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■クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -■

藤森イズノ
【6408】【月代・慎】【退魔師・タレント】
 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 あなたの秘密を知っています ――

 不気味で意味深な一文。
 けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
 一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
 そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
 携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
 こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?

 ピッ ――

「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし?」

 切れてしまった。
 何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
 まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
 そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
 ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
 とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――

 カタン ――

「 ――!! 」

 軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
 背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
 物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
 あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
 …… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
 にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
 切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
 っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
 多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。

 なんてことを考えつつ、振り返る。
 差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――
 クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -

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 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 あなたの秘密を知っています ――

 不気味で意味深な一文。
 けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
 一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
 そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
 携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
 こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?

 ピッ ――

「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし?」

 切れてしまった。
 何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
 まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
 そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
 ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
 とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――

 カタン ――

「 ――!! 」

 軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
 背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
 物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
 あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
 …… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
 にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
 切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
 っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
 多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。

 なんてことを考えつつ、振り返る。
 差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――

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 ・
 ・
 ・

「えぇっと〜? おじさん …… ん〜? お兄さん、かなぁ?」

 振り返った先、窓からの侵入者を確認して首を傾げた慎。
 隠すわけでもなく、侵入者は堂々としているが …… 見たことのない顔だ。
 いや、ひょっとするとどこかで会っているかもしれないが、少なくとも慎の記憶にはない。
 若いとも老けているとも言い難い、何とも中途半端な男だ。年齢不詳とは、こういうことを言うのだろう。
 しばらく、侵入者の顔を確認し、やはり記憶にない人物であると確信した慎は、溜息混じりに、こう言った。

「ま、どっちでもいいんだけどぉ。俺の秘密を知ってるって、これ。おじさんが送ったんだよね?」

 結局、おじさんということで落ち着いたらしい。
 侵入者は、慎が差し出す黒いカードを見やると、不敵な笑みを浮かべて頷いた。

「あぁ、そうだ。お前、月代・慎 …… だろ?」
「ん〜。そうだけど。ねぇ、秘密を知ってるって何のことさぁ」
「聞きたいか?」
「そりゃあね。気分悪いじゃん、さすがに」
「フフ …… お前自身も知りえないことだと思うがな」
「何それ〜。余計に気になるよ。あ、そっか、そういう作戦かぁ」
「そういうことだ。聞きたければ、タスラムのレプリカをこっちに渡せ」
「ん? たすらむ? れぷりか? 何それ?」
「 …… フン。しらばっくれても無駄だ」

 不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる男。
 実際、慎はさっぱり理解できずにいた。辛うじて、海斗たちが持っていたあの銃の名前が、
 確かそんな感じの名前だったことは思い出したが、レプリカを渡せという要求が飲みこめない。
 そりゃあ、そうだ。慎は、タスラムのレプリカなんて持っていないのだから。
 理解に苦しむ慎に、とある可能性を見出した男。
 男は、ピタリと立ち止って尋ねた。

「ひとつ聞くが …… お前、仮契約は済んだよな?」
「ん? あぁ、うん。したよ〜?」
「契約の締結時、レプリカを受け取らなかったのか?」
「う〜ん。何ももらってないけど。それって、もれなくプレゼント? もしかして、俺、もらい損ねてる?」
「 …… ちっ。何てこった。レベルB8だったのか。くそっ」

 舌打ち悔しそうな表情を浮かべる男だが、慎には何が何やらさっぱり。
 だが、どうやら "何か" を "ミスった" らしきことは何となく把握できる。
 男の目的は、タスラムのレプリカ。しかし、それを慎は持っていない。存在すら知らない。
 ならば、これ以上、ここに長居は無用。別に、慎の命を狙っているわけではないのだ。
 男の狙いは、あくまでも、タスラムのレプリカ。それに絞られている。

「あぁ、くそっ。情けねぇ。ハリーの奴、恥かかせやがって」
「えっと〜? 結局、おじさん、何がしたいの?」
「うるせぇな。あぁ、もう、いい。もう帰る。邪魔したな」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってよ〜。そりゃないよ〜」
「カードは …… 適当に捨てといてくれや。じゃあな」

