■ハイドアウト■
藤森イズノ |
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】 |
「…………」
あれ。おかしいな。
首を傾げて、何度も引いてみるけれど開かない。
押して開ける扉だったっけ? ……いやいや、違う。
もう、何度も出入りしてるんだ。忘れるはずもない。
ガッチャガチャと、乱暴にしてもみるけれど。
駄目だ。開かない。どうしてだろう。
困ったなぁ、と思いつつ携帯で中に連絡しようとしたとき。
『あっ。ごめんね、開かないでしょ』
「!」
扉上にあるスピーカーから千華の声。
スピーカーの隣には、監視カメラも設置されている。
カメラのレンズをジーッと見上げながら尋ねてみた。
何で扉が開かないのか、と。
原因は、鍵の不調だった。
本部の鍵は、魔具だ。
普通の鍵と異なり、かなりのセキュリティを誇る。
壊れるだなんて滅多にないこと。
だからこそ、修理に時間が掛ってしまう。
何でも、この鍵は、とある魔具職人にしか直せないそうで。
その魔具職人は、外界出張で明日の昼まで戻らないらしい。
『ごめんね。今日は、どこか……宿でもとってもらえるかしら』
まぁ、そんなわけで、アウトドア。
明日の昼まで、自分は本部に入れない、と。
仕方ない。宿でも探そう。お腹も空いたし。
申し訳なさそうに言う千華へ、カメラ越しに笑顔を返して反転。
さて、どうしよう。お金、あったかな。えぇと……。
懐から財布を取り出して所持金を確認してみる。
(……足りるかな)
大丈夫かなぁと不安に思いながら、歩いていたところ。
聞き慣れた声と、見慣れた姿が目に飛び込んできた。
「あれ? 帰らないの?」
キョトンとした顔で言った人物。
お互い、運が悪いね。なんて笑いながら事情を話した。
明日の昼まで、本部には戻れないんだよ、って。
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ハイドアウト
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「…………」
あれ。おかしいな。
首を傾げて、何度も引いてみるけれど開かない。
押して開ける扉だったっけ? ……いやいや、違う。
もう、何度も出入りしてるんだ。忘れるはずもない。
ガッチャガチャと、乱暴にしてもみるけれど。
駄目だ。開かない。どうしてだろう。
困ったなぁ、と思いつつ携帯で中に連絡しようとしたとき。
『あっ。ごめんね、開かないでしょ』
「!」
扉上にあるスピーカーから千華の声。
スピーカーの隣には、監視カメラも設置されている。
カメラのレンズをジーッと見上げながら尋ねてみた。
何で扉が開かないのか、と。
原因は、鍵の不調だった。
本部の鍵は、魔具だ。
普通の鍵と異なり、かなりのセキュリティを誇る。
壊れるだなんて滅多にないこと。
だからこそ、修理に時間が掛ってしまう。
何でも、この鍵は、とある魔具職人にしか直せないそうで。
その魔具職人は、外界出張で明日の昼まで戻らないらしい。
『ごめんね。今日は、どこか……宿でもとってもらえるかしら』
まぁ、そんなわけで、アウトドア。
明日の昼まで、自分は本部に入れない、と。
仕方ない。宿でも探そう。お腹も空いたし。
申し訳なさそうに言う千華へ、カメラ越しに笑顔を返して反転。
さて、どうしよう。お金、あったかな。えぇと……。
懐から財布を取り出して所持金を確認してみる。
(……足りるかしら)
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昨晩から続いている大喧嘩。
夏穂は関与していない。屋敷の居候達が喧嘩している。
まぁ、喧嘩自体は珍しくも何ともない。寧ろ、日常茶飯事。
喧嘩するほど仲が良いとも言うし。殺し合いだとか、そういうわけでもないし。
ただ、今回の喧嘩は激しい。ここまで激しい喧嘩は久しぶりだ。
アイベルスケルス本部内に置かせてもらっている夏穂たちの屋敷は、半壊状態にあった。
何度止めなさいと言っても聞かないので、
夏穂は放置して、お茶でも飲んでこようと外出した。
多分、喧嘩は、まだ続いているのだろう。
