■ハイドアウト■
藤森イズノ |
【7365】【白樺・秋樹】【マジックアクセサリーデザイナー・歌手】 |
「…………」
あれ。おかしいな。
首を傾げて、何度も引いてみるけれど開かない。
押して開ける扉だったっけ? ……いやいや、違う。
もう、何度も出入りしてるんだ。忘れるはずもない。
ガッチャガチャと、乱暴にしてもみるけれど。
駄目だ。開かない。どうしてだろう。
困ったなぁ、と思いつつ携帯で中に連絡しようとしたとき。
『あっ。ごめんね、開かないでしょ』
「!」
扉上にあるスピーカーから千華の声。
スピーカーの隣には、監視カメラも設置されている。
カメラのレンズをジーッと見上げながら尋ねてみた。
何で扉が開かないのか、と。
原因は、鍵の不調だった。
本部の鍵は、魔具だ。
普通の鍵と異なり、かなりのセキュリティを誇る。
壊れるだなんて滅多にないこと。
だからこそ、修理に時間が掛ってしまう。
何でも、この鍵は、とある魔具職人にしか直せないそうで。
その魔具職人は、外界出張で明日の昼まで戻らないらしい。
『ごめんね。今日は、どこか……宿でもとってもらえるかしら』
まぁ、そんなわけで、アウトドア。
明日の昼まで、自分は本部に入れない、と。
仕方ない。宿でも探そう。お腹も空いたし。
申し訳なさそうに言う千華へ、カメラ越しに笑顔を返して反転。
さて、どうしよう。お金、あったかな。えぇと……。
懐から財布を取り出して所持金を確認してみる。
(……足りるかな)
大丈夫かなぁと不安に思いながら、歩いていたところ。
聞き慣れた声と、見慣れた姿が目に飛び込んできた。
「あれ? 帰らないの?」
キョトンとした顔で言った人物。
お互い、運が悪いね。なんて笑いながら事情を話した。
明日の昼まで、本部には戻れないんだよ、って。
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ハイドアウト
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「…………」
あれ。おかしいな。
首を傾げて、何度も引いてみるけれど開かない。
押して開ける扉だったっけ? ……いやいや、違う。
もう、何度も出入りしてるんだ。忘れるはずもない。
ガッチャガチャと、乱暴にしてもみるけれど。
駄目だ。開かない。どうしてだろう。
困ったなぁ、と思いつつ携帯で中に連絡しようとしたとき。
『あっ。ごめんね、開かないでしょ』
「!」
扉上にあるスピーカーから千華の声。
スピーカーの隣には、監視カメラも設置されている。
カメラのレンズをジーッと見上げながら尋ねてみた。
何で扉が開かないのか、と。
原因は、鍵の不調だった。
本部の鍵は、魔具だ。
普通の鍵と異なり、かなりのセキュリティを誇る。
壊れるだなんて滅多にないこと。
だからこそ、修理に時間が掛ってしまう。
何でも、この鍵は、とある魔具職人にしか直せないそうで。
その魔具職人は、外界出張で明日の昼まで戻らないらしい。
『ごめんね。今日は、どこか……宿でもとってもらえるかしら』
まぁ、そんなわけで、アウトドア。
明日の昼まで、自分は本部に入れない、と。
仕方ない。宿でも探そう。お腹も空いたし。
申し訳なさそうに言う千華へ、カメラ越しに笑顔を返して反転。
さて、どうしよう。お金、あったかな。えぇと……。
懐から財布を取り出して所持金を確認してみる。
(……足りるかな)
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見たいテレビがあったんだけどなぁ〜……。
まぁ、仕方ないかっ。それに、屋敷も半壊状態だしねぇ。
本部の中に入れてもらってるから、あんまりウルサくしないようにって言ってるんだけど。
居候の人たちが、大喧嘩しちゃったからねぇ。多分、今も続いてるんだろうなぁ。
大丈夫かな。またギャーギャー騒いで迷惑かけてるんじゃないかな。
千華は、その辺りについて何も言ってなかったけど……。
まぁ、とりあえず、中には入れないってことだし。
仕方ない、風邪引き覚悟で、外で寝ようかな〜。
手持ちが厳しいよ。お財布の中身が、残念なことになってる。
昨日、ついつい衝動買いでソファを買っちゃったのが痛いよね。
お金を下ろそうにも、もう時間的に無理だし……。
うん、やっぱり、野宿しかないかな。
「んじゃ、行こっか。トリル」
そう言って、秋樹はキュッと抱きしめた。
先日誕生させたばかりの、小さな鹿の護獣だ。
トリルと一緒なら、外でもきっと大丈夫。
ふわふわすべすべの毛並みは、あったかいからね。
