■月の旋律―最後の決断―■
川岸満里亜
【3601】【クロック・ランベリー】【異界職】
●診療所
 いつの間にか、暖かくなっていた。
 窓を開けば、風と共に花の香りが部屋の中に入ってくる。
 心の中が癒されて、幸せに包まれていく。
 だけど……。
「ファムル、今日も帰ってこない」
 キャトルは1人、診療所で家主の帰りを待っていた。
 彼女も事情により実家に帰っていることが多く、この診療所に顔を出せる日も減った。
 家主のファムル・ディートは時々必要な物を取りに訪れるくらいで、生活は城――あの女性、ザリス・ディルダの傍らで薬の開発に従事しているようだ。
 先日、家に戻ってきたファムルがこんなことを漏らしていた。
『ザリスはアセシナートに蹂躙された人々を癒そうなんて思っちゃいない。それをすることを求められていることを理解しているからな。成功させれば自分の聖都での価値がなくなる。だからそれ以外で、自分が聖都に必要な人物と国に認知されるまでは、あえて治療薬を完成させることはないだろう』
 キャトルは、ならばファムルはどうなの? と訊いた。
 ファムルには、自由都市カンザエラの人々を救う薬が作れるのかどうか……。
『難しいな。未知の材料が必要になりそうだ』
 カンザエラで実験体とされていた人々を治療する術はないのだ。
 だけれど症状を抑えたり、発病を遅らせることはできるはず。
 でも……発病して、もう先行き短い人はどうなるのだろう。
 キャトルは、病気が進行し、ベッドから起き上がれなくなった女性……ルニナを想い、そっと目を閉じた。
 彼女は既に手の施しようが無い状態であり、仲間が暮らす村に戻って、自宅で時を過ごしている。

●エルザード城
 エルザード城の会議室に、アセシナートの月の騎士団に関わった人物が集められた。
 集った人々は、聖獣王の側近の騎士や魔術師から、武器の携帯や、術の影響を受けてはいないかなどの厳密な身体検査を受けた。
 それほど機密性の高い話なのだろう。
 緊張した面持ちで、一同聖獣王の言葉を待った。
「……村からの要請という形で、ファムル・ディート殿を、カンザエラの人々が暮らす村へ派遣することになった。現地の医者と共に村人達を診察することが、治療薬の開発に役立つのではないかと思ってな」
 それは、カンザエラの人々を案じる者達にとって良い知らせだ、が……。
「派遣する人物だが……余はザリス・ディルダでもいいと思っている。彼女がどういった人物であるかは、皆から聞いており、危険性も理解している。ファムル殿は弱みを握られているのか、現在でもザリス・ディルダに逆らえない節があってな。ようやく聞き出した話では、彼女はテルス島の戦況を見て、亡命を決断したらしい。彼女の亡命により、月の騎士団は主戦力、及び指揮をとれる人物がいなくなったことで、壊滅したと思われる。団長や娘は健在のようだが、再び騎士団を結成するにしても、時間がかかるだろう」
 国の為に戦う意志などあの女にはない。
 誰かの為に戦う意志もない。
 ただ、自分が欲するものを手に入れるために。
 自分の利だけを追い求め、策略を張り巡らす。……おそらく、そういう女だ。
「で、だ」
 聖獣王は強い目で一同を見回して、低い声で言葉を紡ぐ。
「皆が、彼女を危険と感じるのなら、皆に選んでもらってもいいと思っている。この国……余の信頼が落ちようともだ。道中、賊に見せかけて襲撃を行なう……などな。皆の意見は聞かずにおこう。何が起きても深い捜査は行なわず、事件を闇に葬るつもりだ」
 これが多分ラストチャンス。
 彼女を討つのならば……。
『月の旋律―最後の決断―』

 出発日、前日。
 エルザード城に一連の事件に関わり、ザリス・ディルダと因縁を持つ者達が集っていた。
 会議室で意見を交わし合い、方針を決めていく。
 誰にも知られてはいけない密談だ。
 聖獣王は既にこの場にはいない。
 王は、エルザードの王として、この件に一切の関与はしていないと貫かねばならない。

