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■【りあ】 Scene1・スペシャルな出会い■

朝臣あむ
【8273】【王林・慧魅璃】【学生】
 ガチャガチャと食器の音がする。
 音の元凶は燕尾服を無造作に着こなした青年だ。
 彼は左目に眼帯を嵌めたまま、皿を次々とトレイに乗せてゆく。
 その山頂はそろそろ崩れ落ちそうだ。そこに繊細で細く長い指が伸びてきた。
「千里。そんなにお皿を積んではダメだよ」
 慣れた手つきで皿を別のトレイに移すのは、穏やかな相貌の青年だ。
 千里と呼ばれた青年は彼を見ると、面倒そうに溜息を零した。
「なら梓、お前がやれよ。俺には性に合わねえ」
 そう言ってトレイごと梓と呼んだ青年に食器を押しつけた。
「まったく。ノルマをこなさないと怒られるのは千里なのに」
 スタスタと店の奥に下がってしまう千里に呟く。
「本当だよね〜。千里ちゃんってば、ワガママ〜」
 ひょいっと顔を覗かせて千里が押しつけたトレイを奪ったのは、水色の髪をした少女だ。
 彼女は大きな瞳を笑みの形にして、梓を見た。
「梓ちゃん。良い人なのも良いけど、好い加減にしないと千里ちゃんの仕事全部回ってきちゃうよ?」
「それはないよ。それより、葎子ちゃんは接客の方は良いの?」
「大丈夫♪ 菜々美ちゃんが変わってくれたから♪」
 笑顔で言い放った葎子に、梓の眉がピクリと動く。
 そして――。
「ひぃぃぃぃっ!! な、なんなんだ、この店はっ!!!」
 店の一角から悲痛な叫び声が聞こえた。
 目を向ければ、黒髪の少女が眼鏡を光らせてニヤリと笑っているのが見える。
「あらん、お客様? この店はお触り厳禁――知らなかったなんて言葉で片付けるなよ」
 ドスの利いた声に客は竦み上がってふるふると震えている。
 テーブルの上にはナイフが突き刺さっており、先ほどの悲鳴の理由が伺えた。
「あ? 何の騒ぎだよ」
 騒ぎに気付いて千里が戻って来た。
 既に燕尾服の燕の字もなくなった服装だが、この際それはどうでも良い。
「蜂須賀さんがお客様相手にキレたんだ」
「あのアホ、またかよ」
 チッと舌打ちを零して千里は菜々美に近付いた。
「おい、ほどほどにしとけよ」
 ポンっと肩に手を置く。その瞬間、千里の額に冷たいものが触れた。
「……菜々美、何だこりゃ」
 目を向けるまでもなく分かる。今、千里の額に添えられているのは銃だ。
 まあ、普通の銃ではことを知っているので千里は動揺しない。
 しかし客は違った。
「ひぃぃぃぃ!!! 殺されるぅぅぅ!!!!」
 わたわたと自分の上着をかき集め、脱兎の如く店を飛び出したのだ。
「あー、無銭飲食っ!」
「いや、今気にするのはそこじゃないと思うよ」
 葎子の叫びに、空かさず梓が突っ込みを入れる。
 客が去った後も、千里と菜々美の一発触発の状態は続いていのだから当然だろう。
「千里、実験体を逃がした罪は大きいぞ。黙ってあたしの実験体になれ」
 ドスの利いた声で呟く菜々美に、千里は動じた風もなく銃を指先でツイッと横に流した。
「付き合ってらんねえ」
 そう言って歩き出そうとした時だ。
――チリリン、リンッ。
 店の奥から呼び鈴が鳴った。
 その音に4人が顔を見合わせる。