それに、もう春だし。凍え死んじゃうなんてことは絶対にないよ。
さて〜。どうしよっか。やっぱり、公園とかが良いかな。
僕的には、芝生に転がって寝たいんだけど。
ん〜。でも、人気がなさすぎる場所は避けたほうが良いかなぁ。
面倒なことに巻き込まれても嫌だしねぇ。
となると、やっぱりこのへんかなぁ。
繁華街のどこか……。ん〜でも、逆に物騒な気もするなぁ。
トリルを抱いたまま、トコトコと歩く秋樹。
どうやら、かなり真剣に考えていたようで。
「……ねぇってば」
「んっ?」
こうして、背中を叩かれて声を掛けられるまで気付かなかった。
ずっと、後ろをついて来ていた梨乃の存在に。
振り返って、ようやく気付いた秋樹は、いつもの笑顔を浮かべる。
「あ〜。梨乃。やっほ〜」
「……戻らないの? 本部」
「ん? 戻れないんだよ〜」
「……どういうこと?」
「あれれ。知らないのかぁ。えっとね……」
首を傾げている梨乃に、秋樹は説明した。
どうやら、梨乃は買い物で外出していたようで。
本部へ戻る途中、フラフラと歩く秋樹を見つけて声を掛けたらしい。
まぁ、気付いてもらえたのは、ついさっきなんだけれど。
そろそろ夕飯の時間なのに、どうして戻らないんだろう。
本部とは逆の方向に歩いて行くんだろう。
梨乃が抱いていた疑問は、説明によって解明された。
「……そういうことだったの。それで、宿を探しに?」
「ん〜。お金がないからね、野宿しようと思って」
「……野宿って。駄目よ。危ないから」
「う〜ん。でも、ほんとに手持ちがなくて。5エルクしかないんだ」
「……そうなの。それじゃあ、無理ね」
「あははは〜。梨乃は、どうするの?」
「……宿に泊まる」
「そっか。んじゃ〜。僕、塒を探すから〜」
「……待って」
秋樹の腕をガシッと掴んだ梨乃。
ん? と首を傾げる秋樹から微妙に目を逸らして梨乃は言った。
「……一緒に……泊まる?」
*
野宿なんて危ないから。
秋樹と最後に会話したのは……だなんてことになったら嫌だから。
まぁ、襲われたところで返り討ちにしちゃうだろうとは思ったけれど。
仲間が事件に巻き込まれるだなんて嫌だし、避けたいところ。
そう思ったから、梨乃は一緒に宿泊することを提案した。
ありがとう、でも大丈夫だよ。そう遠慮するかと思いきや。
秋樹は、二つ返事で一緒に宿泊することに賛同した。
いつものように、何も考えていない発言・返答に思えるけれど、違う。
思いやってくれている梨乃の誘いを断るのは失礼だと思った。
申し訳ない気持ちはあるけれど、女性の誘いを断るのは失礼。
こう見えて、秋樹は意外と紳士的だったりする。
「お〜。綺麗な部屋だねぇ」
「……うん」
ポテポテと歩きながら、部屋を見回る秋樹。
二人が宿泊することにしたのは、自然豊かな南区にある小さな宿。
秋樹は、窓を開けて確認し、ウンウンと頷いた。
この宿への宿泊を提案したのは秋樹。
以前、散歩の途中で見つけて可愛い宿だなと思っていた。
やましい気持ちがあるわけじゃないけれど、女性と宿泊するのは事実。
それならば、女の子が喜びそうな場所をチョイスするのが男ってものでしょう。
まぁ、秋樹の場合、そこまで深くは考えていないだろうけれど。
それと、もうひとつ。
秋樹が、この宿を選んだのには理由がある。
宿の隣に、大きな木があるのだ。
二人が宿泊することになった部屋の窓から手を伸ばせば触れられる位置にある。
一緒に泊まるという趣旨からは外れてしまうけれど、
この木の太い枝の上で寝てしまおうと秋樹は考えた。
まさか、女の子と同じベッドで眠るなんて、そんなこと出来るはずがない。
君はベッドで、俺はソファで眠るからっていうのも定番だけど微妙だ。
気遣ってはくれたものの、梨乃の内心は色々と複雑なはず。
その複雑な心境を口にするはずもないから。自分が悟ってフォローする。
(寝顔、見られたくないっていうのもあるしねぇ)
窓を閉めながら、クスッと笑った秋樹。
ソファに座る梨乃は、どこか緊張しているかのようで。
秋樹はニコリと微笑み、備え付けのポットでお茶を淹れ始めた。
「ミルクティーにする?」
「……えっ。……あ、うん」
やたらと過剰に反応する梨乃。
気持ちは理解る。そりゃあ、そうだ。
仲間とは言え、仕方ないとは言え、男と宿に泊まるのだから。
普通の女の子ならば、動揺したり緊張したりして当然。
秋樹は、微笑みながらカップを差し出して、向かいのソファに腰を下ろした。
何だか落ち着かないのは、僕も一緒。
それに、梨乃とは、普段からあまり話さないしね。
だから、良い機会だってことで。色々と、お話しない?
