コミュニティトップへ




■クロノラビッツ - Call my name -■

藤森イズノ
【8295】【七海・乃愛】【学生】
 大好き。
 なんて、なかなか言えないけど。
 いつだって、キミのことを想っているよ。
 普段、なかなかうまく伝えられずにいるからこそ、
 今日というチャンスを逃すわけにはいかない。

 一生懸命、考えたんだ。
 どうすれば、この気持ちをうまく伝えられるだろうかって。
 おかげでちょっと寝不足だけど、そのぶん、自信はあるんだ。
 照れくさいけど、素直な気持ち。受け取ってよ。
 はりきりすぎだよ! って笑ってくれても構わないから。
 クロノラビッツ - Call my name -

 -----------------------------------------------------------------------------

 大好き。
 なんて、なかなか言えないけど。
 いつだって、キミのことを想っているよ。
 普段、なかなかうまく伝えられずにいるからこそ、
 今日というチャンスを逃すわけにはいかない。

 一生懸命、考えたんだ。
 どうすれば、この気持ちをうまく伝えられるだろうかって。
 おかげでちょっと寝不足だけど、そのぶん、自信はあるんだ。
 照れくさいけど、素直な気持ち。受け取ってよ。
 はりきりすぎだよ! って笑ってくれても構わないから。

 -----------------------------------------------------------------------------

 ・
 ・
 ・

「無理してないです?」
「ん? 何で?」
「何か用事があったりとか …… 」
「ないない。あるわけねーじゃん。いっつもヒマだよ、俺は」
「 …… そうなのですか。それなら良いのですけど」
「あ。やっぱ、今の取り消し」
「えっ。あ、やっぱり用事があったですか」
「いや。自分で言っといて何だけど、むなしくなったから。そんだけ」
「 ………… 」

 まぁ、事実なんだけどねーとか言いながら、ケラケラ楽しそうに笑う海斗。
 そんな海斗の隣をチョコチョコ歩きながら、乃愛はクスクス笑っていた。
 こんなこと言うとムッとされてしまうかもしれないけれど、
 海斗が "ヒマジン" で良かった …… なんて思いつつ。

「んでー? どこ行くー?」
「えと …… 海斗は、どこか行きたいところあるです?」
「う〜〜ん。特にないかな。お前が行きたいとこでいーよ?」
「 …… じゃあ、案内するです。とっておきの場所があるです」
「おっ! なになに! いーね、いーね! 楽しそう! 期待しちゃうぞ、俺」

 今日は、バレンタインデー。
 まぁ、時狭間にはそういうイベントはおろか、季節も正確な時間も存在していないものだから、
 海斗は、今日がそういうイベントの日だということすら知らないわけだけれど。
 そんなわけで、乃愛は、時狭間に来て早々、海斗の部屋に向かった。
 浩太でも藤二でもマスターでもなく、真っ先に海斗の部屋に向かった。
 明確な目的地。そこへ向かう最中、乃愛は妙な感覚を覚えて何度も立ち止まる。
 心臓がドキドキ。いつもより元気に動いている。それに、何だか身体がうまく動かない。
 ちゃんと歩いているつもりなのに、ロボットみたいなカクカクした動きになってしまう。
 乃愛は、自身に起きている異変の理由を理解できずにいた。
 ただ、部屋に行くだけなのに。今までだって、何度も部屋に遊びに行ったりしているのに。どうしてだろう …… 。
 その妙なソワソワ感が、バレンタインデーという特別なイベントによって引き起こされているものだと、乃愛は気付かない。
 初めてだったから。そういうイベントに乗じるような形で男の子を誘うなんて、初めてのことだったから。

