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■Not Thanks to Heaven 1■

智疾
【4345】【蒼王・海浬】【マネージャー 来訪者】
『旧約聖書』と書かれた其れを、目を眇めながら読む少女。
まるでその視線は、本に対して侮蔑を抱いているようなもので。
「どうした、遥瑠歌」
草間の問いに、遥瑠歌が本から窓の外へと視線を移した。
「此の世界の方々は、此処に書かれている『神』を信仰しているのですか」
ビルの下、行き交う沢山の人々を見て、無表情に問い返した少女に、零と草間は顔を見合わせた。
「いや、全員って訳じゃない。宗教によって『神』は変わるからな」
ちなみに俺は無宗教だ。と草間が答えると、遥瑠歌は小さく息を吐いた。
「神が人を救う、人の願いを叶える、と。草間・武彦様はそう思われますか」
今日の遥瑠歌は少し変だ。
今回受けた依頼に関係しているのだろうか。
「俺は思わねぇな」
草間の答えに、遥瑠歌は安心した様にもう一度息をついた。
「其れが懸命です。『神』は人を救いはしない。寧ろ……」
其処まで言って、小さく少女は首を振った。
「戯言です。お気になさらず」
そうして遥瑠歌は、今回の依頼内容についてプリントアウトされた書類を手に取った。
「依頼内容『新興宗教 時の神』についての調査。該当宗教に入団すると、退団する事は出来ない。入団し、神を崇拝する事によって、自由に異界へと行けると、現在入団者続出……」
「兄さんにしては、珍しく怪奇現象を受けましたね」
零の言葉に、草間は忌々しげに言葉を吐いた。
「最初は聞いてなかったんだよ」
とにかく。と、デスクチェアから立ち上がり、煙草を吹かしながら言葉を続ける草間。
「受けたからにはやり通す。行くぞ、零、遥瑠歌」
此の時の草間達には、まだ、此れから何が起こるのかなど分かる筈もなかった。
Not Thanks to Heaven 1

「神様、ねぇ」
その新興宗教とやらが一体何を目的にしているのか。
蒼王・海浬(4345)は小さく肩を竦めた。
草間興信所に居候している小さな少女――遙瑠歌の様子を思い出して、草間・武彦から渡された書類へと目を通す。
「いつの時代にも、名ばかりの『神様』っていうのはいるらしい」
正直言ってしまえば、海浬にとって今回の事件は『関係のないもの』だ。
とはいえ、知人である草間から助力を乞われたのだから、ノーとは言えないのも事実。
「一先ずは、周辺への聞き込みかな」
金の髪を翻して、海浬は歩を進めるのだった。

まず向かったのは、宗教団体が借りているビルの周辺地域だ。
「あぁ、すみません。ちょっとお伺いしたいんですけど」
恐らくこの近辺に住む人だろう、歩いていた女性へと海浬が声をかければ、女性は首を傾げながら立ち止まった。
「そこのビルに新しく入った宗教団体はご存知ですか?」
「えぇ、知ってますけど……」
「そのビルにどんな人が出入りしているのか知っていますか?」
年の為にと草間から渡されていた名刺を差し出せば、女性は海浬が興信所の関係者だと信用したらしい。
「いえねぇ。私達も少し気持ち悪い気がしてたんですけど。あそこに入っていく人達って、誰も似た様な格好をしてるんですよ」
「似た様な格好……。詳しく教えてもらえると助かるのですが」
海浬が人好きのする笑顔を見せると、女性は僅かに頬を紅潮させて頷く。
「それが、まるでシーツでも被ってるみたいに、真っ白な一枚の布を着てるんです」
「成程。ちなみに、その宗教から勧誘みたいなものはありましたか?」
「いいえ。全く周辺には声をかけてこないんです。だから余計分からなくて気持ちが悪いっていうか」
「情報、有難う御座います」
小さく会釈した海浬に会釈を返して家へと向かう女性の後姿を見やって、海浬は少し面倒臭そうな表情をしながら前髪を掻きあげた。

近辺の住民に聞き込みを行って得られた情報は。
『周辺住民への勧誘が一切なかった事』
『信者と思われる人達は真っ白なシーツを身に纏っている事』
『すれ違っても挨拶ひとつしない事』
の3つだった。
「それじゃあ次は、図書館にでも行ってみようかな」
図書館にはパソコンも新聞も雑誌もある。
それらで検索をかければ、何かは引っかかるだろう。
海浬は靴音を僅かに響かせながら、レンガ造りの建物――図書館へと足を踏み入れた。
「まずはネットで検索を」
ちょうど空いていたパソコンの前へと座り、キーボードとマウスを操る。
キーワードは『新興宗教』と『時の神』。
そして『異界への行き来』だ。

「蒼王・海浬様。貴方様は、どう思われますか。須く神は、人を救うもので御座いますか?」
数時間前。
そう言った銀糸の少女は、紅玉と湖水のオッドアイを僅かに揺らめかせていた。
彼女には海浬が『どういう存在なのか』分かっていたはずだ。
その海浬へと、あえて聞いたその理由は、海浬には分からない。
いや、分からない振りをする事で、彼女を傷つけない様にしたのだ。
「神様は平等、なんて言い出したのは、人間だよ。遙瑠歌」
ポツリと呟いて、眼前の情報を閲覧していく。
「周辺には勧誘行動を行わなかったのに、ネットでは堂々と勧誘しているわけだ。武彦に聞いた通り、売りは『異界へ自由に渡航できる』事、か」
ご丁寧にページまで作っている宗教団体は、そこに代表の顔写真まで載せていた。
「ふぅん。こいつが代表ねぇ。あまり冴えないなぁ」
そのまま別のページへと目を通して、海浬は僅かに目を細める。
彼が気にかけたページは、個人が作った『行方不明者リスト』がずらりと並んでいた。
名前のあがっている人達は、全てが今回の調査対象である『時の神』へと入信し、その後行方不明になっているらしい。
「これは……今回は、少しばかり面倒臭い事になりそうだよ。武彦」
海浬の呟きは、今興信所で情報を待っている草間達には、まだ届かない。

「武彦?海浬だけど。例の団体の情報、ある程度は集まったよ。けど結局は、武彦達自身の目で確認しないと、依頼人には何とも言えないんじゃないかな」
「やっぱりそうなるか……」
電話の向こう側で、草間が義妹と居候へと指示を与えているらしい。
遠くから義妹の零がどれがいるのか、と声をあげている。
「とにかく時間もそんなにねぇからな。悪いが海浬、現地集合で頼む。俺達もすぐ興信所を出る」
「そう。分かったよ」
果たして、何が出るのだろう。
1つだけ海浬が自信を持って言えるのは、草間興信所のメンバーが命を落とす事はない、という事実だけだった。


<To be Next>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4345 / 蒼王・海浬 / 男性 / 25歳 / マネージャー・来訪者】
【NPC4579 / 遙瑠歌 / 女性 / 10歳 / 創砂深歌者】
【NPCA001 /草間・武彦 / 男性 /30歳 /草間興信所所長、探偵】


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■         ライター通信          ■
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お待たせして申し訳ありません。
この度はご発注誠に有難う御座います。
とても神秘的なキャラクター様をお預かりして、ドキドキしてしまいました。

また、機会がありましたらよろしくお願い致します。

風亜智疾