みんなの迷惑になるから、なるべく早く止めてもらいたいんだけど。
どうやって鎮めようか、あれこれ考えながら戻ってきた。のに。
鍵が壊れて、中に入れないとは……。何というタイミング。
良いのか悪いのか、ちょっとわからないタイミング。
とりあえず、中に入れないのなら、突っ立っていても仕方ない。
千華は、どこか宿を探してくれと言っていたけれど……。
護獣の二匹、蒼馬と空馬を撫でながら、公園のベンチに座っている夏穂。
ひとまず、本部から離れたものの。さて、困った。
(どうしようかしら……)
お世辞にも、手持ちは多いとは言えない。
夕飯もまだだし、宿を取るなら格安のところが絶対になってくるわけだ。
護獣たちもお腹をすかせているから、彼等のご飯も考慮せねばならない。
もちろん、屋敷というか喧嘩の状態も気になる。
屋敷にいるであろう兄妹の状態も気になる。
自分が戻らないことで、心配させているのではないかと。
まぁ、千華から連絡がいくとは思うけれど。
どうしようかなと考えながら、ゆっくりと瞬きしていた夏穂。
そこに、聞き慣れた声と見慣れた姿が。
「おーい。何してんのー」
パーカーのポケットに手を突っ込み、口に棒付きキャンディを咥えて話しかけてきたのは……海斗。
何やら、大きな紙袋を持っている。多分、中はお菓子でいっぱいなんだろう。
夏穂は、軽く会釈して見せた。
隣にドカッと座った海斗は、本部に戻らないのか? と尋ねてくる。
そうか。海斗は、まだ知らないんだ。
鍵が壊れてしまったことも、本部に降りていけないことも。
夏穂は、いつもどおりの、おっとりとした口調で事情を伝えた。
「うぇ。マジで。めんどくせーことになってんなー」
「まぁ、仕方ないわよ」
「んじゃ、どっか、宿探すかっ」
「え?」
「まさか、野宿とかしねーだろ」
「しないけど……」
「さすがにヤバいからな。あ。でも、俺、使い過ぎて手持ちのほーがヤバいかも」
「…………」
ポケットから財布を取り出し、引っくり返してジャラジャラ。
まさか、一緒に泊まるつもり? そう思ったのは事実なんだけれど。
いつもと何ら変わらぬ、無邪気な海斗の姿を見ているうちに可笑しくなった。
重大なことだと意識してしまった自分が、ひどく滑稽に思えて。
*
「へー。こんなとこに宿なんてあったんだなー」
「ここの奥さんのご飯、美味しいのよ」
ふんわりと笑いながら言って、扉を開けた夏穂。
宿泊するならば、ここにしようと夏穂が足を運んだのは、都の西区にある小さな宿。
この世界に来て間もない頃に知り合い、仲良くなった老夫婦が営んでいる宿だ。
「いらっしゃい夏穂ちゃん。今日は、彼氏さんも一緒かい」
「ううん。違うの。ねぇ、お婆さん。今晩、ここに泊めてもらいたいんだけど……」
「おやおや。本部に戻らないの? あぁ、ランデブーかね?」
「ううん。違うの。えっとね……」
出迎えてくれた宿主の老婆に事情を説明する夏穂。
海斗は、というと。初めて来た場所だからか、キョロキョロと落ち着きがない。
そんな、落ち着きのない様子の海斗を見て、
もう一人の宿主である爺が、ひょこっと物陰から出てきて笑う。
「おなごに宿を取らせるとは。なっとらんのぉ」
「うぉっ。びっくりした。じーさん、どっから沸いたっ」
「むむぅ。言葉遣いもなっとらん。夏穂ちゃんや、こんなのが彼氏で良いんかぇ」
「あの……。だから、そうじゃなくて。違うんです……」
事情を把握してもらうのに、やたらと時間が掛った。
けれど、何とか部屋を用意してもらえた。
ありがたいことに、夕食も用意してもらえた。
豪華なディナーではないけれど、ほんわかと温かい料理。
口に運べば、何だか懐かしい気持ちになる。
「うまー」
次から次へと料理を口に運ぶ海斗。どうやら、気に入ったようだ。
心の中で "鳥……" だなんてツッこみまがいなことを思いながら、夏穂は淡く微笑む。
好きなだけ料理を満喫した海斗は、すぐさま席を立って、ベッドにダイブ。
ボフンと良い音がして、同時に枕がピョコンとジャンプする。
一人で寝るには、ちょっと大きいウッドスプリングベッド。
宿主の粋な計らいなのか。一緒に寝ろということか。
部屋には、ひとつしかベッドがない。
その事実に、コロコロと転がりながら、ようやく海斗が気付いた。
