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■クロノラビッツ - 欲望と黒の穴 -■

藤森イズノ
【6408】【月代・慎】【退魔師・タレント】
 黒の穴(クロノアナ)
 時狭間に点在している穴。
 時の歪みとも呼ばれ、踏み込んだ瞬間、奥へと引きずり込まれる。
 何の前触れもなく、突如、足元に出現するため、注意が必要である。
 穴の奥は漆黒の闇が広がるばかりで、自力での脱出は不可能。
 外側から歪みを押し広げてもらわない限り、出られない。

 また、
 時の契約者が黒の穴に落ちた場合、
 時狭間全域のバランスが崩れてしまう他、
 時の契約者そのものの精神も侵され、闇に支配されかねない。
 闇の支配とは即ち 『欲望』 の充満と発散を意味する。

 *

 困ったなぁ。真っ暗 …… 。
 何にも見えないし、何にも聞こえない。
 静かで落ち着くけど、やっぱりちょっと不安。
 このまま出られないってことはないだろうけど。
 まぁ、一人じゃないのが、せめてもの救い …… かな。

( …… あれ? )

 チラリと見やり、異変に気付く。
 一緒に黒の穴に落ちてしまった、優しくも不運な時の契約者。
 ついさっきまで普通に喋っていたのに。今は、黙り込んで膝を抱えている。
 しかも、両手が、ぼんやりと光っているような。見間違い …… じゃなさそうだ。
 どうしたんだろう。何で光ってるんだろう。その疑問を素直にぶつける為、四つん這いで近付く。
 何となく、嫌な予感はしていた。そして、嫌な予感ってのは、決まって当たるものだ。

( …… えっ? )

 いつもと雰囲気が違う。
 恐ろしい魔物のような目付き。
 ゆっくりと顔を上げる時の契約者。
 その横顔に 『恐怖』 を覚えずにはいられなかった。

 *

 ここは黒の、黒の穴。
 あらゆる欲望が蔓延る時の歪み。
 使命を担う契約者に、害をもたらす空間なり。
 クロノラビッツ - 欲望と黒の穴 -

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 黒の穴(クロノアナ)
 時狭間に点在している穴。
 時の歪みとも呼ばれ、踏み込んだ瞬間、奥へと引きずり込まれる。
 何の前触れもなく、突如、足元に出現するため、注意が必要である。
 穴の奥は漆黒の闇が広がるばかりで、自力での脱出は不可能。
 外側から歪みを押し広げてもらわない限り、出られない。

 また、
 時の契約者が黒の穴に落ちた場合、
 時狭間全域のバランスが崩れてしまう他、
 時の契約者そのものの精神も侵され、闇に支配されかねない。
 闇の支配とは即ち 『欲望』 の充満と発散を意味する。

 *

 困ったなぁ。真っ暗 …… 。
 何にも見えないし、何にも聞こえない。
 静かで落ち着くけど、やっぱりちょっと不安。
 このまま出られないってことはないだろうけど。
 まぁ、一人じゃないのが、せめてもの救い …… かな。

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 ・
 ・
 ・

「大丈夫ですか?」
「えぇ。慎くんこそ、平気?」
「はい。あっ! 千華さん、腕 …… 」
「えっ? あら。でも平気よ。掠り傷だもの。ふふ」

 千華は、慎をギュッと抱きしめるような体勢のまま落下した。
 怪我をさせないようにと護るその姿は、どこか母親の愛情のようなものを思わせた。
 その甲斐あってか、慎は無事だ。掠り傷ひとつ負っていない。だが、当の慎は複雑な心境である。
 大丈夫だと千華は笑うけれど、自分のせいで怪我をさせてしまったことには違いないから。
 年齢なんて関係ない。女の人を護るのは、男の役目だ。
 慎は、実家を出てすぐに知り合った、とある人物の言葉を思い出していた。
 共感した慎は、いつも心の片隅にその言葉を据えている。でも、なかなか上手くいかない。
 甘えるのは得意なんだけど、護るとなると一気に難しくなる。今回のことにしても、そうだ。
 突然現れた黒の穴。まずいと気付いた時には手遅れで、慎は既に落下していた。
 そこへ、腕を伸ばして助けてくれたのが千華。でも、女性の力で引き上げるのには難があり、
 結局、千華も一緒に落ちてしまった。立派でカッコイイ男なら、こんなことにはならなかったはずだ。
 千華を助けて、自分だけ落下するとか "イキ" な対応ができたはずだ。※ イキ → 粋

 やっぱり、難しい。
 年齢なんて関係ないって、あの人は言ってたけれど、実際そうでもない気がしてくる。
 もっと大人なら。こんなに小さな身体じゃなければ …… だなんてことも考えてしまう。
 一緒に落ちたのが千華だという点も、慎に罪悪感を覚えさせる大きな要因だ。
 綺麗なお姉さんは大好き。でも、だからこそ申し訳ない気持ちになってしまう。

