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■クロノラビッツ - 時の鐘 -■

藤森イズノ
【8300】【七海・露希】【旅人・学生】
 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

 ------------------------------------------------------

「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」

 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。

「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」

 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。

「ん〜〜〜♪」

 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。


 クロノラビッツ - 時の鐘 -

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 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

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「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」

 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。

「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」

 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。

「ん〜〜〜♪」

 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。

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 ・
 ・
 ・

 没頭。
 それ以外に表現のしようがない。
 露希は、今日も今日とてルービックキューブに夢中。
 もはや数えきれないくらい遊んでいるだろうに、よく飽きないものだ。
 まぁ、本人いわく、完成に経るまでの過程を考えるのが楽しくて止められなくなったそうだが。
 それにしても、夢中になりすぎだ。大きなバッグを持っているあたり、学校帰りなのだとは思う。
 また、街をフラついていたのだろう。早く寮に戻らねば、昨日に引き続き晩御飯を抜きにされてしまうだろうに。

(う〜ん …… そろそろかな〜)

 楽しそうに遊んでいた露希だが、キューブの完成が近付くと同時に悲しそうな表情へと変わる。
 またすぐに最初からやり直せば良いことなのだが、ゲームが終わってしまうという感覚が、どうも切ないようだ。
 寂しいのが嫌なら遊ばなければ良いじゃないかって話だが、それもまた夢中にさせる感覚のひとつだから、どうしようもない。
 悲しそうではあるものの、実際は、そういうのも全部ひっくるめて、露希は楽しんでいるのだろう。
 まぁ …… そんなわけで、露希は気付いていない。気付く余地もない。
 まさか、背後から狙われているだなんて、思いもせず。

「せーの」

 生意気な笑みを浮かべ、魂銃タスラムの引き金を引いた海斗。
 普通の銃と異なる、この不思議な銃は、時の契約者であることの何よりの証。
 銃口から放たれるのは銃弾ではなく、銃弾を模した魔法。海斗は、その身に炎の力を宿している為、
 赤々と燃える炎が銃口から放たれる。狙いは完璧。まさに、パーフェクト。僅かなズレもない。
 放たれた炎は、槍のような形へと姿を変えながら、まっすぐに、ただ標的を目指す。

「に゛ゃふっ!?」

 何とも言えぬ声が、静かな路地裏に響き渡った。
 胸元を貫いた炎の槍。貫通すると同時に、炎はフッと煙になって消えていく。
 心臓を丸ごと持っていかれたような衝撃に、露希は、そのまま、うつぶせる形で地面に倒れ込んでしまう。
 露希の手から落ち、コロコロと転がるルービックキューブ。
 海斗は、銃を腰元に収めて満足気に笑うと、確認のため、露希に近付いた。
 時の契約者は、ヒトを護るために存在している。決して、ヒトを殺めることはない。
 確かに、海斗は露希の心臓めがけて発砲した。だが、露希の命を奪おうとしたわけじゃない。
 狙いは露希自身ではなく、露希に寄生していた "時兎" という生物。
 適当なヒトに寄生し、そのヒトの記憶を喰らう厄介な生物だ。
 時の契約者は、この時兎からヒトの記憶を護るという使命を担っている。
 ちなみに、時兎を目で確認できるのは、時の契約者のみ。

 海斗が使った魂銃タスラムは、時兎を消滅させることができる唯一の武器である。
 触れることができないため、この銃で撃ち抜き消す他に手段がないのだ。
 つまり、結果として …… 露希は無事。少し大袈裟なくらいバタリと倒れ込んだが、傷ひとつ負っていない。
 撃ち抜かれたのは時兎であり、露希自身には何の影響もない。また、確かに衝撃の感覚はあったと思うが、
 撃たれたという事実に気付くことはないし、痛みもない。その理由は "認識できない" という点にある。
 時兎と同様に、時の契約者もまたヒトには見えない存在なのだ。契約者の攻撃も、また然り。
 まぁ、直接心臓をブチ抜かれたわけではないにしろ、銃撃されたのは事実だから、
 撃たれたヒトは、みな一様に倒れる。躓いて転ぶような感覚に近い。
 しばらくすれば、何事もなかったかのように起き上がる。
 ヒトによって、起き上がるまでに要する時間は異なるが、ずっとそのままってことはない。

「あ〜 …… ビックリした〜 …… も〜 …… 何なの、急に〜?」

 訳もわからず銃撃され、地べたに伏せた状態のまま、不愉快そうにブツブツ呟いた露希。
 そんな露希のすぐ傍に海斗と梨乃。二人は、露希の胸元から時兎が消滅していることを確認した。
 長居は無用。まぁ、ヒトに見えない存在ゆえに、そのまま居続けても何の問題もないのだが、
 用が済んだら、使命を果たしたら、すぐに戻らねばならない。それがルール。

「もう少し丁寧にできないの?」
「うっさいなー。結果オーライなんだから、いーだろ。んじゃ、帰るかっ」

 海斗の大胆な射撃に不満を漏らした梨乃。海斗は、いつもこうだ。
 梨乃が射撃していれば、あんなに豪快にスッ転ばせることはなかった。
 銃撃による痛みこそないものの、転んだ時の痛みは普通にある。
 あまり激しく転倒させてしまうと、思いがけず大怪我をさせてしまったりもするのだ。
 梨乃は、いつもそのあたりを心配している。まぁ …… 海斗は、まったく反省していないようだが。