 窓を開け、いそいそと撤収しようとする男。
 当然、うんわかった、じゃあね〜なんて、慎がそんなこと言うはずもない。

 ギュッ ――

「痛ぇっ!! 何すんだ、このクソガキっ!」
「俺の秘密、知ってるんでしょ?」
「あ〜 …… だから、もういいんだ、それも」
「よくないよ。俺はね。だから、教えて。教えてくんないと帰さないよ?」

 ニッコリと笑いながら、男の身体を不可視の糸でギュッとしめつける慎。
 男は、もう済んだことだから良いんだと言い続けたが、うやむやにしようとすればするほど、
 慎が操っている不可視の糸が、メリメリと身体に食い込んでいく。これは、見た目以上に痛いし辛い。
 結局、八分ほど足掻いたものの、男は最終的に諦めて、慎の要求に応じることにした。

「あ〜 …… 痛ぇ …… 」
「ねぇねぇ、秘密って? 秘密って?」

 男の前にチョコンと座り、目をキラキラさせながら急かす慎。
 こんなにも無邪気な子供の言いなりになるのか、と男は眉を寄せたが、
 逃げようにも、またさっきのように糸で拘束されるだけだろう。
 ここは、おとなしく要求を飲んだ方が良い。
 何だって、俺がこんな惨めな思いをせにゃならんのだとブツブツ文句を言いながらも、
 男は、どこぞで知り得てきた、慎の "秘密" を語り始めた。
 
 ・
 ・
 ・

 太陽に生かされる蝶と、月に生かされる蝶。
 異なる二匹の蝶は、遥かなる時を超えて、今も己が定めし主に仕える。
 太陽に生かされし蝶が舞うは、常の世。月に生かされし蝶が舞うは、永の世。
 蝶に姿を変え、蝶を演じるようになったのは、いつの日からだったか。
 表裏一体。二匹の蝶は、仕える家こそ違えど、いつでも主の幸福と安泰を願い続けてきた。
 照日家の者も、月代家の者も、それまで、誰一人として気付くことはなかった。
 まさか、庭を舞う蝶が、それぞれの遠い遠い祖先であることなんぞ。
 だが、元々、異界の姫君として悠々自適に生きていた二匹の蝶にとっては、逆にそれが幸いだった。
 彼女らは、ただ単に、それぞれの祖先として、蝶を演じ、家を見守ることを選んだだけ。
 自らの意思で選んだのであって、誰かに頼まれたわけではない。
 だからといって、それを誇示しようとも思わない。
 彼女らの行動は、全て自発的なものであり、褒められたくてやっていることではなかったから。
 見つかるわけでもなく、気付かれることもなく、そのままずっと永遠に、
 二匹の蝶は、表と裏、光と闇、朝と夜、太陽と月を見守り続けることを心に決めていた。
 それぞれの家の確かな祖先として、その血が絶えるまで見守り続けることを心に決めていた。
 蝶へと姿と変えてもなお、肉体があったあの頃と同じように、ひらひらと、ひらひらと、
 思うがまま、気分のまま、悠々自適に庭を舞っていた。
 ところが、ある日のこと ――

『 常世と …… 永世。 ふふふ …… 二人とも、綺麗な名前だねぇ 』

 五歳の誕生日を迎えた、その日の朝、月代・慎は、そう言って、ふにゃりと笑った。
 この頃の慎は、才ある子供と認識されていただけで、非常に可愛がられていた。
 およそ三年後、両親に殺されかけるだなんて、その時は思いもしなかったであろう。
 五歳の誕生日。それを祝う祝宴が執り行われる日だっただけに、主役である慎もまた、朝から大忙しだった。
 祝宴で纏う衣装やら、挨拶の練習やら、幼いながらに、あれこれと求められる。
 けれど慎は、そんな慌ただしい毎日をこの時から既に、どこかで愉しんでいる節があったようで、
 その日も、二匹の蝶に 「またあとでね」 と言い残し、いそいそと家の中へと入っていった。
 照日家と月代家は表裏一体。当時、両家の屋敷は一つなぎになっていた。
 つまり、庭も、その域を超えた広大なものが一つだけ。
 両家の庭、その境目で、じゃれあいながら飛んでいた二匹の蝶は、
 ポテポテと歩いて行く小さな背中に、揃って熱い眼差しを向けた。
 どうして、わかったのだろう。
 あの子にだけ、わかったのだろう。
 己の真名を読みとられたことに対する疑問はあったが、
 その疑問は、常世姫と永世姫、二人の姫君に "決意" をさせる大きな要因となった。
 内に秘めたる力。月代・慎の力は、まだまだ、こんなものではない。
 この先、何年もかけて、その力は確固たるものへと成長していくであろう。
 そうなれば、必然と周りに敵も増える。才あれど、あの子は、まだ幼き子供ぞ。
 ならば、どうする。決まっておろう、我々が傍に仕える他ないではないか。
 二匹の蝶は、パタパタと羽を重ね合わせながら、互いの意思を確認し合った。
 両家を担う、その才すら秘めし可能性に満ち溢れた子。
 月代・慎よ。我らの命、そなたに託そう。

