■紅玉と蒼玉の円舞曲 ruby and sapphire-waltz■ |
紺藤 碧 |
【3087】【千獣】【異界職】 |
一応の決着はついたと思う。
この先、エルザードの街が夢馬の脅威にさらされることは無いだろう。
だが、それは本当だろうか。
目的が見えず、暗躍している男が1人。
そして、盲目に目的へと突き進み、それを成した双子。
手を貸した自分は、知る権利があるのではないだろうか。
|
紅玉の円舞曲 ruby-waltz passepied
エルザード。天使の広場の昼下がり。人の往来激しいこの時間でも、先が尖り、鮮やかな紅色の宝石がついた杖は、遠目にも良く目立つ。
その先端を頼りに人を掻き分ければ、やはりあのフードが目に飛び込んだ。
しかし、その杖は1つ。もう片割れはどうしたのだろう。
この前の時のように、今回も単独行動でもしているのだろうか。
その状況をぼんやりと眼で追いかけ、千獣は徐に手を伸ばした。
マントを引かれたことで態勢を崩したアッシュは、むっと顔を引きつらせて振り返る。
「あなた……この、前の、人……」
「おまえっ」
実のとこ自分とそう目線の変わらない千獣にたじろぎ、引っ張られているマントを一瞥すると、アッシュはマントを解放するように乱暴に引っ張った。
「ヒトのマント引っ張んじゃねぇよ」
「……ごめ、ん、なさい…」
千獣は思わず謝って、また背を向けて歩き出すアッシュを、駆け足で追いかける。
「……ねぇ」
付かず離れずの距離から同じスピードで歩きながら、千獣はその背中に問いかける。
「全ての、生き物、から、記憶、夢、なくなったら、ナイト、メア、いなくなる……そう、言った、よね……」
まずは自分の意思を伝えること、それが一番大切だって分かっている。だから、千獣は言葉を続ける。
「でも、あなた達は、そんなの、待つ、つもり、じゃない……戦う、つもり……」
アッシュの足が止まる。この先に、何かあるのだろうか。
「という、ことは、戦う、方法、ある、はず、だよね……?」
同じように千獣も足を止め、ぎゅっと胸の前で自分の手を握りしめる。
「……私も、ナイト、メアと、戦い、たい」
「俺達の呼称にあわせる必要なんかねぇ」
あんた達の呼び方があるのだから、それで構わないとアッシュは口にするが、千獣にとってもどちらでも構わなかったので、同じ敵と戦うのならば合わせた方が良いだろうと、首を振る。
「それから、無理」
そう言われるだろう事は予想していたけれど、引くわけにはいかない。
「あんた、奴の“仮初の姿見”見れねぇんだろ」
「……すがた、み…?」
それは、特定の誰かを心に住まわせていない人や、奴に明確に狙われていない人にだけ見ることが出来る姿。
基本的に奴は記憶をオートで読み取るが、姿見の方が有利だと判断すればその姿で現れる。
案の定首をかしげた千獣に、アッシュは大仰に溜め息をついた。
「それじゃ、戦う以前の問題だっつの」
ヤレヤレと首を振って、きっとフードの下では眉根を寄せていると思えるほどに、口元が苦笑している。
「戦いたいって言うから、何か準備してんのかと思いきや、あんた無防備だし」
それは、その通りだと思った。でも、何の準備をしなければいけないのかも、分からない。
「…だって……許せない、から……」
彼は、話し終わるのを待ってくれないから、千獣は自分にできる精一杯の速度で告げる。
「……私の、心、踏み、こまれた、それも……許せない、けど……もし、私じゃ、なく……それが、あの人、だったら……もし、あの人が、狙われたら……」
自分は違うと気がつけたけれど、彼は気が付いてくれるだろうか。ムマがその姿を模すということは、想いの深さを表しているようなもの。
想っているという事実。想われているという事実は嬉しいが、それがムマを介して確認するものではない。
「…それは、私の、心、踏み込まれる、より、もっと、嫌だ」
握りしめた手に尚力が篭る。
「……絶対、嫌だ」
ムマを倒したい心。目的が出来た千獣の瞳に、光が戻る。
「…………」
アッシュはただ無言だ。
「……だから、お願い……私も、一緒に、戦いたい……」
すがりつくように、頼れる人は他にいても、頼める人は彼らしかいないから。
「戦わせて……」
「ダメだって言ったら、やめんの?」
多分、それでも、彼に手を振り上げることなっても、やめないと思う。だって本物ではないから。