「私はファムルさんのみ派遣すべきだと考えます」
 自警団員のフィリオ・ラフスハウシェは、そう提案をした。
「やった本人は行かせろよ。テメェのケツはテメェで拭け」
 リルド・ラーケンは、嘲笑気味に言い放つ。
「……彼女は、治療する意思がないのならば、派遣したとしてもなんらかの取引を持ちかけてくると思われます。私達だけではなく、騎士や村人達をも含め、計略に嵌る者を出さないために派遣は控えるべきでしょう」
「そう、なんだよね……治療、する気ないんだろうな……」
 フィリオの隣に座るキャトルが、複雑そうな顔で呟いた。
「奴の性格だ。完全に治すことはしないだろうな」
 クロック・ランベリーは深く溜息を吐き「こういう戦法できたか」と自嘲気味な笑みを浮かべた。
「多少寿命を延ばしていき、自分の都合いい方向に持っていくのだろうな」
「その都合のいい方向というのが、あたし達には解らないんだよね。何を考えてるのか、物事の考え方とかも理解が出来ない。ファムルや、ジェネトには分かるのかな……」
 キャトルは不安げに、視線を落とした。ファムル・ディートはこの場にはいない。別の部屋で、ザリスと共に研究に携わっている。
「彼女については、罪状を捏造してでも、捕らえるべきだと考えています。治療薬の製作と引き換えに釈放すると取引を持ちかけて、ですね」
 言った後、フィリオは深く考えこむ。
 その罪状が問題だ。そして、罪に着せたことが公になった時、その責任を負うのは誰だろうか。ザリスは利用してくるだろう、聖都の信用を貶めるために。
「王は受け入れると言った、からな」
 クロックも眉を顰めながら考えてみるが、罪を着せたとして、その事実が公になることは決してあってはならず。しかし、彼女をずっとこのまま聖都に押し留めていることは……不可能な気が皆していた。
 聖都への亡命を望んだのはザリスの方だが、彼女がずっとこのまま聖都にいることを、望んでいるわけがないと。
「彼女に作らなければならない理由を持たせることが重要ですが、持ち込んだものについても、徹底的に調査分析して、治療薬に必要なものを探してみたいものです」
「そうだな、王に提案しよう」
 フィリオの言葉に、クロックは頷いた。
「ボクはザリスもファムルさんも、両方派遣した方がいいと思う」
 ルイン・セフニィがにこっと笑みを浮かべる。テルス島では成人女性の姿をしていた彼女だが、今は通常の8歳くらいの少女の姿だ。
「でも、ザリスが村に行ってルニナと会ったら……興奮してルニナの体調が悪化しそうだから、やめた方がいいと思う」
 ウィノナ・ライプニッツは、ベッドから1人では起き上がれなくなったというルニナのことを思い、目を伏せる。
「確かに。カンザエラの人間に直接あわせると民が暴走しそうな気もする。肉親を失った者もいるのだから」
 クロックも腕を組みながら、そう語る。
「んー、でも、一番状態を把握している人なんでしょ? 行かないにしても直接診察は行なう必要があるんじゃないかな。治療させるんならね」
「その治療を……するつもりが無さそうですからね」
 山本建一が吐息をつく。
「ファムルが言うには、治療を終えた後、自分の聖都での価値が減るとかなくなるとか、そんな風に考えているみたいんだよね」
「その村の連中を助けたら価値が無くなる? はっ」
 キャトルの言葉を、リルドが笑い飛ばす。
「村の連中が死んでも同じ事だろうが。違うか?」
「うん。……私、は、ザリス、1人、派遣、がいいと、思う……」
 千獣は真剣な目でたどたどしく語っていく。
「カンザエラ、の人達が……死んじゃったら、立場が悪く、なるはずだし。だから、ザリスは、命を救うこと、しなきゃ、ならない、はずだから……」
「そうですね。生かさず、殺さず。多少の治療はするのでしょうね」
 建一は派遣させるべきか、留めておくべきか判断しかねた。
「ただ、行かせるのならば、暗躍されないように制約の術をかけたいと言うのが本音です」
「まあ、過度の制約でなければ、許可されるかもしれんな。それも王に提案してみよう」
「他の特務隊メンバーについても調べておくべきでしょう。彼女が持ち込んだものもそうですが、身につけている者など全てにおいて、きちんと調査をしておきたいものです」
 建一の言葉に、一同頷いた。
 反対意見もあるが、村人達が興奮するようなことがないよう、注意を払うと皆で決めた上で、建一が提案した術の行使が許可された場合、ザリスの派遣を行なうという方針が決定された。
 ただ、この場において、腹積もりを全ての者が語ったわけではない――。

