コミュニティトップへ




■クロノラビッツ - クロノ・ブレイク -■

藤森イズノ
【7888】【桂・千早】【何でも屋】
 時狭間は、あらゆる世界と繋がっている特殊な空間。
 また、あらゆる世界の時間が同時に巡っている空間でもある。
 扱う言語もルールも時間に対する概念や価値観も異なる別の世界。
 時狭間を巡っている異世界の時間は、滅多に交わることがない。
 互いが互いを避けるようにして巡るため、衝突することがないのだ。
 それは、相容れることはなくとも、余所の世界を侵す気はないという意思の表れでもある。
 だが、国同士が実際に争っている状態ならば、話は別だ。
 いわゆる戦争。双方の国が自国を主張して争っている状態。
 そういう状況下にあると、時狭間を巡る時間までもが、その意思を持ってしまう。
 つまり、それぞれの国に流れている時間同士が、時狭間でも衝突してしまうということ。
 争いの期間や規模にもよるが、その衝突は、例外なく "大爆発" を引き起こす。
 時狭間において、時折、その耳で確認できる爆発音は、それによるもの。
 広い時狭間のどこかで、時間同士が衝突していることを意味する。
 時の契約者はおろか、時の神でさえも、その衝突を阻むことはできない。
 どちらかの国・世界が負けを認め、勝者と敗者が決定するまで、時間の衝突は終わらない。
 どうすることもできないっていうのはもどかしいし、何とかしたいって気持ちはあるけれど、
 止めようとしても無駄。少しでも近寄ろうものなら、即座に爆発に巻き込まれてしまう。
 そんなことになったら、ただじゃ済まない。だから、悔しいけれど、見ているしかない。

「争いが早く止むことを、願うことしかできない」

 そう言って、悲しそうに俯いたよね。
 今でもはっきり覚えてる。あの悔しそうな横顔。
 何とかしたいと思っても、成す術がない。その事実が悔しいんだって。あなたは、そう言ってた。
 時の衝突 "クロノ・ブレイク"
 その怖さも厄介さも …… 教えてくれたのは、あなたなのに。
 どうして? どうして、そんなあなたが、こんなことになってるの。
 やっぱり、ジッとしていられなかった? 黙って見ていることなんて出来なかった?
 あなたのそういうところ、責任感とか正義感が強いところは凄いと思う。尊敬もしてる。
 でも、無謀だよ。どうしようもないことなんだって、そう教えてくれたのはあなたでしょうに。
 なのに、どうして …… 止めようとしてしまったの。どうなるか、わかってたくせに。

 クロノ・ブレイク。
 その大爆発に巻き込まれて負傷した契約者。
 一向に目覚める気配のない、その契約者を "馬鹿な人" だなんて。
 そんな風に嘲笑えるわけがない。嘲笑えるわけ …… ないじゃないか。
 クロノラビッツ - クロノ・ブレイク -

 -----------------------------------------------------------------------------

 時狭間は、あらゆる世界と繋がっている特殊な空間。
 また、あらゆる世界の時間が同時に巡っている空間でもある。
 扱う言語もルールも時間に対する概念や価値観も異なる別の世界。
 時狭間を巡っている異世界の時間は、滅多に交わることがない。
 互いが互いを避けるようにして巡るため、衝突することがないのだ。
 それは、相容れることはなくとも、余所の世界を侵す気はないという意思の表れでもある。
 だが、国同士が実際に争っている状態ならば、話は別だ。
 いわゆる戦争。双方の国が自国を主張して争っている状態。
 そういう状況下にあると、時狭間を巡る時間までもが、その意思を持ってしまう。
 つまり、それぞれの国に流れている時間同士が、時狭間でも衝突してしまうということ。
 争いの期間や規模にもよるが、その衝突は、例外なく "大爆発" を引き起こす。
 時狭間において、時折、その耳で確認できる爆発音は、それによるもの。
 広い時狭間のどこかで、時間同士が衝突していることを意味する。
 時の契約者はおろか、時の神でさえも、その衝突を阻むことはできない。
 どちらかの国・世界が負けを認め、勝者と敗者が決定するまで、時間の衝突は終わらない。
 どうすることもできないっていうのはもどかしいし、何とかしたいって気持ちはあるけれど、
 止めようとしても無駄。少しでも近寄ろうものなら、即座に爆発に巻き込まれてしまう。
 そんなことになったら、ただじゃ済まない。だから、悔しいけれど、見ているしかない。

