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■クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -■

藤森イズノ
【8300】【七海・露希】【旅人・学生】
 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 あなたの秘密を知っています ――

 不気味で意味深な一文。
 けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
 一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
 そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
 携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
 こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?

 ピッ ――

「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし?」

 切れてしまった。
 何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
 まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
 そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
 ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
 とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――

 カタン ――

「 ――!! 」

 軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
 背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
 物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
 あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
 …… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
 にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
 切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
 っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
 多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。

 なんてことを考えつつ、振り返る。
 差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――
 クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -

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 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 あなたの秘密を知っています ――

 不気味で意味深な一文。
 けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
 一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
 そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
 携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
 こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?

 ピッ ――

「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし?」

 切れてしまった。
 何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
 まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
 そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
 ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
 とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――

 カタン ――

「 ――!! 」

 軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
 背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
 物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
 あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
 …… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
 にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
 切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
 っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
 多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。

 なんてことを考えつつ、振り返る。
 差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――

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 ・
 ・
 ・

「!!」

 振り返ると同時に、露希の頬をナイフが掠めた。
 まぁ、何となく、そういう感じなんだろうなとは思っていたけれど、
 それにしたって、何の挨拶もなしに、いきなり攻撃してくるなんて無礼な人だ。

「綺麗なのに、もったいないね」

 クスッと笑い、露希は、手元に大きな鋏を出現させた。
 窓から侵入してきたのは、見知らぬ女性。露希の言うとおり、かなりの美人さんだ。
 腰元まである栗色の髪も、長い睫毛も、白い肌も、どこをとっても "綺麗" の一言。
 だが、どんなに綺麗な女性であっても、襲ってくるなら手加減はしない。
 女の人を甚振る趣味はないけれど、時と場合による。
 飛んできたナイフを咄嗟に避けることはできたものの、完全に避けるには至らなかったことから、
 女性は、かなりの腕前であることが窺える。楽勝というわけには、おそらくいかないだろう。
 相手の力量を探る最中、露希のテンションは上がりっぱなしだ。
 近頃、嫌な感じの同じ夢ばかり見て、ちょうどイライラしていたところ。
 この鬱憤を晴らすには、この上ない相手だ。
 ニッと笑い、鋏を構えた露希。
 だが、女性は、そんな露希を嘲笑うかのように肩を竦めて、窓の縁に腰を下ろした。

「あれ? やらないの?」

 せっかく、やる気満々でワクワクしていたのにと、残念そうにキョトンとする露希。
 女性は、そんな露希にクスクス笑いながら、長く細く綺麗な指を差し向けた。
 女性が、その綺麗な指で指し示したのは、露希の瞳。
 そこで、ようやく、露希は気付く。
 左目を覆っていた包帯が解けてなくなっていることに気付く。
 ふと下を見やれば、解かれた包帯が落ちていて。あぁ、そうか …… と、把握した露希はクスッと笑った。

「で? お姉さんは、何がしたいの?」

 大きな鋏をザクッと床に突き刺し、リング部分に肘を乗せて尋ねた露希。
 すると女性は、長い脚を組み換えながら褒言(ほめごと)を述べた。

「立派な傷ね」

 普段、露希が包帯で覆い隠している左目には、何かに裂かれたかのような傷が斜めに入っている。
 この傷は、昔、大好きな姉を守ったときに負った傷。今も生々しく残る、その傷は、露希自慢の "勲章" だ。
 頼りないと思われてるんじゃないかという不安から、咄嗟に生じた底力。
 ほらね、すごいでしょ。僕だって、やればできるんだ。お姉ちゃんのこと、守れるんだよ。
 痛むよりも先に、露希は、自慢げにそう言った。そんな露希を、無茶しないでと姉は叱ったけれど、
 大好きな姉を守ることができたという確かな事実と優越感から、露希はニコニコと笑っていた。
 自慢の勲章であるその傷を、普段覆い隠しているのは、姉の悲しい顔を見たくないから。
 傷の理由こそ覚えていない姉だが、この生々しい傷を見れば、悲しそうに俯く。
 だから、露希は覆い隠している。本当は、見て見て! と皆に自慢したいのだけれど。
 そんな勲章を褒められれば、さすがに悪い気はしない。
 露希は、どうもありがとうと嬉しそうに微笑んだ。

「その色合いも素敵よ」

 クスクス笑いながら言った女性。
 現在、露希の瞳は普段の銀色から、金と赤のオッドアイに変色している。
 感情が高ぶったとき、無意識に変色するのだが、その理由については露希も知らない。
 女性が、露希に送った黒いカード。そこに書かれていた "秘密を知っている" という一文は、
 露希自身も知らない、その瞳の変色原因に関与している。

「普通の人間じゃないってことくらいは、もう自覚しているでしょうけれど」

 長い髪を耳にかけながら、窓の縁から降りてゆっくり歩み寄って来る女性。
 露希は警戒し、鋏を引き抜いたが、構えるより先に、女性の手指が頬に触れた。
 その冷たい感触に、ビクリと肩を揺らした露希。
 女性は、露わになった露希の傷を指先でなぞりながら呟いた。

