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■クロノラビッツ - 時の鐘 -■

藤森イズノ
【7888】【桂・千早】【何でも屋】
 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

 ------------------------------------------------------

「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」

 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。

「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」

 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。

「ん〜〜〜♪」

 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。


 クロノラビッツ - 時の鐘 -

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 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

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「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」

 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。

「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」

 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。

「ん〜〜〜♪」

 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。

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 ・
 ・
 ・

 今日も良い天気だ。
 うっすらと積もった雪の上で太陽の光がキラキラと楽しそうに揺れている。
 町の片隅にある小さな公園。つい先程まで、子供たちが数人、鬼ごっこをして遊んでいたけれど、
 そろそろ夕飯時ということもあり、皆、迎えに来た母親に手を引かれて、家へ帰って行った。
 また明日ね、バイバイ。子供たちは、それはもう無邪気に、ごく自然に明日の約束を交わす。
 遠のいていく、その和やかな光景を …… 千早は、瞼の裏で思い描いていた。
 公園のベンチで一人。黒いダウンパーカーに、青と白のストライプ柄のイヤーマフを着け、
 両手をダウンパーカーのポケットの中に押し込んだ状態で、まったりとまどろみ中。
 吐く息の白さ、五感が研ぎ澄まされるような、このピンと張り詰めた空気。
 冬独特の、その冷たい空気を鼻から吸いこむと、身体がスッと軽くなるような気がする。
 千早は、冬が好きだった。だからこうして、日向ぼっこをしている。
 寒くないと言えば嘘になるけれど、その寒さもまた、心地良い。
 ベンチに座って、そろそろ二時間が経過するけれど、まだ。
 まだ、もう少しだけ。千早は、まどろみの中で、確かな幸せを感じていた。
 このまま、時間が止まってしまえば良いのに …… なんて思いながら。

「せーの」

 だが、どんなに気持ち良さそうに眠っていようとも、お構いなし。
 生意気な笑みを浮かべながら、海斗は、躊躇なく、魂銃タスラムの引き金を引いた。
 普通の銃と異なる、この不思議な銃は、時の契約者であることの何よりの証。
 銃口から放たれるのは銃弾ではなく、銃弾を模した魔法。海斗は、その身に炎の力を宿している為、
 赤々と燃える炎が銃口から放たれる。狙いは完璧。まさに、パーフェクト。僅かなズレもない。
 放たれた炎は、槍のような形へと姿を変えながら、まっすぐに、ただ標的を目指す。

 ドサッ ――

 胸元を射抜かれた千早は、その衝撃により、ベンチに横たわってしまう。
 あっという間の出来事だったが …… 大丈夫。千早の命に別状はない。
 時の契約者は、ヒトを護るために存在している。決して、ヒトを殺めることはない。
 確かに、海斗は千早の心臓めがけて発砲した。だが、千早の命を奪おうとしたわけじゃない。
 後ろからの衝撃に、前じゃなく横に千早が倒れ込んだのが、その何よりの証拠。
 つまり、海斗の狙いは千早自身ではなく、千早に寄生していた "時兎" という生物。
 適当なヒトに寄生し、そのヒトの記憶を喰らう厄介な生物だ。
 時の契約者は、この時兎からヒトの記憶を護るという使命を担っている。
 ちなみに、時兎を目で確認できるのは、時の契約者のみ。

「よっしゃ」

 時兎が消滅したことを確認し、満足気に笑う海斗。
 そんな海斗の隣で、梨乃は、ハァと溜息を吐き落としながら腰元から銃を抜いた。

「まだよ」

 パンッ ――

 銃を抜くや否や、速攻で引き金を引いた梨乃。
 梨乃は、その身に水の力を宿している為、銃撃にもそれが反映される。
 銃口から放たれたのは、思わず見惚れてしまいそうになるくらい美しく澄んだ水。
 その水は、途中で輪のような形へと変貌し、千早の身体を包み込んだ。
 偉そうに振舞っていたが、事実として、海斗は、時兎を仕留め損ねていたのだ。
 梨乃のサポートの甲斐あって、今度こそは完璧。千早に寄生していた時兎は、煙となって消えた。
 ここらで少し、説明させてもらおう。魂銃タスラムは、時兎を消滅させることができる唯一の武器である。
 時兎には触れることができないため、この銃で撃ち抜き消す他に手段がないのだ。
 つまり、結果として、千早は無傷。少し大袈裟なくらいバタリと倒れ込んだが、傷ひとつ負っていない。
 撃ち抜かれたのは時兎であり、千早自身には何の影響もない。また、確かに衝撃の感覚はあったと思うが、
 撃たれたという事実に気付くことはないし、痛みもない。その理由は "認識できない" という点にある。
 時兎と同様に、時の契約者もまたヒトには見えない存在なのだ。契約者の攻撃も、また然り。
 まぁ、直接心臓をブチ抜かれたわけではないにしろ、銃撃されたのは事実だから、
 撃たれたヒトは、みな一様に倒れる。それは、躓いて転ぶような感覚に近く、
 しばらくすれば、何事もなかったかのように起き上がる。
 ヒトによって、起き上がるまでに要する時間は異なるが、ずっとそのままってことはない。