「これって、俺達じゃどうしようもない …… んですよね?」
「そうね。誰かが助けにきてくれるのを待つしかないわ」

 自力で黒の穴から脱出するのは至難の業。
 事前に、黒の穴について聞かされていたからこそ、慎は落ち着いていた。
 海斗なら …… 何が何でも自力で脱出しようと、あれこれ試して無駄な体力を消費するだろうが、
 慎は違う。どうしようもないのなら、千華の言うとおり、ジッと待つ他ない。ひとつでも明確な術があるなら、
 何とかなるかもしれないと試してみるだろうけれど、それすらもないと言うのなら、待つしかないじゃないか。
 にしても …… どのくらい待てば良いのやら。時狭間は広い。本当に、見つけてもらえるだろうか。
 って、ネガティブ思考は良くない。ここは、明るい話題でも振って、雰囲気を和ませよう。
 そんなことを考えながら、慎は、ふと千華を見やった。

( …… あれ? )

 そこで、異変に気付く。千華の様子がおかしい。
 ついさっきまで普通に喋っていたのに。今は、黙り込んで膝を抱えている。
 しかも、両手が、ぼんやりと光っているような。見間違い …… じゃなさそうだ。
 どうしたんだろう。何で光ってるんだろう。その疑問を素直にぶつける為、四つん這いで近付く。
 何となく、妙な予感はしていた。そして、そういう予感ってのは、決まって当たるものだ。

「慎くん」
「はい? …… って、わっ」

 首を傾げた瞬間、抱き寄せられた慎。
 落下中も同じような体勢だったけれど、それとはまったく別だ。
 千華は、まるで自分の身体に埋めるがごとく、慎をギューッと抱きしめる。
 年上とはいえ、ここまですっぽりと女性に抱き包まれてしまうのも何だかな …… 。
 なんて思いつつも、慎はクスクス笑っていた。千華の様子がおかしいのは明らかだし、
 どうしてこうなっているのか原因を解明すべきだとも思うけれど、ひとまず、この状況は美味しい。
 って言うと何だか少し下品に聞こえるかもしれないが、嬉しくないはずがないのだ。
 どうせなら、こんな真っ暗な穴の中なんかじゃなく、もっと良いシチュエーションが良かったなぁ、
 なんてことまで考えている始末。千華の異変は明確だが、慎がそれに動揺することはなかった。
 女性に抱きしめられるという状況に慣れているせいもあるだろう。

 千華の異変こそ、黒の穴が危険視されている理由である。
 時狭間は、あらゆる世界・あらゆる空間と繋がっている特殊な世界。
 それと同時に、各世界を絶えず流れている "時間" も、目には見えないが、そこらじゅうを飛び交っている。
 黒の穴とは、それら、別世界を流れている時間が衝突することによって発生する巨大な歪み。
 その中に落ちてしまうことはつまり、異なる世界の時間を一度に体感することを意味する。
 ヒトならば、特に何の支障もないが、千華は "時の契約者" だ。
 つまり、異なる世界の時間を、ダイレクトに、その身で全て受け止めてしまう。
 本人の意思でやっていることではない。使命感から、無意識で実行しているだけのこと。
 全ての世界・空間に存在し、決してなくなることなき不変なるもの、時間。
 時の契約者は、何があろうとも、それを護らねばならない。
 だが、その使命感が、千華の身体に異常をきたす。
 異なる世界の時間を一度に受け止める行為は、自殺行為に近しいのだ。
 一度に別々の話をいっぺんに聞かされて困惑するのと同じ。つまり、処理しきれないのだ。
 結果として、半ば混乱状態にある中、時の契約者の思考は、とある方向にしか働かなくなる。
 男なら男の、女なら女の、それぞれの "欲求" を晴らすことしか考えなくなってしまうのだ。
 原因は、千華が受け止めて、その体内に取り込んだ、異なる世界 "時間" の交錯。
 黒の穴から脱出する以外、元に戻る術はない。

(このままってわけにもいかないよねぇ)

 千華の腕の中で苦笑する慎。
 いっそこのまま成り行きで …… なんてことも考えたが、さすがにそれはどうかと思う。
 自分はまだしも、おそらく千華は意識が虚ろだ。そんな状態で喜び続けられるほど無粋じゃない。
 まだまだ子供だとはいえ、そのあたりはしっかりしている。誰彼構わずがっつくような男にはなりたくない。
 …… とはいえ、この柔らかくて優しい抱擁に、まだしばらく酔いしれていたいのも事実。
 慎は、そんな自分に呆れ笑いながら、器用に上着を脱いでいった。
 トロンとした目で見つめる千華。その眼差しの威力は凄まじい。
 うっかり、ほっぺにチュッとしたくなる衝動を抑えながら、慎は脱いだ上着を千華の背中に掛けた。
 抱きしめられながらの対応だったから、少し滑稽だったかもしれない。
 慎がとったその行動には、意味がある。そりゃあ、そうだ。
 ただ上着を掛けるだけの行動なんて、この状況では無意味だろう。
 慎は、上着に睡眠効果を施していた。綺麗なお姉さんに抱かれる無抵抗を少年を装いながら、準備していたのだ。
 その上着が肌に触れることで、千華は、フッと眠りに落ちる。

