■クロノラビッツ - Sound sleep -■
藤森イズノ |
【8295】【七海・乃愛】【学生】 |
寝てる。
それはもう気持ち良さそうにスヤスヤと。
何だって、こんなところで寝てるんだろうとは思ったけど。
ただ、気持ち良さそうに寝ているだけなら、気にも留めなかった。
起こさないように、そっと立ち去る気遣いでも見せただろう。
でも、できない。それができない。なぜならば …… 。
海斗の胸元で、時兎が耳を揺らしているから。
本来、時兎は 『ヒト』 にしか寄生しない。
けれど、ごく稀に、時の契約者に寄生することもある。
滅多にないことなんだけどって、確か …… そんなことを言っていた。
それにしても …… 寄生されてるのに熟睡中って。どうかと思うよ。
よくわからないけど、大事な使命を担ってるんじゃなかったの?
まぁ、何にせよ、目撃してしまったからには、放っておけない。
ちょっと可哀相な気もするけど、起こそう。
「ねぇ、ちょっと」
「んぅ〜〜〜〜 …… 」
「お〜い。海斗、起きて」
「むぅ …… むにゃむにゃ …… 」
「起きてってば。ねぇ」
「むにゃり …… 」
「 ………… 」
起きないんですけど。
叩いても揺すっても起きないんですけど。
えぇと …… どうすればいいのかなぁ、これ。
見なかったことに …… なんて出来ないしなぁ。
そもそも、この時兎、寄生してどのくらい経ってるんだろう。
海斗が眠ってから寄生したのは確かなんだろうけど、
いつから、ここで寝てるのかわかんないし。
確か、二十四時間以内に処理しないと、
記憶が全部なくなっちゃうんだよね。
急がねばと焦るものの、
何をどうしても、海斗は起きない。
いやいや、ほんと、どんだけ熟睡してるの。
(困ったなぁ …… )
どうしたものかと首を傾げたときのこと。
ふと目に入ったのは、海斗の足元に転がっている銃。
初めて会った時に使っていた、あの不思議な銃だ。
時兎を消滅させることができる唯一の武器。
( ………… )
手に取ってみたものの。
使い方がわからない。普通の銃と同じなのかな。
っていうか、これ、時の契約者しか使えないものなんだよね。
契約者以外が使うと …… どうなるんだろう。
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クロノラビッツ - Sound sleep -
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寝てる。
それはもう気持ち良さそうにスヤスヤと。
何だって、こんなところで寝てるんだろうとは思ったけど。
ただ、気持ち良さそうに寝ているだけなら、気にも留めなかった。
起こさないように、そっと立ち去る気遣いでも見せただろう。
でも、できない。それができない。なぜならば …… 。
海斗の胸元で、時兎が耳を揺らしているから。
本来、時兎は 『ヒト』 にしか寄生しない。
けれど、ごく稀に、時の契約者に寄生することもある。
滅多にないことなんだけどって、確か …… そんなことを言っていた。
それにしても …… 寄生されてるのに熟睡中って。どうかと思うよ。
よくわからないけど、大事な使命を担ってるんじゃなかったの?
