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■クロノラビッツ - 仮契約 -■

藤森イズノ
【8295】【七海・乃愛】【学生】
「ちょっと、いいですか?」

 散歩中、声を掛けられた。
 この丁寧な口調と柔らかな声には、聞き覚えがある。
 振り返るとそこには、やっぱり浩太。 …… だけじゃなく、海斗と藤二もいた。
 あれれ …… ? 何だかちょっと珍しい組み合わせだなぁ …… 。
 なんて思いながら、ペコリと頭を下げて用件を聞いてみる。
 まぁ、わざわざ、彼等から接触してきたということは、
 それなりの用件なのだろうとは思ったけれど。

「え …… ?」

 さすがに、目を丸くしてしまう。
 彼等の用件。それが、あまりにも突飛なものだったから。
 戦えと言うのだ。これから、時狭間のとある場所へ案内するから、
 そこで、海斗と戦ってくれないかと言うのだ。
 何で? どうして? 何の為に?
 当然の疑問。もちろん、それらをすぐにぶつけた。
 でも、彼等は答えてくれない。その疑問を解消してくれない。

「いーから、とっととやろーぜ」

 ダルそうに欠伸しながら言った海斗。
 やるだなんて、一言も言ってない。っていうか面倒なら、やらなきゃいいのに。
 …… うん? 面倒くさそう …… ってことは、もしかして、海斗も、巻き添え食らった?
 さほど長い付き合いってわけでもないけれど、好きな物事にしか興味を示さない、
 海斗のそういう性格は、もう嫌になるくらい把握している。間違いない。
 ということは、この用件は、つまり …… 。

「ごめんね、急に」
「じゃあ、移動しましょうか」

 ニコリと微笑んで言った藤二と、懐から黒い鍵を取り出しながら言った浩太。
 つまり、この用件は、この二人 …… 浩太と藤二の用件ということか。
 いや、っていうか、ちょっと。だから、やるだなんて一言も …… 。
 クロノラビッツ - 仮契約 -

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「ちょっと、いいですか?」

 散歩中、声を掛けられた。
 この丁寧な口調と柔らかな声には、聞き覚えがある。
 振り返るとそこには、やっぱり浩太。 …… だけじゃなく、海斗と藤二もいた。
 あれれ …… ? 何だかちょっと珍しい組み合わせだなぁ …… 。
 なんて思いながら、ペコリと頭を下げて用件を聞いてみる。
 まぁ、わざわざ、彼等から接触してきたということは、
 それなりの用件なのだろうとは思ったけれど。

「え …… ?」

 さすがに、目を丸くしてしまう。
 彼等の用件。それが、あまりにも突飛なものだったから。
 戦えと言うのだ。これから、時狭間のとある場所へ案内するから、
 そこで、海斗と戦ってくれないかと言うのだ。
 何で? どうして? 何の為に?
 当然の疑問。もちろん、それらをすぐにぶつけた。
 でも、彼等は答えてくれない。その疑問を解消してくれない。

「いーから、とっととやろーぜ」

 ダルそうに欠伸しながら言った海斗。
 やるだなんて、一言も言ってない。っていうか面倒なら、やらなきゃいいのに。
 …… うん? 面倒くさそう …… ってことは、もしかして、海斗も、巻き添え食らった?
 さほど長い付き合いってわけでもないけれど、好きな物事にしか興味を示さない、
 海斗のそういう性格は、もう嫌になるくらい把握している。間違いない。
 ということは、この用件は、つまり …… 。

「ごめんね、急に」
「じゃあ、移動しましょうか」

 ニコリと微笑んで言った藤二と、懐から黒い鍵を取り出しながら言った浩太。
 つまり、この用件は、この二人 …… 浩太と藤二の用件ということか。
 いや、っていうか、ちょっと。だから、やるだなんて一言も …… 。

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 ・
 ・
 ・

「拒否権、ナッシングなのですね」
「そーいうこと。ほれほれ、とっとと準備しやがれ」

 時狭間の一角、何やら闘技場のような場所に連れてこられた乃愛。
 真向かいに立つ海斗は、既に準備万端な様子でブンブンと剣を振っている。
 炎の魔法を付加させた、紅蓮の剣だ。振れば、そこらに火の粉がフワリと舞う。
 不思議な銃は使わないのです? と乃愛は尋ねようとしたが、
 あの銃による攻撃は、時兎にしか効果がないのだと、
 そう、時狭間に来た初日に説明されたことを思い出し、尋ねることを止めた。
 それにしても、剣か …… 。かなり扱い慣れている印象は受けるが、ちょっと意外だ。
 何故だろう。海斗の性格と剣使いというのが、どうも結びつかない。偏見かなぁ。
 なんて考えながら、乃愛は、ようやく、ゆっくりまったりと準備を始めた。
 早くしろよと急かしはするものの、海斗は笑っている。
 基本的に普段は、おっとり・マイペース。乃愛の、そういう性格を把握・理解している証拠である。