    *    *    *    *

 翌日。
 建一の提案はほぼ通り、ザリス・ディルダに魔法をかけた上で、カンザエラの人々が暮す村へ派遣されることになった。
 ただ、ザリスは犯罪者として王城に捕縛されているわけではないため、魔法は彼女の配下である者達の監視の下、彼女が合意した魔法に限り施されたのだった。即ち、監視の魔法のみだ。
 建一はザリスに狙われていた過去がある為、彼女に直接関わることはせず、彼女へ魔法を行使したのは城の術者であった。だが彼女の行動を映す水晶玉は、建一に預けられた。
 水晶玉を道具袋の中に入れたまま、建一はカンザエラの人々が暮す村の診療所で、準備に携わっていた。
「なんか、つまんねー村だよな」
 諸事情によりダラン・ローデスという少年も訪れており、のどかな村を見回してそんな感想を漏らした。
「つまらなくなんてないよ。こういうのが幸せなんだ。多分」
 キャトルはそう言って、隣を歩くウィノナに顔を向ける。
「うん、街の暮らしも楽しいけれどね。こういうのも素敵だよ」
 そう答えて、ウィノナは村の人々を見回した。
 ザリスが来ると聞いているせいか、緊張感はあるけれど。
 村そのものは、いつもと同じく、自然が溢れていて。
 優しい鳥の声が響いている。
 人々は助け合い、励ましあいながら生きていた。
「そろそろ到着の時間ですので、皆様家にお戻り下さい」
 建一は村の人々にそう声をかける。
 診療所にあるカルテ、それからザリスの診察を望んだ人物以外は、ザリスと接触させない方針だ。
 家の中に入り、固く戸を閉めて決して出てこようとしない者も。
 恐怖に怯える者もいるようだった。
 ルニナならば、石でも投げつけてきそうだが……彼女にはそのような体力はもうないようであり、窓から顔を覗かせることもなかった。
「それでは、頼みますね。キャトルさんも決して無理はしないように。近付かない方がいいと思いますよ?」
「うん、友達と手繋いでるね」
 建一はキャトルの返事に頷いて、彼女達と別れた。
 診療所からは離れた場所にある集会所の方に歩き、自分自身はそこに留まることにする。
 自分のことを、ザリスが今も狙っているだろうか――顔を合わせたとしても、言葉を交わしたとしても、彼女の真意は読み取れないだろう。
 だから、この場では接触するべきではないと考えた。

 馬車から降りて、独眼で村を見据える。
 特に興味のない村だが、見ておくべきと思っていた。それが礼儀、だと。
「……そういやあ、弱みってなんだ?」
 自分に続き、馬車から降りてきたファムルに、リルドが問いかける。
「弱み?」
「ほら、弱みか何かを握られてるんだろ、あの女に」
 親指で後の馬車を差す。そちらの馬車からは、護衛の騎士、クロックに続いて、女性が1人降りたところだった。
「いや別に?」
 ファムルは真顔で答える。
「そんじゃ、何で診療所に戻ってこねぇんだ?」
 村に向かって歩きながら、声を抑えてリルドは質問を続ける。
「手伝えと言われててな。それだけなんだが、なんだか……放っておけないんだ」
「悪さしそうでか?」
「ん、それもそうだが。いや、何か仕出かしたとしても、私に止める手立てはなく、利用されるだけだということも分かってはいるんだがな」
 吐息をつくファムルの考えが、リルドには良く分からなかった。
 気に入らないのなら、去ればいい。
 利用されていると分かっていて、手伝う理由などない。
 リルドにとっては、それが当然だ。
「つーと、あれか? 昔仲がよかったとか。一応幼馴染なんだろ」
「全く覚えてはいないんだが。嫌いじゃなかったかもしれんな。……性格最低なんだがな」
「……ま、どうでもいいことだな」
 軽く笑うと、ファムルも微笑して頷いた。
「けど、俺の薬はどうなってんだ? キャトルじゃ頼りねぇし、そろそろもっと効果の高い薬を作ってもらいてぇんだが」
 村の前で一旦立ち止まり、今度は近付いてくるザリスにも聞こえる声で聞く。
「役に立ったぜ、あの薬。某騎士団との戦闘でな」
 にやりと笑うと、ファムルは苦笑をし、ザリスは帽子に手を伸ばして直す。表情を隠すかのように。口元に薄い笑みを浮かべていることだけが窺い知れた。
「……では、知り合いが先に来ているはずですので」
 フィリオは騎士達にファムルとザリスを任せると、先に村の中へと入って行く。
「私、も……」
 馬車から最後に降りた千獣も、ルニナとリミナの家へと走って行く。
「お? あそこに見えるのは、もしかしてダラン!?」
 ルイン・セフニィも、知り合いの顔を見つけて、超特急で駆けていく。
「診療所はあっちだよな」
 クロックに確認をとると、ファムルとリルドも村の中へと足を踏み入れた。
「危害を加えられたくなければ、真直ぐ俺についてくるんだな」
 クロックはそう言って、ザリスの前を歩く。

「あ、フィリオー!」
 フィリオの顔を見るなり、キャトルがぱたぱたと駆け寄ってきた。
 彼女は診療所の前で、ダランと共に皆の到着を待っていた。
「準備出来てるみたい」
 ダランの隣にはルインの姿があり、子供らしい笑みを見せていた。
「先生と村の人で話し合って、5人の人を診てもらったらどうかってことになったんだけど……」
 少し不安気な目で、キャトルはこちらに向かってくる者達に目を向けた。
「キャトルは私の傍に。少し離れていましょう」
 フィリオの言葉に、キャトルは笑みを見せて頷いた。
 手を伸ばして、フィリオの手をぎゅっと握り締める。
「……怖いとか、じゃないんだけど。なんかもやもやするんだ。……傍にいてね」
 優しく頷いて、フィリオはキャトルを連れて診療所の中へと入る。
「んと、俺もちょっと離れて見学するかー。後で村も回ってみるな」
 ダランは特にすることがないらしく、二人の後についてきた。
「それじゃ、ボクも! 村もちょっと気になるけどね」
 ルインもダランと一緒に診療所に入っていく。

