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■ウルサトムの杖■

藤森イズノ
【7192】【白樺・雪穂】【学生・専門魔術師】
「あぁ。もう出来てるよ。ほら、これがそうさ」
 どうだい。良い出来だろう?
 って言っても、キミにはわからないかな。
 注文通り。いや、注文以上に完璧な仕上がりなんだ。
 ほら、ここのデザインなんか、かなり素敵じゃない?
 って言っても、キミにはわからないか。ごめん、ごめん。
 えぇと? ところで、キミは何?
 お使いで来ただけかい?
 ……にしては、妙な感じだね。
 あぁ、いや。かなりの魔力を持ってるなぁと思って。
 あれっ? もしかして……。
 裁也さん、キミの為に注文したのかな。
 ん〜。その可能性が高いなぁ。
 っていうか、確実にそうなんだろうね。
 オレの予想って100%的中するから。
 あの人って、おせっかいだしね。基本的に。
 でもまぁ……。そういうことなら……。うん。
「ひとつ、試させてもらおうかな」
 さっきも言ったけれど、かなり良い出来なんだ。これ。
 良い出来すぎて、正直、手放すのが惜しい気持ちもある。
 だから、試させてもらうよ。
 オレよりもキミが持つべきだと、適任だと判断したら、
 そう判断させることが出来たら、キミにあげる。
 手ぶらで帰るわけにもいかないんでしょう?
 ふふ。そんな顔しないでよ。
 ちょっとした暇潰しさ。
 準備はオーケー?
 じゃあ、始めようか。
「サリー! 出ておいで!」
 ウルサトムの杖

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「あぁ。もう出来てるよ。ほら、これがそうさ」
 どうだい。良い出来だろう?
 って言っても、キミにはわからないかな。
 注文通り。いや、注文以上に完璧な仕上がりなんだ。
 ほら、ここのデザインなんか、かなり素敵じゃない?
 って言っても、キミにはわからないか。ごめん、ごめん。
 えぇと? ところで、キミは何?
 お使いで来ただけかい?
 ……にしては、妙な感じだね。
 あぁ、いや。かなりの魔力を持ってるなぁと思って。
 あれっ? もしかして……。
 裁也さん、キミの為に注文したのかな。
 ん〜。その可能性が高いなぁ。
 っていうか、確実にそうなんだろうね。
 オレの予想って100%的中するから。
 あの人って、おせっかいだしね。基本的に。
 でもまぁ……。そういうことなら……。うん。
「ひとつ、試させてもらおうかな」
 さっきも言ったけれど、かなり良い出来なんだ。これ。
 良い出来すぎて、正直、手放すのが惜しい気持ちもある。
 だから、試させてもらうよ。
 オレよりもキミが持つべきだと、適任だと判断したら、
 そう判断させることが出来たら、キミにあげる。
 手ぶらで帰るわけにもいかないんでしょう?
 ふふ。そんな顔しないでよ。
 ちょっとした暇潰しさ。
 準備はオーケー?
 じゃあ、始めようか。
「サリー! 出ておいで!」