「あっはは。まぁ、たまには、失敗するよな」
「冗談じゃないわ。これで何度目だと思ってるの」

 ケラケラ笑う海斗に呆れる梨乃。海斗は、いつもこうだ。
 梨乃が射撃していれば、失敗することなんて、絶対になかった。
 それに、銃撃による痛みこそないものの、転んだ時の痛みは普通にある。
 今回は、千早がベンチに座っていたこともあり、転ばせてしまうことはなかったが、
 歩行中なんかに激しく転倒させてしまうと、思いがけず大怪我をさせてしまったりもするのだ。
 梨乃は、いつもそのあたりを心配している。まぁ …… 海斗は、まったく反省していないようだが。

「いーじゃん、いーじゃん。結果オーライだし。さ、帰ろうぜー」
「 ………… はぁ」

 懐から黒い鍵を取り出す海斗。梨乃も、溜息半ばに続く。
 この鍵は、時の契約者が暮らす特殊な空間 "時狭間" に出入りする際必要になるものだ。
 二人一緒に鍵を回せば、大きな黒の門と、その先に扉が出現する。
 時狭間へ戻るには、この門と扉を経由する以外に方法はない。
 見えないからこそ、認識されない存在だからこそ、果たせる使命。
 彼等はこうして、音もなく役目を果たして去って行く。
 助けてくれてありがとうだなんて、ヒトに感謝されたことは一度もない。
 そもそも、ヒトと会話が成立することなんてないし、感謝されたくてやってるわけでもなし。
 ただ、使命を全うするだけ。時兎に寄生されたヒトは、その全てが被害者であり、護るべき存在。
 誰かを特別扱いすることはない。彼等にとって、ヒトはみな平等。護るべき大切な存在。

「今日の晩メシ何かなー」
「ご飯の前に、部屋掃除したほうが良いと思うけど」
「いーの。散らかってないと落ち着かねーんだ、オレは」
「不潔」
「うっさいなー」

 他愛ない話をしながら、時狭間へと戻って行く二人。
 この遣り取りもいつものこと。いつもと何ら変わらぬ光景。
 戻ったら、すぐにマスター(彼等の契約主にあたる人物)に報告を済ませて、
 その後は、各々自由に過ごす。またどこかで時兎の寄生が発覚したなら、勿論それを最優先で。
 時狭間へ戻る道中は、ただジッとしているだけで良い。闇の中を風に吹かれて進むだけ。
 動けないわけではなく、歩いたり走ったりすることは可能だが、特に急いでいるわけでもないから、その必要もない。
 海斗は欠伸をしながら、梨乃は魂銃の微調整をしながら、門を潜り、扉を抜けて、その先へと進んでいく。
 時間にして、およそ五分間。そのまま身を任せていれば、時狭間に到着する。
 五分間、闇の中でジッとしているだけというのも退屈そうだが、慣れればどうってことはない。
 何度も別世界と時狭間を行き来している二人にとっては、あっという間の出来事である。
 そう、あっという間の出来事。何の問題もなく、すんなりと済む過程。
 そう、いつもなら。

「あの …… すいません」
「んあっ!?」
「えっ?」

 ありえない展開に、海斗と梨乃は目を丸くした。
 そりゃあ、そうだ。いるはずのない人物が、後ろにいたのだから。
 海斗と梨乃の後ろ、二人の服の裾を引っ張りながら申し訳なさそうに言ったのは …… 千早だ。
 いったい、いつの間に。今までまったく気付かなかったこともさることながら、
 二人が驚いているわけは、別にある。掴んでいる。いや、掴まれている。確かに。
 おかしな話じゃないか。ヒトには見えないはずの存在が、ヒトに掴まれているだなんて。
 そればかりか、声まで掛けてくる始末。おそらく、先程の銃撃の件を尋ねたいんだと思う。
 何で撃ったの? 撃たれたの? と、千早は、その疑問を解消するために、二人に声を掛けたんだと思う。
 つまり …… 見えている。海斗と梨乃の姿が、見えているのだ。

「意味わかんね」
「私に聞かれても」
「つか、これ、ヤバイんじゃね?」
「うん …… どうしよう …… 」

 苦笑しながら言った海斗。梨乃もまた、苦笑に近い表情を浮かべている。
 海斗が言ったとおり、この状況は …… 非常にマズイ。
 なぜならば、三人はもう、時の回廊を進んでいるから。引き返すことは出来ない。
 結果として、無関係かつ "ヒト" である千早を、時狭間へ招いてしまうことになる。
 マスターの許可なく無関係の者を連れて行ったりしたら、どうなることか …… 考えただけで恐ろしい。