    *    *    *    *

 ウィノナはザリスが到着する前に、ルニナとリミナの家を訪ねていた。
 その後、千獣が2人の家に顔を出したことで、ウィノナ達はザリスが村に到着したことを知る。
 リミナがお茶を入れて、ウィノナと千獣に出して、ルニナの近くに腰かける。
 ……ウィノナは、魔術でルニナの体の中を見ていた。
 今まで、色々な人の体を見て来た。
 正常な体と、ダランの体を見比べたこともあった。
 キャトルの体も見せてもらった。
 ルニナの体、は。
 人間の体だった。
 魔法のセンスはあるのだろうけれど、魔力も普通の人間程度で多いわけでもなくて。
 体の作りも、普通の人間だった。
 普通の、人間……だけれど……。
 見たウィノナは知ってしまった。
 体の中の臓器が、腐っていることを。
 そういう病気のことは知っている。
 傷や病気を治す魔法や薬はあるけれど……。
 腐ったものを元に戻す手段は、ない。
 元に戻す以外に、何か方法があることも、知ってはいる。
 知ってはいるけれど……。
「ウィノナさん?」
 不安気な目を向けるリミナに、微笑んであげることができなくて、ウィノナは「戴くね」とだけ言って、お茶をごくごくと飲んだ。
 千獣は眠っているルニナを何も言わずに見ていた。
「今、落ち着いてるから。大丈夫よ」
 弱々しく笑うリミナに、こくりと頷いた。
「あとで……また、くる、ね……」
 千獣はそれだけ言うと、2人の家を出て、診療所へと向かう。

 ここに来る前に、千獣はジェネトと会っていた。
 再び、千獣はジェネトに協力を願ったのだ。
 そしてまた、彼女の中にジェネトはいる。
『ホントに、ファムル……の、方が、知ってる?』
『ああ、薬の知識なら、ザリスちゃんはファムル君に敵わないはずだ』
 千獣の問いに、すぐに言葉が返ってくる。
 診療所が近付き、千獣の鼓動が高鳴っていく。
 馬車の中では、ずっと蹲り顔を上げずにいた。
 同じ馬車には乗らなかったが、彼女が乗る馬車を目に映すだけで、激しい感情が沸き起こってくる。
 だけれど、その感情をジェネトが魔法で抑えてくれてもいた。
 体を半分だけ、彼に委ねることで、彼が千獣に宿る魔力で、彼女自身を止めてくれている。
 大きく息を吸い込み、吐き出して……診療所のドアを開いた。

 診療室は衝立で仕切られており、入り口からはドアさえ見えなくなっている。
「貴様が欲していた情報は渡せない。民を実験に使うことも許しはしない。制約は守ってもらうぞ」
 帽子を取ったザリス・ディルダにクロックはそう釘を刺す。
「……わかっています」
 ザリスはふわっと微笑んだ。
 そして僅かに哀しげな目を見せる。
「命令とはいえ、村の人々を苦しませてしまいました。出来る限りのことはさせていただきます。死力を尽くして」
 善人のような物言いに、クロックは眉を顰める。
「聖獣王から指示書を受け取ったんだ」
 ルインが歩み寄り、聖獣王の印が入った紙を取り出した。
 事前に頼み込んで書いてもらったものだ。
 紙にはこう書いてある。
『そなたの力を確認したい。一番重症の者を治してみせよ』
「重症な人のカルテ、ある?」
 村に派遣されていた医師が、ルインに頷いてカルテを選び――ルニナのカルテを抜き取って、ザリスに渡した。
 ザリスはカルテに目を通した後、軽く目を伏せて首を左右に振った。
「……私には、魔法具を設計する知識や、薬を調合する技術があります。ですが、私は普通の人間でしかありません。神力を持っているわけでもなければ、魔法の能力でさえ、高いとはいえません。ですから、私個人の力で治すことは出来ないのです」
「治療が出来ることに価値があるから、亡命受け入れたんだと思うけど?」
 ルインはにこにこと問いかける。目に冷たい光を宿らせながら。
「はい。私個人の力では無理です。先ほども申し上げたように、私は薬を調合する技術があります。その技術で聖都のお役に立てると自負しています。この方の体も……例えば、アセシナートが所持している、フェニックスの卵があれば、治す……といいますか、新たな臓器を生み出すことも可能です」
「フェニックスの卵か。それは今何処に?」
 クロックの問いに、ザリスは変わらず哀しげな目を見せ続ける。
「月の騎士団本部です。持ってくることは出来ませんでした」
 フェニックスの聖殿の事件。その時に、卵を確保出来ていれば、可能性はあったということだろうか。
 クロックは事件に関わったため、当時のことは報告書や仲間から聞いていた。
 ルインはリルドから情報を買い、キャトルからも詳細を聞き、その時情報は得ている。
 目の前のザリス・ディルダがその場で行なった非道な行いについても。
 今、彼女の腹心はいない。1人で無力であるが故、誠実なフリをしているのだろうか……。
 フィリオとキャトルは少し離れた位置にいた。
 キャトルはフィリオの手をぎゅっと握ったまま、無表情で診療室の皆を見ている。
 フィリオは少しだけ前に出て、キャトルを庇うように立った。
 ザリスはこちらを見てはこない。
 彼女に興味はあるだろうに。
 フィリオにも興味を持っているだろうが……。
 彼女は完璧に、アセシナートに利用されていた女を演じていた。
「本部にいた時のあの人が本性で、今は演技してるんだよね?」
 キャトルはフィリオと、机に向かってカルテを見ているファムルに問いかけた。
「そうですね。少なくても、本心を語っているとは思えません」
「本部にいた時の彼女も、演技かもしれんがな」
 フィリオとファムルの言葉に、キャトルは複雑な表情を浮かべた。
「どれが本当なのか、何が本当なのかわからない。わからない、ね……」
「……」
 いつの間にか、千獣がキャトルの反対側の隣にいた。
 赤い瞳で、静かにザリス・ディルダを見つめる。
 わからない。
 だけれど、事実は事実。
 彼女がカンザエラの人達を苦しめたこと。
 キャトルやフィリオを傷つけたこと。
 ルニナとリミナに酷いことをして……ルニナが死にかけていること。ルニナがザリスを憎んでいること。
「……また、繰り返す、こと……」
 小さく呟きながら千獣は、哀しげな表情のまま言葉を交わしているザリスを見ていた。
 今はまだ、只、見ていた。