「あ、そーか。これしかないのか。ベッド」
「そうね」
「んじゃ、俺、そこらへんで寝るから、使っていーよ」
ベッドから飛び降りて、窓を開けた海斗。
食事を終えた夏穂は、食器を片づけながらクスクス笑って言った。
「大丈夫。私専用のベッドがあるから」
「んぁ?」
首を傾げながら振り返ってみた海斗が目にしたもの。
それは、大きな九尾狐へと姿を変えた蒼馬の姿だった。
食器を片づけた夏穂は、微笑みながら蒼馬に身体を預けるようにして座る。
ふわふわの毛並みに抱かれて凭れると、とても気持ち良い。
感触的には、ウォーターベッドのそれに近いかもしれない。
護るように、蒼馬は、凭れて座る夏穂の身体に尻尾を添えた。
夏穂の膝上で欠伸している空馬も、気持ち良さそうだ。
何というか。ピッタリというか。スッポリ収まっているというか。
同化したかのような、その姿に海斗はケラケラ笑った。
護獣も二匹いるけれど。男と女が同じ部屋に泊まるのは紛れもなき事実。
けれど、二人が動揺したり緊張したりすることはない。
いつもと何ら変わらず、笑いながら他愛ないお喋り。
「前から思ってたんだけどさ。お前、これ、動き難くないの?」
「どうして?」
「何つーか、ヒラヒラしててジャマくさそー。そーいう服」
「そんなことないわ。意外と動きやすいのよ。そういう作りにしてあるから」
「うぇ。何、もしかして、お前の手作り?」
「う〜ん。半分は……そうかもしれないわね」
「半分? 半分だけ? なして? どゆこと?」
夏穂の服装に関することから、満喫した夕食のこと、この宿のこと、
ハント活動について、兄妹について、魔法についてなどなど……。
次から次へと万華鏡のようにクルクルと話題は変わった。
まぁ、話題を率先して入れ替えていたのは海斗だったんだけれど。
夏穂は、そのひとつひとつに頷きながら丁寧に言葉を返した。
もっとこう……ドキドキな展開を期待したいところだけれど。
その気配は微塵も感じない。ちょっぴり物足りない気も……いや、何でもない。
まぁ、この二人ならではの、まったりとした一夜ということで。
けれど、ドキドキな展開が一切なかったわけでもない。
散々、お喋りして疲れた二人は、そのまま夢に誘われた。
夏穂と一緒に、海斗も蒼馬に凭れてスヤスヤ。
一番に目を覚ました蒼馬が、ギョッとしたのは当然のこと。
どうしてお前まで、ここで寝ているんだと。
そうは思ったのだけれど、蒼馬は文句を言わず、そのまま放置した。
何故なら、寄り添って眠る夏穂と海斗の寝顔が、とても可愛かったから。
寝心地の良い大きくて立派なベッドがあったのに。
部屋の隅で固まって眠るだなんて、おかしな光景。
子の寝顔に微笑む母親のような心境に陥った蒼馬も、そのまま、また眠る。
それは、俗に言う "二度寝" というやつだ。
結局、彼等が目を覚ましたのは正午を過ぎてから。
時計を確認した夏穂と海斗は、顔を見合わせて笑った。
「……あっはは! 久しぶりに熟睡したー」
「うん。ちょっと寝すぎね……」
「でもって、腹へったー」
「ふふ。待ってて。降りて確認してくるわ」
「あ、待った。俺も一緒に行くー」
「…………」
「ん? どした?」
「すごい寝癖ね」
「マジで。ま、お前も、なかなかの出来栄えだけどな」
「……うそ。本当に? ちょっと待って。直すから……」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
NPC / 海斗 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)
こんにちは、いらっしゃいませ。
シナリオ『 ハイドアウト 』への御参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました^^
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櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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