まぁ、何にせよ、目撃してしまったからには、放っておけない。
ちょっと可哀相な気もするけど、起こそう。
「ねぇねぇ」
「んぅ〜〜〜〜 …… 」
「ねぇ。海斗、起きるのです」
「むぅ …… むにゃむにゃ …… 」
「兎さんがいるのです」
「むにゃり …… 」
「 ………… 」
起きないんですけど。
叩いても揺すっても起きないんですけど。
えぇと …… どうすればいいのかなぁ、これ。
見なかったことに …… なんて出来ないしなぁ。
そもそも、この時兎、寄生してどのくらい経ってるんだろう。
海斗が眠ってから寄生したのは確かなんだろうけど、
いつから、ここで寝てるのかわかんないし。
確か、二十四時間以内に処理しないと、
記憶が全部なくなっちゃうんだよね。
うーん …… 困ったぞ。
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・
・
・
目を覚まさない海斗の傍にしゃがみ、どうしたものかと考える乃愛。
海斗の胸元で耳を揺らしている時兎は、何かを頬張っているような仕草を見せる。
それはとても可愛らしい仕草だが、実際は、そんな悠長なこと言っていられない。
今まさに、時兎は海斗の記憶を美味しく頂戴しているところなのだから。
急がねば、本当に手遅れになってしまう。
時の契約者といえど、寄生されてしまえば、普通のヒトと同じ。
契約者だからといって、記憶が無事で済むだなんてことはないのだ。
加えて、時兎が寄生してどのくらいの時間が経過しているのかわからないのも厄介。
せめて、海斗がいつからここで眠っているのかわかれば …… いやまぁ、急がねばならないことに変わりはないけれど。
とにもかくにも、事態は一刻を争う。何とかして、海斗から時兎を離別させなくては。
さぁ、どうする。どうやって乗り切ろうか、この状況。
(時のウサギさんは、どんな味がするのですかね …… )
ふと、そういえばと思い付いた乃愛だったが、すぐにハッと我に返り、頭をフルフル。
そんなこと考えてる場合じゃない。というか、おやつなら、さっき食べたばかりじゃないか。
いやでも確かに、気にはなる。掴めないという時点で摂食は不可能だとは思うけれど、
いったいどんな味がするのか。この半透明な姿からして、無味の可能性が高い?
でも、とっても柔らかそう。口当たり滑らかでクセになりそう …… 。
って、だから。そんなこと考えている場合じゃないんだってば。
いつの間にか、うっとりした目で時兎を見つめてしまっていた乃愛。
またまた頭をフルフルと振って、邪念(なのか?)を払う。
(でもでも、どうすればいいか、わからないのですよ)
襲撃されたあの日。
時兎の怖さも消滅させる術も聞かせてもらったけれど、乃愛にはどうすることもできない。
乃愛はヒトであり、時の契約者ではないのだから。だが、何もせずジッとしていることもできない。
(はっ! そうだ!)
何かを思い付いた。
乃愛は、すぐさま思い付いた案を実行に移す。
放課後、自宅である学生寮へ戻る前に、乃愛は街へ赴いていた。
生活必需品の買い出しだったり、文房具の補充だったり、
それは、実に "寮生活をしている学生" らしい買い物だったと言える。
寮へ戻る最中の出来事だったので、鞄の中は、買ってきたものでいっぱい。
どこでどんな買い物をしても、乃愛は 「あ、袋はいらないのです」 と言う。
いつも肩から斜めにかけている黒と白の大きなバッグに入れるのだ。
う〜ん、エコである。って、そんなこと今はどうでもいい。
(まずは、これなのです)
ゴソゴソとバッグを漁り、中から "ペン" を取り出した乃愛。
女の子なら、誰もが一度は集めたであろう、カラフルキュートなカラーペンセット。
その中から、乃愛は赤いペンを選び(一番好きな色を選んだのは、おそらく無意識だと思われる)、
ギュッと握りしめたそれで、勢いよく突いた。時兎の眉間あたりを狙って、突いた。
(むむむっ)
当然だが、突けない。
いや、突き抜けないというべきか。
半透明の時兎には無効だ。スルリとすり抜けてしまうだけで、どうにもならない。
何となくこうなる予感はしていたけれど …… 素知らぬ顔でモグモグと口元を動かす姿に、ちょっとイラッ。
乃愛は、プゥと頬を膨らませつつ、何度も何度も突いた。無駄だとわかっていながらも。
(じゃあ、これならどうです?)