 診察を終えて、何人かの血液を採取した後、ザリスはその日中に村を発つことになった。
 哀しげに、申し訳なさそうな態度であった彼女だが。
 自分がしたことに対し、村人達に謝罪することはなかった。
 求められれば、多分謝罪の言葉を口から出しはしただろうけれど。
 その言葉で、誰も癒えはしないことを、誰もが分かっていたから。
 手を出せないことに対しての、憤りを感じている村人も存在していた。
 ルニナもその1人。だけれど、彼女は家から出ることも出来なかった。
「治療の方法はあるか?」
 クロックに、ザリスは微笑んで見せた。
「治す方法は医学的にはないと言っていいでしょう。だけれど、進行を防ぐ手段や、止める方法、発病させない方法はこれからの研究で判明していくと思います」
「時間がない者もいるんだが?」
「……そうですね。重症な方の延命措置に力を注いだのなら、他の研究に遅れが生じるでしょう。私が何を行なえばいいのかは、ご指示いただければ従います」
 目を伏せて、軽く頭を下げるその様は……悪人には見えなかった。クロックはアセシナートにいた頃の彼女を知らない。
 軽く混乱をしてしまう。この女は、本当に報告を受けているような人物なのだろうか、と。
 いや、こういう人物だからこそ、惑わされてはいけない。非常に厄介な相手だ。クロックは無表情でザリスから目を逸らした。

 診察をしている間に、村人達による物資の運び入れが行なわれていた。
 クロックが聖獣王に頼み、手配したものだ。
 概ね自給自足は出来ているようだが、頻繁に交易など行なえる程の農作物はなく、手に入らないものも多いようだ。
 小物や雑貨などを含む物資は、村人達にとても喜ばれた。
「お礼が言いたくて……」
 村人の何人かは、クロック達を待っていた。
 帽子を目深に被ったザリスをちらりとだけ見て……なんとも言えない顔をした後、村人達は頭を下げた。
「物資、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
 診察のことについては、彼等は何も言わない。
 助けてほしいと、見込みはあるのかと聞きたいのだろうけれど……彼女の前では、言えないようだった。
「何か必要なものがあったら、言ってくれ。そう沢山は手配できんがな」
 クロックはそう声をかけて、村の外へと歩いていく。
 その後にザリスが従う。両脇には騎士。後にルインとファムルが並んで歩き。その後にリルドが続いていた。そして少し離れて、フィリオとキャトル、それから千獣がついてくる。
「おっ帰るのか」
 キャトル達のところに歩み寄ろうとしたダランの腕をウィノナが掴んだ。
 彼のことをあの女性には知られたくない。キャトル同様、興味深い存在だろうから……。
 ウィノナはダランと共に、ルニナとリミナの家の前で、見送ることにする。
 あの人の所為で、ファムルは診療所に戻ってはこれない。その所為で、自分もキャトルもダランも寂しい思いをしている。
 それから、またエルザードで事件を起こすのではないかという不安を感じずにはいられない。
 ウィノナはダランを握る手に力を込めた。
 早くいなくなってほしい。
 この村からも、エルザードからも。
 だけど、殺したい、とか。死んでしまえ、とか。
 そういう感情はウィノナにはなくて。
 それに、いなくなったら、ルニナを助ける方法が消え去ってしまいそうで……。
 だから、ウィノナは見ているだけしか出来なかった。
 帽子を目深に被ったザリスは、何も言葉を発することはなく、村の入り口を出て、騎士達と共に馬車の方へと歩いていった。
 建一も遠くから、そっとその様子を見ていた。
「――帰りましたよ」
 集会所に戻って、彼女を恐れ避難していた村人達に、そう声をかける。
 村人達は、弱々しい笑みを見せた。
 刻まれた傷は、消えない。
 体に刻まれた傷も、心に刻まれた傷も――。