「あなたの正体は、エイジー。時代に翻弄された、悲劇の種族」

 ・
 ・
 ・

 正規の表記は "8G" 
 人間に狼の耳や尻尾、毛並みを備えた外見をしてる。
 人語を理解し、話すこともできる狼で、その大きさは一般的な狼の五倍から十倍。
 ある国じゃ、神に等しい存在として人々の崇拝対象でもあった。そういう存在。
 けれど、彼等は、数百年前に絶滅を期した。
 私服を肥やす、欲に満ちた愚かな男の手によって、一斉捕獲されてしまった。
 もちろん、知能のあるエイジーは抵抗したわ。捕らえられてジッとしていられるような種族じゃなかったから。
 けれど、本能のままに暴れることは叶わなかった。策士だった男は、そういう事態も考慮して事前に対策を施していたの。
 結局、エイジーは、最期までその男に飼われる形で、その崇高なる血を絶やしてしまったわ。
 なんて、あたかも、その場に居合わせたかのように話してるけど、
 これは、何百年も前の話。私が、その場に居合わせるだなんて不可能な話。
 今話した事柄は、とある資料館で知り得た、とても貴重な情報。
 決して明るみに出ない、とある国のブラックヒストリー。
 私は、あなたに、この真実を伝える為、ここに来た。

「もうひとつ」

 クスッと笑いながら、女性は、露希の手首に触れた。
 ハッとした露希は、すぐさま振り払おうとしたのだが、既に遅し。
 露希の手首を覆っていた赤いリボンも、女性によって解かれてしまった。
 手首の赤いリボン、その下には "Loki.773" という印が刻まれている。
 この印に関しては、露希自身も覚えがある。忌々しい過去の象徴だ。だからこそ、露希は自らリボンを巻いて印を隠している。
 姉を守るために負った左目の傷とは、根本的に隠している異なっているのだ。

「純血とは言い難い身体にされた、そんなあなただからこそ、出来うることもあるわ」

 そう言って、女性は、一歩露希から退き、
 そのままクルリと反転し、また、窓際へと歩いて行く。

「えっ? ちょっと待ってよ、お姉さん」
「とりあえず、今日はここまで。 …… またね」
「えっ? ちょ、ちょっと。待ってってば、ねぇっ」

 慌てて追いかけ腕を伸ばすものの、あと一歩のところで届かず。
 綺麗な女の人は、窓から颯爽と飛び降りて …… どこからか出現した光の中へ消えていってしまった。
 窓の縁に手をかけて下を見下ろす露希は、ただただ、呆然。一体、何だったんだろう。
 真実を伝える為に来たとか何とか言ってたけれど、さっぱり意味がわからない。
 またね、と言い残して去ったということは、一度限りの接触ではないということ。
 また、いつか、おそらく近いうち、あの女性は姿を見せるだろう。

 RRRRR ――

 着信。
 ハッと我に返った露希は、すぐさまテーブルの上に置かれていた携帯電話を取った。
 発信者の名前を確認するまえに通話ボタンを押下したのは、誰が電話をかけてきたのか、おおよそ検討がついていたからだろう。

 ピッ ――

「はいは〜い」
『露希! お前、何やってんだよっ! ソッコーで来いっつっただろーが!』
「う〜ん。何ていうかなぁ。もう、必要なさそうだよ。避難」
『あっ? …… もしかして、来た?』
「うん。綺麗なお姉さんが一人」
『っだ〜〜〜〜〜〜〜!!』

 大袈裟なまでに叫ぶ海斗。
 多分、ガックリポーズで叫んでいるに違いない。(OTL ← こういう感じ?)
 露希は、ポリポリと指先で頬を掻きながら、床に落ちていた黒いカードを拾い上げた。

『ま、いーや …… とりあえず、こっち来い。説明すっから』

 遥か昔、絶滅したという種族。エイジー。
 この学校にいるのは、ちょっと普通とは違う子ばかりだから、あまり気に留めていなかった。
 そういう人なんだ、そういう人もいるんだって、軽い気持ちで捉えてた。
 でも、違うんだ。僕は、エイジーという名の、れっきとした種族だったんだ。
 最近、立て続けに見る不快な夢は、研究所にいたころの記憶。白衣の研究者と、怯える実験体。
 つまりは、あの時、一緒に怯えていた子達も …… エイジーだったということになる、のか?
 でも、聞かされるまで、僕は、自分がエイジーという種族だっただなんてこと、知らなかった。
 どうして、知らなかったんだろう。覚えていないのだろう。記憶の始まりは、いつだって研究所。
 その始まりを、疑ったことなんてなかった。でも、もしかして。それより前の記憶もあるの?
 もしかして …… 僕も、記憶を弄られてる …… ?

『おい、露希! 聞いてんのか?』

 一際大きな声で叫んだ海斗。
 露希はパチッと目を見開き、ニコリと微笑んで返した。
 綺麗なお姉さんから貰った黒いカードを、そっと棚の中に、隠すようにしまいながら。

「あ、うん。ごめんごめん。すぐ行くよ」

 ・
 ・
 ・

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 CAST:

 8300 / 七海・露希 / 17歳 / 旅人・学生?
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.01.29 稀柳カイリ

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