「争いが早く止むことを、願うことしかできない」

 そう言って、悲しそうに俯いたよね。
 今でもはっきり覚えてる。あの悔しそうな横顔。
 何とかしたいと思っても、成す術がない。その事実が悔しいんだって。あなたは、そう言ってた。
 時の衝突 "クロノ・ブレイク"
 その怖さも厄介さも …… 教えてくれたのは、あなたなのに。
 どうして? どうして、そんなあなたが、こんなことになってるの。
 やっぱり、ジッとしていられなかった? 黙って見ていることなんて出来なかった?
 あなたのそういうところ、責任感とか正義感が強いところは凄いと思う。尊敬もしてる。
 でも、無謀だよ。どうしようもないことなんだって、そう教えてくれたのはあなたでしょうに。
 なのに、どうして …… 止めようとしてしまったの。どうなるか、わかってたくせに。

 クロノ・ブレイク。
 その大爆発に巻き込まれて負傷した契約者。
 一向に目覚める気配のない、その契約者を "馬鹿な人" だなんて。
 そんな風に嘲笑えるわけがない。嘲笑えるわけ …… ないじゃないか。

 -----------------------------------------------------------------------------

 ・
 ・
 ・

 ただ、黙って見ているだけだなんて。そんなの、嫌だ。
 どうすることもできないんだって、ただジッと回復を待つしかないんだって、みんなは言ったけど。
 それじゃあ、あんまりだ。だって、梨乃は、こんなに苦しんでいるんだよ?
 近付くべきじゃないって、わかってたのに近付いた。偶然、巻き込まれたわけじゃなく、自分から近付いた。
 みんなは、そのあたりを責める気持ちを有しているんだろうけれど。
 きつい言い方をすれば、自業自得。
 そりゃあ …… 僕だって、そう思わないところがないわけじゃないんだけど。
 でも、ちょっと考えればわかることだよ。つまるところ、梨乃は我慢できなかったんだよね。
 どうしようもないからって、割り切ることができなかったんだよね。暴走する時間を、止めたかったんだよね。
 こうなることをわかった上で、それでも、何とかしようと試みたんだよね。
 結果的には、成す術なく。こんな大怪我を負ってしまったけれど、僕は、凄いと思う。
 誰かのために、自分を犠牲にするだなんてこと、そうそうできないよ。
 梨乃のそういうところ、本当に、凄いと思う。

「ハァ、ハァ、ハァ …… 」

 息を切らしながら走る千早。
 いま、彼の頭の中は "使命感" のようなものでいっぱいだ。
 良くなる気配は一向になく、顔色が悪くなっていくばかりの梨乃。
 しばらく傍で看病していたものの、悪化の一途を辿る状況に、千早は決起した。
 絶対安静。動かさないほうがいいに決まってる。でも、ジッとしていられなかった。
 千早は、梨乃を背負い、なるべく梨乃の身体に負担がかからぬよう配慮しながら、時狭間を移動している。
 ここ、時狭間は、あらゆる世界に通じている空間だ。
 時狭間に出入りするようになってから、千早は様々な世界を知った。
 本や映画などに出てくるような、現実的に考えればありえないような世界も、いくつも見てきた。
 もしかしたら、梨乃を治療するのに最適な場所、そういう世界があるかもしれない。
 例えば? 例えば …… 治癒を司る神様が治めている世界だとか、そういう妖精がいる世界だとか。
 非現実的だと人は笑うかもしれないけれど、そんな場所は存在しないだなんて、誰にも言えない。
 寧ろ、時狭間という特殊な空間においては "ありえない" こと自体がありえない。
 こんな場所があったら、こんな人がいたら、こんなものがあったら。
 そういう願望にも似た妄想が、いとも容易く現実になったりする。
 時狭間とはそういう場所。
 それを把握しているからこそ、千早は走る。

 逆に悪化させてしまうだけかもしれない。
 取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
 その不安は拭い去れないものの、千早は、決して足を止めようとはしない。
 異常なまでに熱を持つ身体。苦しそうな呼吸。危険な状態であることは、誰の目から見ても明らか。
 海斗たちは、時間はかかるけれど、死ぬことはないと思うから大丈夫だと、そう言った。
 詳しくは知らないが、彼等は過去にもこういう状況に陥ったことがあるらしい。
 でも、あぁ、そうなんだ、じゃあ安心だね、だなんてことは言えない。
 前回は大丈夫だった。だからきっと今回も大丈夫、だなんて。そんなのおかしい。
 きっととか、おそらくとか、多分とか、その言い回しは、自信がないことの表れだ。
 そんな頼りない言葉を信用することなんて出来やしない。