「ファムル……」
 千獣は馬車に乗り込もうとしたファムルの腕を掴んだ。
「ん?」
 そしてファムルに箱を渡す。
「箱、開けて……中の物、持って、いて……」
 中を確認したファムルは、軽く笑みを浮かべて千獣に囁く。
「大丈夫だ。私は魔法の影響を殆ど受けないんだ」
「でも……もって、いて」
「わかった。お守り代わりに持っておくよ」
 ファムルは千獣が渡した――石。魔力を抑える効果のある石を持ち、馬車に乗り込んだ。
「私は、忘れ物……ある、から……。あとで、ね……」
 馬車に乗りかけた千獣だが、身を翻して村の方へと駆けて行く。
 ザリスを乗せた馬車。その前後に護衛の騎士や関係者が乗った馬車が連なり、聖都に向かい走り始めた。

    *    *    *    *

 村に戻った千獣は、真直ぐルニナの元に向かった。
 台所で食事を作っているリミナの他に、ダランとウィノナの姿があった。
 目を閉じているルニナの傍で、ウィノナは何も言わずに見守っている。
 ダランは、椅子に座って退屈そうに、足をぶらぶらと動かしていた。ちらちらとルニナの方を見ながら。
「少しゆっくりしていく?」
 戻ってきた千獣に、リミナが微笑みかける。彼女の目は少し腫れているように見えた。一人で毎晩こっそり泣いているのかもしれない。
 千獣は首を左右に振った。
「……ううん、すぐに……」
 千獣はダランの傍に近付いた。
 ダランは椅子から降りて立ち上がると千獣と共に、ルニナの元に歩く。
「……ルニナ……」
 千獣の言葉に、ルニナは目を開けて、虚ろに微笑んだ。
「……不思議な、魔法の、品あるの……」
 千獣は語りながら、ダランに目を向ける。ダランはこくりと頷いた。
「キャトルにも頼まれてて、あのザリスって人の故郷の村の宝ってやつを取りに行ってきたんだ。宝は手に入れた俺達のものだけど、少しなら貸すことも出来るからさ」
 千獣はダランに頼み込み、宝の貸し出しを願った。
 その宝の効果は詳しくはわからないが、体を浄化する効果があるものや、肉体の時間を止めるものもあるらしく……それらを、ルニナの為に貸してはもらえないかと、頼んだのだった。
 ダランはイエスとは言えなかった。千獣は滅びた村に関係する事件の関係者だし、2、3日だけ貸すのなら問題はないのだが、治る見込みの無い人物に貸すということは、永久に帰ってこない可能性もあるから。
「よくわかんねぇけど、他にも助けたいやつ出るかもしれないじゃん? だから、こっちに持ってきて貸すことは出来ない。けど、聖都に来るんなら、俺達が使う時以外は使ってもらってもいいんじゃないかと思ってる、うん」
「……行こう、ルニナ……」
 千獣の問いかけに、ルニナは苦笑とも言える笑みを浮かべて、吐息をついた。
「任せるよ、千獣」
 苦しげな息の元、そう言ったルニナに手を伸ばして、ウィノナと一緒に彼女を用意してあった担架に移した。
 リミナは弁当箱に料理を詰めて、バスケットに入れると皆の元に近付き。
 家から出て、手配してあった馬車の元へと歩く。
「行ってらっしゃい」
「待ってるからね」
 村人達が馬車に荷物を運び込んでくれていた。
「行ってきます」
 リミナは皆に頭を下げる。
「行ってくるね!」
 ルニナは精一杯の笑顔を見せた。
 馬車の中に、そっとルニナを寝かせた後、弁当を持って入ってきたリミナに――千獣は、自分の耳飾を差し出した。
「千獣?」
 不思議そうな顔をするリミナの手の上に、耳飾を乗せて両手で握らせて。
 それから、馬車からぽん、と飛び出した。
「……やること、ある、から……」
「……ん。聖都で待ってるね」
 千獣の考えを知ってか知らずか、リミナは少し寂しげに微笑んだ。
「気をつけて」
 ウィノナは真剣な目で、千獣に言葉をかけた。
 千獣は2人の言葉に、深い瞬きだけ返した。
 ドアが閉められて、馬車が走って行く。
 完全に見えなくなるまで、千獣は見送っていた。
 ――そして、彼女は走り出す。

