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■クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -■

藤森イズノ
【8295】【七海・乃愛】【学生】
 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 あなたの秘密を知っています ――

 不気味で意味深な一文。
 けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
 一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
 そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
 携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
 こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?

 ピッ ――

「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし?」

 切れてしまった。
 何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
 まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
 そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
 ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
 とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――

 カタン ――

「 ――!! 」

 軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
 背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
 物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
 あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
 …… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
 にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
 切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
 っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
 多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。

 なんてことを考えつつ、振り返る。
 差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――
 クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -

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 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 あなたの秘密を知っています ――

 不気味で意味深な一文。
 けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
 一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
 そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
 携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
 こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?

 ピッ ――

「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたです?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったのですか?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし?」

 切れてしまった。
 何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
 まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
 そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
 ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
 とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――

 カタン ――

「 ――!! 」

 軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
 背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
 物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
 あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
 …… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
 にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
 切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
 っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
 多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。

 なんてことを考えつつ、振り返る。
 差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――

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 ・
 ・
 ・

「お兄さん、昨日もアンを尾行てたですね」
「! はははっ。やっぱりバレてたか」
「上手な尾行、教えてさしあげるです?」
「へっ。そりゃ、御親切にどうも」

 振り返った先、窓から侵入してきた男に眉を寄せる乃愛。
 どこかで聞いたことのある声 …… のような気もするが、気のせいだろう。

「差し出し人は、お兄さんです?」

 ピッと黒いカードを差し出して尋ねた乃愛。
 すると男は、窓の縁からピョンと飛び降り、肩を揺らして笑った。
 返答はなくとも、その態度を見れば、男が何らかの形で関与していることは明らか。
 乃愛は、すぐさま黒いカードをポイッと投げやり、すぐ傍に黒い翼を持つ白獅子のキングと、
 魔水晶の角を持つクインを、すぐ傍に召喚した。上位の使い魔であるその二匹を召喚したことから、
 男をかなり警戒している様子が窺える。まぁ、知らない人が急に窓から入ってくれば、誰でも警戒するとは思うが。

「へぇ、召喚獣ってやつか」
「お兄さんの目的は何です?」
「はは。まぁ、そう警戒するなよ、っつっても無理か」
「無理なのです」

 乃愛が真顔で即答すると、男はヤレヤレと肩を竦め、その場にドカッと腰を下ろした。
 それは、危害を加える気はない、という意思表示のようにも思えたが、
 見ず知らずの男を、すぐさま信用しろだなんて、無理な話だ。
 乃愛は、いつでも応戦できる体勢を保ちつつ、男を見やる。

「そう睨むなよ」
「それも無理な話なのですよ」
「あぁ〜 …… わかったわかった。じゃあ、さっさと終わらせよう」

 がしがしと頭を掻きながら、男が懐に手を差し込む。
 武器か。男を睨みつけたまま、一歩退いた乃愛。だが、男が懐から取り出したのは武器ではなく …… 小さな箱だった。
 いや、そうは見えないだけで、実は武器かもしれない。乃愛は、そんなことを考えながら男の所作に目を光らせる。

「ほれ。プレゼントだ」
「むっ」

 苦笑しながら箱を投げ渡した男。
 咄嗟に受け取ってしまった乃愛だが …… 特に危険な感じはしなかった。
 とはいえ、見知らぬ男に物を貰うだなんて、気味が悪い。
 先輩達からも、知らない人に物を貰っちゃ駄目だと耳にタコが出来るくらい言い聞かされていることだし。
 乃愛は 「いらない」 という意思を、その表情に込めて、受け取った箱を男に投げ返そうとした。

「おっと。返されても困る」
「 …… いらないのですよ。こんなもの」
「おいおい。そういうことは、せめて、中身を確認してから言ってくれよ」
「お兄さんの目的がわからない限り、迂闊には動けないのですよ」
「まぁ、焦るなって。とりあえず、それ、開けてみな」
「 …………………… 」

