柄な小華では、高い所に届かない。
「おうちまで意地悪するのね〜。にぃに〜。にぃに〜」
 ピョコンピョコンと飛び跳ねて試みてはいるものの、まるっきり届いていない。
 淡く笑いながら、朔は、ハシゴを持って小華の呼びつけに応じた。
 危なっかしくはあるものの、朔にハシゴを押さえてもらい、小華も壁を塗り終える。
 頼まれたわけでもなく、逆にお節介だったかもしれないけれど。
 ペンキ塗りを終えた二人は、達成感に顔を見合わせて微笑んだ。
「ドールハウスの赤い屋根のおうちと一緒なのね」
「うん、一緒。同じ、だね」
 ふと見上げれば、空はオレンジ色に染まり始めている。
 暗くなっては迷子になってしまうかもしれない。
 朔と小華は手を繋ぎ、小屋を後にして、また目的地へと歩き出した。

 *

 空の色が、オレンジから黒へと変わり始めたとき。
 二人は、ようやく赤い×印の目的地に到着した。
 背の高い花が絡み合って成したトンネルを抜けた先。
 そこには、とても綺麗な教会があった。
 美しさに暫し見惚れた後、二人はまた躊躇なく扉を開ける。
 ギギィ……―
 ステンドグラスを介して差し込む七色の光。
 あまりの眩さに、思わずクラリと眩暈を覚える。
 二人は、互いを支えるようにして進んだ。
 七色の光の帯が交錯する、中央部。
 何故かは理解らないけれど、二人はそこでピタリと立ち止まった。
 見上げれば、グルリとステンドグラス。まるで、覆い被さってくるかのように。
 咄嗟に、二人は目を閉じた。すると、どこからか鈴の音。
 目を開けた二人は、同時に見つけた。
 足元に、鍵が二つ落ちている。
 先程まではなかったはず。二人は首を傾げながら、一つずつ鍵を拾った。
 不思議な重量感のある鍵には、小さな鈴がついていた。
 揺れる度に、チリンチリンと可愛い音が鳴る。
 これは、いったい何だろう。どうして、こんなところに落ちているんだろう。
 思わず拾い上げてしまったけれど、良かったのだろうか。
 顔を見合わせて首を傾げる二人。
 と、その時。
 二人を照らしていた七色の光の帯が、ゆっくりと移動し始める。
 生きているかのような、その動きは珍妙ながらも不思議な引力を持っていて。
 二人は、移動する光を追うようにして、また歩き出した。
 光がピタリと動きを止めて照らす場所。
 そこには、祭壇があった。
 縁に手を掛け、背伸びして祭壇を覗き込む小華。
 祭壇の上には、綺麗な装飾が施された箱が二つ置かれていた。
 朔と小華は、おもむろに箱を手に取って見やる。箱には、鍵穴があった。
 二人は顔を見合わせて頷き、手に持つ鍵を鍵穴に差し込んでみる。
 ピッタリとはまった。そのまま、右に回してみるとカチッと音が鳴る。
 同時に、ふんわりと浮く蓋。施錠が解けた。
 何事にも動じず、いつも躊躇なく何でも触れたりするのに、何故だろう。
 二人は躊躇った。蓋を開け放つことを。どうしてなのかは理解らない。
「にぃに。……せーので開けるのね」
「うん、わかった、……開ける、ね」
「……。……せーの」
 しばらく箱と睨めっこした後、朔と小華は一緒に蓋を開け放つ。
 瞬間、二人を眩い閃光が包む。そのまま、真っ白な世界へと引き摺りこまれて。
 グルグル、グルグル回る。 廻る、回る。
 二人を中心に、真っ白な世界はグルグル回る。
 どこからか香る、苺のような甘い香り。
 その香りがあまりにも心地良くて、二人は目を伏せた。
 グルグル、グルグル回って。
 どんどん、どんどん遠のく意識―


 何が起きたのか。さっぱり理解らなかった。
 ふと目を開けた時、二人は森の入口で重なり合うように倒れていて。
 手に持っていたはずの箱は、ない。けれど、鍵だけはしっかりと握り締めていた。
 まるで夢を見ていたかのよう。身体も心も、ふわふわと落ち着かない。
 ジッとしたまま動かず、ぽーっとしながら、ただ瞬きを繰り返していた朔と小華。
 そんな二人を醒ますかのように、午後5時を告げる鐘の音。
 ちょっと散歩しに行くだけだから構わないかと、何も言わずに出てきてしまった。
 もう5時。早く戻らなくては。みんな、心配していることだろう。
 そればかりか、夕食抜きにされてしまうかもしれない。
 確か、今晩はハンバーグ。目黒の作るハンバーグはビックリするくらい美味しい。
 食べ逃してしまったら、凄く後悔する。いつでも食べれるけれど、後悔するんだ。
 朔と小華は、ハッと我に返り、慌てて立ち上がる。
 鍵は、ポケットの中に放り込んで。二人は、手を繋いで駆け出した。

 家路を急ぐ朔と小華。
 メインストリートにて、黄灯と青山は、二人と擦れ違う。
 慌てて駆け抜けて行った二人の後には、甘い残り香。
 怪訝な表情で、朔と小華の背中を見やる黄灯。
 青山は目を伏せて淡く微笑み、呟くように言った。
「開けちゃったみたいですね」
「…………」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7943 / 四葉・朔 / 16歳 / 薬師・守護者
 7944 / 四葉・小華 / 10歳 / 治療師
 NPC / 黄灯 / 27歳 / ZERO:メンバー
 NPC / 青山 / 22歳 / ZERO:メンバー

 こんにちは。
 シナリオ『 アリュカフレザ教会 』への御参加、ありがとうございます。
 シナリオ "冒涜の箱庭荒らし" の後、同日という時間枠で紡がせて頂きました。
 作中の鍵、アイテムとして贈呈しております。御確認下さいませ。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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