「つかさ、今日は、いつもと何か感じが違うのな」
「ん? そうです? あ、制服だからかもですね」
「せーふく?」
「学校指定の服のことなのです。可愛いのです?」
「あ? あー。まぁ、いーんじゃね?」
「ふふ。適当すぎなのです」

 クスクス笑いながら、大きなバッグを漁る乃愛。
 確かに、今日の乃愛は、服装が違う。いつもは、黒いスーツのような服に、黒いシルクハット。
 時々、黒い杖を持ち歩いたりもする。そんな個性的なファッションに身を包んでいるのだが、
 今日は、何というか …… 女の子って感じ。白地に青ラインが入ったブレザーとスカート。
 ごく普通のハイソックスに、ローファー。何とも爽やか・清楚な印象を与える服装だ。
 どうやら、乃愛が通っている学校の指定制服らしい。
 まぁ、着用している生徒は、ほとんどいないようだが。
 それにしても、どうして、今日に限って学校指定の制服なんぞ着ているのだろう。
 学校で、何か特別な行事でもあったのだろうか?

「これなら、破けても怒られないのですよ」

 ポツリと呟いた乃愛。
 え? 何? そういう理由? そう言う理由で着ているのか?
 だとしても、疑問は残る。それを着て歩いていたということは、
 服がボロボロになるような場所へ行こうとしていたのか? とか、
 怒られないって、誰に? 服を汚して帰ったら、誰に怒られるんだ? とか。
 まぁ …… その辺りの疑問は残るが、どうやら乃愛の準備が済んだようなので先に進もう。

「へぇ。珍しい武器だな」
「アン専用なのです。アンの一番好きな色で作って下さいと、お願いしたのです」
「ふーん。オーダーメイドってやつ? いーな。そーいう店。オレも何か頼みたい」
「海斗は無理なのです」
「何でだよ」
「先輩に作ってもらったものだからなのです」
「あぁ。なるほど。そーなのか。納得」

 乃愛がバッグから取り出した武器は、トンファー。
 左右でデザインとカラーリングが違う。右は黒、左は白。乃愛が好きな色、モノトーンだ。
 先輩とやらに作ってもらったものなだけあって、何から何まで乃愛が使いやすいように作られている。
 お待たせしましたと言いながら、乃愛は、サッと構えた。
 なかなかサマになってるなーと笑いながら、海斗も身構える。
 互いの準備が済んだら、早速、疑似バトルスタート。特にルールはなし。
 お互いに全力で、相手を倒す勢いで戦ってくれれば良いと浩太は言った。

 ガキンッ ――

 先手は海斗。
 乃愛は、その攻撃を十字に交差したトンファーで受け止めた。
 まずは様子見とはいえ、決してナメてかかったわけではない。
 見事なタイミングで攻撃を受け流した乃愛に、海斗はニッと笑った。
 つられるように、乃愛もニコリと笑う。って、何だ、今の遣り取り。まるで、永遠の好敵手みたいな。

「そのカッコ、動きにくそーだな」
「そうでもないのですよ」
「へー。オレから見りゃ、すげー動きにくそーなんだけどな。ヒラヒラしてて」
「海斗は男の子だからなのです。スカート、穿いてみるです?」
「いや。遠慮しとく」

 雑談しながら疑似バトル。
 とはいえ、乃愛も海斗も、決して手加減はしていない。一発、一発、全ての攻撃が全力。
 お互いに武器を使ってはいるものの、その様は、組み手のような遣り取りに見える。
 そんな二人の戦いを、少し離れた場所から観察する浩太と藤二。
 浩太は、何やらヘッドホンのような機械を耳に着けながら、書類を作成。
 何を書き込んでいるのかはわからないが、どうやらヘッドホンから聞こえてくる音を記録しているようだ。
 藤二は、浩太の隣で胡坐をかき、煙草をふかしながら、ぼんやりと見物。
 時々、浩太が作成し終えた書類に目を通してから、懐を漁る動作も見せるが …… 。
 実際のところ、二人が何をやっているのかは、さっぱりわからない。
 でも、浩太も藤二も、無意味に何かを要求することはしない。
 海斗ならば、特に何の意味もなく突拍子もないことを要求してくることもあるだろうが、
 浩太と藤二は根が真面目だから、そういうことはない。絶対にないと言いきっても良いくらいだ。

(目的は、何です?)