 何も知らない海斗は、乃愛の誘いを快諾した。
 暇で死にそうな状態だったらしく、それはもう嬉しそうに快諾した。
 何で? とか言われたらどう返せばいいだろうか …… などと考えていた乃愛だったが、いらぬ心配だったようだ。
 プラン …… だなんて、そんな大層なものではないけれど、それなりに乃愛は考えてきた。
 無計画な状態で誘うなんて失礼だと思い、前の晩、遅くまであれこれ考えた。
 そのときから既にソワソワと落ち着かず、すぐそばで眠っている弟が寝返りを打つ度、必要以上にビクッとしたりなんかもして。
 睡魔に負けてしまう、その寸前でようやくまとまった乃愛の考え。
 何も特別なことはしない。ただ、一緒に楽しく過ごせれば、それで良い。
 海斗が喜びそうな場所や物事を考慮した結果、乃愛は "エル・ガーナ" という国を舞台に選んだ。
 過去に、弟と何度か遊びにいったことのある、とても賑やかな国である。

 ・
 ・
 ・

「うひょー! すげー! 何だこれ!」

 時狭間を経由し、僅かな時間でエル・ガーナへと赴いた二人。
 到着するやいなや、海斗は、キラッキラと目を輝かせた。その姿は、まるっきり子供だ。
 煉瓦造りの家が並ぶエル・ガーナは、とても綺麗でおしゃれな国。
 道端で不思議な形のアクセサリーが売られていたり、道行く人の服装が奇抜で面白かったり、
 ウソのように真っ青で綺麗な青空を、色とりどりの風船が舞っていたり …… 。
 初めてみるエル・ガーナという世界に、海斗は速攻で釘づけになった。
 おしゃれであれども、かしこまっているような雰囲気はなく、人懐こい活気がある。
 ただ、そこにいるだけで元気になれてしまうような。エル・ガーナは、そういう国だ。
 常日頃から賑やかで何よりも退屈を嫌う海斗が、この雰囲気を嫌う道理はない。
 
「うわっ、何あれ! 変な形してるぞ! 食えんのか、あれ」
「ミルッシュっていうお菓子なのですよ。美味しいのですよ。食べるです?」
「へー! あ、うん。食べる食べる!」

 猫の肉球のような形をしたお菓子 "ミルッシュ" は、エル・ガーナ名物のひとつ。
 これを片手に街を散策する、そのスタイルも名物のひとつといえる。
 味は、林檎によく似ている。林檎スキーな海斗は、一口でそのお菓子の虜になった。
 たくさん買ってお土産に持って帰る! とか言って、お店の店員さんに予約までしてしまったほどだ。
 海斗が林檎好きだということは、乃愛も知っていた。もちろん、ミルッシュが売られていることも知っていた。
 でもまさか、ここまで気にいってくれるとは思っていなかったから、乃愛は嬉しくてたまらなくなった。
 別に自分が作ったお菓子ってわけでもないのに、どうしてだろう? とは思ったようだが。

「もぐもぐ …… んむっ!? 何だあれ! デケェー!」
「あれは、観覧車なのですよ。てっぺんまでいくとすごいらしいのですよ」
「へぇー! ん? らしいってことは …… お前も乗ったことないの?」
「大人気ですからね。いつも乗れないのですよ。時間がなくなってしまうのですよ」
「ふーん。そーなのか。じゃ、今日、乗ってこーぜ」
「へっ? でも …… すごい行列ですよ?」
「いーじゃん、いーじゃん。待ってる間ってのも、楽しいじゃん」
「ほぇ …… アンは構わないですけど。時間とか …… 大丈夫です?」
「俺はヘーキ。あ、そっか。お前、学校の寮で生活してるんだっけ。門限何時?」
「あ、えと、ううん。弟にも先輩にも遅くなるかもって言っておいたので、アンも平気なのですよ」
「んじゃ、決まり! 今日は、とことん遊んで帰ろーぜっ。なっ」
「う、うん」