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 魔具職人サルザの呼びつけに応じて姿を見せたサリー。
 いったい、どんなコワモテが出てくるのかと思いきや。
 バサァ―
「うわ〜」
 人ではなかった。木の上から落下してきたサリーは、蜘蛛だった。
 それも、半端なくデカい。小さくても気持ち悪いのに、ここまで大きいと……。
「大きい蜘蛛さんだ〜。可愛いね〜」
 キャッキャと嬉しそうに笑う雪穂。
 どこかズレているのか。まぁ、今更だけれど。
 普通なら、普通の女の子なら、ここは「キャー」とか言って驚くところ。
 その反応を予想していたがゆえに、逆にサルザがビックリしてしまっている状態。
「……珍しい反応だねぇ。怖くないのかい?」
 苦笑しながらサルザは言った。
 雪穂は、ニッコリと満面の笑みを浮かべて返す。
「ん〜? どうして〜? 全然怖くないよ〜」
「そっか。変わってるね、キミ」
「そっかな〜? でもね〜お姉ちゃんのほうが、もっとすごいよ〜」
「へぇ。お姉さんがいるんだ?」
「うん。双子のね〜」
「ふぅん」
 姉の動物好きは、異常とも言えるほどで。
 動物だけじゃなく、魔物だってペットにしちゃったり。
 これはさすがにナイでしょう、気持ち悪いでしょうっていうのでも可愛いって言ったりする。
 変わってるなぁとは思うけれど、そういう感覚の持ち主である姉を嫌ったことはない。
 寧ろ、自分とは違う個性的な感性を持ってる人だと尊敬すらできる。
 ペラペラと、姉について話す雪穂。
 けれど、話しながらも着々と準備を進めている。
 お友達になるわけじゃなくて、サリーとは対戦するわけだからね。
(む〜。どうしよっかなぁ。殺しちゃマズイだろうし〜……)
 どうしたものかと考えながら、とりあえずスペルカードを取り出す雪穂。
 扇のようにビラッと広げて、一枚一枚を確認していく。
 性格上というべきか何というか、攻撃的なものが多い。
 まぁ、補助やら援護やらは姉や兄が担当するところで、
 雪穂は、前線でガツガツと敵を薙ぎ倒していくスタイルだから仕方ないのだけれど。
 攻撃的な手段ばかりだということになると、余計に難しい。
(ん〜。触ったらヤバそうなんだよね〜)
 チラッとサリーを見やって苦笑を浮かべた雪穂。
 サリーは、黒い蜘蛛だ。ところどころに、紫の斑点がある。
 ハッキリとは思いだせないけれど、あれは、毒素の模様……だったような気がする。
 いつ、どこで読んだ本に記されていたんだっけ。
 思いだせないけれど、サリーが "魔生物" だということは確か。
 この世界に存在する魔生物は、魔獣だけだと思っていたんだけれど。
 そういうわけでもないようだ。例外、ってやつなんだろうか。
 あれこれ考え、難しい顔をしている雪穂に、サルザは笑う。
「ふふ。どうしたの。戦意喪失?」
「んっ? あ、ううん〜。そういうんじゃないけど〜」
「攻めてこないなら、こっちから攻めるよ」
 クスクス笑いながら、サリーに手話のような動きで指示を飛ばすサルザ。
 了解、と言わんばかりに、サリーはモゾモゾと奇妙な動きを見せた。
 おっとっと。ボーッとしてる場合じゃない。すぐに応戦せねば。
 どうしよう、どうやって迎え撃とう。
 すぐさまスペルカードに視線を落とす雪穂。
 そこで、ふと目に留まったカード。
 それは、滅多に使わないカードだった。
 最後の使ったのがいつか、思いだせないほど。
(うまくいくかな……)
 不安を覚えながらも、雪穂はスペルカードを一枚引き抜き、
 そっと口付けてから、小声で高速詠唱した。
 サルザから指示を受けたサリーは、指示どおりに雪穂を襲う。
 毒素を持つ足でガサガサと移動し、噛みつこうとしてくる。
 いやいや。いったい、どんな指示を飛ばしたんだ。
 ちょっとした遊びだとか、そんなレベルじゃない。
 噛みつかれたら最後、持っていかれてしまう。
 サリーに追いかけまわされている雪穂を観察しながら、サルザは余裕の笑み。
 木に凭れて、前髪を弄ってみせたり、何だか嫌味だ。
 けれど、雪穂は、ただ逃げているだけじゃない。
 参りました、もう止めて下さいだなんて、絶対に言わない。
 チョコマカと動きながら、ちゃっかり "網" を張っていた。
 雪穂が詠唱したのは 【魔糸】 のスペルカード。
 標的の動きを抑制する、雪穂にしては珍しい補助魔術。
 だからこそ、あまり使用しない。
 久しぶりに発動したから、上手くいくかと不安だっただけど……。
『ギッ……ギギギッ……』
 どうやら、上手くいったようだ。
 サリーの動きが、やたらとぎこちなくなった。
 カクカクしながら足掻く、その姿は、操り人形のよう。
 発動者(要するに雪穂)以外には、不可視の魔術 "魔糸"
 相当な魔力を持った者でも、視認することは出来ない。
 その糸は、まさに蜘蛛の糸。
 絡みついて離れない。
 剥がそうと足掻けば足掻くほど、糸はどんどん絡まってしまう。
 魔法で構成された、その糸は強靭で、ワイヤーほどの強度を誇る。
 動き回りながら、雪穂は、この魔糸をそこらじゅうに張り巡らせていたのだ。
 その結果、知らず知らずのうちにサリーは糸に絡まって。
 気付いたときには、こんな状態。
 団子状態になったサリーは、何とも哀れだ。
「やったぁ〜。上手くいったよ〜」
 ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ雪穂。
 こうなってしまったは、もはや指示もクソもない。
 動けなくなって悲しそうに鳴くサリーに歩み寄り、サルザは肩を竦めた。
「なるほどね。そういうことだったか。やるねぇ、キミ」
「へへへ。あの子みたいに上手ではないけどね〜」
「あの子?」
「うん〜。えっとね〜。あ、待って。その前に、糸解くね〜」


