■メイズ・オブ・リナール■
藤森イズノ |
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】 |
ハント要請もなく、自室でのんびりと。
まぁ、何かあれば、すぐに急行できる状態ではあるけれど。
仕事がないからといって、ただ、ダラダラ過ごすのも何だ。
良い機会だと捉えて、この世界の歴史でも勉強してみよう。
本部には、立派な書庫がある。歴書は勿論のこと、魔法書もたくさん。
勉強するならば、あそこ以上に良い場所なんてないだろう。
一人頷き、部屋を出て、書庫へ移動。……しようとした時だった。
コツコツと扉を叩く音。誰だろう。
応じてみれば、そこには。
「ちょっと出かけない?」
やぶからぼうに。笑顔で誘う、仲間の姿があった。
仕事……ではなさそうだ。表情を見るからには。
うーん。勉強しようと思ってたんだけれども……。
「えぇと? どこに?」
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メイズ・オブ・リナール
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ハント要請もなく、自室でのんびりと。
まぁ、何かあれば、すぐに急行できる状態ではあるけれど。
仕事がないからといって、ただ、ダラダラ過ごすのも何だ。
良い機会だと捉えて、この世界の歴史でも勉強してみよう。
本部には、立派な書庫がある。歴書は勿論のこと、魔法書もたくさん。
勉強するならば、あそこ以上に良い場所なんてないだろう。
一人頷き、部屋を出て、書庫へ移動。……しようとした時だった。
コツコツと扉を叩く音。誰だろう。
応じてみれば、そこには。
「ちょっと出かけない?」
やぶからぼうに。笑顔で誘う、仲間の姿があった。
仕事……ではなさそうだ。表情を見るからには。
うーん。勉強しようと思ってたんだけれども……。
「えぇと? どこに?」
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部屋を訪ねてきたのは、海斗だった。
どこへ行くのかと尋ねても、教えてくれない。
黙ってついて来ればいーんだよ、と言うだけで。
夏穂は、クスクス笑いながらもチョコチョコとついて行った。
女の子と一緒に歩くのなら、歩幅を合わせてあげたり、エスコートしてあげたり。
そういうことが出来てこその "男" だと思うのだけれど。
海斗は、スタスタと先を歩いて行ってしまう。しかも早い。
だから、自然と夏穂も早足になってしまう。
何だか競歩しているかのような。妙な光景……。
都は今日も賑やかで、大通りも、いつもどおり。
大勢の人が、色んな想い・目的を胸に行き交う。
(この雰囲気……いいわね)
嬉しそうに微笑みながら、海斗の後をついて行く夏穂。
森の中だとか、書庫だとか、静かな場所を好む彼女だけれど、
こういう賑やかで活気溢れる雰囲気も嫌いじゃない。
何だか、こういう雰囲気の中にいると、元気になるような。そんな気もして。
「とーちゃく!」
ピタリと海斗が立ち止った。
急に立ち止ったもんだから、場景に見惚れていた夏穂は、海斗の背中に衝突してしまう。
「あ、ごめんなさい」
笑いながら謝罪を述べて、ゆっくりと顔を上げる。
目の前には、可愛いお店。レンガ造りの……喫茶店?
入り口に置かれたボードに記された "ティーセット" を目にして、そう判断したのだけれど。
「んじゃ、中入るぞー。ほい」
「ありがとう」
扉を開けて、どうぞと促した海斗。何でまた、ここだけ紳士的……?