 しばらく考え、乃愛は、男の言うとおり、受け取った箱を開けて中身を確認する決断を下す。
 不気味なカードを送りつけるだけじゃなし、人の部屋に勝手に入ってくるわ、妙な箱は渡すわ …… やりたい放題の男。
 怪しいのは確かだが、この箱の中に "理由" が入ってる的な発言をされちゃあ、つっ返すわけにもいかないだろう。
 男のペースにはめられているような感覚に不愉快そうな顔をしつつ、乃愛は箱を開けてみた。
 中に入っていたのは、宝石。紅いのと、青いの、ふたつの宝石が仲良く並んでいた。
 綺麗な宝石ではあるのだが、何故だろう。妙に背筋がゾクゾクする。
 乃愛は、ひとつ、紅い宝石を手に取って眺めた。
 ジッと宝石を眺める乃愛の表情に、男はククッと笑う。

「 …… どうして、笑うです?」
「フフ …… あぁ、いや、悪ィな。つい」
「この宝石が、何だって言うのです? アンは、宝石なんか集めてないですよ」

 紅い宝石を箱に戻し、何事もなかったかのように蓋を閉じようとした乃愛。
 だが、男が発した真意により、乃愛はピタリと動きを止めてしまうことになる。

「そいつは、宝石じゃねぇ。人の眼だ」
「 ………… 」
「まぁ、普通の "人間" じゃあないけどな」

 男は、すぐ近くに落ちていた黒いカードを拾い上げ、
 乃愛にカードを送った理由、ここに来た理由、それら全てを要約したといえる話を語り始めた。

 ・
 ・
 ・

「エイジーと総称される、珍しい種の狼がいるんだ」

 正規の表記は "8G" 
 人間に狼の耳や尻尾、毛並みを備えた外見をしてる。
 更に、いる、んじゃなくて、いた、って言うのが正しい。
 人語を理解し、話すこともできる狼で、その大きさは一般的な狼の五倍から十倍。
 ある国じゃ、神に等しい存在として人々の崇拝対象でもあった。そういう存在だ。
 ちょいと汚い話になるが、いつの世も、強欲かつ高慢な人間ってのはいるもんでなぁ。
 その貴重な狼を、私利私欲の為に一斉捕獲しようと企んだ、どうしようもないオッサンがいたんだ。
 野望を口にする輩ってのは、その大半が途中で挫折しちまうもんだが、そのオッサンは違った。
 富と権力。それすらも我が物にしていたオッサンに、挫折なんて無縁だったのさ。
 何でも叶う。オッサンは、今まで欲しい物を諦めたことなんて一度もなかった。
 結局、その貴重な狼達も、オッサンに掴まったよ。全部な。

 でも、結局は、獣だ。
 奴等は、捕らえられてジッと大人しくしてるようなタマじゃなかったのさ。
 狼たちは、一斉に飛びかかった。自分達を捕らえた、愚かなオッサンに飛びかかった。
 考えてもみろよ? 無数の巨大な狼が一斉に飛びかかってくるんだぜ? 終わりだと思うだろ?
 でもなぁ。オッサンのほうが、一枚上手だった。今まで培ってきた貪欲な欲張り精神の賜物っつうのかな。
 飛びかかろうにも、寸前で身体が動かなくなる。要は、そうインプットされていたんだ。
 知能を持つ狼であることを知ってたオッサンは、事前に対策を施してた。
 捕らえられたとき既に、狼たちは、オッサンの言いなりだったのさ。

 なんて、あたかも、その場に居合わせたかのように話してるけど、俺は、その現場にいたわけじゃない。
 っつうか、何百年も前の話だ。俺ァ、普通の人間だからな。そこまで長生きできねぇ。
 今話した事柄は、とある資料館で知り得た情報だ。
 そんでもって、アンタに渡した、その眼も、その資料館から拝借してきたもんだ。
 もうそろそろ、わかってきたんじゃねぇか? そう、その眼は、大昔に存在していた狼、エイジーの眼だ。

