■慈悲と責任■
藤森イズノ |
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【7365】【白樺・秋樹】【マジックアクセサリーデザイナー・歌手】 |
都の北にある森の中に発生・出現した魔獣。
本部にあるパソコンで、その情報を得て、すぐさま現場に向かった。
都の外で魔獣が出現した場合、奴等が都へ移動する前に始末せねばならない。
討伐自体は、すぐに済んだ。大して強くもなかったから。
でも……。討伐後に、ちょっとした問題が発生。
「…………」
言葉を失ってしまう、その原因は足元にある。
キャンキャン鳴きながら、足に噛みついてくる小さな魔獣。
じゃれているわけでも、懐いているわけでもない。
この、子魔獣は "怒り" を露わにしているのだ。
親を殺された、その怒りと悲しみを ぶつけているのだ。
その元凶、犯人である自分に。
痛くはない。寧ろ、くすぐったいくらい。
未熟な牙で噛みつかれても、ちっとも痛くない。
けれど。心は痛い。ズキズキと、何ともいえぬ痛みが走る。
振り払って去ろうとしても、子魔獣は執拗に噛みついてくる。
いつしか、その鳴き声が "泣き声" のように聞こえて。
どうしよう。顔を上げることが出来ない。
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慈悲と責任
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都の北にある森の中に発生・出現した魔獣。
本部にあるパソコンで、その情報を得て、すぐさま現場に向かった。
都の外で魔獣が出現した場合、奴等が都へ移動する前に始末せねばならない。
討伐自体は、すぐに済んだ。大して強くもなかったから。
でも……。討伐後に、ちょっとした問題が発生。
「…………」
言葉を失ってしまう、その原因は足元にある。
キャンキャン鳴きながら、足に噛みついてくる小さな魔獣。
じゃれているわけでも、懐いているわけでもない。
この、子魔獣は "怒り" を露わにしているのだ。
親を殺された、その怒りと悲しみを ぶつけているのだ。
その元凶、犯人である自分に。
痛くはない。寧ろ、くすぐったいくらい。
未熟な牙で噛みつかれても、ちっとも痛くない。
けれど。心は痛い。ズキズキと、何ともいえぬ痛みが走る。
振り払って去ろうとしても、子魔獣は執拗に噛みついてくる。
いつしか、その鳴き声が "泣き声" のように聞こえて。
どうしよう。顔を上げることが出来ない。
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振り払おうとしてみても、声をかけてみても。
足首に噛みつく子魔獣は、頑として離れようとしない。
未熟な牙といえ、ここまで何度も噛みつかれてしまえば、それなりに痛む。
顔を歪めるだとか、そこまでの痛みはないけれど。
秋樹は、困り笑顔を浮かべながら歩き続けた。
足を引きずるかのように、ズルズルと。
離れてほしいと思う理由は、ふたつあった。
ひとつは、慈悲。
怒りを露わにされたところで、どうすることもできない。
子魔獣が憤怒する気持ちは、もちろん理解できる。
魔物とて、まだ子供。親を失った、この子魔獣の未来は目に見えている。
もうひとつは、責任。
この小さな魔獣が、怒っている、その理由と元凶。
子魔獣の親を殺めたのは自分。それは、紛れもなき事実。
仕事だから仕方ないんだ、なんて言い訳は通用しない。
子魔獣にとっては、そんなこと関係ない。
ただ "こいつに殺された" その感情だけを剥き出しにして噛みついてくる。
怒りは、ごもっとも。正当な理由が、そこにある。
だからこそ、困ってしまうのだ。慈悲と責任、ふたつの狭間。
子魔獣を足に纏わせたまま、秋樹は本部へと戻ってきた。
ふと見やれば、噛みつかれている足首から血が垂れて。
ドクン、ドクンと脈打つかのように揺れる足首の感覚。
秋樹は、その場にゆっくりとしゃがんだ。
もはや、声をかけたところで届くまい。
子魔獣は、足首に噛みついたままの状態でピクピクと痙攣している。
こうなることは、容易に想像できた。
だからこそ、離れて欲しかったのに。
秋樹の身体を巡る血液は、異質だ。
身体の中にある内は害を及ぼさないけれど、
ひとたび外に出てしまえば、立派な毒になる。
どうしてこんな異質な血を持っているのか。その辺りは、また別の機会に。
少し触れただけで、すぐさま絶命してしまうほどの猛毒だ。
それを直接飲んだ、いいや、今も飲み続けている子魔獣が苦しむのは必然。
苦しそうに悶えている子魔獣。
だが、頑として噛みついたまま、離れようとしない。