 どもってしまったのは、嘘をついてしまった罪悪感があるから。
 弟と先輩に遅くなるかもって言っておいたから平気 …… だなんて、嘘。そんな話、してない。
 思う存分、一緒に遊んで帰ろうだなんて、そんなこと言われたもんだから、つい、嘘をついてしまった。
 嬉しい半面、乃愛は途端に不安を覚える。あぁ、何て可愛らしい嘘だろう。いじらしいにも程がある。
 まぁ …… 海斗は、そんなこと知る由もないのだろうけれど。


 それから二人は、ゆっくり時間をかけて、エル・ガーナを満喫した。
 観覧車の中が思いのほか静かだったことや、距離が近いことに驚いて乃愛はソワソワしていたりもしたが、
 海斗が、いつもと何ら変わらぬ様子で、ずっと 「うひょー」 とか 「うおー」 とか騒ぐもんだから、そういう緊張も解れた。
 密室という空間に女の子と二人きりだという状況にも関わらず、そういう感じなのって男としてどうなのとは思う。
 だが、海斗がいつもどおりであることで、乃愛が救われたのもまた事実だから、まぁ、結果オーライ?
 観覧車を降りた後は、二人で一緒に買い物。疲れたら喫茶店に入って休憩。
 しばらく休んだら、今度は、エル・ガーナ名物の代表ともいえる映画館に入って映画を堪能。
 映画館はおろか、映画そのものを見たことがない海斗は(時狭間にはテレビというものがないため)、
 大画面で繰り広げられる大迫力のファンタジー映画に、始めから最後まで、ずーっと目をキラキラさせていた。
 そうしてエル・ガーナを満喫した結果、気付いたときには、空は、すっかりオレンジ色。
 この国の時計では、時刻は午後五時を示している。
 乃愛が暮らしている元の世界との間に生じる時差を考えると、向こうは、もう既に午後九時頃かと思われる。
 こんなに遅くまで、弟以外の男の子と二人で外出したことなんて、今まで一度もない。
 観覧車に乗る前、弟と先輩に連絡を入れておいたから、そのあたりは大丈夫だと思うけれど、
 初めて体験する状況なものだから、何だか妙に緊張してしまう。
 そもそも、こんなに遅くまで遊ぶことになるとは思っていなかったし …… 。

「どした? 疲れたか?」
「あ、うん。ちょっとだけ」
「そか。んじゃー、そろそろ帰るかっ」

 ぐぐーっと伸びながら言った海斗。
 乃愛は、咄嗟に海斗の腕を掴んでしまった。

「ま、まだなのです。行きたいところがあるのです」
「ん? そうなの? いーよ。んじゃ、行こ」
「こ、こっちなのです」

 ここで帰っちゃ、何の意味もない。
 確かに楽しかったし、海斗が嬉しそうに笑ってくれたことも満足。
 でも、まだ。一番大事なことが済んでいない。海斗の部屋を尋ねた、そのそもそもの目的を果たさないと帰れない。
 別に、そこまで躍起になって果たすものでもないのかもしれないけれど、その目的を据えて誘ったからには、ちゃんと果たしてから帰りたい。
 乃愛は、そんなことを考えながら、少し駆け足気味に歩いた。その間、ずっと海斗の腕を掴んだままだったのだが、
 再発した緊張と急く心から、目的地に着いてようやくそれに気付く。 ※ もちろん、慌てて手を離した。