 攻防を続けながらも、その最中でチラチラと浩太たちのほうを見やる乃愛。
 そうだ。つまり、この唐突な疑似バトルには、何らかの意味があるということ。
 ここへ連れてこられる途中、何で戦わなきゃならないのかとは、尋ねた。
 でも、曖昧にはぐらかされただけで、目的を明かしてはくれなかった。
 言えない理由があるにせよ、要求するなら、それなりの説明は必要だろうに。
 浩太が何かを書き留めていること、藤二が、それを確認していることはわかる。
 だが、わかるのはそれくらい。やっぱり、直接聞き出すしかなさそうだ。
 さすがに、疑似バトルを終えれば、説明してくれるだろう。
 というか、終えてもなお説明なしだなんて、理不尽だ。
 そうとわかれば、さっさと終わらせてしまうに限る。
 確か、街で浩太たちに声を掛けられたのは、午後四時頃だったはず。
 今日は、寮に携帯電話を忘れてきてしまったから、正確な時間をすぐに確認することはできないけれど、
 あれから、おそらく二時間は経過している。となると …… もう、あまり時間は残っていない。
 今日の夕飯は、乃愛の大好きなミートグラタンだ。間違いない。
 朝、登校する前に食堂の献立を確認してきたから。
 夕飯は、午後七時から八時半までの間。
 その間に食べないと、その日は夕飯抜きになってしまう。
 大好きなミートグラタンのため、乃愛は、急ぐ必要があった。

 カラン ――

「んあっ?」

 何だ? と動きを止めて首を傾げる海斗。
 無理もない。突然、乃愛がトンファーを手放したのだから。
 それまで休みなく攻防を繰り返していたのに、どうしてここにきて武器を手放すのか。
 せっかく面白くなってきたところだったのに、と、海斗は不満そうに笑った。

「何だよ。もう降参か? やっぱ、動きにくいんだろ、それ」

 剣から炎を消し、ケラケラと満足気に笑う海斗。
 疲れてしまい、勝負を投げた。海斗は、武器を手放すという行為を、そういう意味だと捉えた。
 だが、残念。そうじゃない。先に述べたとおり、乃愛は急ぐ必要があるのだ。
 つまり、ダラダラ遊んでいる暇はない、と。そういうことで。

「トラップ・オア・トリート、なのです」

 ニコッと微笑み、乃愛は、そう言いながら、クンと右手で何かを引っ張る動作を見せた。
 すると、あら不思議。吸い寄せられるように、海斗が、乃愛のすぐ傍までやってきたではないか。

「んなっ!? 何だこれ!?」 

 勝手に身体が動いたこともそうだが、
 自分の意思で動くことができないという状態に、海斗は驚いている。
 もう一度剣に炎を灯して反撃しようにも、手が動かない。いや、手だけじゃなく、身体が動かない。
 何かにギュッと絞めつけられるような感覚に、海斗は眉を寄せた。さほど、痛みはない。
 しかし、いったい、何事だ。何をされたんだ。いや、されてるんだ。
 辛うじて、首だけは動く。海斗は、理解に苦しみながら、自分の身体を見やった。
 見やれば、すぐに気付く。自分の身体が、黒い糸で拘束されているという事実に気付く。
 こんなもの、いつの間に巻いたんだ、全然わかんなかったぞ! と文句を言う海斗。
 わからないのも当然。乃愛は、気付くまで視認できない特殊な糸を用いたのだから。
 いつの間に巻いたのか、その質問に対する答えは、一番最初。
 海斗の先手を、十字に交差したトンファーで受け止めた、あの瞬間から。
 激しい攻防の最中も、海斗は、その身にグルグルと糸を巻かれていたのだ。
 ただ、巻かれていることに気付かなかった・気付けなかっただけで。
 幾重にも巻かれた糸は、相当の強度を誇る。こうしてグッと引っ張れば、絞めつけも容易い。
 どんなに暴れても無駄。もがけばもがくほど、糸が身体にめり込んで痛い思いをする。

