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■D・A・N 〜Fourth〜■

遊月
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】
 幾度かの関わりの中で、色々と知られてしまった。
 一度出来た『縁』はそう簡単に切れはしない。
 腹を決めるべきなのか、と――…そう、思った。
【D・A・N 〜Fourth〜】



 目が覚めて一番に目に入ったのは、自分を見下ろす夜闇よりも深い色の瞳だった。
「……シン、さん?」
「目が覚めたか。よかった」
 安堵の混じった声音で呟かれ、鈴城亮吾は目を瞬かせた。
(……あれ、俺どうしたんだっけ?)
 起き抜けでぼんやりとした頭を何とか動かして、思考を巡らす。
 放課後の教室で悶々と思い悩み、ケイに会いに行こうという結論に達して学校を飛び出したところで、様子のおかしいケイに会ったのだ。そしてなんだかよくわからない空間に取り込まれて――。
 意識を失う直前までの記憶を思い出し、咄嗟に起き上がろうとした亮吾だったが、シンがそれを片手で止めた。
「曲がりなりにも倒れたんだ。いきなり起き上がろうとしないほうがいい」
 その言にも一理ある。起き上がるのをやめた亮吾は、今更ながら自分がベッドに横たわっているらしいことに気づいた。視界に映る景色からして、どうやら見知らぬ部屋にいるらしい。あの妙な空間に取り込まれる前は校門付近にいたはずなのだが…。
「ここ、どこですか?」
「私とケイの住まいだ。学び舎の前で鈴城君の目が覚めるのを待つわけにもいかなかったからな、独断で運ばせてもらった。帰りはきちんと送るから心配しなくてもいい」
 確かに校門付近でぶっ倒れてたら騒ぎになるよな、と亮吾は思った。
(ケイさんとシンさんの家、かぁ。……なんか――)
 物寂しいというか、そっけない感じがするというか……率直に言って、生活感がほとんど感じられない内装だった。亮吾からは部屋の全体は見えない。だが、見える部分に、まったく物が見当たらないのだ。かろうじて窓にカーテンはかかっているが、それだけだ。
 あまり部屋に物を置くのが好きではないのだろうか。それにしたってこの部屋は物がなさ過ぎる気もするが。
 気にならないこともないが、それよりも重要なことが――聞かなければならないことがある。