 ・
 ・
 ・

 行きたいところ。正確に言うなれば、海斗を連れていきたいと思っていたところ。
 それは、街から少し離れたところにある丘。その丘にある大きな木の上だった。

「あっははは。大丈夫か? ほれ」
「お、お手数かけますです」

 海斗の手をかり、木の上まで登った乃愛。
 かなり大きな木のため、辿り着くまでに結構な体力を消耗してしまった。
 ふぅふぅと呼吸を整えながら、太い枝に座って足を下げる乃愛。海斗は、その隣に座ってケラケラ笑った。
 乃愛のお気に入りの場所。そこは、綺麗な夕日を拝める絶好のポイントである。
 こんなに大きな木に登ろうとする人なんてそうそういないだろうから、
 エル・ガーナで暮らしている人でも、知っている人は少ないのではないかと思われる。
 一緒に散策した街、一緒に乗った観覧車、一緒に楽しんだ映画館。国を丸ごと一望できることに加え、
 視線を上げれば、息を飲むほど美しい夕日とオレンジ色の空。感動するな、だなんて無理な要求。
 さすがの海斗も、すっかりおとなしくなって、目の前に広がる景色に見入っている。
 さっき観た映画もかなり凄かったけれど、この景色と比べてしまうと、それすらも霞んでしまう。
 観覧車のてっぺんから見た景色もかなり凄かったけれど、この景色と比べてしまうと、やっぱり霞んでしまう。
 海斗は、その目に焼き付けるかのように、ジッと景色を見やっていた。

 けれど、夕日は、いつか沈むもの。
 いつまでも見ていられる光景じゃないからこそ、人の心を捉えて離さない。
 地平線に夕日が沈み、辺りが薄暗くなり始めたとき。乃愛は鞄に手を突っ込んだ。 "今だ" と思ったのだろう。

「海斗、これ」

 そう言って乃愛が差し出したのは、小さくて可愛いキャンディーがたくさん入った小瓶。
 急に何だ? とは思いつつも、差し出されては受け取るほかない。海斗は、その小瓶を受け取り、
 中に入っているのがキャンディーだと把握した瞬間、いつもの笑顔を浮かべて言った。

「おー。飴じゃん。でも、何で?」
「 …… あげたいと思ったからなのですよ」
「ふーん? よくわかんないけど、さんきゅー」

 うわぁ、最悪だよ。何で、そういう言い方しちゃうんだろう、この男は。
 バレンタインデーってものを知らないわけだから、当然といえば当然の反応なんだろうけども。
 でもまぁ …… 渡した乃愛も、満足そうな顔をしていることだし …… これはこれで …… いいのかな?

「あ、ココア味だ」
「ふふ。美味しいです?」
「めちゃウマ! お前も食べてみ。手ぇ、出して」

 もらったキャンディーをさっそく頬張り、
 幸せそうな表情を浮かべながら、おすそわけする海斗。
 乃愛は、クスクス笑いつつ、言われるがまま手を差し出した。
 今日は、バレンタインデーだから、なんて、説明する必要はない。
 それを知らない・そういう概念がない人に説明するのって、何だか余計なお世話な気もするし。
 教えたところで、何が変わるわけでもないだろうし。逆に、驚かせちゃうかもしれないし。
 それでもしも、それならいらないとか言われてつっ返されたら悲しい気持ちになっちゃうし。
 ただ、伝えたかっただけなの。これからもよろしくねって、そういう気持ちを伝えたかっただけ。
 でも …… そういう気持ちを伝えるだけなのに、どうしてこんなにソワソワするのかな。息苦しくなるのかな。
 いつもどおりにしようと思えば思うほど緊張しちゃって、どもったり目が泳いだり。
 変だって思われないように頑張るんだけど、逆に空回りしちゃうんだよ。
 大丈夫かな。変な奴だって思われてないかな。
 っていうか、どうしてかな。どうして、こんなに不安な気持ちになるのかな。
 寮を出てからずっと、胸がギューッてなってるし。何かがおかしい。どうしちゃったんだろう。
 乃愛は、それら全てを象徴する "緊張" の理由を、いまだに把握できずにいた。

「な、ウマいだろ?」
「 …… うん。思ってたより甘いのです」

 大きな木の上で並んで座り、互いに顔を見合わせてクスクス笑う二人。
 全てを把握するのは、まだもう少し先の話 …… かな? お互いに、ね。

 ・
 ・
 ・

 -----------------------------------------------------------------------------

 CAST:

 8295 / 七海・乃愛 / 17歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

 -----------------------------------------------------------------------------

 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.02.09 稀柳カイリ

 -----------------------------------------------------------------------------