「アンの勝ち、なのです」
「このやろー! 卑怯だぞー!」
「勝負が始まったら、卑怯も何もないのです」
「つか、トラップ・オア・トリートって何だよ! タチ悪ィよ! どっちもお断りだよ!」

 ・
 ・
 ・

「いやぁ、すごいね。この糸。便利そうだ」
「いーから、早く解けっつーの」
「うるさいな。ミノムシのくせに」

 ギャースカ文句を言う海斗の頭をポコスカ叩きながらも、巻かれた糸を解いてやる藤二。
 ミノムシ …… 確かに。その表現が、ここまでしっくりくる状態は、そうそうないだろう。
 動けないくせに偉そうに文句を言うのもまた、その滑稽さに拍車をかけている。
 疑似バトルは終了。結果として、乃愛が勝利する形で決着がついた。
 負けて悔しいのか、大袈裟なまで声を張って文句を言う海斗。
 一方、海斗をミノムシにした犯人 …… いや、勝者の乃愛は、というと。

「説明してほしいのです。アンには、時間がないのです」

 パタパタと両手を振りながら、戦わされた理由を聞かせて欲しいと訴えていた。
 時間がないのだ、なんて、随分とまぁ、深刻な言い回しをするものだが、
 両手をパタパタ動かす様からは、切迫した印象を感じ取れない。逆に和むというか。可愛いのだ。
 とはいえ、急いでいるのだと言われたら、それを無視するわけにもいかない。
 浩太は、二人が戦っている最中に作成した書類を見せながら、サクサクと説明を始めた。

 だが、書類なんぞ見せられても、さっぱり。
 何やら珍妙な文字で記述されており、まったく読めない。
 辛うじて読めるのは、全ての書類の最下部に赤いペンで書き込まれた数字くらいだ。
 浩太は、その数字こそが、今回、海斗との疑似バトルを御願いした何よりの理由だと言った。
 何でも、この数字は、ここ、時狭間に充満している "クロノミスト" という成分に、乃愛の能力を乗算したものらしく、
 全ての数値が、規定値を大幅に上回っているのだそうだ。だから何? それがどうした? って話になるが、
 浩太たちは、そもそも、自らの意思で疑似バトルを御願いしたわけではないのだ。
 疑似バトル、もっと言えば、この数値の調査を浩太たちに頼んだ、実際の依頼主は、時の神。マスターである。
 また、マスターは、数値が規定値を超えていた場合、大事な話をしたいから、
 乃愛を、すぐに自分のところへ連れてきてくれとも言っていた。

「大事な話? どういうことなのです?」

 説明の途中、キョトンと首を傾げた乃愛。
 すると浩太は、クスクス笑いながら答えを急く乃愛に告げた。

「仮契約の話です」

 根本的なところから話すと、
 時狭間は、あらゆる世界・そこに流れる時間が交錯している場所だ。
 時の神や時の契約者以外の存在、つまり "ヒト" は、この空間で平常を保つことが難しい。
 異なる世界に、同時に存在しているような状態になるわけだから、頭がおかしくなってしまうのだ。
 遠い国へ旅行に行った際、出発国との時差で頭や身体が思うように働かなくなる、あの状態のようなもの。
 それが、時狭間にいる間、ずっと持続するわけだから、ヒトがこの空間に留まるのは、色んな意味で危険。
 だが、乃愛は常に平常。いつ来ても、どれだけ滞在しても、身体の不調を訴えたことは一度もない。
 もしかすると、ヒトでありながら、時狭間で暮らす存在同様に "リデル" が体内に備わっているのかもしれない。
 あぁ、リデルというのは、時の神、時の契約者が体内に備えている臓器のひとつ。
 場所的には …… ヒトでいうなら、心臓がある辺りに、心臓の代わりとして、その臓器がある。
 だが、このリデルという臓器は、心臓としての働きよりも、
 時間の交錯に接触しても平然としていられる "抵抗力" を司っている役割のほうが大きい。
 当然、異なる世界・空間に流れる時間に一度に触れることなんてない "人間" には、この臓器は存在しない。
 先程、浩太が見せた書類に書かれていた数値が "規定値を上回る" ことは、
 時間に対する抵抗力が高いということを意味する。つまり、リデルが体内に備わっている証にもなる。
 ヒトの体内にリデルが備わっているだなんて、聞いたことがない。前例がない。
 でも、もしも、もしも、万が一。
 乃愛の体内に、その可能性があるとするならば、
 前例はなくとも、頼んでみる価値はあるのではないか …… と、マスターは考えた。
 時間に対する抵抗力が高いという事実は、あらゆる世界・空間に赴くことができるという結論にも繋がる。
 つまり、時狭間を経由して、あらゆる場所でヒトの記憶を蝕む時兎を退治することが可能だということ。
 リデルを体内に備えていない者では、別世界へ赴くまでの移動中、
 その時圧(時間の圧力)に耐えきれず、途中で絶命してしまうから。