 *


「ごくろうさん。おぉ、持ってきたな」
「うん。はい、どうぞ、マスター」
「有難う」
 勝利を収め、無事にウルサトムの杖を入手してきた雪穂。
 本部へ戻り、すぐさま裁也の部屋へと足を運んだ。
 杖を受け取った裁也は、満足そうに微笑んでいる。
 雪穂は、ニッコリ笑って言った。
「この世界の魔具職人さんって、面白い人が多いね〜」
「うん? そうかのぅ?」
「うん。藤二兄も面白いし〜」
「はぁ。さては、サルザの奴、余計な真似しおったな」
「あはははっ。楽しかったよ〜。でっかい蜘蛛さんと遊んだんだ〜」
「蜘蛛……。もしや、サリーか?」
「うん。そうだよ〜。マスターも遊んだことあるの?」
「いや、まぁ……な。やれやれ……まだ飼っておるのか……」
「ん〜? なになに〜? 飼っちゃダメなの〜?」
「あぁ、いや。何でもない。そうだ、褒美をやらねばな」
「ほぇ? 別にいいよ〜。ちょうど暇だったし〜」
 あ。でも、ちょっと待って。何か、気になること言ってたかも。
 その杖は、キミの為に作らせたものなんじゃないか〜とか何とか。
 言ってたような、言ってなかったような〜?
 むぅ? と首を傾げてみた雪穂。
 裁也は、フフフと笑いながら、杖を構えた。
「まったく。あいつは、お喋りじゃな」
「ん〜? ……わっ。なになに? なにこれ〜」
 雪穂が、目を丸くして驚いている理由。
 それは、全身を包み込むシャボン玉のような無色透明の光。
 ポワンポワンと音を放ちながら、雪穂の身体に接触してパチンと弾ける。
 何が起きているのか、さっぱり理解らない。
 雪穂は、キョトンとしたまま、その場に立ち尽くした。
 やがて、光は消えて静寂が戻る。
 雪穂は、首を傾げながら尋ねた。
「ねぇ、マスター。いまの何〜?」
「褒美じゃよ。ちょいと飛び上ってごらん」
「?????」
 目をパチクリさせながら、言われるがまま雪穂は軽くジャンプしてみた。
 すると。
「ふぉっ! ふわわわわわ〜〜〜!?」
 軽く飛んだだけなのに、すさまじい跳躍。
 ゴツッ―
「痛っ!」
 天井に頭をぶつけてしまうほど。
 しかも、それだけじゃなく。
 ふわふわと、雪穂は空中に留まったまま。浮かんでいる状態。
 ウルサトム。それは、この世界にかつて存在していた鳥の名前。
 本当に存在していたのか否か、それは誰にも理解らないけれど。
 その鳥の名を付けた、この杖には "飛翔" の効果が宿る。
 鳥のように、自由自在に空を舞う不思議な能力。
 裁也は、褒美として雪穂に、その能力を与えた。
 飛行に消費するエネルギーと魔力は無関係。
 本人が元気ならば、いつでも飛行することが出来る。
「ひとつだけ注意点を言うなれば、睡眠不足時の飛行は厳禁。これだけじゃな」
 浮かぶ雪穂を見上げて、裁也は微笑んで言った。
 打ちつけた頭を擦りながら、雪穂は嬉しそうに微笑み返す。
「ありがと〜。マスター。あっ! そうだ!」
「ん? どうしたね?」
「この能力を組み込めば、あの新技も完璧に仕上がるかも〜!」
 閃いたアイディアに成功を確信し、雪穂はキャッキャとはしゃぐ。
 そうとわかれば、すぐにでも実践してみたい。
 雪穂は、ふわふわと浮かんだまま、トレーニングルームへと向かった。
 まだ少しぎこちない飛び方ではあるけれど、すぐにモノにするだろう。
 何度もお礼を言い、手を振りながら去っていく雪穂に頷き、裁也は呟いた。
「そう。それじゃよ」
 ちょっとした手助けのつもりなんじゃが。
 余計なお世話だったかのぅ?
 過保護? う〜む。否定できんのぅ……。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 NPC / 裁也 / ??歳 / アイベルスケルス責任者
 SUB CHARACTER / サルザ / 29歳 / 魔具職人

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 ウルサトムの杖 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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