 カンザエラから聖都エルザードまでの道は、ある程度整備されている。
 だが、途中に大きな町などはなく、馬車などの乗り物は滅多に通らず、人の姿も見かけない。
 草原を数十分走り、池が見えたところで、ザリス・ディルダを乗せた馬車はゆっくりと速度を落とし池の傍に停車をした。
 フィリオがドアを開けて、キャトルと共に馬車から降りる。
「……まだ聖都まで距離がありますし、皆で水を汲みましょう。キャトル、ファムルさん行きましょう」
 そう言葉をかけて、キャトルとファムル、それから騎士達をも連れて、フィリオは池の方へと歩いていった。
「まるで囚人ですね、私」
 ザリスは少し哀しそうな顔で、クロックに続いて馬車から降りる。
 その後から、ぴょんとルインが馬車から飛び降りる。
 ……先に到着していた前方の馬車に寄りかかっていたリルドが、ゆっくりと歩いてくる。
 リルドとクロックの目が合った。
 一瞬目を細め、次の瞬間目を鋭く光らせてリルドは剣を抜いた。同時に魔具を使い、魔力を増幅させ霧を呼んだ。
 周囲に緊張が走る。
「頃合だな」
 ザリスはクロックの後に隠れる。
「リルド、貴様……っ」
 クロックが剣に手をかけた瞬間、リルドが地を蹴って飛び込む。
 クロックの側面に駆け、ザリス・ディルダに向かって剣を振り下ろす。
 その剣を止めたのは、ルインだった。
 鋏攻盾で、リルドの剣を受けて、霧の中太陽の光を纏いながらリルドを激しく睨みつける。
 月の騎士団を敵とし、共闘をした。
 情報交換をした相手でもある。
 だが、ルインはザリスを手にかけることは許さない。
「聖都に戻って、研究をしてもらうから。この人を裁けば、多くの人の命が助からないかもしれない。リルドが間違ってるとは言わないけど、ボクはっ!」
 電子の集合体であるルインは、体内に蓄積したエネルギーを放出して、リルドの攻撃を押し返す。
 ザリスは後退りし、冷たい目をリルドに向けた。
「そうその目。アンタが白々しい演技をしてるってことは、ここの奴等には分かってんだ。逆だルイン。この女は、どこの国や組織に属そうが、本質はかわらねぇ。生かしておけば、将来もっと沢山の人物が――死ぬぜ。聖都にウィルスをばら撒いて絶滅させて、アセシナートに戻るつもりかもしれねぇしな」
 嘲笑をザリスに向けると、ザリスは眉をぴくりと揺らし、歯軋りをした後瞬きをし……だがルインが振り向いた時には怯えの表情を浮かべていた。
 リルドは風の魔法を放ちながら、盾で防ぐルインの元に踏み込み、剣をザリスに向けて突き出す。だが剣はクロックにより叩き落される。
「否定はできん。だが……っ」
 クロックは苦悩していた。
 リルドと同じ気持ちだ。
 打つべきだとクロックも考えている。
 しかし、ルインの考えも全くもってその通りなのだ。
 裁けば、村人達の治療が遅れる。
 裁かねば、将来への危惧もある。
「悔しいがっ、治療薬を作れる可能性の為だ!」
「後悔するぜ。けど、俺はその方が……楽しめる。戦ろうぜ、クロック・ランベリー」
 ギラリと目を光らせると、リルドはクロックに剣を繰り出す。
 クロックは迷いを持ちながら、リルドの剣を受ける。
「ずっと先の将来なんてわからない。判断も、答えも人それぞれだから、自分の信じたモノを信じれば良いっ!」
 ルインはザリスの前に立ち、盾を構えて防御する。
 リルドが爆風を呼び、クロックは片手で顔をガードしながら、リルドの剣を受けていく。
 ルインもザリスを庇い、馬車に捕まらせながら爆風に耐え、風が止んだ――その時だった。
 獣が一匹。
 体毛に覆われ、鋭く赤い目をした狼のような獣が飛び込んできた。
 ルインの上を飛び越えて、獣はザリスの上に飛び降り、組み敷いた。
 ルインは親交がなかったのでわからなかったが、クロックはその獣が千獣であることに気づいた。
「余所見してんじゃねぇぞッ!」
 リルドが冷気を呼び、辺りが一気に冷え込んでいく。
 打ち下ろされた雷を、クロックは体をそらして交わし、ルインは盾で受けた。千獣は背に受けるが意に止めず、ザリスの額に額を合わせた。
 彼女の中にいる、ジェネトの精神がザリスの中に入る。
 ザリスの精神は千獣の中に送られる。
 千獣は飛び退いて、吠えた。
 千獣は他者の精神を自分の中に留める魔術を知らない。
 だが――食うことは出来る。
 意識を。ザリス・ディルダの精神を。
 自分の中にある、千の獣の意思に食わせる。
 彼女の意思は自分の中に残しては置かない。
 完全に、滅する――!

