■クロノラビッツ - 時の鐘 -■
藤森イズノ |
【6408】【月代・慎】【退魔師・タレント】 |
When you wish hard enough,
so that even a star will crush,
the world we live in will certainly change one day.
Fly as high as you can, with all your might,
since there is nothing to lose.
CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――
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「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」
手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。
「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」
呆れながら警告したものの。
既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。
「ん〜〜〜♪」
口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。
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クロノラビッツ - 時の鐘 -
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When you wish hard enough,
so that even a star will crush,
the world we live in will certainly change one day.
Fly as high as you can, with all your might,
since there is nothing to lose.
CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――
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「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」
手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。
「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」
呆れながら警告したものの。
既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。
「ん〜〜〜♪」
口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。
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・
"魂銃タスラム"
時の契約者であることを証明する代物。
普通の銃とは仕様が異なり、銃口から放たれるのは銃弾ではなく、
銃弾を模した奇跡のチカラ。非現実的だが、それは "魔法" と呼ばれているものだ。
魔法には幾つかの種類があり、この銃に装填される魔法も、時の契約者ごとに異なる。
また、この銃から放たれる攻撃が "魔弾" と総称されることも覚えておいて損はないだろう。
「せーの」
僅かなズレもない。
まさに、パーフェクト。
そのまま引き金を引けば、終わりだった。
音もなく一瞬で、事は済んだ。それこそ、いつもどおり迅速に。
だがしかし、海斗が引き金を引くことはなかった。いや、引けなかったのだ。
何故ならば、時兎に寄生されたヒト、いわば被害者であり標的でもある少年が、クルッと振り返ったから。
あまりにも見事なタイミングで振り返ったものだから、つい手を止めてしまった。
まるで、撃たれる寸前に気付いたかのような動きだったから。
「何してるの」
「あ、いや。ちょっとビックリした」
呆れる梨乃に、笑う海斗。
そうだ、ちょっと驚いただけ。タイミングが良すぎただけ。
見えるはずがないのだ。気付かれるはずがないのだ。時の契約者とは、そういう存在なのだから。
少年の胸元に寄生している半透明のウサギ "時兎" もまた然り。ヒトには決して見えない存在。
文字通り人知れず、ヒトの記憶を喰らう厄介者。そんな時兎からヒトを救うことこそ、契約者の使命。
担った使命は、いつまでも。例え何があろうとも、貫かねばならない確固たる役目。
…… 何て言ってはみるものの、海斗は、そこまで重く考えていない。
辛うじて、やらねばならないことだけ心に据えている状態だ。
「急いで」
「わーかってるよ!」
催促する梨乃に反発しながらも、再び銃を構え直した海斗。
だが次の瞬間、海斗だけでなく、梨乃も呆気にとられて見動きできなくなってしまう。
銃を構え直したとき既に、少年は、二人のすぐ傍まで迫っていたのだ。
二人が驚いているのは、少年の "立ち位置" である。
海斗と梨乃、少年の間には、ちょうど人が一人立てるほどの隙間がある。
そこで少年が "立ち止っている" という状況に、二人は驚きを隠せないのだ。
だって、おかしいじゃないか。これじゃあまるで、二人の姿が見えているような …… 。
「えっと。おにいさん達、何者?」
少年が声を放つ。
その台詞は、明らかに海斗と梨乃に向けられていた。
二人は思わず後ろを見やって確認してみたが、誰もいない。
「ど、どういうこと?」
「知るかよ!」
動揺を隠せない二人は、顔を見合わせて口論した。
話しかけられたのか、今? ということは、見えているのか、この少年には?