 とはいえ、どこに向かえば良いのか。その目星さえついていない。
 独断で動く前に、みんなに一言相談するべきだったかもしれない。
 マスターに指示を仰げば良かったかもしれない。
 そうは思うものの、もはや、後には引けなかった。
 助けるんだ。どんな手段を用いても、僕が助けるんだ。
 皆のように、大丈夫だからって余裕を構えていることなんて出来ない。
 こんなに苦しそうにしている梨乃を放っておくことなんて出来ない。
 何やってんだって怒られても構わない。
 きっと、これは、クロノブレイクに突っ込んでいった時の梨乃と同じ気持ち。
 どうしようもないってわかってても、それでもジッとしていられなかった、そういう気持ちと同じ。
 ただ黙って見ているだけなんて。それでもし梨乃が元気になったとしても、心から喜ぶことなんて出来やしない。
 後悔したくないんだ。もう二度と、あの時、ああしていれば …… なんて後悔、したくないんだ。
 ふと、脳裏をよぎった過去。梨乃の為でもあり、自分の為でもある行動。
 千早は、荒れた呼吸を整え、うんと頷いてから、一歩を踏み出した。
 あらゆる世界に通ずる時の扉。その先へと進む。
 後悔しないために。

 ・
 ・
 ・

 時の扉は、不思議な仕様になっている。
 扉を開けて、中に入る前、その時に頭の中にイメージしている場所がそのまま反映される。
 つまり、行きたい場所をイメージした状態で扉を開けて抜けると、そこに向かうことができるわけだ。
 時兎の討伐で各地へ赴く時などは、目的地がハッキリしている為、この仕様はとても便利。
 だが、今回は少し特殊だ。なぜならば、明確な目的地がないから。
 千早は "治療に適しているであろう場所" そんな場所をイメージしながら扉を開けた。
 そのイメージは、ひどく曖昧だ。限りなく少ない情報で人探しを頼むようなもの。
 それに対して、時の扉はどんな答えを示してくれるのか。
 たったそれだけの情報で、目的にそぐう場所へ繋げてくれるのか。
 それがわからなかったからこそ、千早は扉の前で少し躊躇した。
 イメージが曖昧ゆえに、的確な応答が期待できないかもしれない。
 何度も何度も時狭間と時の扉、他の世界を行き来することになるかもしれない。
 その不安があったからこそ、千早は躊躇った。
 もしも、一向に良い場所が見つからなかった場合。
 そういったケースのことも視野に入れれば、事の重大さを改めて痛感させられる。
 梨乃の身体にこれ以上の負担をかけるわけにはいかないから、時間は限られている。
 何度か試してダメだったら、悔しくても諦めて、おとなしく時狭間に戻り、ジッと見守るしかない。
 そんなことを考えながら扉を開けた千早。彼は、追いつめられたような表情をしていた。
 だがしかし、そんな強張った表情も、扉の先、辿り着いた場所がどこであるかを把握した瞬間、驚きに変わる。 

「 ………… えっ?」

 なぜなら、そこが見慣れた場所だったから。
 目を丸くしている千早。彼が今いる場所、扉を開けたその先、繋がった場所。
 置かれているインテリアは、テーブルとソファとベッドだけ。
 その他に確認できるものといえば、ソファの上に置かれた雑誌が二冊。
 非常にシンプルな空間。生活感が感じられない、そんな空間。ここは …… 千早の部屋なのだ。
 どうして、自分の部屋に繋がったのか。頭の中のイメージには、自室なんて欠片もなかったのに。
 これが、イメージに対する時の扉の応えだというのか。その事実に、千早は戸惑いを隠せずにいる。

「ごほっ、ごほっ」
「!!」

 シンと静まり返った部屋に響く梨乃の咳。
 その瞬間、千早はハッと我に返る。
 そうだ、ボーッとしている暇なんてありはしない。
 事実として受け止めるんだ。これは、時の扉が出した応え。
 そういうことなら、こんな場所は如何かな? そう提案してくれたようなもの。
 ならば、試してみるしかない。ここじゃ無理だよなんて、即座に否定するのは好ましくない。
 やってみる。とりあえず、やってみる。うまくいくことを祈りながら。