微笑みながら店内に入った夏穂は、あまりの可愛さに目を丸くした。
まるで、ドールハウスのような内装。
テーブルもチェアーも、壁に飾られた絵も、何もかもが可愛い。
トレイを手に店内を歩く店員のコスチュームも可愛い。
黒のロングスカートに白いカチューシャで……。格式高い良家のメイドさんのよう。
可愛すぎる雰囲気に、うっとりしてしまう夏穂。
海斗は、ケラケラ笑いながら夏穂の背中を押して、席へと向かう。
一番奥の窓際の席。大通りを行き交う人々が、ガラス越しに。
着席して早々に、店員がメニューを持って来た。
「いらっしゃいませ。久しぶりですね。海斗さん」
「おー。つか、その呼び方、止めろって言ってんだろー」
「ふふふ。マニュアルですので」
「あーそー」
「こちらの方は……? もしや、彼女さんですか?」
「あっはははは! 違う違う。友達っつーか、仲間だよ」
「あぁ。例の新入りさんですか」
「そそ」
店員と親しげに話す海斗。
夏穂は、首を傾げながらメニューをジッと見やる。
オーダーに悩んでいる様子の夏穂を見た店員は、淡く微笑みながら教えた。
「ミルクティーは、いかがですか? 当店オススメとなっております」
「あ、じゃあ、ミルクティーを下さい」
「かしこまりました。海斗さんは、どうなさいますか?」
「俺、いつものやつー」
「かしこまりました」
サッと一礼し、メニューを下げて去っていく店員。
何というか、洗練された所作というか……とても上品な男性だ。
目の前で大きな欠伸をしている海斗とは比べ物にならない。
いや、比べること自体、間違っているのだろうけれど。
紅茶と、お菓子の香りが漂う店内。
少し苦めの紅茶に、たっぷりとミルクを淹れて甘さを楽しむ。
ミルクティーを堪能する夏穂と、アップルティーを堪能する海斗。
かれこれ5分、会話のない状態が続いているけれど、不思議と気まずい雰囲気ではなくて。
ティーカップをソーサーに置き、夏穂は、フゥと息を吐いてガラス越しの大通りを見やる。
そうか。今日は祝日。だから、カップルや家族連れが多いんだ。
みんな笑顔でニコニコ。すごく楽しそう。何て、のどかな昼下がり。
微笑み、雰囲気に酔いしれている様子の夏穂。
海斗は、唐突に尋ねた。
「夏穂。質問していい?」
「んっ……? なぁに?」
「ここに来る前はさ、どーいう生活してた?」
「…………」
尋ねる海斗をジッと見つめたあと、夏穂はクスリと笑う。
なるほど。目的は、それか。色々と聞き出す為……っていうと聞こえは悪いけれど。
まぁ、確かに、自分から話してこない以上は、聞くしかないわけで。
夏穂は微笑みながら、紅茶を口元へ運んだ。
「フラッと放浪して興味のあることに首を突っ込んで、またフラリと何処かへ行くの繰り返しね」
一応、自宅というものはあったけれど。それも仮のようなもので。
どこか一ヶ所に留まるってことは、してこなかったわ。滅多に、ね。
私は勿論、兄や妹もね。向いてないのよ。留まるとか、そういうの。
自由気ままに、好きなように生きていくのが私達のモットーだから。
あぁ、でも……。勘違いしないでね。
この組織に身を置いたのは、気まぐれなんかじゃないのよ。
必要とされたことも嬉しかったし、期待にも応えようと思ってるわ。
まだまだ、理解らないことが多くて戸惑うこともあるけど。
急かすような真似をする人は誰もいないから。
ある意味、すごく居心地が良いわ。
魔法に関する勉強も出来るし。
「なるほどねー。よーするに、今も昔も、あんまし変わってないってことだな」
「ふふ。そうね。良い意味で」
「仕事とかは? 何やってた? あ、年齢的には学生か」
「そうね……。年齢的には、ね」
でも、学校には行ってないの。たまに顔を出すくらいで。
それよりも、兄や妹と一緒に、仕事をしてた時間のほうが圧倒的に長いわ。
仕事といっても、放浪医者の真似事のようなものなんだけれど。
困っている人がいたら助けてみたり、傷を負っている人がいたなら癒してみたり。
今と、あまり変わらないかもしれないわね。そのあたりも。
「ふーん。銃は? 腕を見るからに、本職だったんじゃねーの?」
「…………」
夏穂は暫く沈黙し、クスッと微笑んで目を伏せた。
