■お菓子が止まらない■
藤森イズノ |
【7192】【白樺・雪穂】【学生・専門魔術師】 |
特に討伐要請もなく、のどかな昼下がり。
自室、窓際でノンビリしていたところ。
どこからか聞こえる、けたたましい声。
あの騒々しい声は……海斗かな。
本当、いつでも賑やかな人だなぁ。
なんてことを考えていたんだけれど。
(……あれ?)
声が、どんどん近付いてくるような気がした。
遠くから、どんどん、どんどん、こっちへ―
(……?)
扉の前で、止まった。声も、騒々しい足音も。
どうしたんだろうと思い、立ち上がって扉へと向かおうとしたとき。
バァンッ―
「たっ、たす、助けてー!!」
扉を開け、海斗が凄い顔で懇願してきた。
何があった? どうした? そう尋ねる間もなく気付く。
海斗の手には、何やら妙な壺。変なデザイン……。
その壺から、次々とお菓子が飛び出している。
キャンディー、グミ、チョコレート……。
えぇと。手品の練習? ……じゃないよね。うん。
|
お菓子が止まらない
-----------------------------------------------------------------------------------------
特に討伐要請もなく、のどかな昼下がり。
自室、窓際でノンビリしていたところ。
どこからか聞こえる、けたたましい声。
あの騒々しい声は……海斗かな。
本当、いつでも賑やかな人だなぁ。
なんてことを考えていたんだけれど。
(……あれ?)
声が、どんどん近付いてくるような気がした。
遠くから、どんどん、どんどん、こっちへ―
(……?)
扉の前で、止まった。声も、騒々しい足音も。
どうしたんだろうと思い、立ち上がって扉へと向かおうとしたとき。
バァンッ―
「たっ、たす、助けてー!!」
扉を開け、海斗が凄い顔で懇願してきた。
何があった? どうした? そう尋ねる間もなく気付く。
海斗の手には、何やら妙な壺。変なデザイン……。
その壺から、次々とお菓子が飛び出している。
キャンディー、グミ、チョコレート……。
えぇと。手品の練習? ……じゃないよね。うん。
-----------------------------------------------------------------------------------------
「あははははっ! すごいね〜! 溢れてる!」
ピョンピョン飛び跳ねながら笑う雪穂。楽しそうだ。
だが、海斗はパニック状態。壺を抱えたまま、右往左往している。
雪穂は慌てることなく、部屋の外、廊下を見やってみた。
すごい光景だ。あちこちにお菓子が落ちている。
海斗が、どれだけ焦って走り回ったかが窺える。
雪穂は、クスクス笑いながら、どこからかカゴを出現させて、
鼻歌しながら、散らばっているお菓子を拾い始めた。
「あ〜。これ美味しそうだね〜。あっ、こっちも美味しそう〜」
呑気なことを言いつつ、お菓子を拾う雪穂の後を追いかけて海斗は言った。
「うぉぉぉぉぉい! 助けてくれってば!」
海斗が持っている壺からは、絶えず、お菓子がポンポンと飛び出している。
キリがない。雪穂は笑いながら、海斗を自室へと押し込んだ。
一目見れば、その壺が魔具であることは容易に理解できる。
同時に、どうして、お菓子が飛び出してきているのか、その原因も。
壺は、さほど大きなものではない。片手でも持ち歩けるサイズ。
「はっ!! そうだっ!!」
何かを閃いた海斗。
壺を床に置いて、何をするのかと思いきや。
ニット帽を被せた。蓋をするかのように被せた。
けれど、無意味だった。帽子を吹き飛ばして、お菓子は飛び出してくる。
「どーすりゃいーんだよー!」
自暴自棄になったのか。海斗は、その場に寝転んで手足をジタバタさせる。
まるで、駄々を捏ねる子供のような姿だ。
雪穂は、クスクス笑いながら、壺にそっと触れた。
ほんのりと温かい。それは、故障の証だ。
本来、魔具は、いつでも氷のように、ひんやりと冷たい。どんな物でも。
熱を放つということは、故障を意味する何よりの証拠。
「ん〜。入れ過ぎだよ〜。海斗〜……」
「んあー!?」
「これね、魔空間が、ぶっ壊れちゃったんだよ」
不調の原因。それは、魔空間の乱れ。
この壺は、海斗が、とある露店で購入したもの。
小さな壺だけれど、たくさん物が入る。仕組みは簡単。
壺の中が、魔空間になっているのだ。
どの世界にも属さない、どこに在るのかも理解らない空間。
収納系の魔具に用いられることが多い便利な空間だ。
飛び出してきているものから理解るとおり、
海斗は、壺の中に、お菓子を貯蔵していた。
暇さえあれば、口の中にお菓子を放っている彼にとっては、欠かせない代物。