意識は虚ろであろうに。執念が、そうさせるのだろうか。
秋樹は、そっと子魔獣の頭を撫でて呟いた。
「ごめんね〜……」
毒を取り除くことは、僕にも出来ないんだ。
どうすることもできないんだよ。
あの魔獣は、きみのパパだったのかな？ それともママだったのかな？
気付いてた。きみが、子供が傍にいるんだろうってことは。
唸り声が異常だったからね。
こっちに来るな、来てくれるなって。そんな風に聞こえた。
でも、従って引き返すことは出来なかったんだよ。
仕事だから。始末するしかなかったんだ。
でもね、心のどこかで……割り切れてなかったんだろうね。
傍に、きみがいるって知りながらも、僕はそのまま立ち去ろうとした。
いけないことだって理解っていながらも、見逃そうとしたんだ。
もしも、これが仲間にバレたら、きっと怒られちゃうよ。
子供だとか小さいからだとか、そんなの関係ないんだ、って。
魔獣は魔獣。それ以上でも以下でもない。
どんな状況であれ、始末しなきゃいけないんだ、って。
諦めて離れてくれないかなって……そう思ってたんだけど、ね……。
優しくも儚い笑みを浮かべた秋樹。
懐から取り出すのは、魔笛。
ガラスのように透き通った、美しい笛。
毒を取り除くことも、無理やり引き剥がすことも、森へ帰すこともできない。
自分に出来ることといえば、これだけ。ひとつだけ。
楽にしてあげること。それだけ。
口元に魔笛をあてがい、秋樹は目を伏せて奏でる。
慈悲と責任。子魔獣に捧げる "葬送曲"
オルゴールの音色のように優しく柔らかなその曲は、
秋樹が奏でる、どのメロディよりも繊細で美しいもの。
足元に噛みついたまま、意識を失っていた子魔獣は、白い光に包まれて。
ポッ、ポッと発砲するかのように、花びらのように散っていく。
ザァッと花びらが舞い上がり、その小さな命は音もなく散して。
「…………」
秋樹は、スッと目を開けて確認した。
足元に噛みついていた子魔獣は、もういない。
どこかで。また、心のどこかで願ってしまった。
目を開けた時、元気な姿が飛び込みやしないかと。
甘いのかな。僕。
こういうこと、考えちゃダメなのかな。
でも、難しいよ。そう簡単には割り切れないよ。
魔物だけど……あの子たちも、生きているんだから。
なんて、こんなこと言ったら、また叱られちゃうかなぁ……。
苦笑しながら、秋樹は床に残った自身の血痕を布で拭う。
仲間の誰かが踏んでしまいでもしたら、大変なことになってしまうから。
ゴシゴシと、俯いたまま、黙々と拭き取る秋樹の背中。
少し離れた場所から、その背中をジッと見つめる梨乃。
コツンと、足元に何かが当たる。
見やれば、そこにはラクリマクロス。
大きさは極小。小指の先ほどしかない。
けれど、それは、とても美しかった。
今まで、こんなにも綺麗なラクリマクロスを見たことがあっただろうか。
触れれば、少し温かくて。それはまるで、花のようで。
梨乃は、拾い上げたラクリマクロスを持ったまま、秋樹へと歩み寄った。
気配に気付いて、秋樹はパッと顔を上げる。
「あ。梨乃。ごめんね〜。いま、綺麗に―」
「……これ」
言葉を遮るように、梨乃はズィッと腕を伸ばした。
手の平に、ポトリと落ちる小さなラクリマクロス。
秋樹は、ニコリと微笑んで言った。
「あ。ありがとう〜。収獲、忘れてた〜」
「……足の怪我。見せて」
「あ、大丈夫ですよ。ほっとけば、勝手に治りますから〜」
「……そう」
いつもどおり、緩い笑顔を浮かべて言った秋樹。
けれど、梨乃の目には、その笑顔の裏が見えた。
今にも泣きそうな、崩れてしまいそうな脆い心。
でも、それ以上に声を掛けることはせず。
梨乃は、スタスタと歩いて階段を上り、自室へと戻って行く。
何度か振り返って確認したのは。不安から。
俯いて、ゴシゴシと床を擦る秋樹の背中が、ひどく寂しそうに思えたから。
「……優しくしないで」
ポツリと。梨乃は、そう呟いた。
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■■■■■ ＣＡＳＴ ■■■■■■■■■■■■■
７３６５ / 白樺・秋樹 / １８歳 / マジックアクセサリーデザイナー・歌手
ＮＰＣ / 梨乃 / １７歳 / ハンター（アイベルスケルス所属）
こんにちは、いらっしゃいませ。
シナリオ『 慈悲と責任 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました＾＾
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櫻井かのと （Kanoto Sakurai）
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