 懐から黒い鍵を取り出す海斗と梨乃。
 それは、時の契約者が暮らす特殊な空間 "時狭間" に出入りする際必要になるものだ。
 二人一緒に鍵を回せば、大きな黒い門と、その先に扉が出現する。
 時狭間へ戻るには、この門と扉を経由する以外に方法はない。
 見えないからこそ、認識されない存在だからこそ、果たせる使命。
 彼等はこうして、音もなく役目を果たして去って行く。
 助けてくれてありがとうだなんて、ヒトに感謝されたことは一度もない。
 そもそも、ヒトと会話が成立することなんてないし、感謝されたくてやってるわけでもなし。
 ただ、使命を全うするだけ。時兎に寄生されたヒトは、その全てが被害者であり、護るべき存在。
 誰かを特別扱いすることはない。彼等にとって、ヒトはみな平等。護るべき大切な存在。

「今日の晩メシ何かなー」
「ご飯の前に、部屋掃除したほうが良いと思うけど」
「散らかってないと落ち着かねーんだよ、オレは」
「不潔」
「うっさいなー」

 他愛ない話をしながら、時狭間へと戻って行く二人。
 この遣り取りもいつものこと。いつもと何ら変わらぬ光景。
 戻ったら、すぐにマスター(彼等の契約主にあたる人物)に報告を済ませて、
 その後は、各々自由に過ごす。またどこかで時兎の寄生が発覚したなら、勿論それを最優先で。
 時狭間へ戻る道中は、ただジッとしているだけで良い。闇の中を風に吹かれて進むだけ。
 動けないわけではなく、歩いたり走ったりすることは可能だが、特に急いでいるわけでもないから、その必要もない。
 海斗は欠伸をしながら、梨乃は魂銃の微調整をしながら、門を潜り、扉を抜けて、その先へと進んでいく。
 時間にして、およそ五分間。そのまま身を任せていれば、時狭間に到着する。
 五分間、闇の中でジッとしているだけというのも退屈そうだが、慣れればどうってことはない。
 何度も別世界と時狭間を行き来している二人にとっては、あっという間の出来事である。
 そう、あっという間の出来事。何の問題もなく、すんなりと済む過程。
 そう、いつもなら。

「ねぇ、いつになったら説明してくれるのかな〜?」
「んあっ!?」
「えっ?」

 ありえない展開に、海斗と梨乃は目を丸くした。
 そりゃあ、そうだ。いるはずのない人物が、後ろにいたのだから。
 海斗と梨乃の後ろ、二人の服の裾を持ったままニッコリと笑顔を浮かべて言ったのは、露希だ。
 いったい、いつの間に。今までまったく気付かなかったこともさることながら、
 二人が驚いているわけは、別にある。掴んでいる。いや、掴まれている。確かに。
 おかしな話じゃないか。ヒトには見えないはずの存在が、ヒトに掴まれているだなんて。
 そればかりか、説明まで求めてくる始末。説明とは、おそらく先程の銃撃に関することだろう。
 要するに、何で撃ったの? 撃たれたの? と、露希は、その疑問をぶつけているのだ。
 つまり …… 見えている。海斗と梨乃の姿が、見えているのだ。

「意味わかんねーんだけど」
「私に聞かれても」
「つか、何これ。また、こういう展開?」

 苦笑しながら言った海斗。梨乃もまた、苦笑に近い表情を浮かべている。
 実は、海斗の言ったとおり、今回が初めてというわけでもないのだ。
 十日ほど前にも、同じようなことがあった。ヒトに声を掛けられ問い詰められるという、ありえない事態が。
 よくよく見れば、あの時の少女と、露希の顔は似ている。何となくだが、声や雰囲気も似ている気がする。
 どうして、もっと早く気付かなかったんだろう。梨乃は、書類を再確認して溜息を吐き落とした。
 あの少女と同じではないか。名字も、住所も …… つまり、露希は、あの少女の兄弟なのだ。
 年齢が同じことから、おそらく双子なのではないか。それならば、そっくりである点も頷ける。
 まぁ、露希の正体が明らかになったからといって、全てが丸くおさまるわけでもない。
 なぜならば、三人はもう、時の回廊を進んでいるから。引き返すことは出来ない。
 結果として、無関係なヒトである露希を、時狭間へ招いてしまうことになる。