毎日、都の商店街で何らかのお菓子を買ってきては追加してきた。
今日も今日とて、いつもどおり、お菓子を追加しようとしたのだけれど。
壺が、ひとりでに動き出した。震えるかのようにカタカタと揺れた。
何か変だな? と思って覗き込んで見たところ、
お菓子が飛び出してきて、額にスコーンとヒットした。
初っ端に飛び出してきたのは、大好きなソーダキャンディ。
そういえば、海斗の額が、微妙に赤くなっている。
「魔空間は便利だけどね〜。入れ過ぎると、空間が乱れちゃうんだよ〜」
ガサゴソと棚を漁りながら笑う雪穂。
不安そうな顔をしている海斗に笑い、雪穂は取り出した黒い手袋を右手に嵌めた。
「ちょっと待ってね。それにしても、いっぱい入れたね〜。あぅ。いてててて……」
ポンポンと飛び出して、頭や頬に当たるお菓子。
雪穂は、その微々たる痛みに苦笑しながら、壺の中に手を入れて、首を傾げながらモゾモゾ。
乱れてしまったのなら、元に戻してあげればいい。
けれど、この調整は、魔具に精通していないと出来ない。
"本来の状態" を知っていなければ、元に戻すなんてことは出来ないから。
寝転んだまま、ジーッと雪穂の作業を見つめていた海斗。
やがて、落ち着きを取り戻す壺。お菓子は、飛び出してこなくなった。
「はい。なおったよ〜」
「すげー! 早っ!」
「ついでに、ちょっと魔空間広げておいたよ」
「マジで?」
「うん。でも、入れ過ぎは駄目だよ。程々に〜」
「さんきゅー! 助かったー! って、あああああっ!」
喜びも束の間。またもや大声で騒ぐ海斗。今度は何だ、と思いきや。
「勝手に食うな、お前らぁぁぁぁ」
雪穂の護獣、正影と白楼が、散らばったお菓子を食べていた。
爪や牙を使って、器用に包み紙を解きながら。
しかも、食べられたのは、入手が困難なチョコレート。
週末にしか営業しない店の、人気ナンバーワン。
競争率が高い為に、容易く補充できないお菓子のひとつ。
「吐き出せぇぇぇぇぇぇ」
飛びかかって、白楼の背中をバシバシ叩く海斗。
既にゴックンしているので、出せません。というか。
ゲシッ―
「痛ぇっ!」
正影が黙っていない。海斗は、蹴り飛ばされて転がった。
それでも諦めず、再び飛びかかっていくのだけれど。哀れだ。
まるで、サッカーボールかのように、二匹に弄ばれてしまう。
人様の部屋で、何をギャーギャーと騒いでいるのやら。大迷惑である。
けれどまぁ、大切なお菓子を食べられてしまって悲しい気持ちは理解る。
自分の護獣がしてしまったことでもあるし。
雪穂は苦笑しながら、お詫びにと壺の中にお菓子を補充した。
美味しそうなココアクッキーや、マカロン、プチマフィン。
次々と壺の中に放られていくお菓子を目にした海斗は、
髪の毛ボッサボサの状態で起き上がって尋ねた。
「それ、手作りじゃね?」
「そうだよ〜。よくわかったね〜」
「見りゃわかるよ。 ……もしかして、雪穂が作った?」
「ううん〜。僕は料理苦手だから無理だよ〜」
「だよな! じゃ、いったい誰が―」
「ふふふふ〜。誰だろうね〜」
笑いながら、壺にお菓子を入れて行く雪穂。
何だか、大釜をかき混ぜる魔女のような姿。
海斗は、雪穂の小さな背中を見やりながらクククと笑った。
うん、まぁ、楽しそうで何よりだけれど。
修理してもらえて良かったねと言いたいところだけれど。
とりあえず、さっきの "だよな" って発言。
失礼だから謝りなさい。今すぐに。
事実なんだからイイだろとか、そんなことはどうでもいいから。
ほら、早く謝らないと。めっちゃ睨んでますよ。二匹が。
それから、本部各所に散らばった お菓子も拾っておくように。
ほら、早く片付けないと。みんなに怒られちゃうよ?
せっかく珍しくジャンケンで勝ったのに、今週もトイレ掃除なんて嫌でしょう?
「お菓子、拾いに行こっか〜」
ニッコリと微笑んで言った雪穂。
海斗は、元に戻った壺を大切そうに抱えて雪穂の後を追った。
「あっ、何? 手伝ってくれんの?」
「一人じゃ大変でしょ〜。さすがに〜」
「さんきゅー!」
-----------------------------------------------------------------------------------------
■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
NPC / 海斗 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)
こんにちは、いらっしゃいませ。
シナリオ『 お菓子が止まらない 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------
|
|