 つまり、
 ヒトでありながら、時の契約者と同じ契約をマスターと締結し、
 時兎を退治する権限と手段を得られる、その資格が、乃愛にはあるということ。
 マスターが望む、真の目的とは、乃愛との "仮契約" だということだ。

「まぁ、急にこんなこと言われても困るでしょうから、お返事は、また後日にでも ―― 」

 心中を察した上で、浩太がそう発言しかけた時だった。
 乃愛は、大きなバッグを肩にかけ、その場で足踏みしながら言う。

「わかったのです。契約するのです」
「えっ?」
「でも、今日は無理なのです。明日じゃ駄目です?」
「えっ …… と、多分、大丈夫なんじゃないかとは思いますけど」
「じゃあ、また明日来るのです。そしたら、契約するのです。いくらでもするのです」
「えっ。いや、あの、乃愛さん。そんなに簡単に決めてしまうのは …… 」
「アンには、時間がないのですよ!!!」

 大きな声で乃愛が叫んだ。
 さすがの浩太も、これには面を食らってしまう。
 迫力に気押されて言葉を失ってしまった浩太。そんな浩太に笑いながら、藤二は言った。
 腰元から銃を抜き、それを乃愛に手渡しながら言った。

「じゃあ、先にこれ、渡しておくよ」
「ふぇっ? でもこれは …… 」
「レプリカだよ。詳しい説明は、また明日。急ぐんでしょ?」
「はっ! そうなのです! では、これにて失礼するのです!」

 藤二が乃愛に手渡したのは、魂銃タスラムのレプリカだ。
 乃愛と海斗が戦っている最中、書類を作成する浩太の横で藤二が謎の行動を取っていたと思うが、
 あれは、資料を参考に、このレプリカを製作する為のパーツを選ぶという作業だったのだ。
 海斗たちが持っている本物の魂銃とは少しデザインが異なるが、性能は同等らしい。
 ただし、炎や水など、海斗たちのように特定の魔法を銃弾の代わりに装填することはできず、
 装填されるのは "無属性" に該当する魔法になるようだ。
 また、その無属性の魔法に、乃愛が本来持ち合わせている能力が関与してくるのも、本物と異なる特徴と言える。
 仮契約の締結。その意思がある状態でマスターのところへ行くと本人が言うのなら、
 渡すべきものは先に渡しておいたほうがいい。どうせ、後から渡すことになるわけだし。

 パタパタと走り去って行ってしまった乃愛。
 浩太は、いまだに呆然としたまま。藤二は、クスクス笑う。
 海斗は、そこらじゅうに散らばる糸の残骸を炎で焼き消しながら苦笑。
 何はともあれ、仲間が増える。喜ばしいことじゃないか。
 前例のないことゆえに、そりゃあ、不安なところもあるけれど、
 いざという時は、自分達が乃愛を護れば良いだけの話。さぁ、これからもっと賑やかになるぞ。
 とりあえず、乃愛は、契約の締結は明日にして欲しいと言い残していった。その意思を、マスターに伝えに行こう。
 藤二の冷静な判断により、ようやく浩太もハッと我に返る。
 初めて女の子に怒鳴られたにしても、驚き過ぎだと、藤二と海斗はケラケラ笑った。

 猛スピードで元の世界へと戻る乃愛は、必死だ。
 そんなに俊敏に動けたのかと目を丸くしてしまうくらい必死。

『 ミート …… タぁぁぁン! 』

 走りながら好物の名前を叫んでいる乃愛。
 ミートグラターン! と叫んでいるのだが、遠くから聞こえてくるがゆえに、よく聞き取れない。
 それが乃愛の声であることはわかったが、浩太たちは揃って首を傾げた。
 ミートたん? ミートたんって言ったよね? 言ってるよね?
 …… どちらさま? 友達の名前?

 いや、そうじゃないのだが。 …… まぁ、いいや(いいのか?)

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 ・
 ・

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 CAST:

 8295 / 七海・乃愛 / 17歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 浩太 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 藤二 / 24歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 ※アイテムが増加しています。
 2010.01.19 稀柳カイリ

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