きっと、彼の姿を模している限り、躊躇いや後悔は常に付きまとう。それでも、彼が狙われる可能性を考えたら、躊躇ってはいられない。
「あんたの理由は一番分かりやすい」
自分とその大切な人を護りたい。それは、アッシュにも良く分かる感情だった。
「でも、止めとけよ。あんたはそいつに対する想いが深すぎる。それは、奴と戦うには不利だ」
アッシュの視線が落ちていく。
「……あんたは、俺達みたいな思いはしなくていい」
「……え?」
しまったとばかりにアッシュは手で口を塞ぎ、千獣に背を向ける。
だが、この失言は、千獣の耳にしっかりと届いていた。
「…あなた、も、同じ、なら……私、の、気持ち…分かる、よね……?」
「分かるさ。だから、止めろつってんだ」
苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめてアッシュが叫ぶ。そして、そのまま早足で歩き始めた。
「……待って!」
アッシュの足は止まらない。
千獣はその背を追いかけながら、問いかける。
「同じ、思い……でも、あなた、は、戦う、方法、知ってる……」
アッシュは奥歯を噛み締め、自分の迂闊さを心中で叱咤する。
「思い、持って、ても、戦え、る……そう…だよね……?」
これ以上取り合ってはいけない。
だが、無防備なまま躍り出られても迷惑なだけだ。
どうすればいい。
「ちょっと付いて来い」
軽く膝を折ったが、この前のように一瞬で消えるわけではなく、近場の屋根に飛び乗り、そのままピョンピョンと進んでいく。
千獣も背から翼を出すと、その後を追いかけた。
ある程度人が居なくなった場所で地面に降り立ち、アッシュは追いついてきた千獣に振り返る。
「あんた、何が何でも戦いたいのか?」
どれだけ止めろと口で言われても、こればっかりは譲れない。
頷く千獣にアッシュは頭をかく。
「正直、俺はこういうの得意じゃねぇ」
初めてであった時のように、編まれていく方陣。
「でも、しょうがねぇだろ!」
「!!?」
方陣から乱射される炎の弾。
千獣は持ち前の運動能力でその炎の弾を避ける。どうして行き成り攻撃されているのか分からない。
あの時の誤解は解けているはずなのに!
「……っ」
着地した足元に編まれている方陣。
それは、アッシュの手の動きに呼応して、炎の柱を立ち上らせた。
「――――ぁ!!」
焼けた足の痛みを堪え、その場で蹲る千獣をアッシュは見下ろす。
「……動けなくなりゃ、諦めるだろ」
そうか、だから確認をして、実力行使で足止めに走ったのか。
「あんたが火傷治してる間に、俺達が終わらせてやる。だから、待ってろ」
「待た、ない……もう、火傷、治った、から……」
「なっ!?」
もう完全に完治してしまった足で立ち上がった千獣。
「お願い……教え、て……」
千獣の治癒能力に狼狽したまま立ち尽くしているアッシュに近付き、
「戦う、方法……ナイトメア、に、ついて、教えて……」
千獣は深々と頭を下げた。
「焼いて、悪かったな」
アッシュはフードの中に手を伸ばし、銀色に光る何かを取り出す。
「詫びってわけじゃねぇけど、これやるよ」
差し出されたのは、シンプルなデザインのイヤーカフス。千獣はそれを両手で受け取り、アッシュを見る。
「あんたが戦いたいってなら持ってろ」
これが、戦う方法に繋がるのだろうか。
「じゃぁな」
アッシュは軽く膝を折り、今度は完全に消えてしまった。
千獣は手の平のイヤーカフスを見つめる。自分はこれで戦力になれたのだろうか。
見上げる空は、何も、答えてくれない―――
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【3087】
千獣――センジュ(17歳・女性)
異界職【獣使い】
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
紅玉と蒼玉の円舞曲 ruby or sapphire-waltzにご参加くださりありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
何か千獣様には痛いことばっかりしている気がします。本当に申し訳ありません。ただ、協力ではなく戦うことに重点を置かれていたようでしたのでこうなりました。
それではまた、千獣様に出会えることを祈って……
|