『もう遠慮とか止めた! 根掘り葉掘りお構い無しに全部聞き出してやるから覚悟しとけよ!』

 燃料切れで倒れる前にケイに向かって放った言葉を思い返す。今現在目の前にいるのはケイではなくシンだが、学校を出た時点で陽が沈みかけていたのだから当然だろう。
 どうせ自分の聞きたいことは、ケイだけでなくシンにも関わることなのだ。聞く相手がシンに変わったところで大差ない。
「シンさん」
「何だ?」
「俺がぶっ倒れる前にケイさんに言ったこと、シンさんも聞いてたんです…よね?」
「……ああ、あの啖呵か。聞いていた」
 シンが苦笑する。その手が伸ばされ、亮吾の頭を軽く撫でた。その仕草はまるで何度も繰り返したことがあるかのように自然なもので、子ども扱いされている気がして反論しようとした亮吾は、何となく口を噤んだ。
「聞きたいことがあるというのなら、聞くといい。ここまで『縁』が続くのなら、話すべきだと思っていた」
「俺、聞きたい事沢山あるよ」
 強い視線をシンに向けて、亮吾は言葉を紡ぐ。
「シンさんの弟が今回の事件にどう関わっているのかとか、ケイさんは呪具を使って何をしようとしてたのか、あの魔は一体なんだったのか。ケイさんが何をして何を忘れてしまったのか、シンさんはなにを隠しているのか。シンさんとケイさんがどうしてこうなってしまったのか。……あ、仕方が無かった、なんていう言葉は使わないでね。何かそれって都合の良い逃げ口上みたいだから」
 シンが僅かに表情を動かした。……自嘲するような、小さな苦笑だった。
「ここまで巻き込まれたのに、今更手を引けってのも無しだ。俺は――俺が、関わると決めた。だから全部話してもらう。……ケイさん、聞いてるよね? もう逃げられないから。俺にコーヒー被せたのが運の尽きだと思って諦めて。今もまだ結構いろんな事で頭に来てるから」
 知りたいのは事実じゃない。ケイの気持ちだ。
 自分はもう逃げないし、逃げられない、だから全部、話してもらう。
 確固たる意思を持ってそう告げた亮吾に、シンは目を細める。どこか遠くを見るような、なにかを懐かしむような、そんな表情だった。
「私にわかる範囲のことは、話そう。あくまで私の主観による話だ。後々改めてケイにも聞いたほうが良いだろうな。……さて、何から話そうか」
 考えをまとめるように一度目を閉じたシンは、ふぅ、と息を吐いて話し出した。
「全ては、私達の一族の特殊性から始まった。明確な名称はなかったが、私の一族は『月』、ケイの一族は『陽』の一族と呼ばれていたな。……『月』と『陽』の一族は、お互いがお互いに依存しているような関係であり、一族の者はそれぞれ相手の一族から『対』を得る。それが、私の場合はケイだった。能力の性質というか……相性によって決められるんだが、『対』は名称だけのものではなく、『呪』によって『魂』と呼ぶべきものに繋がりがつくられるために、そう呼ばれたのだ。――それは単に、それぞれの一族の役割によるものだったが、いつしか、互いに互いを失えない、失ってはならないという刷り込みにも似た意識を生むようになった。私達の頃には、その考えは殆ど事実に等しくなっていた。『対』を失くした片割れが自ら死を選んだり、狂ったりする程度には」
 よどみなく、シンは言葉を紡いでいく。亮吾はその内容を理解することで手一杯で、新たに疑問をさしはさむこともできなかった。
「私の弟――センは、その『対』がいなかった。本来ならばありえないことだったが、誰一人、センと相性のいい者がいなかったのだ。それを、センは気に病んでいた。『対』がいなければ一族としての役割を充分に果たせない。代わりを私がこなしていることに、負い目を持っていたようだった。相性の面で言えばケイが最も適していたが、既に私の『対』だったからな。……私はむしろ、センに『対』がいないこと――一族の役割を負わずに済むことを歓迎していたし、そう伝えてもいたが、それでもセンにとって『対』がいないということは随分と心の負担になっていたようだった。普段は明るく振舞っていたが、泣きながら『ごめんなさい』と繰り返されたことも一度や二度ではない」
 そこで、シンは一度言葉を切った。深く息を吸い、腕を組む。その手に力が入っていることに、亮吾は気づいた。
「センを可愛がっていたケイは、どうにかその心労を取り除いてやりたいと常々考えていたらしい。――そしてある日、行動に出たのだ。『呪』によって、私だけでなくセンとも『対』になろうとした。ケイは術の適正が高かった。それは理論上失敗するはずはなかったし、実際に成功した。……センが心から笑ったのを、私はあの時初めて見た。前例がないために少々騒ぎにはなったが、それもそう経たないうちに沈静化した。異例ではあるが、ケイの能力の高さを鑑みれば納得できることだったからな」
 そこで初めて、シンは迷うような眼差しを亮吾に向けた。
「……この先の記憶を、ケイは持っていない。私が隠したからだ。その記憶を持ったままではケイの心が耐えられないと判断し、隠した。これを話すのは、私にとっても賭けだ。君が、ケイの支えになるのではないかと思うからこそ、話そうとしている。――…鈴城君。真実、ケイに向き合う覚悟があるか? あるというのならば、私は全て話しても良いと思っているが」
 深い色の瞳が亮吾を見つめる。その問いかけに、亮吾は身体を起こし、姿勢を正して、答えた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7266/鈴城・亮吾(すずしろ・りょうご)/男性/14歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、鈴城様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Fourth〜」にご参加くださりありがとうございました。

 『秘密』編ということで、色々判明する回でしたが、いかがでしたでしょうか。
 とりあえずケイとシンの『一族』関連についてはこれでほぼ明かされました。知りたいことの前座というか、理解する上での前提部分となります。
 隠された『記憶』についてはちょっとハードルが高めなので、お言葉に甘えて前後編っぽくさせていただきました。
 
 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。