「……リルドの獲物はもういない。剣、収めてよ」
 盾を下ろし、ルインが複雑な表情でそう言った。
 霧は既に晴れていた。
 ザリスの肉体はその場に倒れてはいたけれど。
 その中に彼女の精神が無いことを、皆理解した。 

 カンザエラの人々が暮す村の診療所で、建一は水晶玉に映された光景を、静かに見ていた。
「……さん……。山本建一さん?」
「あ、はい。すみません」
 名を呼ばれていることにしばらく気づかなかった。
「カルテ、写し終りました」
「ありがとうございます。聖都に持ち帰り、治療薬の研究を進めていただきます……。少し、遅れるかもしれませんけれど、ね」
「……え?」
「あ、いえ」
 建一は淡く微笑んで、立ち上がった。
「研究は遅れるかもしれませんが、完成は早まるかもしれません」
 曖昧な言葉を残して、カルテの写しを受け取ると、建一も村を後にすることにする。
 再び、水晶玉に目を移すと……倒れていた女性が立ち上がり、自ら馬車に乗り込んで行く姿が映っていた。
 だけれどその中に、彼女の精神はない。
 声は聞こえずとも、建一にもそれが理解できた。
 そっと、吐息をつく。
 自分に絡み付いていた縄が、1本解けたような――そんな感覚を受けた。

    *    *    *    *

 エルザード城に戻ったフィリオは、ザリスを捕らえるための手筈を進めようとした。
 だが、それは必要ないようであった。
 休憩に立ち寄った池で、馬車の裏側で起きたことは仲間から報告を受けていた。
 城の騎士達も気づいてはいたようだが、深く干渉はしてこなかった。
 城の中にある鍵のついた部屋。医療設備が整った部屋の中に、彼女はいた。
 フィリオは彼女の様子を見た後、何も言わずにその部屋を警備の騎士に任せて後にする。
 ――ザリスには意識があった。
 だけれど、彼女の精神は肉体の中にはない。
 表情を浮かべることも、言葉を喋ることもなく。
 ただ、息をしているだけの、植物人間と化していた。
 彼女の所持していた物にも、特殊な効果のあるものは特にはなかった。特殊といえば、物というより、彼女に従っている人物自体が特殊とも言えるのだが……。
 控え室で待っていたキャトル、ファムルと合流をし、ファムルの診療所へ向かうことにする。
「ジェネトのことは、あたしが送るね。それともファムルの家で暮す? あ、それがいいかも、そうしよ、そうしよ〜っ」
 キャトルが1人で騒いでいる。
 ザリスの中に入ったジェネトは、今はキャトルの中にいる。
 千獣の姿は、ここにはなかった……。

 3人が診療所に着くよりも早く、ウィノナとダラン、ルニナとリミナが診療所についていた。
「……お帰り」
 ウィノナは少しだけ切なげで、それでも明るい笑みを皆に見せた。
「ん、ただいま」
 ファムルは少し笑って、ウィノナの頭を軽く撫でた。
 ルニナは診療室の奥の部屋で眠っていた。
 ダランが持って来た時計のような形の魔法具を握り締めたまま。
 呼吸もせず、夢も見ず――。時が止まった状態だった。
「体の調子を良くする石も使ったんだけど、悪くなっている部分が治ることはなかった……」
 ウィノナはファムルにルニナの症状を説明し、彼女について纏めたメモをファムルに手渡した。
 メモを見たファムルは、低い唸り声を上げる。
「あたしも……」
 ルニナを見ながら、キャトルがぽつりと語り始めた。
「本当なら、もう生きてなかったかもしれないんだよね。リルドや、フィリオや、皆に助けてもらった。だから今、元気に生きていられるんだ……」
「まあ、俺も、あんまり長生きできなかったかもしれないんだよなー」
 複雑な顔で、ダランもそう呟いて、ファムルを見上げる。
「……ファムルさん、カンザエラの人々を助けるための研究、続けて下さいませんか?」
 フィリオがそうファムルに問いかけた。
 ファムルは皆の視線を受けて、頭をぽりぽりと掻きながら軽く眉を寄せて。
 溜息を1つついた後「多分、な」と言った。

 千獣は診療所にも現れなかった。
 リミナは耳飾を握り締めながら、窓に目を向けて待っていた――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】
【3601 / クロック・ランベリー / 男性 / 35歳 / 異界職】
【3510 / フィリオ・ラフスハウシェ / 両性 / 22歳 / 異界職】
【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【0929 / 山本建一 / 男性 / 19歳 / アトランティス帰り(天界、芸能)】
【3677 / ルイン・セフニィ / 女性 / 8歳 / 冒険者】
【3544 / リルド・ラーケン / 男性 / 19歳 / 冒険者】

NPC
ザリス・ディルダ
ファムル・ディート
キャトル
ダラン・ローデス
ジェネト・ディア
ルニナ
リミナ

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
『月の旋律―最後の決断―』へのご参加、ありがとうございました。
ザリス・ディルダという人物につきましては、本人が本性を見せることはありませんでしたが、NPC設定上の通りの性格が彼女の本質です。
皆様の思いについては、そう大きくは違わなかったのだと思います。
『治療薬を作る為に彼女が必要なのではないか』そこが一番の枷だったのだと。分かっていながらの意地悪な展開、すみませんでした。
皆様、真剣に取り組んでくださり、各々決断をして下さったことに深く感謝いたします。
本当にありがとうございました。

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