「っととと …… 」

 眠った千華を小さな身体で抱きとめ、そのままそっと横たわらせる慎。
 ちょっとキツめの催眠なので、しばらくは目覚めないだろう。
 さて、どうしたものか。千華がおかしくなった原因でも探ろうか。
 でも、眠っている女性をあれこれ調べるのも、何だか失礼な気がする …… 。
 この穴に落ちてから異変が起きたのは確かだから、おそらく、この場所がマズイんだと思う。
 だがしかし、自力でこの穴から脱出することはできない。結局、助けを待つしかないのか。
 目覚めれば、また色っぽく攻めてくるだろうから …… その前に助けが来ることを祈ろう。
 嬉しい異変であることに変わりはないが、正直なところ、対応に困るから。
 慎は、苦笑しながら膝を抱え、スヤスヤと眠る千華を眺めながら助けを待った。
 慌てる様子もなく、ぼんやりと、まったりと。

( …… 睫毛、長いなぁ)


 *


 どのくらいの時間が経過したのだろう。
 無音なる闇の中、ただジッと待つだけというのは、何とも退屈だった。
 つい、うたた寝してしまった慎。だが、とある状況の変化により、パチッと目を覚ます。
 瞼の裏で光を感じたのだ。目を開いた慎は、それが夢じゃなく現実であることを実感する。

「あ、いた。いたぞー! 藤二ー!」
「おっ、そうか。良かった良かった」

 海斗と藤二だ。
 二人が閉じた穴をこじ開けて、中を覗き込んでいる。
 瞼の裏で感じた光は、海斗が手に持っているランプの明かりだったのだ。
 海斗と藤二は、上から梯子を下ろし、それを伝って穴に落ちた慎と千華の救出にあたる。
 その後を追うように、ヒラリと一匹の蝶。金色の美しいその蝶は、慎が放ったものだ。
 落ちる、と判断した直後に放っておいた。遠隔で、上の様子を知らせてもらう為に。
 まぁ、穴が閉じてしまったのは予想外で、様子を知らせてもらうことは出来ず、
 せっかくの機転も無駄になってしまったかと慎は残念に思っていたのだが。
 放たれた蝶(常世姫)は、そこから独断で機転を利かせた。
 慎が落ちた場所を記憶した状態で、助けを呼びに行ったのだ。
 時の契約者および時の神が生活している居住空間まで飛んでいったのだ。
 主が闇に飲まれたのに何もしないだなんて、守護者として失格だと思ったのだろう。

 常世姫が居住区へと向かったとき既に
 散歩に行ったっきり戻ってこない千華を心配し、海斗と藤二は捜索にあたっていた。
 そこへ、ヒラヒラと飛んできた金色の蝶。いつも慎の傍にいる蝶だと気付いた海斗は、
 ついてきてくれと言わんばかりにクルクル回る蝶を見て、何となく状況を把握した。
 案の定、千華は慎と一緒にいた。いや、一緒に黒の穴に落ちていた。
 警戒心が人一倍強い千華が黒の穴に落ちるだなんて、おかしい。
 穴の底で助けを待っていた二人を見た海斗と藤二は、
 おそらく、慎を助けようとして一緒に落ちてしまったのだろうと推測した。
 千華が、慎のことを可愛がっていることも知っていたから、余計に。

「だいじょぶか? 慎」
「うん。平気。ありがとう」

 ようやく穴から脱出できた。まぁ、上に戻ったといっても景色に大した変化はないのだが。
 だから、黒の穴には、気をつけろって言っただろー! と笑いながら慎の背中を叩く海斗。
 慎は、ごめんね、これからは気をつけるよと反省の色を見せたが、実際は上の空。

「よっ …… と。しかし、随分とぐっすり寝てるな」

 苦笑しながら、千華を抱き上げた藤二。
 千華は、まだスヤスヤと眠っている。そろそろ目を覚ます頃だとは思うが。
 慎は、軽々と千華を抱き上げて歩く藤二の背中に、ちょっぴり羨望の眼差しを向けた。
 早く大人になりたいかも。だなんて、子供ならではの可愛い悩み。

 ・
 ・
 ・

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 CAST:

 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
 NPC / 千華 / 24歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 藤二 / 24歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.01.08 稀柳カイリ

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