 ゆっくりと梨乃を背中から下ろし、ベッドに横たわらせる。
 その時、ふと千早は気付く。気のせいかもしれないけれど …… 梨乃の顔色が良くなっているような。
 首を傾げながら、そっと梨乃の頬に触れてみると、やはり。熱が少し引いている。
 先程までは、自分にも燃え移ってしまいそうなくらいの高熱を放っていたのに。
 それだけじゃない。呼吸も、いくらか楽になっているような気もする。
 まだ苦しそうな表情こそ浮かべているものの、先程とは明らかに状態が違う。
 気のせいではないことを確信した千早は、すぐさま治療を始めた。
 もしかすると、本当に、この場所が適しているのかもしれない。
 僕の部屋が …… 治療に適した場所なのかもしれない。
 両手を梨乃の頬にあてがって目を閉じる千早。
 小さな声で何かをポツポツと呟くと、梨乃の身体を白い光が包み込む。
 光と生を司る存在 "光の神"
 その能力を用いて、梨乃の病状が悪化しないように留めておく。
 その処理が完了したら、そのままメインの治療へと移行。
 ゆっくりと目を開けて、千早の瞳そのものに宿っている癒しの力を用いて治療を試みる。
 ただ、ジッと見つめるだけ。触れたりする必要はない。
 千早の瞳が持つ治癒の力は、対象をただ見つめるだけでその効果を発揮する。
 もちろん、時狭間で看病していたときも、千早はこうして治療にあたっていた。
 だが、どんなに尽くしても、梨乃の病状は悪化するばかりだった。
 無効化されているのか、それとも効いてはいるけど、すぐに掻き消されてしまっているのか。
 時狭間で治療していたときは、その判断すら出来ない状態だった。
 だが、今はどうだ。
 はっきりと確認できるではないか。
 額に滲んでいた汗も引き、苦しそうだった呼吸も落ち着きを取り戻す。
 時狭間では、何時間試みても効果が表れなかったのに。ここでは、ほんの数分で効果を確認できた。
 もはや、梨乃からは苦しそうな印象を一切受けない。そればかりか、すやすやと心地良さそうな寝息まで立てている。
 確認のためと、もう一度梨乃の頬に触れてみる千早。
 熱は完全に引いた。寧ろ、少しひんやりと冷たいくらい。それこそが、本来の梨乃の体温。
 もう、大丈夫。そう判断した千早は、ペタリとその場に座り込んでしまった。
 確かに、目で見る分には回復したかのように思える。でも、完治したという確証はない。
 それなのに、千早は、大丈夫だと判断した。安堵して、その場に座り込んだ。
 用心深い千早が、確証もないまま安心感を抱くのは極めて稀なこと。
 千早自身も、そんな自分に不思議な感覚は覚えていたようだが。

 ・
 ・
 ・

 どうして、自分の部屋に繋がったんだろう。
 どうして、自分の部屋だと治療がすぐに効果を発揮したんだろう。
 肝心なところは、わからないまま。どういうことなのか、知りたくないわけじゃない。
 でも、時の扉と会話することはできないから、どういうことなの? って訊くこともできない。
 ただ、事実として、自分の部屋に繋がり、そこで治療した結果、梨乃は回復した。
 まだしばらくはゆっくりと休む必要があるだろうけれど、危機的な状況は脱したと言っていい。

「良かった …… 」

 梨乃の寝顔に微笑む千早。
 早く良くなるといいな。元気になったら、また一緒に紅茶を飲みたいな。
 今回のこと、クロノブレイクに自ら関わったことに関しては、僕は一切触れない。
 どうして、あんなことしたの。危ないってわかってたでしょ? なんて。叱るような真似しない。
 だって、わかってるから。何で? ってそんな風に聞かなくてもわかってるから、聞く必要ないんだ。
 目を閉じてフゥと息を吐き落とす千早。時狭間での看病、背負っての移動、扉を抜けた先での集中治癒。
 時間にして、およそ二十四時間。寝ずに梨乃の傍にいた千早は、その安堵感から、スッと眠りに落ちてしまった。
 梨乃の小指をキュッと握ったまま。

 一方、
 眠っているはずの梨乃がいなくなっていること、
 どこを探しても名前を呼んでも千早からの反応がないこと。
 二人が揃っていなくなったという、その状況が何を意味するか。
 すぐに把握した海斗たちは、大慌てで時狭間を駆け回り二人を探している。
 まさか、千早の部屋で仲良く一緒にすやすや眠っているだなんて、思いもせずに。

 ・
 ・
 ・

 -----------------------------------------------------------------------------

 CAST:

 7888 / 桂・千早 / 11歳 / 何でも屋
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

 -----------------------------------------------------------------------------

 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.02.16 稀柳カイリ

 -----------------------------------------------------------------------------