しばらく無駄な悪足掻きを続けた後、次に乃愛がバッグから取り出したものは "消しゴム" だ。
これもまた、女の子なら一度は集めたことがあるであろう、香りつきの消しゴム。
いちごの香りだとか、オレンジの香りだとか、バナナの香りだとか。フルーツメイン。
香りもそうだが、このカラフルな色どりもまた、女の子の心をくすぐる要因だろう。
つまるところ、消そうとしたのだ。乃愛は、消しゴムで時兎を消そうとした。
発想は柔軟。というか、消し去る目的という点では的外れではない。
だがしかし、消しゴムじゃ消せない。
(むむむむむむぅっ)
ガシガシワシワシと手を動かしてみるものの、無意味だ。
ペンでの突きと同じく、すり抜けてしまい、消すことができない。
根本的に、触れることができないという時点で何をやっても無駄なのだ。
時の契約者ですら、時兎に触れることは叶わない。捕縛不可能な生物なのだから。
かといって、このまま放っておくわけにもいかない。時兎は、黙々と記憶を喰い続けている。
気のせいか、時兎が少しだけ大きくなったような …… マズイマズイ、これはマズイ。早く何とかせねば。
さすがに焦りを覚えたか、乃愛は、あたふたと動き始めた。
何か効果的なものはないか。バッグの中をガチャガチャと漁る。
その後も、いろいろと試みてはみた。キャンディーを与えてみようとしたり、
ノートでバサバサ扇いでみたり、ぬいぐるみで遊んでみたり、両手でパンと挟み潰そうとしたり …… 。
だが、何もかもが、時兎には無効だった。乃愛の周りには、バッグから取り出したものが散乱している。
お忘れかもわからないが、時兎はもとより、時の契約者である海斗も、普通のヒトには見えていない。
つまり、乃愛の一連の言動は、傍から見ると非常に滑稽なものとして映る。
通路の脇で、ジタバタ暴れては悔しそうな顔をしている女の子がいる。
何だかよくわからないけど、近付かないほうが良さそうだと、人々は、そういう感情を抱く。
でもまぁ、どうしたの? と寄ってこられても説明のしようがなく困るだけだから、それは良いのだが。
それにしても、起きないな。
いったい、どんだけ熟睡しているというのか。
すぐ傍で、これだけジタバタしているというのにピクリとも動かないとは。
確かに、この間、時狭間で夕食を御馳走になったとき、契約者の睡眠が深いことは教えてもらったけれど。
まさか、ここまでとは。いくら何でも寝過ぎ。これじゃあまるで、死人ではないか。
(困ったのです …… )
手の打ちようがなく、困り果てる乃愛。
こうなったら、時狭間まで行き、誰かに報告するしかないか。
でも、そうするとなると、事前にこっちで済ませておかねばならないことが出てくる。
友達(クラスメート)には、すぐ戻ると言ってある。長いこと戻ってこないとなると心配させてしまうだろう。
門限までに寮へ戻るのは絶対として …… とりあえず友達への連絡が最優先か。
ウンと頷き、乃愛はバッグから、ストラップがたくさんついた携帯電話を取り出した。
黒と白、オセロを彷彿させるデザインの可愛らしい携帯電話だ。
だが、通話ボタンを押す寸前で、躊躇ってしまう。どうやって説明しよう …… 。
時兎だの時狭間だの、そんなことを言っても友達は首を傾げてしまうだけ。
だからといって、ちょっと遅くなるって報告だけじゃ余計に心配させてしまう。
わかりやすく簡潔に、それでいて明確に連絡するには、どんな言葉をチョイスすべきか。
自由奔放な性格から、思ったことを何でも口にしそうだと思われがちな乃愛だが、それは違う。
特に今回のように大切な人が関わっているシチュエーションでは、尚更のこと冷静になる。
(う〜ん …… 。 …… むむ?)