「と、とりあえずさ ―― 」

 恐怖から、無意識にどもってしまった海斗。
 だが、その途中。海斗の梨乃の頭の中に、低く、それでいて心地良い声が響いてきた。
 聞き間違うはずもない。それは、マスターの声。
 早速バレてしまったのかと、焦る梨乃。海斗は、必死に言い訳を考える。
 だが、言い訳をする間もなく、マスターは言った。優しい声で 「そのまま連れてきなさい」 と言った。
 何で? と海斗は首を傾げたが、マスターの言葉は絶対。何があろうとも、従わなければならない。
 だから、梨乃は、何でどうしてと繰り返す海斗を抑えて、その指示に従った。
 とはいえ、疑問を抱いているのは梨乃も同じ。
 どういうことなのか、時狭間に着けばマスターが説明してくれるだろうけれど …… 。

「あの …… さっきまで、このあたりに、ウサギがいたと思うんですけど」

 そろそろ良いかな? とタイミングを探りつつ尋ねた千早。
 千早の発言に、海斗と梨乃は、更にギョッとした。
 無理もない。時兎までも視認できていたという事実が露呈したのだから。
 まぁ、海斗と梨乃の姿が見えているという時点で、おそらく …… という予想は出来たが。
 時兎の姿を千早が確認したのは、散歩に行こうと家を出てすぐのことだった。
 気付いた時は、さすがに少し驚いたし、身体から引き離そうともした。
 でも、触れないもんだから、どうすることもできなくて。
 結局、そのまま放置して散歩に出かけた。
 まぁ、放っておけば、そのうち逃げていくだろう、だなんて軽く考えていた。

「え、えっとね …… あれは、時兎っていうもので …… 」
「おい、梨乃」
「少し黙ってて」

 軽々しく話すべきじゃないと止めに入った海斗だが、一蹴されてしまった。
 隠す必要なんてないし、隠しても無駄。どうせマスターの所へ連れていくわけだし、
 それなら、ある程度の説明は事前に済ませておくべき。梨乃は、そう判断した。

 ・
 ・
 ・

「お前さ、疑うってことを知らないの?」
「えっ? でも …… 今、聞かせて頂いたことは、事実なんですよね?」
「 …… あ? ま …… まぁ、ウソじゃねーけど」
「それなら、受け入れるまでです」

 ニッコリと、柔らかな笑みを浮かべて言った千早。
 なるべくわかりやすくと気遣いながら、梨乃は要点を纏めて事情を説明したのだが、
 千早の物分かりの良さに、どうも海斗は、納得がいかないらしい。
 確かに、時狭間だの時兎だの契約者だの時の神だの、
 急にそんな話をされたら、ハイ? と首を傾げるのが普通だと思う。
 あなた達、頭がおかしいんですか? 残念な人なんですか? とか、皮肉ってもおかしくない。
 だが、千早は、すんなりと受け入れた。疑うこともせず、あぁ、そういうことだったんですか、と受け入れた。
 まぁ、逆の立場で考えれば、わからないこともない。
 だって、事実として、半透明の妙なウサギやら、不意打ち銃撃やらを目撃・体験しているわけだから、
 疑おうにも、じゃあ、目撃・体験したアレとかソレとかは、どう説明するんだって話になる。
 それにしても、物分かりが良すぎることに変わりはないとは思うが …… 。

「あの …… こんな格好で大丈夫ですかね?」
「えっ?」
「マスターさんって、偉い人なんでしょう? こんな格好じゃ、失礼なんじゃないかと」
「あっ、あぁ、大丈夫だと思いますよ」
「そうですか? 良かった」

 ホッと胸を撫で下ろし、またあの柔らかな笑みを浮かべた千早。
 どこに連れて行かれるのかもわからないのに、この落ち着きっぷりは何だ。
 海斗は、目を伏せて大人しくしている千早を見やって眉を寄せた。
 つられるように笑んではいるものの、梨乃も、そんなことを考えている。

「 …… おい、梨乃」
「 …… 何?」
「 …… こいつ、前にも会ったことないか?」

 小さな声でコソコソと耳打ちし合う海斗と梨乃。
 実は、梨乃も同じことを今まさに考えていたところだった。
 話している内に、不思議な気持ちになった。柔らかな笑顔がそう思わせるだけかとも思ったが、どうも違うようだ。
 その声、その顔、その雰囲気。どこかで会ったことがあるような気がしてならない。それも、ごく最近。
 そんなはずないのに。

 気付けば、そろそろ時の回廊の終わり。
 もう間もなく、三人は時狭間に到着する。

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 ・

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 CAST:

 7888 / 桂・千早 / 11歳 / 何でも屋
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 ルート分岐結果 → タスラム貫通
 桂・千早さんは、Dルートで進行します。
 以降、ゲームノベル:クロノラビッツの各種シナリオへ御参加の際は、
 ルート分岐Dに進行したPCさん向け のシナリオへどうぞ。

 オーダーありがとうございました。
 2010.01.21 稀柳カイリ

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