いや、ありえない。だって、ヒトには決して見えない存在なのだから。
だからこそ、契約者は音もなく使命を全うすることができるのだから。
困惑した海斗と梨乃は、逃げるという選択肢を選んだ。
意味がわからない。ひとまず戻って、マスターに報告を ――
「も〜。見えるとか見えないとか、何言ってるの?」
逃げられなかった。
少年に掴まり、二人は見動きできない状態になってしまった。
掴まれた、という感覚が、更に二人を困惑させる。見えないということは、つまり触ることもできないはずなのだ。
契約者として時の神に仕えて、どのくらいの時間が経過したのか、もはや思い出せやしないけれど、
ヒトに声を掛けられたことも、掴まれたこともなかった。ただの一度も。
だがしかし、事実として今、二人は掴まれている。
「意味わかんね …… 」
「え、えぇと …… その、私達は …… 」
不可解であるものの、会話が成立する以上は言い逃れできまい。
海斗は納得いかない様子で不愉快そうな表情を浮かべたが、梨乃は、臨機応変な対応を見せた。
見えているということはつまり、襲撃されそうになっていたことも把握していることになる。
どこの誰かもわからない奴に、いきなり後ろから銃撃されるだなんて、理不尽極まりない。
どうして見えているのか、その疑問を解消するよりも先に、
少年に、ある程度の説明をする必要があるだろう。
襲撃される理由を求める少年こそ、正しい。
だが、そうは言っても、何から何まで事細かに説明することはできない。
時の契約者は、その名のとおり、契約の上で使命を担っている存在だ。
つまり、彼等の主である契約主(マスター)が存在する。
そして、そのマスターと契約時に取り交わした約束があるのだ。
わかりやすく言えば、口止め。一切の事柄を口外してはならないという約束。
この約束には、ひとつの疑問というか矛盾が生じているのだが …… まぁ、それは後で明らかになるだろう。
とにもかくにも、梨乃は、重要なところを上手いこと隠しながら、見事な説明を実行した。
隣で、その様子を見ていた海斗は、時々、話の腰を折るように無礼な態度を見せたが、
ロクな説明もできないくせに偉そうなこと言わないで、と梨乃に叱られてしまう。
「ふぅ〜ん。なるほどね」
ひととおりの説明を聞いた少年の反応は、あっさりしていた。
そもそも、物分かりが良すぎる。普通、そう容易く納得なんて出来ない。
時の契約者だの、時の神だの、時のウサギだの、そんな説明をされても困る。
あぁ、そうか。この人達は、頭がおかしいんだ。俗に言う、痛い子なんだ。そう思うのが普通だ。
まぁ、説明に偽りはなく、頭がおかしいなんて言われようものなら、海斗は更にムッとするだろうけれど、
素直に納得されたら納得されたで、どうも不可解で気持ちが悪い。
「なるほどねって、お前、ほんとにわかってんのか?」
「ちょっと、海斗」
「いいか、俺達はなぁ、時狭間っていうスゲー場所から来た …… 」
「か、海斗っ。駄目だってば。何考えてんの、あんた」
せっかく、重要なところを上手く隠して説明したのに、その努力を無駄にする気か。
梨乃は、少々手荒に、ギャーギャーと騒ぐ海斗を黙らせた。
二人が何かを隠していることは、容易に想像できる。
だがしかし、少年は、深く詮索しなかった。
「ふ〜。とりあえず、実家関係の人じゃないってだけで安心したよ〜」
少年 …… 慎は、こう見えて重い事情を背負っている。
見た目こそ幼く無邪気な男の子だが、かなりキツい過去を持っているのだ。
まぁ、本人は、もう、さほど深く思い悩んでいるわけではないようだが。
海斗と梨乃が隠し事をしているであろうことよりも、安堵感が大きいようで。
だからこそ、慎は、あれこれ詮索するに至らず、にこやかに微笑んでいるのだろう。
何はともあれ、助けられたことに変わりはない。
慎が、いとも容易くあっさりと事情を理解したのも、その実感があるからだ。
ひととおりの説明後、仕上げと言わんばかりに、梨乃は、慎の胸元に寄生していた時兎を消した。
銃口を向けられて尚、慎が冷静でいられたのは、梨乃の説明が上手だったからであろう。
そのとき既に、慎は、全てを納得し、理解に至る状態であったといえる。
時兎の存在については、慎も知っていた。見えていたから。
散歩中に、どこからともなく現れた半透明のウサギ。
不思議な現象を経験することが多いため、それ自体には、さほど驚きはしなかった。
だが、掴むことができない時兎の処置には、どうしたものかと頭を悩ませていた。
対処に困っていたところを解決してくれたのだから、助けられたという感覚を覚えるのも当然。
特に、時兎がどういう危害を及ぼす存在であるかを知ってからは、ますます有難い気持ちになった。
慎にとって、記憶の一切を失うことは、何よりも怖いこと。
今まで関わった人、その人との思い出、自分が得た知識、生きていくための賢さ。
悲しく辛い過去までも、慎にとっては、失いたくない大切な思い出なのだ。
「ところで、その銃。不思議ですね。ちょっと見せてもらってもいいですか?」
梨乃と海斗の腰元にある銃を見やって言った慎。
先程、梨乃は、この銃を用いて時兎を消した。何でも、この銃でしか時兎を消滅させることは出来ないのだとか。
銃弾ではなく、まるで魔法のようなものが放たれる仕様は、慎の興味を引くのには十分すぎる要素。