どうしたものかと首を傾げていたときのこと。
乃愛の瞳が、とある武器を捉える。その武器とは、海斗の腰元にある …… あの銃だ。
初めて会った時、使っていた銃。時兎を消滅させることができるという唯一の武器。
そこでようやく、乃愛は気付く。元々、手段なんて一つしかなかったことに。
( ………… )
そーっと引き抜き、手に取ってみたものの。
使い方がわからない。普通の銃と同じなのだろうか。
というか、これ、時の契約者しか使えないものだと言っていた。
同時に、契約者である何よりの証でもある、とも言っていた。
契約者以外が使うと …… どうなるんだろう。
ヒトが使った時の効果については聞かされていない。
きっと、ヒトが使うことになるだなんてこと、滅多にないんだ。
だからこそ、そういう話を一切しなかった。話す必要もなかったんだと思う。
だが、現状。このシチュエーション。海斗は、ぐっすり夢の中。一向に起きる気配なし。
もはや、時狭間に赴いている暇なんてない。今すぐ、ここで何とかせねばならない。
先程、何やらパチンという音が聞こえた。その音を発端に、時兎に変化が現れた。
どんどん、どんどん大きくなるのだ。まるで風船が膨張するかのように。
誰が見ても一目瞭然。このまま膨張し続ければ、いずれは …… 。
危機感を覚えさせるのには、十分すぎる光景である。
(とりあえず、やってみるのですよ。やらずに後悔より、やってみて後悔なのですよ)
意を決した乃愛は、引き金に指を掛けて構えた。
正しい構え方なんてわからない。ただ、銃口を時兎に向けることで精一杯。
確か、眉間の辺りを狙って撃つんだと、海斗は言っていた。そうしないと効果がないのだと。
眉間 …… 眉間 …… と言っても、時兎に眉毛はない。いやまぁ、何となくその辺りということなのだろうけれど。
幸い、巨大化しているから、その辺りを狙い撃つのは容易いかと思う。でも、銃なんて使ったことがないから、
どんなに難易度が下がっていたとしても、乃愛にとっては難しいことに変わりはないわけで。
(お …… 怒られるかもしれないのですよ)
後もうひと押しというところで、指が微かに震えてしまう。
何とかせねばという責任感と、勝手に銃を使おうとしている罪悪感の狭間で生まれる恐怖。
だが、躊躇っている間にも、時兎はどんどん大きくなってしまう。余計なことを考えている暇はない。
とにかく今は、時兎を消すことだけを考えねば。助けてくれだなんて言われてないけれど、
この状況を黙って見過ごすことなんて出来ない。見えているのだから。
他のヒトには見えないものが、見えているのだから。
今ここで、何とか出来るヒトがいるとすれば、それはきっと自分だけだから。
「ちゅーしゃより怖いものはないのです!」
恐怖と不安を掻き消すかのように大きな声で叫んだ乃愛。
罪悪感よりも責任感がグッと勝った、その瞬間。乃愛は、引き金を引いた。
今だけ。今だけ、私に力を貸して下さいと祈りを込めながら。
カチャ ――
「 ………… ほぇ?」
何だ。どういうことだ。何も起きない。
確かに引き金を引いたのに …… 銃は沈黙を続けている。
やはり、駄目なのか。契約者以外のヒトが使うことは許されないのか。無理なのか。
現実を突き付けられたような、その感覚に、乃愛は何とも言えぬ悔しさを覚えた。
どうすることもできない。見えているのに、結局、何もできない。
そんな自分が酷く無力で無意味に思えて。目頭が熱くなる。
「ふにゅにゅ …… 」
悔しさのあまり、力が抜ける。
使えないというのなら、じゃあいったい、どうすればいいの。
叩いても揺すっても、何度名前を呼んでも海斗は起きてくれないんだよ。
脱力から、銃を下ろして、その場に座り込んでしまった乃愛。と、その時だ。
銃から、何やら変な音がする …… 。と同時に、銃口から蒸気のようなものが昇る。
更に、引き金部分が徐々に熱を帯びていく。チリチリと指先に伝わる熱と痛みに、乃愛は首を傾げた。
様子がおかしいことに気付きながらも銃を手放さなかったのは、直感だったと言えよう。
「うっ …… うにゃにゃにゃにゃーーーーーーーーー!?」
次の瞬間、大噴射。
銃口から、真っ黒な煙が勢いよく噴き出したのだ。
あまりにも凄まじい勢いに、乃愛は吹き飛ばされてしまい、漫画のように地面を転がった。
乃愛が、壁に背中を打ち付けると同時に、銃口から放たれた黒い煙は、標的を捉える。
煙から槍のように形を変え、そのまま。ザクリと、時兎の眉間を貫いたのだ。
黒い槍が突き刺さった箇所から、円状に広がりながら消滅していく時兎。
一切の音を放たずして消えゆく様は、何だか不思議な光景だった。
「 …… き、消えたのです …… ?」
呼吸を整えながら言い、乃愛は、すぐさま海斗に駆け寄った。
胸元で記憶を喰らっていた時兎は、もういない。跡形もなく消滅した。