「ねぇねぇ、説明は? 教えてくれる …… よね?」
「あー …… オレ無理。説明ヘタだから。そいつに聞いて」
「ちょっと、何で、また私なの?」

 状況が状況なだけに、言い逃れは出来ない。あの少女の兄弟だというのなら、尚更。
 以前ほど取り乱す様子もなく、冷静に振舞っている海斗だが、疑問を拭い去ることはできない。
 何だって、この短期間に二回も不可解な展開に遭遇せねばならないのだ。
 考えることが苦手な海斗にとっては、この状況は疲労に繋がるもの以外の何物でもないのだろう。
 梨乃もまた、以前ほど動揺はしていない。海斗が説明下手であることは承知。
 説明するのが好きだというわけでもないが、自分がやるしかないのなら、やるまで。
 梨乃は、なるべくわかりやすくと気遣いながら、事の詳細を説明した。
 自分達の正体、今向かっている場所、銃撃の真相、時兎のこと。
 事細かなことは敢えて伏せ、要点だけを纏めて話す。
 梨乃の説明が上手だったこともあり、露希は、すんなりと事情を飲み、把握した。
 このあたり …… この物分かりの良さもまた、あの少女にそっくりだ。さすが兄弟というべきか。

「ふぅん。あのウサギさんは、怖いものだったんだ〜。あははっ、危なかったね〜」

 露希が発した、その言葉と感想により、時兎までも視認できていた事実が露呈する。
 まぁ、海斗と梨乃の姿が見えているという時点で、おそらく …… という予想は出来たが。
 時兎の姿を露希が確認したのは、放課後、まっすぐ寮へ戻らず街へと赴いた最中のことだった。
 そりゃあ、気付いた時は多少なりともビックリしたし、何だこれはと思った。
 だが、引っぺがそうにも触ることができないがゆえに、どうすることも出来ない。
 ならば、いっそこのままで良いんじゃないか。無理矢理、引っぺがす必要もないだろう。
 特に害はなさそうだし、それに、何より時兎が口元をモグモグ動かす仕草が可愛かったから。
 そんな軽い考えで放置していた。こういう性格だからか、大して気に留めていなかったらしい。
 まさか、あの可愛らしい仕草が、記憶を喰っている動作だったなんて、思いもしなかった。
 時兎の正体や恐ろしさを聞かされた露希は、その可愛らしい外見とのギャップに笑っている。
 何でも見た目で判断しちゃダメだよね〜なんて言いながら、それはもう楽しそうに笑っている。
 それにしても、おっとりしているというか何というか。そういう性格なのだといえばそれまでだけれど、
 そんなに無垢な、可愛い笑顔を向けられてしまうと、毒気も何も抜かれてしまう。

「笑いごとじゃねーんだっつの …… 」

 いつぞや覚えた、何ともいえぬ脱力のような感覚。
 ありえない状況に驚いているのは自分達で、露希本人は落ち着いているという事実。
 何から何まで、十日前と同じ。ガシガシと頭を掻きながら呟いた海斗は、無意識に苦笑を浮かべていた。

 ・
 ・
 ・

 困惑するのは簡単。
 でも、考えたところで、自分達だけで明確な理由に辿り着くことはできない。
 結局、連れて行くしかないんだ。どっちみち、連れて行くことになったんだ。時狭間へ、マスターの所へ。
 そうして、自分達も、さっきの露希と同じことをマスターに問うんだ。どういうことなんだ、説明してくれって。
 まぁ、結局上手いこと、はぐらかされてしまうのだろうけれど。十日前と同じように、はぐらかされてしまうのだろうけれど。
 この時点ではっきりしていることは、ひとつだけ。例外として時狭間に出入りできるヒトが、
 十日前に引き続き、もう一人認められるであろうということ。
 チラリと露希を見やり、海斗は、溜息にも似た小さな息を吐き落とした。

 一方、露希は …… というと、
 突然の銃撃で中断してしまったルービックキューブをリプレイ。
 既に完成間近だったこともあり、再開してすぐに完成してしまったのだが、
 梨乃に頼んでバラバラにしてもらい、今はまた最初から遊んでいるところである。
 片手で器用に遊ぶその姿を見ている梨乃は、初めてみる玩具ということもあり、不思議そうな表情を浮かべている。
 そんな梨乃を時々見やりながら、露希はニッコリと、優しく柔らかな笑顔を浮かべた。

(ん〜。こういうことだったのか〜)

 海斗と梨乃、二人から香ってくる姉の匂いに納得している露希。
 十日ほど前から、不思議には思っていた。嗅ぎなれない香りを纏って帰って来ることが多くなったから。
 どういうことなのかなぁとクラスメートに相談したこともあるけれど、みんな、彼氏ができたんじゃないかと言った。
 いやいやまさか。あの姉に限って、そういうのはないだろうと露希は笑いながら否定していたが、
 実際のところ、それはないと言い切れる証拠は何ひとつないものだから、ちょっと心配していた。
 でも、これではっきりした。その心配が無用であることも明確になった。
 なるほど、なるほど。こういうことだったのか。
 納得する露希は、どこか満足そうだった。

 気付けば、そろそろ時の回廊の終わり。
 もう間もなく、三人は時狭間に到着する。

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 CAST:

 8300 / 七海・露希 / 17歳 / 旅人・学生?
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 ルート分岐結果 → タスラム貫通
 七海・露希さんは、Dルートで進行します。
 以降、ゲームノベル:クロノラビッツの各種シナリオへ御参加の際は、
 ルート分岐Dに進行したPCさん向け のシナリオへどうぞ。

 オーダーありがとうございました。
 2010.01.11 稀柳カイリ

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