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■「あなたのお手伝い、させてください!」■

ともやいずみ
【8177】【相馬・樹生】【大学生/ギタリスト】
 トラブルメーカー。迷惑を振りまく疫病神。
 などなど。
 彼女はそんなイメージを持つサンタクロース。
 宅配便を仕事にしてはいるが、世間は不況。彼女はいつも貧乏で、おなかを空かせている。
 そんな彼女とあなたの一幕――。
「相馬樹生さんのお手伝い、させてください!」



 そろそろと忍び足でやって来た冬の到来を知らせるための木枯らしに吹かれ、相馬樹生は軽く寒さに身を震わせる。
 彼の少しだけくせのある黒髪が揺れ、目が寒さにきゅ、と閉じられる。
 マフラーでもしてくればよかっただろうか? そういえば少し薄着だ。首だけでも暖かければ少しは違うのだが。
 そんな木枯らしに連れられて、一枚のチラシが飛んでくる。避けようと手を振ったが、絡みつくようにくっついた。
「ん?」
 見下ろすと、手書きらしいチラシだった。可愛らしい、秋らしいデザイン。落ち葉とキノコの絵が稚拙ではあるが、描かれている。
「すいませぇ〜ん!」
 遠くからの声に、樹生はそちらを見遣った。大学構内に居るにしては……珍しい格好だ。
 全身が真っ赤。金髪のくるくる巻き毛。……なにより、小学生にしか見えない小柄な体躯。
 両手に大量のチラシを持った彼女は樹生の前まで来ると、はあはあと荒い息を吐いてから顔をあげる。
(……あ、かわいい)
 西洋人なのはわかる。大きなくりっとした瞳はサファイアのようだ。
「突然の突風にやられちゃってえ〜! それが最後の一枚だったんですぅ!」
 片手を差し出される。
 樹生は自身が持つチラシと、彼女の手を見比べた。
「……サンタ便?」
「ああ、はい、そうなんですぅ! わたし、配達のお仕事してまして。
 なんでしたら、配達、お受けしますけど」
「……残念だけど、今はないかな」
「あぁ、そ、そうですかぁ」
 明らかにがっかりして肩を落とした少女の姿に、可哀想になった。
 ふと、チラシの下のほうに書かれた文字に気づいた。
 『なんでもお手伝いします。報酬は応相談』
 てつだい?
「……これは?」
 あまり怖がらせないようにと声のトーンを柔らかくする。
 少女はチラシを覗き込んで、にっこりと笑った。裏表のない、邪気のない笑顔に思わず驚いてしまう。
「これはですねぇ、わたしがなんでもお手伝いをするってことです」
「なんでも?」
「はい!
 あ、でも! ちょ、ちょっと犯罪ちっくなのとか、えっちぃお願いとかはできないですよぉ?」
「………………じゃあ、掃除とかは?」
 ここのところ大学の講義によく出ているし、バンドのツアーにもよく行っている。部屋が散乱しているはずだ。そのことを樹生は思い出した。
「お掃除ですかぁ? う、うーんと……得意ではないですけど、できますよ!」
 少し、彼女の頬に汗が流れているような気がするが……気にしないほうがいいのだろう。
「報酬は応相談って書いてあるけど……どういうことかな?」
「ああ、現金の人もいますし、お料理とかでも、服をくれた人もいましたよ?」
「なんでもいいの?」
「まあうち貧乏なので、そこまで気にしないですし……いい人間観察にはなりますからね」



 少女を、自分が使っている部屋まで案内した。
 普通なら、年頃の女の子を男の部屋に入れるのは躊躇うことなのだが……。
 背後をちらりと見ると、赤いポシェットを肩からかけている幼女の姿がちょこんとある。
 年頃、ではないだろう。それに樹生に幼女好きの趣味はない。
 玄関をあがり、廊下の電気をつける。
「あっちの部屋は、友達の部屋なんだ。ルームシェアしててね。
 勝手に手をつけても怒らないとは思うけど、僕の部屋じゃないのにいじったら悪いから。向こうもそういうスタンスだし」
「りょーかいです」
 シンプルでありながら、モダンな雰囲気もある部屋だ。
 室内で一番目につくのはギターだ。3本ある。
「音楽家さんですかぁ?」
「え? あ、バンド活動してるんだよ」
「バンド〜?
 あ! あれですね! 髪をツンツンさせて、トゲトゲの服を着るやつですか!」
 自信満々に鼻息荒く言われて樹生が無言になってしまう。
「……バンド活動にも色々あるから」
「そうなんですかぁ」
「そういえば名前聞いてなかったね。僕は相馬樹生。君は?」
「ステラですぅ。ステラ=エルフ」
「……ステラ。星の名前だ」
 途端、彼女がぎくっとしたように顔を強張らせた。だがすぐにやんわりと笑う。
「名前が似合わないってよく言われるんで警戒しちゃいましたぁ〜。えへへ」
 でも、と彼女は部屋を見回す。
「そんなに汚れてないですぅ。お掃除がすぐに終わっちゃいますけどいいんですかぁ?」
「構わないよ」
「はひ〜。おしゃれなお部屋さんですねぇ」
 きょろきょろしていたステラはハッとすると、ポシェットを外して腕まくりをした。
「よぉーし! ではお掃除開始ですぅ! まずはどこからですか?」
「じゃあ、散らばってるスケッチブックの整理と……あ! あそこのギターは壊さないでね。カスタムしてるやつだから」
「? ハムスターしてるやつだから?」
「……いや、小動物じゃなくて、特別にいじってるって意味だよ」
「はひっ! す、すみません!」
 真っ赤になって硬直したステラは慌てて動き出し、ベッドの脚にぶつかってそのまますてーんと転がってしまった。
「だ、大丈夫?」
「だっ、だいじょうぶですぅ〜」
 ぶつけたらしい鼻は赤くなっているが、彼女はてきぱきと動き始めた。
 とはいえ、やはり樹生が心配になるほど動きがあやうい。
 ステラにしてもらっているのは床の上に散らかっているものを集めてもらうこと。
 集めたものは樹生が分類して、整理する。その繰り返しだ。
 一通り綺麗になったので、休憩をとることにした。