慎の申し出に、梨乃は少し考えた。果たして、ヒトにこの銃を触れさせて良いものなのか。
マスターとの約束に、そういう事項はない。でも、この銃も、いくつかの "情報" を持っていることは確か。
そんなことを考えながら、梨乃は、チラッと慎の目を見やった。曇りのない、真っ直ぐな眼差し。
自然で柔らかく、隣でブーたれている海斗とは雲泥の差がある優しい笑顔。
しばらく考えた後、梨乃は頷いて、銃を手渡した。
「あ! おい、お前、何やってんだよ」
「大丈夫よ」
「何を根拠に言ってんだ、それ」
「何となく。でも、大丈夫」
「カンじゃねーか! 当てになんねーだろ!」
銃を渡したことに突っかかる海斗だが、梨乃は平然と、淡々と返す。
事実として、梨乃の言ったとおり、何のことはなかった。
本当に、ちょっと興味があっただけ。奪って逃げようだなんて、これっぽっちも考えていなかった。
しばらく銃を観察し、満足した慎は、ありがとうございますと告げて、梨乃に銃を返した。
てっきり盗まれるもんだと思って騒いでいた海斗は、黙りこくってしまう。
どうにも、一人で勝手に空回りしている感が拭えない。
海斗自身も、それを感じ取ったのだろう。
「もーいーだろ。ほら、帰るぞ、梨乃っ」
情けないようなカッコわるいような、そんな状況をはぐらかすかのように立ち上がって言う海斗。
逃げ出すかのように、その場を去ろうとした海斗は、ポケットから黒い鍵を取り出した。
あるべき場所、時の契約者が暮らす空間、時狭間に戻る為に必要なアイテムだ。
この鍵もまた、銃と同じく、いくつかの重要な "情報" を有している。
つまり、ヒトの手に渡ってはならないもの。
なのだが。
カチャ ――
「あ」
落とした。
感情的に動くから、そういうことになるのだ。
海斗の手から落ちた黒い鍵は、事もあろうに、慎の目の前に転がった。
当然、慎は、鍵を拾い上げる。もちろん、盗む気なんてない。すぐに、海斗に返す。
「はい、どうぞ」
「 ………… 」
慎が、クスクス笑いながら言うものだから、海斗は、また不機嫌になってしまった。
拾ってもらったのに、お礼も言わず。まったく、これでは、どっちが子供だかわからない。
そんな海斗の幼稚な対応に溜息を吐き落とし、梨乃はフォローした。
ごめんね、悪気はないの、多分 …… と、小さな声で。
・
・
・
「ほら、早くしろよ」
「わかってる。ちょっと待って」
ガリガリと飴を噛みながら催促する海斗。
梨乃は、そんな偉そうな海斗の態度に不満を覚えながらも、胸元から黒い鍵を取り出した。
時の歪みに鍵を差し込んで、二人同時に、鍵を回す。時狭間へと続く黒の門が出現するのは、ほんの数秒。
海斗は、何の挨拶もなしに、一人でスタスタと先に帰っていってしまったが、
梨乃は、ペコリと頭を下げ、ニコリと微笑んで、慎に手を振った。
どうして、見えていたのか。会話が成立してしまったのか。
時狭間へ戻る最中、二人は、ようやくその疑問について思案する。
とりあえず、咎められたら、すぐに反論してやろう。
俺達は、認識されないはずの存在なのに。どうして、見えてるんだ? 会話が成立するんだ?
おかしいと思ってたんだ。認識されないのに "口外禁止" の約束をさせるだなんて。
つまり、それは、可能性を考慮した上でのルールだったわけだよな?
見つかる場合もある。そういうことなんだよな?
漆黒の闇を歩きながら仮説を立てる海斗。
隣を歩く梨乃も、表情が硬い。
海斗と梨乃が去り、路地に静けさが戻る。
何とも奇妙な体験をしたものだ。だが、夢なんじゃないかだなんて疑うことはしない。
不思議な銃、時兎、そして、時兎が消滅する過程まで。全てを、この目で、はっきりと見てしまったのだから。
「面白いことになってきたなぁ」
クスクス笑いながら、パチンと左手で指を鳴らした慎。
するとどうだ。指と指の隙間に、見覚えのある鍵が現れたではないか。
紛れもなく、それは、海斗と梨乃が持っていた黒い鍵と同じものだった。
盗んだわけじゃないから、本物ではない。じゃあ、どういうことなのかって?
簡単なこと。 慎には "そういう能力" があるってだけの話。
まぁ、残念ながら、あの銃は複製できなかったが。
鍵なら、こうして手に入れた。どんなもんだい。
さぁて、これからどうしようかな。
「ふふ」
手に入れた鍵を指先でクルクル回しながら笑う慎。
その笑みは、退屈しない人生を歩んでいることへの喜びに溢れていた。
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CAST:
6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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後記:
ルート分岐結果 → 応戦以外の対応
月代・慎さんは、Bルートで進行します。
以降、ゲームノベル:クロノラビッツの各種シナリオへ御参加の際は、
ルート分岐Bに進行したPCさん向け のシナリオへどうぞ。
オーダーありがとうございました。
2010.01.05 稀柳カイリ
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