「ほら、騒ぐから」
「あはは♪ オーナーにバレちゃったみたいだね?」
「……あー……メンドイ」
「実験体の確保なら、あたしが行く」
 それぞれが好き勝手呟いて、店の奥へと歩き出す。
 これより後、無銭飲食犯を逃がした4人には、その捕獲が命じられた。
Scene1・スペシャルな出会い / 王林・慧魅璃

 青く澄んだ空が広がり、小鳥がさえずる中、王林・慧魅璃はゆっくりとした足取りで学校内の敷地を歩いていた。
 広く整えられた校舎と校門を繋ぐ中庭。今は季節の花が咲き誇る。その美しい庭を眺めながら、ゆっくり、ゆっくりと校門に向かっていた。
「慧魅璃さま、ごきげんよう」
 通り過ぎざまに下級生が挨拶をしてゆく。その姿に微笑むと、慧魅璃は頭を下げた。
「ごきげんよう」
 穏やかで優しい声が口を吐く。
 その声に下級生は嬉しそうに挨拶をもう一度返して送迎の車に乗って行った。
 慧魅璃が通う学校は俗に言うお嬢様学校だ。送迎は一般的、徒歩や自転車などで通う生徒の方が珍しい。もちろん、慧魅璃もそうしたお嬢さまの1人だ。
「お嬢さま、お帰りなさいませ」
 慧魅璃の姿を見止めた燕尾服を着た老人が、スッと後部座席の扉を開いた。その姿を見ながら、ふと呟く。
「えみりさんも、歩いて帰りたいわ」
「お、お嬢様!?」
 思いつきで言った言葉に爺は目を剥く。大事なお嬢様を1人で、しかも歩いて帰らせる訳にはいかない。しかし慧魅璃はそんな爺の心配をよそに、にっこり微笑んで見せた。
「大丈夫です。えみりさんは強いですから」
 何処にそんな根拠があるのか。慧魅璃は爺の制止を聞きもせずに歩き始めた。
 当然、爺はその後を車で追ったのだが、悲しいかな。慧魅璃は車が入れない路地に歩いて行ってしまった。
「お、おおおお、お嬢様〜〜!!!」
 爺の叫びが木霊する。
 その声に「?」と振り返ったが、少し思案すると慧魅璃は再び歩き始めた。
 空を飛ぶ鳥、道端にひっそりと咲く花。
 自らの足で何かを見て発見するのは楽しい。慧魅璃の表情はとても晴れやかで清々しい。
「無理を言って良かったです。爺も快諾してくださいましたし、後でお礼を言わないとダメです」
 ニッコリ笑った彼女の勘違いを指摘する者は誰もいない。こうしている間にも、どんどん人気のない場所に入ってゆく。そしてその人気もない場所の危険性を、慧魅璃は身をもって知ることになる。
――グウウウウウッ。
 耳を掠めた低い獣のような唸り声。その声に慧魅璃の足が止まった。
「……あら、ワンちゃんでしょうか」
 普通に考えればそうなるだろう。だが不思議そうに周囲を見回す慧魅璃の前に飛び出してきたものは、犬などではなかった。
「あらあら……どうしましょうね、これ」
 おっとりとした口調で呟いて首を傾げる。
 彼女の前に現れたのは、人の形をした奇妙な化け物だ。餓鬼のように膨らんだ腹と、黒く汚れた骨ばった体、鼻には耐えがたい異臭まで漂う。
 何処をどう見ても危険で、普通の女の子なら悲鳴を上げて逃げだす相手だ。
 しかし慧魅璃はのんびりとした雰囲気のまま、涎を垂らして彼女を凝視する化け物を見つめている。
「困りましたね」
 言葉と裏腹に、まったく困ってなさそうな声が響く。だがこのままでいれば危険だ。
 そんな時、化け物が慧魅璃に襲いかかって来た。