「……ママから、少し習っただけよ」
訊かれるだろうとは思ったけれど。
夏穂は、そう言って微笑むだけで、それ以上を語ろうとはしなかった。
言いたくないのか、言えない理由があるのか。
理解らないけれど、空気を読めないほど馬鹿じゃない。
海斗は、笑いながらパチンと指を鳴らした。
「?」
どうして指を鳴らしたのか。首を傾げる夏穂。
すると、数秒後、トレイにお菓子を乗せて店員がやって来た。
テーブルに置かれたのは……何だろう。パイ? すごく良い匂い。
首を傾げる夏穂に笑いながら、海斗はフォークを差し出した。
「メオリー。食ってみ! メチャウマだぞ」
フォークを受け取り、何となく頷いた夏穂に、海斗は説明した。
メオリーという愛称で親しまれている、このお菓子。
正式名称は "メイズ・オブ・リナール"
異都フィガロヴィアンテにしか存在しない、特別なお菓子。
争いの絶えない下界の場景に呆れた女神が、
人々の心を安らかにしようと、空から降らせたお菓子。
まぁ、逸話なのだけれど。信憑性なんて、皆無なのだけれど。
都に住まうものならば、誰でも知っている話。童話のようなもの。
そんな逸話から、いつしか、このお菓子は "誓約" と "和解" ふたつの意味を持つようになった。
争いなんて止めて、仲直りしませんかという気持ちと、
これからも、ずっと仲良くしていきましょうという気持ち。
ふたつの気持ち、意味を込めて、人々は、このお菓子を口にする。
喧嘩した二人が、仲直りしたいという証に、互いに贈りあったりだとか、
結婚式の際に、このお菓子がテーブルに並ぶこともある。
要するに、海斗は、これを一緒に食べることで誓約を結ぼうとしている。
仲間として、友達として、これからも宜しく。そんな気持ちを込めて。
傍にいる大切な仲間だからこそ、知りたいと思うのは必然。
けれど、無理やり聞き出すような真似はしない。
いつか、話したくなったら、その時は遠慮なく話して欲しい。
ゆっくりでいいから、絆を深めていこう、お互いに。
海斗が、夏穂を連れだしてここに来た目的は、それだった。
アプリコットとバターの香りが、とても優しい。
口から喉に、ふわりと漂う香りは、鼻から全身へ。
まるで、母親にギュッと抱きしめられているかのような感覚。
どうしてこんな感覚に陥ってしまうのか。
理解らないけれど、夏穂は俯いた。
そんな夏穂の姿に笑い、海斗は、フォークに刺したメオリーを差し出す。
腕を交差させて、お互いの口へ。
正式な食べ方、誓約の証。メイズ・オブ・リナール。
どうしてだろう。何のことはないのに。
夏穂は、涙が零れ落ちてしまわぬよう、必死に微笑んだ。
「まだ、早い。真実を知りたくば、何かを犠牲にせよ……」
お姉ちゃんの言葉、ここで思い出すだなんて。思いもしなかった。
嬉しいような、寂しいような、不思議な気持ち。
この甘い香りが、そうさせるのかしら。不思議なお菓子。
初めて食べたのに、懐かしいような。不思議ね。不思議だね、お姉ちゃん。
小さな声で呟きながら、夏穂は、おもむろに左の鎖骨付近に、そっと手をあてた。
「ん? 何? 何か言った?」
「ううん。何でも……」
キョトンと目を丸くして尋ねた海斗。
普段は、何も考えずにズカズカと土足で踏み入っていくのに。
今日ばかりは、聞こえないフリも上手だね。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
NPC / 海斗 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)
こんにちは、いらっしゃいませ。
シナリオ『 メイズ・オブ・リナール 』への御参加、ありがとうございます。
作中に出てくる お菓子(メイズオブリナール)は、
イギリス宮廷伝統、門外不出とされたお菓子(メイズオブオナー)と同じもの。
ちょっと弄っておりますが "特別なお菓子" であることに変わりありません^^
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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