秘密を打ち明けるとかそういうんじゃなくて、何か適当にお喋りしよう。
そうすれば、いつか緊張とかもなくなって楽になるはずだよ。
けど、そうだなぁ……話題、話題がねぇ。あっ、そうだ。こんなのは、どう?
「梨乃、動物で何が好き?」
「……どうして?」
「いいからいいから、教えて」
「……猫。黒い猫が好き」
「了解。ちょっと待ってねぇ」
微笑みながら目を伏せて、秋樹は懐からシルバースティックを取り出した。
何をするのかと思いきや。スティックに魔力を注入して、アクセサリーを作っている。
マジックアクセサリーというやつだ。即興ではあるけれど、見事な出来栄え。
完成した黒猫のブローチを差し出して秋樹は笑う。
「はい。あげる」
「……ありがとう。あっという間に出来るのね」
「たくさん作ってきたからね〜。他に、リクエストあるかな?」
「……え、と。じゃあ……今度は白い猫」
「ほいほ〜い。ちょっと待ってねぇ」
次から次へと完成していくアクセサリー。
その速さは勿論のこと、製作過程の美しさも素晴らしい。
初めて目にするマジックアクセサリーの製作と、その見事なデザインに梨乃は夢中。
「……ねぇ、これも、魔具製作なの?」
「ううん。違うよ。僕は、このスティックでしか作れないからね」
「……そうなんだ。そのスティックって……どこで手に入れるの?」
「ん? どうして? 欲しいの?」
「……何となく気になっただけ」
「そっか。ん〜。内緒〜じゃ駄目?」
「……ううん。いい。それも立派な答えだと思う」
「ふふ。ありがと〜。ね、他にはリクエストない?」
「……えっと。じゃあ、次は……」
結局、明け方まで続いた。
梨乃だけじゃなく秋樹まで夢中になってしまって。
緊張やら戸惑いやらは、どこへやら。
散々夢中になった二人は、いつしか眠りに落ちて。
木枝の上で眠ろうと思っていたのに、普通にソファで眠ってしまった。
その事実に、目覚めた秋樹は、しまった〜……と思って笑ったけれど。
テーブルの上に、ごちゃっと置かれた数えきれぬほどのアクセサリーを見てクスクス。
その笑い声で、梨乃もフッと目を覚ます。
「……はっ」
慌てて起き上がった梨乃。
身体に、ブランケットが掛けられていたことに、そこで気付く。
秋樹は、にっこりと笑って言った。
「おはよ〜」
「……お、おはよう」
何だろう。この感じ。妙に照れ臭いような、くすぐったいような。
二人は顔を見合わせて、お互いにクスクス笑い合った。
さて。今日も良い天気。作ったアクセサリーを鞄に詰めて、チェックアウトしよう。
本部に戻れるのは、お昼過ぎだから……それまで、散歩でもしようか。
「うぅ。作り過ぎた。重いぞぅ〜」
「……半分、持つよ」
あまり話したことのなかった二人。
嫌なものではなかったけれど、そこには距離があった。
でも、こうして一夜を共にしたことで、その距離はグンと縮まって。
無口な子なのかと思っていたけれど、意外とお喋り。
猫が大好きで、猫の話になると、すごく楽しそうに話す。
普通の女の子。秋樹の梨乃に対する印象は、こうして大きく変わり。
天然ボケで、頼りない人だと思っていたけれど、意外と紳士。
さりげなく気遣うのが上手で、一緒にいると、何だかホッとする。
実は、オトナ……? 梨乃の秋樹に対する印象は、こうして大きく変わり。
ちょっとしたハプニングで、こうして一緒にお泊りしたわけだけれど。
結果的に、良い経験をしたような。そんな気がしないでもない。
盛りだくさんのアクセサリーを半分こして持ち、並んで歩く二人。
その光景は、ほのぼのしていて。初々しいというか何というか。
見ていたら、何だか優しい気持ちになりました。BY ホテルフロント
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7365 / 白樺・秋樹 / 18歳 / マジックアクセサリーデザイナー・歌手
NPC / 梨乃 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)
こんにちは、いらっしゃいませ。
シナリオ『 ハイドアウト 』への御参加、ありがとうございます。
ほのぼの…(´∀`*) 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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