 鋭い爪を翳して襲いかかってくる。
「まあ!」
 流石にこれには慧魅璃も目を見開いた。
「危ないっ!」
 そこに響いた声。
 その声に慧魅璃の目が瞬かれる。目の前には自分よりも遥かに大きい背をした青年。彼の持つ金の髪がサラサラと風に揺れる。
「……綺麗な色」
 ぽつりと呟きその髪を見つめる。しかし、その目はすぐに別の場所へ移ることになる。
「っ、何で昼間に黒鬼が……」
 苦しげに発せられた声に、ハッと口を押さえる。
 襲いかかった化け物――黒鬼の攻撃を受け止めた彼の腕から血が出ている。
 慧魅璃を助けるために咄嗟に攻撃を受けたのだろう。腕を裂こうと突き刺された爪に、青年の顔に苦痛が浮かぶ。
「っ、……怪我は、ないかな?」
 向けられている視線に気付いたのか、青年の穏やかな双眸が向けられる。痛みを隠して優しく微笑んでみせる顔に再び目が瞬かれる。
「なさそうだね」
 そう口にして彼の目が黒鬼に向かった。その瞳に鋭い光が宿り、冷笑が浮かぶ。
「いい加減、その汚い爪を離してくれる?」
 ドゴッ。
 鈍い音が響き、黒鬼の身体が宙に舞った。
 喰い込んでいた爪が、最後の足掻きにと更に彼の腕を抉って離れてゆく。
「ぅ、っ……」
 青年は眉を潜め、溢れ出る血を抑える様に腕を押さえた。
「思ったより深いね。長期戦に持って行くと僕が不利かな」
 やれやれと息を吐いた彼の目は、地面に伏した黒鬼に向かっている。のっそりと起き上がる姿から、止めどころか致命傷も与えられていないのだと分かる。
「仕方がないね。すぐ楽にしてあげる」
 彼は腕を押さえていた手を退けると、掌に付着した血を舐めとって武道の構えを取った。
 そして傷ついていない方の手に力を込める。だがそれを遮るように、彼の手に柔らかなものが触れた。
「えっ、ちょっと、君――」
 青年の手に手を重ねて前に出たのは慧魅璃だ。
 彼女は傷つく彼の腕を見てから、穏やかに微笑んで前に進み出た。
「駄目ですよね。えみりさんを傷つけるのは良いですけど、他の人を傷つけちゃいけませんよね?」
 首を傾げて問う声に、目の前の悪鬼がグルグルと唸り声を発する。
「君、危ないから下がっているんだ。そいつは話が通用する相手じゃない!」
 慌てたように声を発する青年の手が慧魅璃の肩に触れる。しかしその手が触れた瞬間、彼の目が見開かれた。
 振り返った彼女の瞳が紅い。
「君は……」
 息を呑むような声に慧魅璃は微笑む。
 先ほど目にした幼い少女の面影は何処へ行ったのか。妖艶な笑みを浮かべる慧魅璃に彼の表情が引き締まった。
「さあ、お仕置きです」
 言葉と同時に彼女の手の中に現れた、黒く歪んだ形の剣。それを手に斬り込んでゆく姿に青年も地面を蹴る。
「っ、あなたは下がっていてください!」
 慧魅璃の横を通り過ぎ、真っ先に黒鬼に到達した青年に叫ぶ。だが彼は穏やかに微笑むと、慧魅璃の声を無視して黒鬼の首を後ろから掴んだ。
――グウウウウッ!
 不快感から黒鬼が腕を上げる。しかしそれは青年に届く前に払い落される。その手が人間ではない何か獣様な手に変化している。
「さあ、今の内に」
 傷つく腕で黒鬼の胴を羽交い絞めにした青年に、慧魅璃が武器を構えた。
 そして――。
――ギャアアアアアアッ!!!