「あと少しで終わりそうだ。ありがとう、ステラ……えっと、ちゃん、でいいのかな?」
「はひ? お好きに呼んでくださって構いませんよぉ」
「でも……こんな小さな子に手伝ってもらって悪かったね」
 テーブルの上に二人用に並べられているのはティーカップ。良い香りが漂っていた。
 ステラが頬を膨らませたのに気づき、樹生が軽く首を傾げる。
「……よく言われますけどぉ……わたし、これでも16歳ですぅ」
「え?」
「……学校に通ってたら高校一年生ですぅ」
 ぶすーっとするステラは紅茶のカップを乱暴に掴み、ぐいっと飲み干した。だが熱さにむせて、盛大に暴れる。
「だっ、大丈夫!?」
「だ、だっ、だいじょ、れ、すっ!」
 ばたばたと片手を振るステラはやっと落ち着き、イスを蹴倒す勢いで立ち上がった。
「さ、さてでは続きです! 頑張りますよ!」
「も、もう少し落ち着いてもいいと思うよ……?」
「なにおー! もう少しですもん! 頑張りましょう、相馬さん!」

 3時間後……。
 驚くほど綺麗にはなったが、3時間というのはステラの失敗込みでの時間だ。
 目を離すとすぐ転ぶ。どこかに頭をぶつける。あまりに怖くて大事なギターを隠したほどだ。
「ありがとう。随分快適になったよ」
「いえいえ。こちらこそ色々お世話になりました。少しでもお手伝いできたならよかったですぅ」
 そう言って、ぺこりと下げた頭にコブがみっつほどできているのが見えたが、黙っていることにした。
「お礼は今度でいいかな。明日の課題があって……」
「ああ、いつでもいいですよ」
 にっこり笑うステラにほっと安堵して、樹生は日時を指定したのだった。



 衣装デザイナーを目指して日々過ごす傍ら、ギタリストとしても活動する。
 両立させるのは大変だが、それでもやりがいもあるし、充実している。
(あ、そっか。子供向けの衣服、ステラ……さんを想像すればやりやすいかも……)
 そう考えて、待てよと考えを改めた。
 彼女はどう見ても外人だ。……西洋人である以上、コンセプトに合わなければ意味がなくなる。
 しかし掃除を頼んだのはいいが、目を離しているほうがどきどきするとは……。
(物を壊さないように避けるほうに労力を費やすとは思わなかったな……)
 でも、助かったことは助かった。
 
 ルームシェアをしている友人が留守の日を狙って、樹生はステラを招待した。
 この間の掃除のお礼だ。
 とはいえ、凝った料理はできないので、用意できたものはパンとハンバーグ。それにサラダとスープだ。
 スープはコンソメ味で、簡単なものだけど……不味くはないはず。いや、そこそこは美味しいと思う。味覚なんて、個人差があるけど。
 サラダは……なにかマリネにでもしたほうがいいかもしれないかと思ったが、ステラにあまり似合いそうにない。
 ハンバーグにはちょっと奮発して……目玉焼きを乗せてみた。ちょっと可愛くできたと思うのだがどうだろう? 女の子は……こういうのはダメだろうか? 同い年くらいの女性にはこんなことしないけど。
 パンはバターを軽く塗ってカリッと焼き上げてある。美味しそうな匂いがしていた。
 用意された食事を前にして、樹生は少々様子をうかがってしまう。気に入ってもらえればいいのだが。
「うわぁ! うわぁぁ! ハンバーグに目玉焼きが乗ってますよ! すごーい!」
 ……充分に喜んでもらえたようだ。
「たいしたものではないんだけど……」
「いえいえ! うちのもやし料理に比べたら天と地ほどの差がありますぅ!」
 もやし料理???
 怪訝そうにするが、あえて言わないでおくのも親切だろう。
 はぐはぐと食べているステラを眺め、掃除のお礼にこんなものでいいのだろうかと悩んでしまった。
 いくら、なんでもいいっていっても……。
 ステラはもぐもぐと口を動かしつつ、視線を動かす。それは、樹生の持つ3つのギターへと向けてだ。
 エレクトリック・ギターが2つ。そして、アコースティック・ギターが1つ。
「……気になる?」
 樹生の言葉にステラはもぐもぐと食べつつ……少し首を傾げてにこぉっと笑った。
 ごくん、と飲み込んでから言う。
「うーん、わたしの想像と同じかどうか気になるだけですぅ」
「想像?」
「相馬さんが、トゲトゲさんか、ビジュアルさんかぁ、クールさんか!」
「……なんだかよくわからないけど、楽しそうな想像だね。1曲披露しようか?」
「でもまずは、相馬さんのお食事をきれいに食べてからですね!」
 数分後、見事に平らげた彼女はハッとしたように眉をひそめた。
「はう! でもお礼でお食事をいただいたのに、これ以上ご迷惑をおかけするのは……むむむぅ」
「大丈夫。そういうのは僕の『好意』になるんだから、気にしちゃダメだよ」
「はひ?」
 首を傾げる彼女に、樹生は小さく微笑んだ。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【8177/相馬・樹生(そうま・いつき)/男/20/大学生、ギタリスト】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、相馬様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 ほのぼのな秋のお掃除、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。