良かった。一時は、どうなることかと。ホッとした乃愛は、目を伏せてフゥと息を吐き落とす。
タイミングが良いというべきか悪いというべきか、それと、ほぼ同時に海斗が目を覚ます。
遅いよ、今更。もっと早く起きてくれれば、こんなに緊張しなくて済んだのに。
正直、そう思うところはあったけれど、乃愛は口にはしなかった。
助けることができた。それだけで、今は十分だったから。
目を覚ました海斗は、すぐに気付いた。
乃愛が、自分の銃を握っていることに。そして、その銃口に黒い煙の名残があることに。
どんなにマヌケでも、その状況を見れば、何が起きていたのかくらいわかる。
海斗は、ゆっくりと身体を起こして言った。いつもより少し低い声で。
「 …… お前、それ使ったの?」
「へっ。あっ、あっ …… えと、その …… 」
「使ったんだよな? じゃなきゃ、その銃口の説明がつかねーよ」
「あの …… はい、なのです。ごめんなさいなのです。でも、ウサギさんが …… 」
俯いたままボソボソと声を放つ海斗から、妙な威圧感を覚える。
乃愛は、言い訳になってしまうことを理解しながらも、状況を説明しようと試みた。
だが、ビクビクする必要はなかった。海斗の威圧は、演技だったのだ。
すぐに顔を上げて、いつもどおりケラッと笑い、乃愛の頭を、わしゃわしゃする。
「ビビんなって。怒ってねーから」
「ふにゅ …… で、でも」
「いーから。でも、とりあえず、それ返して」
「あ、はいなのです」
銃を受け取った海斗は、銃口にフッと息を吹きかけた。
名残惜しそうに銃口に漂っていた黒い煙が、スーッと消えていく。
それを見届けてから、海斗は、腰元に銃を戻した。
何だかいつもと雰囲気が違うような気がして、座りこんだまま、その動作を見上げていた乃愛。
それ以上何を言うわけでもなく、海斗は次の行動に移る。
そこらじゅうに散らばっているペンやらノートやらを拾っては、乃愛のバッグに戻していくのだ。
それを見た乃愛も、ハッと我に返って、同じく散らばった品々をバッグに戻していく。
全てをバッグに戻し終えるまでの時間は、ほんの五分程度だったけれど。
海斗がずっと無言だったからか、ものすごく長い時間のように思えた。
「よし。これで全部だな」
「あ、はい。ありがとうなのです」
「いや、こちらこそ。助けてくれて、どーも」
「どういたしまして …… なのです。でも、どうしてこんなところで寝てたのです?」
「んー? お前が通ってる、ガッコウ? ってやつをちょっと見物しに来た」
「ほぇ。そうなのです? じゃあ、もしかしてずっと学校にいたです?」
「うん。で、帰る途中にいきなり眠くなった。っつーわけだ」
「そうなのですか。随分急に眠くなるのですね」
「んー。俺達はいつもそーだよ」
いつもの笑顔を浮かべながら言う海斗。
とにかく、助けてくれてありがとう。助かった、感謝してる。
最後にそう告げて、海斗は胸元から黒い鍵を取り出した。時狭間に戻るようだ。
銃を勝手に使ったことに関しては、結局、何のお咎めもないまま。
とても不自然な対応に思えたが、乃愛は詮索できずにいた。
訊いてくれるな、と言われているような気がして。
「んじゃ、俺、帰るわ。お前も、寄り道しないで真っ直ぐ帰れよー」
「あ、はいなのです」
「んじゃ、またな」
「はい」
鍵を回すことで出現した黒の扉を抜け、時狭間へと戻って行く海斗。
いつもと何ら変わりないように思えて、いつもとは違う雰囲気だったような。
海斗の様子がおかしかった気がしてならない乃愛は、う〜ん? と首を傾げながら背中を見送った。
その矢先、乃愛の携帯電話が着信。ディスプレイに表示されているのは、クラスメートの名前。
なかなか戻ってこないことを心配し、電話をかけてきてくれたのだろう。
乃愛は、すぐにバッグから携帯電話を取り出し、その着信を受けて、
心配するクラスメートに、ごめんねと大丈夫を伝えた。
時同じくして、別々の場所へと帰って行く二人。
乃愛は、気付かなかった。
あまりにもさりげなく、自然な行動だったから。
目を覚ました海斗が、何度か自分の額 …… 眉間の辺りを指先で撫でていたことに。
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CAST:
8295 / 七海・乃愛 / 17歳 / 学生
NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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Thank you for playing.
オーダーありがとうございました。
2010.01.05 稀柳カイリ
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