 剣を受けた黒鬼の身体が強張り、それを合図に青年と慧魅璃の双方が飛び退く。その直後、黒鬼は身体から黒い瘴気を放って消滅した。
「……やれやれ、だな。これじゃあ、他のメンバーに期待するしかないね」
 青年は傷ついた腕を見ながらぽつりと呟いた。
 そこに慧魅璃は近付いて行く。
 伺うように彼の顔を覗きこんでから、傷口に視線を落とした。しかしその深さを確認するよりも早く、温かく大きな手が慧魅璃の顔を覆った。
「こんなもの、見てはダメだよ」
 囁く声に塞がれた目を瞬く。
「こんなものではありません」
「こんなもの、でしょ? 女の子が見るべきものではないよ」
 やんわりと注意を促す声に瞼を伏せる。そして彼女は手を動かすと、記憶を頼りに彼の腕に触れた。
「――ッ」
 濡れた感触が指に触れ、その瞬間息を呑む音が聞こえる。その音に慧魅璃の手が傷口を覆いこんだ。
「ここですね」
 呟くと慧魅璃はそこに意識を集中させた。
 その直後、彼女の手から温かな光が溢れだす。
 全てを包み込むような優しい光に、青年の手が慧魅璃から離された。
 徐々に癒されてゆく傷。その全てを癒し、痕跡を消すと、慧魅璃はホッと安堵の息を吐いた。
「これで大丈夫ですね。でも、念のために」
 慧魅璃は服が裂け、肌が見えるその場所に、綺麗なレースのハンカチを巻いた。
「もし傷が残っていて、バイキンが入れば危ないです」
 そう言って見上げた瞳はもう紅くない。
 赤くなる直前に見た、澄んだ金と紫の不思議な色合いがそこにはある。
 その瞳を見てから、青年は優しく微笑んだ。
「ありがとう。君はまるで天使のようだね」
 サラリと口にされた台詞に、慧魅璃の目が瞬かれる。
 そしてその後には、再び彼女の顔に笑顔が咲いた。
「えみりこそ、ありがとうございます」
 素直に頭を下げる姿に、青年は腕に巻かれたハンカチを見てクスリと笑みを零す。
「――まるで、別人だね」
 聞こえた声に首を傾げるが、それについて彼は何も答えない。その代りに何かが差し出された。
「あの、これは……?」
 不思議そうに受け取ったのは、一枚の名刺だ。
 そこに書かれているのは何処かの店の名前と、人の名前だ。
「僕は辰巳・梓。そこに書いてある店で働いてるんだ」
「まあまあ、同じくらいの年の方かと思っていました。もうお仕事をされている方なんですね」
 驚く慧魅璃に梓は小さく笑う。
 彼が今身に着けているのは学校の正規の制服だ。その服を見てこう言う台詞が出てくるとは思わなかったのだろう。
 梓はそっと身を屈めると、彼女の顔を覗きこんだ。
「正社員じゃなくてアルバイト。でも、君に何か御馳走するくらいの力はあるから。いつでもおいで」
 微笑んで慧魅璃の頭を撫でた。
 その仕草に少しだけ頬が熱くなる。こんな風に他人に子供扱いされることなど滅多にない。それはここ最近になって特にだ。
「じゃあ、僕は探し物があるから行くね」
 そう言って姿勢を正した彼の顔を見上げる。
 そうしたことで気付いた金色に輝く瞳。薄らと日に透けるような瞳に目が吸い寄せられる。
 それに気づいた梓がもう一度だけ視線を向けてきた。
「天使さん、またね」
 そう囁いて歩いて行く。
 その姿を見つめる様に見送る慧魅璃の後ろから声が聞こえてきた。
「お、お嬢、さま……み、見つけ、ま、し……ぜえぜえ」
 振り返れば、爺が老体に鞭打って走ってくるの爺の姿が見えた。
「爺!」
 ドサッとその場に座り込んでしまった爺に駆け寄る。その際にチラリと後ろを振り返ったが、梓の姿はすでに無くなっていた。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8273 / 王林・慧魅璃 / 女 / 17歳 / お嬢様学校に通う学生。因みに、図書委員で合唱部(次期部長と囁かれてるとか) 】

登場NPC
【 辰巳・梓 / 男 / 17歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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はじめまして、朝臣あむです。
このたびは「りあ☆こい」シナリオへの参加ありがとうございました。
梓シナリオ初の参加者様ということで、手探り状態で進めましたが、素直なPC様でとても動かしやすかったです。
ご希望の形になり、梓のキザなセリフを楽しんで頂けたのなら嬉しい限りです。
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。
このたびは本当にありがとうございました。

※今回不随のアイテムは取り上げられることはありません。
また、このアイテムがある場合には他シナリオへの参加及び、
NPCメールの送信も可能になりました。