「鏡、見てみ」

 肩を揺らしながら言った男。
 乃愛は、ちょうど棚の上に置かれていた手鏡を取り、男に言われるがまま、鏡を覗き込んだ。
 映る自身の顔、その両目に変化が見える。灰色とアイスブルーのオッドアイ。
 乃愛の両目は、普段と異なる色に変色していた。

「それが、第一段階」
「 ………… 」

 苦笑しながら立ち上がり、男は乃愛に歩み寄った。
 そして、スッと腕を伸ばし、乃愛の頬にそっと触れる。
 不愉快そうに見上げて睨みつける乃愛に、男は肩を竦めて呟いた。

「例えば、このまま …… 俺が、アンタに口付けたりすると ―― 」
「 ―― !! いやっ!!」

 抱き寄せられる間もなく、乃愛は男を突き飛ばした。
 男は、クックッと笑いながら襟元を整えて言う。

「それが、第二段階」

 瞳の奥が、チリチリと焼けるように痛い。
 今、自分の両目がどんな状態にあるのか、鏡で確認せずとも、乃愛は把握している。
 そうだ。今、乃愛の両目は、男にもらった箱の中に入っていた …… あの宝石と同じ色をしている。
 まさか、自分が、その …… 大昔に絶滅した貴重な狼だと言うのか。この血は、血統は、その証だと言うのか。
 普通の人間ではないことくらいは把握していたけれど、この身体に、そんな過去があったなんてことは知らなかった。
 さすがに動揺を隠せない様子の乃愛。男は、追い打ちをかけるように付け加えた。
 逆上して瞳の色が変わるのは、紛れもなくエイジーの証。
 だが、変色の過程が二段階に分かれている場合、純血なエイジーとは言い難い。
 つまり、どこかで、身体を弄られた。エイジーの血に、別の何かを混合させられている可能性が高い。
 その可能性を何より示唆しているのが、乃愛の首筋にある "NOAH.773" という印なのだ、と。

 ピピピピピッ ――

 そこまで話し終えたところで、男の携帯電話が鳴り響いた。
 懐から携帯電話を取り出し、ディスプレイを確認した男は、名残惜しそうに笑いながら窓を開ける。
 何、まさか、終わり? ここで終わり? 逃げるつもり? 言いたいことを言うだけ言って、逃げるの?
 乃愛は、すぐさま男を捕まえようと腕を伸ばしたが、僅かに遅かった。
 開け放った窓から、男は颯爽と飛び降りて …… どこぞへと消え入ってしまう。

「またね」

 立ち去る前に男が残していった言葉が、妙に乃愛の心に遣えた。
 
 ・
 ・
 ・

 特に危害を加えるわけでもなく去っていった男。
 乃愛は、男が去り際に頭にポンと乗せていった黒いカードを手に取り見つめた。
 あなたの秘密を知っています。この言葉が意味するのは、さきほど聞かされた過去のことか。
 確かに、秘密と言うには十分な過去といえる。乃愛自身も知らなかった、己の過去。
 けれど、その秘密を明らかにして、あの男に、何のメリットがあるというのだ。
 正体と過去を教えるため? 何の為に教えてくれたというのだ。
 男は 「またね」 と言った。つまり、これで終わりじゃない。
 この先も、こうして接触してくるのだろうか。いつか、男の正体も明らかになるのだろうか。
 何にせよ、良い予感はしない。そんなことを考えながら、神妙な面持ちでカードを見つめる乃愛。
 白獅子のキングと、魔水晶の角を持つクインは、そんな乃愛を気遣うように身体をすり寄せた。

 もうひとつ。
 乃愛には、気になっていることがある。
 男の声を聞いた瞬間に、思ったこと。どこかで聞いたことがあるような。気のせいだと流していたものの、
 男が立ち去ったことにより、やっぱり、気のせいじゃないと、乃愛は思った。
 あの喋り方、仕草、雰囲気。思い返せば思い返すほど、重なる。
 僅かな差はあれど、やはり、似ている。彼に、似ている。
 乃愛は、頭に思い浮かんだ人物の名前を呟いた。

「海斗 …… ?」

 ・
 ・
 ・

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 CAST:

 8295 / 七海・乃愛 / 17歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.01.29 稀柳カイリ

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