 ・
 ・
 ・

「 ………… 」
「まぁ、そういうことだ」

 話し終えた男は、よっこらせと言いながら立ち上がり、再び窓を開けた。
 要求どおり、男は秘密を話してくれた …… んだろうけど、慎は微妙な表情を浮かべている。
 その表情の意味を明らかにするように、慎は、立ち去ろうとする男の服の裾をギュッと掴んで言った。

「ごめんね、おじさん」
「んぁ? あぁ、別に構わねぇよ。こんくらいならセーフだろうし」
「いや、そうじゃなくてねぇ。俺、バカなのかなぁ」
「はぁ?」
「全然、意味がわかんないんだけど」

 苦笑しながら言った慎。演技ではない。本当に、理解に苦しんでいるのだ。
 なぜならば、二匹の蝶、その過去話を聞いたところで、慎本人が、それを覚えていないから。
 蝶の真名を無意識の内に言い当ててしまった過去なんて、まったく覚えがない。
 寧ろ、二匹の蝶と自分の関係を知ったことに驚いているくらいだ。
 物心ついた時から、確かに、二匹の蝶は慎の傍にいた。
 そこにいるのが、当たり前なんだと思っていた。深く考えたことなんて一度もなかった。
 男が話してくれた "秘密" によって、慎が知り得たのは、
 二匹の蝶が、自ら望んで傍にいるのだということ。
 だが、肝心な "その理由" を、慎は、いまいち理解できずにいる。
 傍にいてくれるのは嬉しいし、これからもずっと傍にいてほしいとも思うけれど、
 命を託す、だなんて言われても困ってしまう。何だか、申し訳ない気持ちにすらなってしまう。

「お前 …… 自覚がねぇんだな」
「ん〜? 自覚って、何の?」
「いや、別に。まぁ、要するに、お前が何をしようと、そいつらの意思は変わんねぇってことだ。多分な」
「そこがわかんないんだよ。ねぇ、何で? 何で、そこまでするのさ。俺なんかに」
「へっ。謙遜してんだか嫌味なんだか。どっちにせよ可愛げのないガキだな」
「あっ、ちょっと待ってよ、おじさん!」
「うるせぇ。つか、おじさんじゃねぇ。俺は、また二十三だ」

 捨て台詞を残し、窓から飛び降り去って行ってしまった男。
 残された慎は、窓から入ってくる冬の冷たい風に目を細めながら唇を尖らせた。
 結局、何だったんだろう。あの男は、何者だったんだろう。
 契約の締結について知っていたということは、時狭間の関係者?
 いや、でも、あんな人がいるだなんて、聞いてない。やっぱり、部外者?
 でもでも、それなら、どうして契約のことや、あの銃のことを知っているのだろう。
 秘密に関してもそうだ。慎すら知りえない過去を、どうして知っていたのか。
 そういえば、男は、仲間らしき人物の名前を呟いていたような気がする。
 ということは …… 単独じゃなくて、グループ? 組織? 何目的の組織?
 男が立ち去り、いなくなった途端に、次から次へと疑問が溢れてくる。
 自分の秘密について追及する前に、男の正体を追求するべきだったかもしれない。
 失敗したかなぁと頬を掻き、慎は、ゆっくりと窓を閉めた。

「っていうか、玄関から帰れば良かったのにね」

 呟き笑いながら、慎は、チラリと自身の肩を見やった。
 今日も、慎の肩には、二匹の蝶が仲良く並んで留まっている。

 ・
 ・
 ・

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 CAST:

 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.01.28 稀柳カイリ

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